日常
朝から雨が降っていた。ムシムシとした湿気が汗をよんでいた。「おはようございます。」
会社のオフィス内の雰囲気がドンヨリとしていた。
挨拶をしたが、木村部長はこちらに手を向け俺を呼び寄せた。「昨日お前は何してたんだ?」
「え?」
「えっじゃないだろうが!!菱五商事の丸山部長から連絡があってな、今回の商品カワセから買うそうだ!何を勝手に商談キャンセルしてるんだ!!」
普段冷静な人間が、顔を紅潮させて必死に奥歯を噛み締めながらの言葉に殺気を感じた。
「す、スミマセン!!べ、べ、べ、別の商談があり…」
矢継ぎ早に舌をまくしたてられ「なんやとーぐらぁ!」
「菱五商事にどれだけの金と時間突っ込んでるのか分かってんだろうが!!」オフィス中に怒号が響いた。
木村部長も堪えきれずに叫んだのだろう。周囲の視線が集まる中、冷静を保とうとするのが分かった。
「藤倉、ちょっとこっちへ。」
応接室に移動を促した。周囲への気遣いがあってのことだらろう。
「藤倉、俺も営業に出ていた頃はよく時間の帳尻をあわせていたもんだ。普段からお前は良くやってくれていると思うよ。昔の俺を見ている様で、気に掛けているんだよ。だから、丸山部長からの連絡には正直ショックだったんだ。さっき怒鳴ったのは悪かった。これから菱五商事に行けるか?」
「ご、ご一緒に行って下さるのですか?」
「当たり前だ。この案件はそれだけ重要なものだからな。」
朝から怒鳴られ良い気分にはなれないが、木村部長の度量の大きさに感動していた。しかし、たかだか一回の商談を延期したくらいで何が起こったのかが気になった。入ったばかりの新人でもないし、それなりの経験も積んできての出来事だったので、余計に気掛かりだ。昼過ぎまで社内にいることが苦痛だ。
「おい、何したんだ?」嬉しそうな顔で同僚達が聞いてきた。
「俺も何が起こったのかが分からん、部長と昼一同行だわ。」
人の不幸は最高のネタになるらしい。こんな連中と長い間過ごす事にも嫌気がさしていた。サラリーマンとしてしか生きていけてない自分にも嫌気を感じていた。
世の中支配される者と支配する者しかいない。圧倒的に支配される側の人間が多いことは誰も分かっていることだ。それに気付きもしないで