第2話:後悔、そして始まり
列車の窓は煤けた茶色。その窓からの風景は……
列車は、まだ次の停車駅に着かない。もう結構時間は経ったと思うのに。
だけど、不思議に恐怖心が全然無い。そして、それゆえに緊張感も無いのだろう。
仕事の事、これまでの自分の普段の生活の事、等々思い出すべき事は山とあるはずなのに、それらを思い出す気力が無い。そしてそれを良しと思っている自分がどっかりと存在しえている。
そうして時間は過ぎていくのだろう。無意識、無自覚の内に。僕がこれまでにそうして来たように……
ところで、ついさっきから、僕はこの列車にどれくらいの時間乗っているのだろうか? とは思うのだが、敢えて重ったるい右腕を上げて腕時計の文字盤を覗く気にはならないのだ。
度を過ぎているのだろうか、今ではさっきからずっとそう思っているがゆえに半ば意地になってきた。そういう妙な、くだらないものだけは持っている僕。
メトロノームのように、規則正しい間隔を刻んで車窓を走る電柱が過ぎてゆく。それをただ、眺めている僕。
普段ならば退屈な筈なのに。
今、こうやって車窓に顔がくっついちゃいそうなぐらいに近づいて景色を眺めてじっとしているのは、悪い気分ではなかった。だからこそなのかもしれない。時計を見る気にならなかったのは。
偶然、ふらりと見つけた駅で、ちょうど良いタイミングにプラットホームにいたから乗った。それだけのこの電車。
それから車内でしばらく待っていると、アナウンスもなく唐突に列車は駅を出発した。
その後は少しずつ速度を上げながら、かと思うと、列車はあっという間に外の景色の一要素としてその風景の一部に溶け込んでいった。
その後、どれくらいの時間だろうか? 僕は、車窓に映る眩しすぎる景色にすっかり圧倒されていた。それから今はようやく立ち直りつつある。
空は、真っ青ではない。所々で屯している雲だって、真っ白ではない。全体で空を大きく捉えてみると、色調としてはモノトーンに近いのかもしれない。そんな事を想いながら。
そして、ただひたひたと、どこぞとも知れぬ山々の間を縫って単調な眺めの中を列車は進んでいく……
……ん? ふと、気持ちの何処かで、何かが燻っている感じがした。
ふと何気なく、窓の外の眺めから自分の事へと関心を移してきた。軽い気持ちで、胸に手を当ててみる。
すると、僕の中の何かが唸った。いや、叫んだのか? それに呼応して、鳥肌のような小さな震えが己の四肢から徐々に腕の肘の辺りに集まってくる。それらが重なり合って、気が付けば腕がガクガクと大きく震え出していた。
僕は、一体何をしているんだ。……なんて馬鹿な事をしているんだ。
どうして、どうなったって良い、なんて考えたんだ。僕はそこまで絶望的な状況に陥っていた訳じゃ無かったのに。
皮肉な事に、それに気付いた時、ようやく肘の辺りの震えが落ち着きだした。自分が今まで冷静で無かった事を初めて悟った。
まず思った事は自分の愚かさだった。浅さだった。
ただ、僕は自分が可愛かっただけじゃないか。
心の中で愚痴を散々捏ねまわしている内に、自分だけ被害者ぶって。周りをちゃんと捉えられなくて。
そして、自分の中で適当に話をまとめていく内に辛くなって。
その果ての挙句が、勝手に自暴自棄になって。
僕が得たいモノ、か…… もしかしたら僕は、単に何か大儀そうなものを心の中で捻くり出して、それを盾に現実逃避したかっただけなのかもしれない。
これから僕はどうすれば良いんだよ。




