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すいしん  作者: 大阪豊
2/2

その手で世界は救われる

 藤倉竜生、41歳会社員営業職。日本の平均的サラリーマン。

毎日同じ様に過ごすことに安心している男である。

外回りの営業で高級車を見かけるといつも同じことを思う。

「何の仕事をしていたらあんな高級車に乗れるんだろうか?」


「よう、久しぶりじゃねぇか!」

突然クラクションの様な大きな声で呼びかけられた。

「あぁ!中谷、ビックリするじゃねぇか。こんなとこで何やってんだ?」

「どこかで見かけた顔だなと思ってさ。お前こそ何してるんだ?」

「見ての通りさ、営業してんのよ。しかしこれ何だ高そうだな!!」

「いや別に会社の経費だし、2500万位だよ。」

「はっ!何?経営者になってんのかよ!」

「まぁ、事業が軌道に乗ったからさ、時間あるなら、どっか行く?」

「そうだな‥‥、電話だけさせてくれ。」

やたら自慢げに手を挙げて、車のハザードランプを点灯させた。


 竜生には商談が入っていたが、約20年ぶりだということもあり

中谷と話することにした。

 常に疑問だった高級車に乗る奴の素性ってやつも分かるかもしれ

ないし。西日が眩しい夕方4時前だった。


「わりぃ、お待たせ。」

「おう、ちょっと走るけど、この先に変わった店があるから行ってみないか?よく行くんだけどな。」

「任せるわ。」


 高音のエンジン音とシートに身体が吸いつくのを感じながら、勢い良く

加速していく。日常の暗雲とした気分を掻き消してくれる。爽快だ。

 誇らしげな中谷の横顔を見て羨ましい思いと悔しい気持ちが湧いてきた。


「ここだから、車止めるわ。」

周りにそれらしき店も看板も無く、高層ビルの間に挟まれた古ぼけた細い

木造2階建ての民家がある。歩行者もその建物の存在に気付かない様子で

通り過ぎていく。

 車を止めた中谷が含み笑いの表情で「店には見えないよな。」

「悪いけど、ここ何?こんなとこに入るん?」

中谷に促され、店の扉を開けた。


 薄暗い店内には仕切が幾つもあり、先客で埋まっていた。異様な光景に

戸惑っていると、店内の液晶画面を見た中谷が2階の窓側が空いてると言い

、俺はその後に続いた。ここが会員制の店で、商談に良く利用している事やここでのルール、使い方を説明してくれた。ついでに店の運営にも携わっている事を教えてくれた。


「変わってるだろ、ここ。」

「なんか見慣れない光景だな。怪しさ満点だな。」

「誰もしてないからいいのさ。他人と同じ事してどーすんのさ?」

「それもそうだな。会員制っていくらかかるの?」

「年会費120万で、後は飲食代かな。」

よくも高額な会費をサラリと言いのける中谷に呆れながら更に質問をした。

「そんな高額で良くやるなぁ。来てる客普通じゃないな。」

「いやー、逆に安すぎるから、値上げしようと思ってるところさ。ここで取れる情報はほぼ何でも揃うから。因みに違法な事はしてないぜ。ヤバい奴も中にはいるけどな。」

 真ん中の席に座っている冴え無いサラリーマン風の大柄の男に視線を飛ばした。「奴には距離を置いた方がいいぞ。」含み笑いを浮かべていた。


「それはそうと羽振り良さそうでいいな。俺なんか…」

愚痴を言いかけた俺にタバコに火を付けた中谷が勢い良く話出した。

「俺と竜生の違いを教えておく。たった一つの事だ。分かるか?」

「いや、何かな…。」

「竜生はいい大学も出てるし、俺の知ってるお前は何でも器用にこなしてた。しかも面白くてカッコ良かった。俺は家庭も貧しかったし、学歴も無いし、人脈も無かった。けれど、ずっと気をつけていることは自分の発言だ。自分の発言は一番自分が聞いている。今俺に愚痴りかけたが、何も良いことは無い。言霊が全てを変える。それと成功者の近くにいる事だ。彼等の発言はいつも新鮮で力強く愚痴なんか聞いた事がない。共通している。言霊だ、気をつけろよ。」

 俺は中谷の勢いに負け、言い返す言葉が無かった。確かに思い返すと、耳が痛い。様々な成功哲学本を読むだけ読んで満足していた。行動が伴っていない。説明出来ない焦燥感に襲われた。

 胸元に入れていた携帯がなった。


「今日は戻らんのか!?」

「あっ、スミマセン。商談が長引きまして。」

「そうか、明日内容聞かせてくれ。」

 普段から冷静な上司からの電話だった。





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