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蛍華 -keika-  作者: 絢瀬 耀
月華
11/16

学園祭の準備に向けて

 ガヤガヤと騒がしい教室内で、一人の学生が黒板を叩いた。彼はこのクラスでの学級委員をしている人物だ。学級委員が黒板につらつらと文字を書き出していく。


「今年の学園祭で我々のクラスはカフェを行うことになった。みんな、頑張っていこう!」


 盛り上がる男子生徒たちとは対照的に、女子生徒はやや蔑みにも似た眼差しを向けていた。

 彼女たちがそのような反応をするのも無理はない。彼らがやろうとしているカフェは普通のカフェではない。俗にいうメイドカフェというものだった。

 女子生徒たちも反対の意思を示したものの、多数決で決めるとなると彼女たちに勝ち目はなかった。結果として、男子生徒の意見が通ってしまったということになる。

 

「また面倒なことをやってくれたもんだ。」

「そう?楽しそうでよくない?」


 盛り上がりの輪から離れている慶輔に、華菜は朗らかに問いかける。大多数の女子が嫌悪感を示している中、彼女だけは妙に乗り気だった。決まってしまったものは仕方がないと諦めているようにも見受けられない。むしろ、楽しみにしている雰囲気さえ感じられる。


「ずいぶんと乗り気なんだな、桜咲は。」

「だって、こういうの初めてだし。」

「初めて?前の学校ではなかったのか?」

「うん。前の学校は女子高だったし、田舎だったからこんなに盛り上がることもなかったんだよね。」


 笑顔で語る華菜が一枚のビラを慶輔の前に差し出した。そこには喉自慢大会の文字が大きく書かれていた。華菜の言葉を聞かずとも、彼女がこれに出ようとしていることは分かった。しかし、それを差し出してくる意味は分からなかった。


「ねね、これに出ようと思うんだけどさ。」

「ああ、出ればいいんじゃないか。俺は関係ないけど。」

「関係なくないよ、端っこの部分を見てよ。」


 華菜の指さす場所には『自作の楽曲での参加も可能』という一文。おそらく軽音楽部などに対する配慮だろう。


「んで、俺にどうしろと?」

「天海くんに曲を作ってほしいんだ。私、作曲とかやったことないから。」

「はぁ!?」


 突然の提案に声を荒げ立ち上がる。教室中の視線が一斉に慶輔に降り注いだ。

 視線に気づいた慶輔は顔を赤らめながら、ゆっくりと席に着いた。


「なんで、俺なんだよ。」

「前にさ、私の歌を透明だって評価したでしょ?上手とか、綺麗って言ってくれる人は多かったんだけど、透き通っているって言った人はキミが初めてなんだ。それで、そういう風に言ってくれた人が作った曲を歌ってみたいんだ。」

「つっても、作曲なんてやってことねぇし・・・。」

「大丈夫、キミなら出来るよ!」


 半ば押し切られる形で依頼を受けてしまった慶輔は頭を抱えた。学園祭までは一か月と少ししか時間がない。そんな状況下でまったくの素人が曲を書こうとするのは、かなり無謀な挑戦だった。

 放課後、慶輔は一目散に図書室に向かった。少しでも知識を仕入れようとしたのだ。図書室の音楽理論と書かれているコーナーに足を踏み入れる。適当な冊子を手に取り、パラパラとめくるも中身は完全な初心者に優しくない内容だった。


「こんなんで、出来るのか?」

「何してるんですか、先輩。」


 不意に背後から声を掛けられる。そこに立っていたのは翼だった。夏休み以降、一度も会っていなかった彼女は髪が伸びたためか、やや大人びて見えた。


「綾峰か、そっちこそなにしてるんだ?」

「私たちのクラス、学園祭でミュージカルをやることになったんですけど、楽器を弾けるのが私しかいなくて、それでクラスのみんなの資料になる本はないかなって探しに来たんです。楽曲もオリジナルを作らなきゃいけないですし。大変ですよ。」


 おそらく翼たちのクラスがやるミュージカルはオペラに近い形をとっているのだろうことを思いながら、彼女の発した言葉を脳内で反芻した。


「お前、作曲できるのか?」

「はい、出来ますよ。どうかしたんですか?」


 慶輔は恥を捨てて翼に頭を下げた。突然の行動に、翼はあたふたと慌てふためいた。


「頼む、綾峰!俺に作曲を教えてくれ!」

「え、えぇ!?ど、どうしたんですか、先輩!?」


 事態の飲み込めない翼に、慶輔は事情を事細かに話した。静かに聞いていた翼は、全てを聞き終えると胸を拳で大きくたたいた。


「そういう事なら任せてください!」

「ありがとう、綾峰!」

「じゃあ・・・早速ですけど、これから家に来ます?」

「は?」

「いろいろと教えるのに、私の家が一番なんで。弟がいるからちょっと五月蠅いかもですけど。まぁ考えるよりも動いた方が速いですね。さ、行きましょ!」


 唖然としている慶輔の腕を掴んで、翼は自宅へ向けて駆け出した。予想に反した行動に慶輔は、自分の発言を若干、後悔したのだった。

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