二章 夏
実際ここまでの期間において話すことはないに等しい。3年の受験期ということで友達と遊びに行く機会は減ったが、あとは大体今までと変わらない毎日がそこには広がっていた。
毎日毎日ロボットのように、決められたレールの上を歩く無機質な日々。それ以前からも自分は高校生活を無駄にしているのではないか、大切な3年間をこうも消化していいのだろうかと焦りや不安が渦巻いていたが、この時期それはいっそう大きくなっていった。
勉強することが仕事……と大人はよく言うがそんなのたまったものではない。こんなクソ労働あってたまるか。勉強が好きな人ならいい。1問1問解く頃で喜びを得られる人なら構わないだろう。しかし私は勉強が嫌いだ。大大大嫌いだ。正確に言えば学校の勉強が嫌いだ。
知らないおっさんの文章を読むのが嫌いだ。
意味不明な三角形の面積を求めるのが嫌いだ。
何百年も前の人をこと細かに覚えるのが嫌いだ。
外国のよくわからん言語を必死に読み解くのが嫌いだ。
嫌いだ嫌いだ嫌いだ。何もかも嫌いだ。
趣味に関する勉強は好きだ。
ゲームの攻略、アニメの考察、旅行の計画立て……そんな感じの勉強はむしろ好きだ。
まぁ、多分それは私だけではなく、文明社会で生きるほぼ全ての人間に当てはまることなのだろうけど。
そして、このふたつが合致した人間は結果的に大成していくのだろう。なかなかない話とは思うが。スポーツ選手なんかはこれのいい例だ。
話を戻そう。そんな勉強嫌いの梓くんだったが、周りが勉強するならそんなことも言ってられない。勉強は嫌いだが、周囲に置いていかれるのはもっと嫌いだった。
今まで成績で勝っていた奴に負けたら悔しいし、嫌だった。その意味不明なプライドが辛うじて私を勉強机に縛り付けていたんだろう。
受験の天王山とか在り来りのフレーズを並べる予備校講師の講演会を綺麗に聞き流し、夏休みもなんとなく、課せられたものはきっちりこなし、ゆるりとすぎていった。
そういえばこの夏は比較的涼しかった気がする。まぁ家から出る機会も少なかったのでなんとも言えないが。