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第一話 転生というきっかけ

無双系・チート系小説に飽きたみんなへ


っケモミミ系小説


 俺は自分のことを、凡人だと思っていた。

 良くも悪くも、可も不可もなく、そんなところだ。

 だから俺は、こんなにも満たされないのだと、そう思っていた。

 もし、もっと人を惹きつける魅力を持った器に生まれていたら、もっと上手く生きることができたはずだと。


 同時に、心の奥で確信していた————それは言い訳だと。


 小学校から高校まで、芸術方面で何度か受賞したことはあるし、短距離走が遅かったり筋力が平均を下回っていた代わり、長距離走や柔軟などの種目では常に上位だった。

 知能も、悪くはなかった。高校受験ではまぐれながら数学が満点だったし(代わりに英語が赤点だった)、進学校に合格してもそれなりの成績を維持できた。部活動では落ちこぼれだったが、そこそこ可愛い彼女も出来た。

 思い返してみれば上出来の人生かもしれない。


 ただ、そんな自分に、俺は今まで満足したことはなかった。

 集団の中心にいる人物を羨望と嫉妬の混じった目で眺め、人並みの努力をし、けれど人望はなく、そんな自分に馬鹿らしい劣等感を抱いていた。今思えば、それは今までそこそこの結果を残してきた自分に無自覚の自尊心を持っていたから……だったのかもしれない。

 まあ、今更そんな自己分析はどうでもいい。

 俺は詰まるところ、勝ち組の中に一定数いる負け犬だったのだ。

 障害もなく能力に恵まれた体に生まれながら、そのポテンシャルを十全に活かさず、死ぬ気で努力に打ち込もうともせず、ただ高く空を飛ぶ鳥を仰ぎ見るだけの、犬だった。

 下手に恵まれてしまったから、そこに甘んじてしまった。大した苦労もなく人並みに生きることができたから——できてしまったから、すべてが中途半端になってしまったのだ。

 だからきっと、

「……はあ」

 こんな無様な死に様を晒しているのも、そのせいに違いない。

 冷たい冬の夜気で凍結した道路の上、仰向けに寝っ転がったまま、俺は底抜けに美しく広がった星空を眺める。

 口の端から漏れたため息が、漆黒の夜景を白く彩る。

 視界の外でちゅーちゅーと鳴き声がして、目をやると、小さな子ネズミがもぞもぞと指の間から顔を出し、しゃかしゃかと道路脇の草むらに逃げ込むところだった。

 ネズミの脚に付着した液体が、その足跡をコンクリに赤黒く刻んでいる。

 遠くの方から、男の喚くような声が聞こえてきた。

「お、おい、何いきなり飛び出してんだよっ。おっ、俺が悪いんじゃない! 誰か、誰か見てた人いないか。こいつが勝手にっ」

 いやはや、まったくもって本当に。

 何やってんだ俺は、と心底どうしようもない自分に死ぬほど腹が立つ。

 子ネズミを庇って車に轢かれて死亡。死ぬにしても、もうちょっとまともな格好はなかっただろうかと自問する。ネズミはとっくに逃げたし、勝手に路上へ飛び出して勝手に撥ねられた自殺志願者などとニュースで伝えられかねない。

 ついでに運転手も不憫すぎて申し訳が立たない。

 指先に残った微かな温もりを握りしめつつ、俺は再びため息を吐こうとし、喉に何か針の塊のようなものが詰まる。焼けるような痛みと共にソレを外へ吐き出す。

 何だか寒い。寒いのに、体の芯は白熱した鉄のように熱い。

 人間というのは、銃を一発撃たれた程度で死ぬような映画仕様とは違ってしぶといものだと思っていたが、なんとなく俺は、自分がまもなく死を迎えることを悟っていた。

(やっぱり、俺は……主人公には向いてないな)

 と思うと同時、ああ、そういうことかと納得する。


 俺は多分、《主人公》になりたかったのだ。


 だが、その配役はきっと、俺に向いていない。それも分かった。

 例えば、電子小説で流行りの転生やら転移やら——何でもいいが、人生を変え得るきっかけを掴んだとき、俺は適当にやってそれなりの結果を出すだろう。

 けれどやっぱり、《勇者》にも《英雄》にもなれない。

 それこそ、絶望的な逆境にでも陥らなければ……血反吐を吐き、泣きながらでもどん底から這い上がろうと思えなければ、俺は永遠に負け犬のままだ。

 少しばかり恵まれた能力と環境に寄りかかり、甘えが許される限り甘え、そしてはるか後になって後悔するのだ。ちょうど今のように。

 それが俺の、**という人間の、魂の、どうしようもない本質なのだ。


 意識が消失する寸前、ああそうだ、もし叶うなら、と俺は願った。

 ——来世はどうか、俺からすべての才能を奪ってください、と。



「小説家になろう」のロゴを「ケモミミを愛でよう」に変えてやりたいくらいケモミミ好きです

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