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蛍華 -keika-  作者: 絢瀬 耀
月華
12/16

覚醒

「ただいまー!」


 元気よく玄関の扉を開ける翼。リビングから、鉛筆を咥えた少年が様子を見に出てくる。


「うるせーな、姉ちゃん。もっと静かに・・・」

「あ、お邪魔してます。」


 少年は、翼の後ろにいた慶輔を見て絶句していた。翼は、そんな少年を無視し、慶輔を連れて階段を昇っていく。

 翼が扉を開けると、そこは綺麗に整頓された如何にも女の子らしい部屋が広がっていた。穂蛍の部屋では、中に入る前に追い出されたため、女の子の部屋に入るのはこれが初めてだった。


「まったく、陸ったら本当に落ち着きがないんだから。」

「さっきのが弟さんか?」

「あ、はい。綾峰陸あやみねりくって言うんですけど、さっき見てもらって分かったと思いますけど落ち着きのない子で。」

「ははは、綾峰に似てるんだな。」

「ど、どこがですか!?私、あんなに落ち着きがなくないですよ!?」


 頬を膨らませて抗議する翼を宥めながら、慶輔たちは本題に入った。翼は押し入れからキーボードとノートパソコンを取り出した。


「先輩は、何か楽器は弾けるんですか?」

「いや、何も・・・小学生の時に、ちょこっと叔父のギターを触らせてもらったことがあるぐらいで・・・もう何年も楽器には触れてない。」

「そしたら、先輩にはこのパソコンを貸します。」


 そういうと翼は取り出したノートパソコンを慶輔に手渡した。


「最近はパソコンで手軽に作曲も出来るので、これで作ってみてください。」

「いや、俺は何もわからないんだが。」

「とりあえず、やってみる。それから細かいことは覚えていけばいいんです。」


 押し切られる形で慶輔はノートパソコンを受け取った。ほぼ同じタイミングで、翼の部屋の扉が開かれる。そこには、お盆に飲み物を持った陸の姿があった。


「姉ちゃん、お客さんに飲み物ぐらいは出しなよ。」

「そこまでしてもらうことは。」

「あなたが、天海先輩って人でしょ?」

「あれ、自己紹介したっけ?」

「姉ちゃんがいつも天海先輩の話ばかりするから、一度会ってみたかったんですよ。」

「ちょっと、なんでそういうこと言うの!?」


 翼が真っ赤な顔をしながら、陸に詰め寄る。陸は気にすることなく机にお盆を置いた。

 顔を赤らめながら翼は陸と慶輔を交互に見た。もっとも慶輔は特に気にしている様子はない。


「あれ、これって姉ちゃんの。」

「ああ、作曲のやり方を教えてもらってたんだ。」

「へぇ、でも姉ちゃんに教えられるんですかね。」

「教えられますー!私だってできますー!」


 どちらかというと翼よりも陸の方が大人びているように思えた慶輔は思わず吹き出してしまった。


「ほらー、陸のせいで先輩に笑われちゃったじゃん!」

「俺、関係ないし。」

「二人とも仲がいいんだな、ちょっと羨ましいよ。」


 慶輔の一言に二人は押し黙った。三人は気を取り直して、作曲について学ぶことになった。


「天海さんも楽器をやってみたらどうですか?」

「俺が?」


 陸が、一本のギターを手渡してくる。慶輔はそれを受け取り、手に取ってみた。懐かしいという感覚とさすがに無理だろうという諦めのようなものが渦巻いていた。


「ちょっと弄ってみてください。」

「最後に弄ったのも、もう何年も前だしな。出来るかどうか。」

「誰だって最初はそうですよ、俺だってそうだった。」


 中学校で軽音楽をやっているらしい陸が言うと妙に説得力がある。

 慶輔は何も考えず、指を勝手に動かした。弾かれる弦から鳴り響く音はメロディに変わり、部屋の空気を包みこんだ。

 最初に驚いたのは慶輔だった。


「す、すごい。天海先輩、普通に弾けるじゃないですか。」

「お、俺もびっくりしてる。」


 おそらく、幼少期に叔父に教えてもらったことが未だに体に染みついていたのだろう。陸が言うには細かいところは荒いが、大まかな筋は出来ているらしい。


「このまま、パパッと曲も書いちゃいましょうよ。」

「なんだか、出来そうな気がしてきたぞ。ありがとうな、綾峰!」

「褒められると照れちゃいますよ、えへへ。」


 翼の家を後にした慶輔はすぐさま自宅へ帰り、借りたノートパソコンを開いた。操作方法は一通り教えてもらい、音楽理論については本やインターネットを利用して吸収していった。

 慶輔が真面目に勉強したのはこれが初めてだったかもしれない。

 その最中、慶輔は叔父に連絡を取った。ギターを借りれないかという相談だった。叔父は慶輔がギターを始めたことを喜び、自前のギターを一本プレゼントしてくれた。

 慶輔は作曲の合間にギターをも練習した。そんな生活を学園祭間近まで続けたのだった。

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