表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

101/108

Day.5-19 彼岸

お世話になります、Kei.ThaWestです。

見てのとおり、アルコール・コーリングのタイトルが大幅に変わりました。

よりなろうライクに、そして内容を端的に伝えられるように、このようなタイトルにいたしました。

そして今後、修正加筆をどんどん行っていくつもりですので、何かしら大きな物語上の変化などがあった場合、この場でお知らせします。

それでは、本編の続きをお楽しみください。

4:35


 アルコール・コーリングはヴァルト・ラガドの足跡を絶対に逃がさない。顔を一度認識すれば、まるでコンピュータ内のデータをファイル名で検索するようにしてその人物の声や周囲の音を聴くことができる。どこへどう逃げようと、どこに隠れようと、決して俺から逃れることはできない。


 廊下にはまだ若干の寄生者達の姿。

 矢は、さっき急いで拾った5本のみ。

 無駄遣いは出来ない。


 触手をかわしながら、体当たりを。

 空いたスペースを通り抜ける。


 この体がどこまで保つのか、それはわからない。肉体強化術の持続時間のブレ幅がどの程度なのか。

 はっきりしているのは、その有効時間のうちに、俺は奴と決着をつけなくてはならないということ。


 ラガドはどんどん城を上へ上へと。

 なぜだ、下へ降りれば逃走できるかもしれないのに。

 自ら袋小路へ追い詰められようというのか。

 あるいは上層階から壁伝いに下っていくつもりか。


 下の守りは完璧だ。ジュークとシトリの不死兵団が待ち構えている。このことを、ラガドは認識しているのか否か。全てのパラディフェノンを操っているということは、手下から何らかの情報を受け取っている可能性もある。


 まぁ、この際どっちでもいいか。

 俺が、仕留めればいいだけのことだ。


 アルコール・コーリングは走りながら反響音から自動的に建物のマップを展開、その情報とラガドの周囲の音の情報を摺り合わせることで、俺と奴との距離、そして互いの位置まで正確に割り出している。


 思えば便利なスキルになったものだ。

 俺自身がこのスキルの活用方法を熟知したということに加え、元々スキルが備えていた万能性も、使えば使うほどにわかってくる。


 このスキルには、成長性が備わっている。

 聴覚が鋭敏になるにつれ他の感覚器をも、同等のレベルにまで押し上げてくれている。

 だから俺に体術の心得が無くても、本格的な格闘戦を行える。それはアルコール・コーリングを自分自身の肉体へと向けることで、効果的な体の動かし方が理解できるからだ。

 

 筋肉の駆動音も、打撃の際の衝撃音も、また肉体が躍動する際の風を切る音も、全ての情報は俺に最適の戦い方を教授してくれる。

 

 今現在俺は、イリヤさんから直々にボスキャラ討伐を任されるレベルにまで到達していた。

 あの帝国最強の女剣士が、露払いを買って出てくれたのだ。


 託された想いを、無駄にはしない。


 上層階だ。

 サンロメリア城は上へ行くほど構造が複雑になっている。尖塔がいくつも不規則に飛び出し、それぞれに部屋が設けられている。そして尖塔を繋ぐ渡り廊下。さながら天空のジャングルのように立体的な迷路を形成していた。


 これらは増設に増設を重ねた結果なのだろう。魔術による建物の建造は資材をクレーンで運んだりする技術的な問題が無いと思われるので、こういった複雑怪奇な構造をも容易に可能にする。


 俺のいた世界に比べて生活水準や技術レベルが低い世界では決して無い。こっちの世界は精神的な部分ではむしろ豊かなのだ。

 だが悲しいかな、人々の争いはどちらの世界にも存在して、無数の火種がくすぶっていて、ラガドのような輩も出てくるわけだ。


 ラガドはいよいよ最上階へとたどり着こうとしている。

 俺はホマスをタップする。

 そして時刻を確認、4時38分。


 中央大聖堂に聴覚を飛ばす。

 ジャック・ホワイトを基点に、聖堂をくまなく確認。

 戦いはほぼ終結していた。無数の肉塊、物言わぬ者達。

 凄惨極まる光景の中に気高く立つ、戦士達。

 

