Day.5-20 Final Call And You Die
今回は後書きにおいて、ちょっとしたお遊びを行いたいと思います。
“読者への挑戦状”です。
どうかお気軽に参加していただけると嬉しいです。
さて、何はともあれ、まずは本編をお楽しみください。
「任せておけ」
イリヤさんの手は、温かい。
俺を労い、女剣士はラガドの前へ。
さて、なぜイリヤさんにこの場所がわかったのか説明しておかなくてはならない。
ここへ到着する直前、ホマスで時刻を確認しながら俺は別の操作もしていた。
イリヤさんへ繋いでいたのだ。
そして通話状態のままラガドに語りかけ、その中で“物見やぐらは戦うには誂え向きの場所”という趣旨の発言をして、暗に居場所をイリヤさんへ示したのである。
処刑人との戦闘が終了していることは既に確認していた。だからイリヤさんが通話に応じることは充分可能だった。
俺は、ここへ女剣士が到着するまで時間を稼ぐだけで良かったのだ。ま、倒せるならそれはそれでオッケーだったが。
「イリヤ……イリヤ……私ノ……」
「誰がお前のものだって?
下らんジョークを言うな、ラガド。
お前の“変態”は全く笑えないよ」
ラガドの体は、更に変化していく。
ダメージを負えば負うほど、その体は危機的状況へ対応するかのように進化しているようだ。
原始的な生物ほど、環境に適応するのが早い。
全身の触手を引っ込め、それらで肉体を再構築しているようだ。
より分厚く、より硬く、肉質を変化させて攻撃を防ごうとしているのか。
が、やはりそれは悪手だ。こと、イリヤさんの前においては。
「ラガド、お前が求めた理想とはこの程度の茶番のことを指すのか?
片腹痛いな」
「イリヤ……国家ノ繁栄ヲ……イリヤ……」
「お前みたいな何でもかんでも武力で解決しようとする男をなぜ、王が大将として重用していたのか、わかるか?
巨大な国家を100年200年と存続させるためにはバランスが必要不可欠だからだ。
ロメール帝国は領土内に多くの種族や民族、思想に宗教なども抱えている。
どこにでも紛争は起きる可能性があるし、広大な領土を外敵から守るには途方も無い労力が要る。
甘い顔だけしているわけにはいかない。
だから穏健派のヨハネやユリウスがいて、過激派のお前がいるんだ。
どちらの考えもまた必要だから、王は意見を戦わせることを重視しておられるのだ。
かつてのロメール王といえばそれこそ武断政治を地で行く御方だったと聞いている。
大軍勢を率い、深謀と大胆さを以って敵対勢力や国家を攻略し、破竹の勢いでこの帝国を打ち建てたと。
そんな御方が今ではすっかり枯れて好々爺と化しているのは、力だけでは意味がないと気がついたからに他ならない。
許すべきところは許し、締め上げるところはきつく締める。
これこそが国家の求めるべき、あるべき姿ではないのか?
それをお前は、己が虚栄心に負けて全ての民を自分に同化しようとしている。
しかも悪いことに、お前はそれを自分の力ではなく、借り物の力で成そうとしている。
過ぎたるは及ばざるが如し、その魔物はお前には操ることの出来ない代物だ。
お前ごときには、100年早い!!」
「私……私ハ……国……オォ……オォ……」
「来い、ラガド。
私はお前の野望の前に立ち塞がる最大の壁だ。
超えてみろ、その力があるのなら!!」
イリヤさんは、駆ける。
女剣士は、迷わない。
前へ進む、その為の剣だ。
「オオオオォォォォ!!!」
腕を肥大させ巨大な拳のような形状に変化させたものを、ラガドは振り回す。が、その攻撃は緩慢でとてもイリヤさんに当たるものではない。
剣は無慈悲に、その単なる肉の集合体を斬り捨てた。
切断された部分から触手たちがトラップのように飛び出し襲う。
竜胆玉鋼の剣は、輝きを放って邪悪なるものを祓う。
触手は効かない。効く、はずがない。
どれだけ無限に再生しようと。
「どうした?もう終わりか?
こんなものか、ラガド!!」
斬る。
斬る。
全てを斬り、ぐいぐいと進む。
その歩みを止められるものはここにはいない。
斬りながら、イリヤさんは吼えた。
「こんな!単純な攻撃しか!出来ないのか!!
そんな事でよく今まで!」
袈裟斬りが、ラガドの肉体に斜めに入った。
切断面から水が溢れ、すぐさま傷を塞いでゆく。
「今まで、私の同僚面が出来たものだな……」
大きく息を、イリヤさんは吸い込んだ。
「散れ!!」
無数の斬撃が、ラガドの肉体をなますに切り刻む。
再生が追いつかないほどのスピードで、縦横無尽に、剣は乱れ飛ぶ。
一振り一振りが、イリヤさんの怒り、嘆き、どうしようもない激情の迸りだ。
ひとつ、またひとつと接合できなかったパーツが飛んで雨とともに溶けて消える。
ズシャッ
首が、刎ねられた。
ラガドの頭部が、胴体から切り離されて舞った。
「種エェェェェェ!!!」
首が叫ぶ。
切断面から触手。
この期に及んで、生へ執着するのか!?
