その出会いは必然
華菜と慶輔を互いに見比べた後、善子は両手をパンと叩いた。
「なに、知り合いなの?」
「知り合いってわけじゃないんですけど、さっき会ったっていうか。」
「じゃあ、ちょうどいいわね。」
善子は華菜に席に着くように指さす。その席は慶輔の隣だった。
昼休みにもなれば転校生の周囲に人が集まるのは想定の範囲内だった。見てくれの良さから男子は当然のこと、意外にも人当たりの良さからか女子も集まってきている。
可能な限り、慶輔は華菜から意識を遠ざける。彼自身、理由は全く分からないがどこか彼女に穂蛍の面影を感じていた。
「あーまーみーくん。」
唐突に声を掛けられる。顔を上げればそこには、にこやかな笑顔を向けた華菜の顔があった。
あぁ、面倒なやつがやってきてしまった。慶輔はそう思っていた。ふと、なぜ彼女が自分の名前を知っているのだろうかと疑念が浮かんできた。
華菜の背後には杏奈の姿がある。何も言われずとも察する。お節介で人当たりの良い杏奈のことだ、きっと自分のことを華菜に教えたに違いない。
「さっきは自己紹介できなかったからさ。改めて、櫻崎華菜です。よろしくね!」
「あぁ、俺は天海慶輔。」
「ちょっと、なにそのぶっきら棒な態度は。」
杏奈が頭を小突く。ぶっきら棒な態度を取ったわけではなかったが、どうやら彼女にはそう映ったようだった。
「ね、お昼一緒に食べよう!」
「え、いいの?」
「もちろん。私も桜咲さんと仲良くなりたいし。」
「華菜でいいよ。私も杏奈ちゃんって呼ぶから。」
似た性格の二人はすぐに意気投合する。慶輔の腕がグイッと引っ張られた。
「もちろん、天海くんも行くよね?」
「・・・拒否権は?」
「ありません。」
唯一乗り気ではない慶輔を含めた一行は学校の食堂に向かうことになった。
食堂は昼休みという事もあり、大勢の学生でにぎわっている。それでもすんなりと定職にありつくことが出来、席を確保できたのはさすが杏奈の手腕と言わざるをえない。
のそのそと白米を頬張っている慶輔を横目に杏奈と華菜はにこやかに談笑している。慶輔は自分がここにいなくてもいいんじゃないかという錯覚すら覚えた。
「そういえば、天海くんって口数少ないけど、なんか理由があるの?」
「別に。ただ、飯食ってるときはあんま喋らないだけ。」
「ふぅん。」
その一言二言だけの会話が慶輔と華菜の唯一の会話だった。慶輔の目は華菜の髪飾りに向いた。どこかで見覚えがあるような気がするそれ。陶器で出来た白い花が装飾されたそれが慶輔は気になっていた。
「桜咲、その髪飾り・・・」
「あぁ、これ?これね、亡くなったお婆ちゃんが私にくれたんだ。お婆ちゃんが入院していた病院で仲良くなった人から貰ったんだって。」
信じたくはなかった。しかし、慶輔の脳裏には一つの可能性が振り払えずにはいられなかった。
「そのお婆ちゃんって、もしかしてこの近くの大学病院に入院してたか?」
「う、うん。そうだけど・・・」
「待って、その病院って・・・もしかして。」
何かに気が付いた杏奈が驚きの表情を浮かべる。この近辺に大学病院は一つしかない。そしてその病院は慶輔と杏奈のどちらにもなじみ深いものだった。それを理解した杏奈も華菜の髪飾りの正体に気が付いたようだった。
「その髪飾り、たぶん穂蛍のだ。」
「穂蛍・・・?」
「あぁ、俺が夏に穂蛍へプレゼントした髪飾り。たぶん、それがそうだ。」
「その穂蛍って人がキミの言ってた彼女さん?」
「ああ。桜咲のお婆さんにも会ったことがある。」
「そうだったんだ。これ、返す?」
「いや、俺が持ってても仕方がない。きっとあのお婆さんに渡したのも穂蛍なりに何か考えがあってのことだろうし、桜咲が持ってていいよ。」
髪飾りを外そうとした華菜の手を制止する。慶輔自身、出来ればその髪飾りは穂蛍の遺品として受け取っておきたかったが、穂蛍の遺志を尊重する方を選んだ。
このようなところで穂蛍に繋がる何かを見つけられるとは思っていなかった慶輔は、不思議な縁のようなものを感じ取っていた。このとき、慶輔はやっと華菜に穂蛍の面影を感じた原因がわかったような気がした。
時計を眺めた杏奈が大慌てで二人の肩をたたく。気が付けば間もなく、昼休みも終わりを迎えようとしている。それに気が付いた二人も慌てて教室へと駆け出したのだった。