 後は俺だ。

 俺の始末だ。


 閉じかけた扉を、蹴り開ける。

 そこは俺と奴との、最後の決戦の舞台。


 サンロメリア城南棟、最上階。5つの尖塔を繋いだ五角形の形状をした場所。この高さならば、王都ロメリアを全方位一望できる。

 つまりはここが……物見やぐらか。


 叩き付けるように降り注ぐ大粒の雨。風が強く吹いている。俺の髪を、顔を、全身を、瞬く間に濡らしてゆく。


 ラガドは俺に背を向けて、眼下に広がる光景を眺めていた。

 服を突き破り背中からも、太い触手が突き出していた。

 いよいよ異形化は留まる所を知らず、彼を人間ではなく魔物へと、此岸(こちら)から彼岸(あちら)へと押し流そうとしている。


「逝くのなら、一人で逝け」


 人々を巻き添えに、破滅を導くな。


「ハアァ……」


 歓喜の嘆息を、ラガドは漏らした。

 天を振り仰ぎ、その身に大量の降雨を浴びて。

 濡れる度に触手たちの動きは盛んになり、その本数も増やしていく。しかも、徐々にだがラガドの肉体自体が肥大化してきている。


 雨を、水分を吸収しているのか!?


「雨の少ない日々であった」


 ラガドが、ゆっくりと振り向いた。

 その顔はもはや、人としての原型を留めていない。

 奇妙な光沢を持った表皮を波打たせ、縦に割れた眼窩からどす黒く濁った眼で俺を見つめている。かつて鼻であった部分は退化して無くなり、口であった部分は大きく伸びた舌と一体化していた。


 ラガドの言葉は、異形化した舌の先端部分から発せられていた。


「この2週間のうち、雨が降ったのは3日前と今日だけ。

 喉の渇きを潤す恵みの雨……私は焦がれていた。

 あの景色……真っ赤な海に身を横たえる、あの眩暈がするほどの……。

 アァ、アァ……私が見ているコレはナンダ……酷く懐かしく酷く狂おしい」


 何を、言っているんだこの男は?


「ハアァ……ここガ始まりの場所。

 最初に私が兵士に種を植えた」


「何っ!?」


「雨が降ると、我慢……耐え難い……アァ……衝動……。

 私の仔ヲ……仔……」 


 舌の先端からどろりとした粘液が零れて滴った。

 それまるでラガドの涎のようだ。恍惚として唇の端から垂れたような。


「気持チガイイ……種を、種、種、」


 ヌチャリ、と。

 ラガドが一歩踏み出した。


 ラガド、なのか。

 声は不明瞭な響きとなり、吐き出される言葉はだんだんと意味を成さなくなってきた。


 だが、俺は了解した。あの日、ここで何が起こったのか。

 物見やぐらに兵士はやはりいたのだ。

 あの、暗黒魔導師リュケオンが現れた日、ここに監視の兵士は確かに存在した。彼らが異変に気づかなかったのはサボっていたからではなく、ラガドによってパラディフェノンを寄生させられていたからだ。


 雨が降り活性化した“支配株”をラガドは制御できず、監視の兵士達を襲ってしまった。ここからは俺の予想だが、雨が止んで理性を取り戻したラガドは寄生された兵士を殺したか、どこかに隠したのだろう。パラディフェノンは時間が経てば自滅する。内部のコピーが本体と共食いを始めるからだ。つまり閉じ込めておけばこちらから敢えて手を下さなくてもいいわけだ。


 ならばこの場所こそ、今夜の悲劇の始まりの場所だ。

 なればこそ、この悪夢に引導を渡すにふさわしい場所でもある。


「なるほどね、戦うにはお誂え向きってわけだ、このサンロメリア城の物見やぐらは。

 ほんとなら恨み言の一つや二つは言うつもりだったし、軽く罵倒でもしてやるつもりだったんだが……お前がそんなんじゃ今更何を言ってもしゃあねぇな」


 俺は弓に矢を番え、真正面に、ラガドの頭部を捉える。

 頭に矢を打ち込んで果たして効果があるのか。

 それは不明だ。

 

 まぁ、やってみるっきゃない。

 