そのとき、意思を失って動かなくなったと思っていた胴体のほうが、ずるりとイリヤさんへ向かい倒れてきた。
首の方へ注意を向けていたイリヤさんに一瞬の隙。
もたれかかるように崩れかかってきた胴体をタックルで押し返したところへ、首からの触手が絡まった。
コピーを、打ち込むのではない。
触手はイリヤさんの両腕を弾いて剣を落とし、そのまま巻きついた。
「くっ!」
「共ニ……逝コ……イリ、ヤ……」
最後の魔力なのか、触手はイリヤさんの体を宙へ引っ張り上げ、そのまま後方へ跳んでいく。
その先は、足場など何もない。
イリヤさんが、落ちる!?
浮き上がったイリヤさんの体と、その両腕に触手を絡ませて拘束したラガドの首は、重力に従い自由落下をし始めた。
「う、うあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
絶叫が、俺の喉を突き破った。
ダメだ。
そんなことは、させない。
道連れなど、ふざけるな!
何が肉体強化だ、何がチートスキルだ。
こんな肝心な場面で使えなければ何の意味もない。
動け、動け、動け、俺の足!!
ボケッと座って眺めるわけに、いくかよ!!
最後の最後は根性だ。
俺だ、俺の、誰にもらったもんじゃない俺自身の力だ。
走る。
起き上がって、走った。
イリヤさんの剣を拾い、ただ夢中で。
俺なんかもうどうなってもいい。
助けたいんだ。
助けたいだけなんだ。
あの人を。
俺を、その強い光でここまで導いてくれたあの人を、イリヤさんを!
安全柵を乗り越え、俺は、跳んだ。
遠くの空の深い藍色の彼方から白色の光が漏れ出した。
朝が、近い。
夜明けが、すぐそこまで来ている。
━━お前も少し、振ってみるか?
そんな台詞が聴こえた気がした。
それはイリヤさんが、初日の夜に掛けてくれた言葉。
ぶっきらぼうに木刀を投げ渡しながら、俺に。
たった一人で無心に剣を振っていたあの姿。
━━こんなものが実の娘の命より大切か!
燃え盛る炎を左右に従えながら、あの日、イリヤさんは魔獣デストリアに向かい叫んでいた。
理不尽な悲劇、そしてそれを生んだ悪に対する怒り。
━━何があっても、どんな事が起こっても、喜びも怒りも悲しみも全て受け入れて、それでも
前に進むのだと、彼女は言った。
どれだけ俺は、イリヤさんに救われてきたのだろう。
この世界で、二人で過ごした時間はまだ5日間だけ。
けれど、あの人がくれたものは、俺の心の中にしっかりと根を下ろしている。
光とは、イリヤさんのことだ。
朝焼けのように、その光は多くの人々を照らす。
これまでも、これからも、だ。
この世界にとって、失ってはならない、掛け替えのない、人なんだ。
届く。
俺が大きく振り上げた剣は、ラガドの首へ。
「ラガドオォォォォォ!!!!」
振り方もロクに知らない。
力任せだ。
それでも、剣は、当たった。
ラガドの頭部のど真ん中を、断ち割って通り抜けた!
「アオオォォ!!!」
ラガドの慟哭。
触手の拘束は、解けた。
アルコール・コーリングがそれを教えてくれた。
イリヤさんが、城の屋根に着地を決める。
それも、スキルでしっかり確認した。
安堵した。
ほっとしている。
俺は役目を無事に果たしたのだ。
散らばるラガドの欠片と共に、俺は落ちていく。
この高さからでは、もはや助からないだろう。
掴まれるような場所も、その力ももう残っていない。
イリヤさんが叫んでいた。
その声も、聴こえていますよ。
しっかりと、聴こえています。
下は石畳、落下すれば一瞬で逝ける。
落ちながらシトリの姿が見えた。
シトリもまた、声を張り上げている。
あぁ……なるほど。
これは、積んだな。
2秒後、俺は全身で、肉が潰れ骨が砕け四肢がバラバラになってぐちゃぐちゃになって千切れ飛んでゆく感触を味わった。
5:00
サンロメリア城を襲った未曾有のパンデミック事件は、その首謀者であったヴァルト・ラガドの死亡によって幕を下ろした。
尊い命が犠牲になり、この国は、救われたのである。
【2019.4.24追記】
以下は本文の投稿日に行ったミニ企画に関するものです。
現在はもちろん受付を行っていませんのでご了承下さい。
まったくもって変な企画ですね(笑)。
“読者への挑戦状”
まず、読者の皆様にお伝えしておくことがあります。
酒井雄大は、死んでいません。
彼は、生きています。
なぜ?どうやって?
これが僕から皆様への挑戦状です。
酒井雄大はいかにして、あの状況から生還し得たのか?
推理に必要な材料は全て本文中に明記されております。
ちなみに、今回の本文中には嘘や勘違いの記述は1つもありません。
よって、実は酒井雄大の見た夢であった、などという答えはありません。
更に、蘇りの魔法が実はあった、というような後出しの解答もありません。
推理はあくまで、これまでの物語中に記された情報のみによって行えるようになっています。
さぁ、賢明なる読者の皆様、
酒井雄大はいかにして、あの状況から生還し得たのか?
是非とも推理して、答えをメッセージで僕に送ってください!
というような、お遊びです。
露骨なヒントを本文中に忍ばせておいたので、比較的簡単な推理で答えを導けると思うのですが、少し参加される方のモチベーションを上げたいと思うので、最初に正解された方には、僕が作品のレビューを書かせてもらおうと思います。
ただ、あまりにも長い作品は読むのがたいへんなので出来れば15万字程度までの作品で!それより長い作品の場合、それくらいまで読んだ時点でのレビューとさせてください。
こんな企画、参加者いるのだろうか……。
いずれにせよ、正解は明日の20時から22時の間くらいに更新する最新話にて!