「雨……(かぐわ)シイ……雨……種……。

 支配だ、この絶対的な!ハァア……力を、見ろ、見ロ、見ろ、見ロオォォォォ!!!」


 大気がざわめいた。


 瞬間、大きくしなった全ての触手は狙いを澄まして動き出した。

 次々と時間差で、俺の全身を目掛けて。


 矢は、放たれた。

 そして呆気なく、弾かれる。

 こんなもので、あの弾幕を攻略はできない。


 弓はもう、役には立たない。


 捨てる。


 俺はアルコール・コーリングのチャンネルの一つを俺自身へ深く、奥深く沈める。

 全身全霊で、全身全霊を聴く。


 呼吸。

 皮膚の表面を伝う雨粒。

 そのすぐ下の毛細血管を流れる血液の音。

 筋肉繊維の収縮と弛緩。

 内臓の状態。

 心臓の鼓動。


 (たわ)んだ肉が、正中線の、体軸の、体幹の捻りに連動して運動エネルギーを蓄える所作を。


 全ては意のままだ。

 この肉体は俺のものだ。

 完璧に、末端まで俺の支配下だ。


 一体何本ある?

 触手は。


 構わない。

 それら全て、数えながら、一つ一つ丁寧に、切り抜けてやる。


 パリング、

 踏み込み、

 ダッキング、

 左ステップ、

 パリング、

 パリング、

 足刀蹴り、

 手首で絡めていなす、

 ウェービング、

 ダッキング、

 掴んで、

 流して、

 叩き、

 叩き、

 パリング、

 パリング、

 スリッピングアウェイ、

 バックステップ、

 地をなめるように上体を落とす、

 スライディング、

 倒立からの回転蹴り、

 宙でパリング、

 パリング、

 パリング、

 パリング、

 指穿、

 握り引く、

 

 27本めで俺はラガドへ到達。

 触手を引いて奴の肉体を引き寄せ、同時に右脚を深く踏み込んだ。ラガドの股の間へ足を滑り込ませるほど深く。

 肉体を半身に回し、右肘を、ラガドの鳩尾へ、叩き込む!!


「ゴパアッ!!」

 

 ラガドの舌が開いて居並ぶ牙の隙間から唾液が飛び散った。

 

 俺の動きが止まった瞬間に頭上からのシャワーのように大量の触手。

 サイドステップ、パリング、パリング、パリング。

 指先まで、爪先まで届くアルコール・コーリングによる肉体制御。

 弾きながら、触手を別の触手へ食い込ませてゆく。

 通常のパラディフェノンはコピーを自身へ送り返されれば自滅するが、さすがは“支配株”だ、そうは易々といかない。上下関係が明確なのだろう。


 距離を取りながら、地面に落ちた矢を拾い上げて投擲、これも効かない。

 更に駆けて別の矢も拾い投擲、徒労に終わる。


 駆けながら、触手をいなし続けながら、観察する。

 一時たりとも立ち止まれない。

 触手に次ぐ触手。


 来るか、いや、来ない。

 やはり。

 想像通り。


 あの、言葉を発している、舌が変化した触手だけは俺を攻撃して来ない。

 

 一般的な寄生魔獣は触手に攻撃を受けると混乱し触手を縮めて慌てふためく性質があった。しかしラガドのものにはそれがない。恐らくは、“支配株”として全ての触手に指令を送り指揮している本体が、あの舌なのだ。


 今の俺には下手に手を出せないと理解しているからこそ、本体による攻撃をしてこないに違いない。

 リスクを避け、いくらでも増産できる触手の波状攻撃に徹しているわけだ。


 が、やはり知能は並以下だな。ラガドとしての脳はもうほとんど機能していないのだろう。

 魔獣の本能が勝っている。だから単純、だからこそ俺にも勝機は、充分にある。


 再接近だ。


 上から横から下から、触手のフルコース。

 しかし俺はまっすぐ、衝突一直線(コリジョンコース)だ。


 俺が、意味も無く、なんとなく矢を投げたと思ったか?

 違うね、あれは布石だ。


 ラガドの舌は高く持ち上げられていて打撃は届かない。

 がしかし、その真下に、弾かれて落下している矢がある。

 ここへ落ちるように、俺が投げておいたのだ。

 触手は蠕動(ぜんどう)しているが、動く際にはピンと張る。

 そこを計算し、弾かれればこの位置へ落ちるという角度で放った。

 これは神技か?

 そう、アルコールの神から与えられた、文字通りの神技スキルだ。


 滑り込んで矢を掴んで、全方位から迫る触手を回転蹴りで弾き飛ばし、一瞬の間が生じた。

 頭上、触手の本体、捕捉。


 アンダースローで投げ上げた矢が、命中した。

 全ての触手が、その衝撃にわなないて一気に収縮、ラガドの体へと引き戻されてゆく。


 そう、これこそが俺の狙い。

 千載一遇の好機がここに訪れた。


 一歩で、そこへ到達。


 ラガドと視線が、交わった。


「喰らえ……蟲野郎!!!」


 左ジャブ。

 右目を直撃、減り込んで水晶体を破壊。


 右ストレート。

 人中を突く。


 左フック。

 右こめかみを殴打、バランスを崩す。


 右鼓膜打ち。

 左耳を強く叩いて内耳を損傷。


 更に刻むよう左右のパンチで顔面を殴り続ける。

 のけぞったところへ喉を叩き、噎せ返って頭が下がったところへ、両手で頭部を固定。


 無理やり下げさせ、右膝をぶち込む。

 跳ね上がった頭部。

 舌を引っつかんで引き、もう一度頭を下げさせ二度目の膝。

 更に舌を掴みながら屈んでもう一本の矢を拾い上げて、舌と口元の接合部へと突き刺す。


「ギイイィィィィ!!!!」


 奇怪な悲鳴。

 

 もう触手たちは攻撃など諦めてバラバラの方向へのたうち回っている。


 突き刺した矢を(こじ)って傷口を無理やり拡げる。


「イィィィ!!!」


 無数の触手が絡まるようにして成形された両腕が俺を叩き潰さんと左右から迫る。

 深く沈みこんで頭上に打撃を回避し、伸び上がりながらハイキック。

 顎の真横から痛烈なダメージを叩き付ける。


 幸いにして、人間時の骨格はある程度維持されているようだ。

 人間の急所が、こいつにも充分適用できる。


 ラガドはよろめき、ぐらつきながら両膝をついた。

 顔面は酷く変形し、血の代わりに粘液を垂れ流していた。


「カハッ……私ガ……支配……」


「もう夢の時間は終わりだよ。

 目を覚ませ、そしたら今度は二度と、目を覚ますな!!」


 渾身の前蹴りが、ラガドの顔面の下半分を蹴り潰して後方へと吹っ飛ばした。

 物見やぐらの外周を囲む鉄柵へ、後頭部が激しく打ち付けられた。


「ゴアオッ!!

 ……ハアァ……種……雨……」


「しぶといね、あんたも。

 ま、死ぬまでこのまま殴り続けるけど」


4:40


「覚悟は……」


 その時、俺の胸が詰まった。

 呼吸が、止まった。


「っ!?」


 足が止まり、体が傾いで、片膝立ちに俺は崩れ落ちた。


「チイッ……この倦怠感は」


 間違いない。

 最悪だ、こんなタイミングで。


 時間切れかよ……。


 頭は冴えている。

 なのに肉体が、重い。

 途端に重力を全身に感じる。

 

 動きが……いや、動けない!


「種……ドウシタ?

 雨……オシマイ、か?」


 ラガドが、寄生魔獣が起き上がる。


「オ前ハ……素晴ラシイ……種……種……種エェェェェェェ!!!」


 2本の触手が、俺に迫る。

 避けられない。

 無理だ。

 俺はここまでだ。


 力及ばず。

 俺はここでギブアップだ。


 だから、





 キィン!






 その剣は美しい軌跡を描いて雨の滴を切り裂きながら触手を断った。


 だから、バトンタッチをお願いしますよ。


「……イリヤさん」


「あぁ、任せておけ」


 女剣士は傍らに立ち、俺の肩を優しく叩いた。

  

今回も例によってバトル描写をねちっこく、濃密に書いてしまいました。

が、次回でおそらくこの長かった戦いも一区切りつけることが出来ると思います。

というか、疲れるのでそろそろ日常回に戻りたい(笑)。


感想やブクマ、評価も是非よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