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化物でも勇者でもない!俺は、日本人だ!  作者: 平 一蹴
第1章 日本でも地球でもない
9/10

第9話 儘ならない⁉︎







ーーおはよう




気付くと、体はもう元に戻っていた


頭にもどこにも穴は開いてないし、手足も普通に動く


パーカーの真ん中に穴が空いているものの、その中には自分の肌が普通に見えて、痛みもなければ、傷跡も違和感も何も感じない


どこをどう見ても、五体満足申し分無く、間違いなく、俺は死んでいなかった



「ちくしょう…」



問題なく見える目を両手で覆いながら自分の体を呪ってしまう


あれだけのことがあって、全くの無事なんて有り得ない


ほんの2時間程前には、本当にただの大学生だったはずなのに、どうして、いきなりこんなことに…


何より、俺は…人を



「人を、殺した…俺が…俺がっ…!」



この手に、そんな実感はない


けれど、体の中に自分ではない何かがあって、それが人を食い散らしたことが分かる


今までの自分ではない未知の違和感が蠢いているような不快な感覚


それは、体にも心にも実感はまるでないのに、自分が人殺しであることが間違いないと、強制的に理解させられる吐き気を催す五感で感じる以上の正体不明の知覚だった



「異世界…海珠…」



それもこれも、こんな世界に連れて来られたからだ


奴隷を許容してる世界なんて有り得ない


地力なんて得体の知れないエネルギーがあることも、その地力とやらを利用して、日本人を支配してるなんて話も眉唾だ


そばを転がってるデカイ獣も作り物かなんかで、さっき俺の体から出てきた濁流だってCGに違いない


だから、俺みたいな小市民が人殺しなんて無理不可能有り得ない狂ってる意味がない


おかしい


全部おかしい


おかしいおかしいおかしいおかしい


こんなの、夢ですら有り得ない



有り得ない

有り得ない

有り得ない

有り得ない

有り得ない

有り得ない

有り得ない

有り得ない

有り得ない

有り得ない

有り得ないっ!

有り得てたまるか有り得ないっ‼︎



ーーわかってるくせに

「有り、得ない…はず、なのに…」



でも、ダメだ…


全く自分を、否定できない…


どう思い込んでもできない…


意味が分からないけど、心の奥底で自分がやったという強い後悔は、まるで拭い去れなかった…



「現実、なんだ…」



自分をどんなに否定しても、己の中の不気味な知覚が、目の前にある世界を現実と認識させてくる


ここが異世界で、奴隷召喚されて、人を殺して、今も自分の中に何かが巣食っている…


そんな異常な現実に直面させられて、思わず力が抜けて、肩も腕もぐったりしてしまう


この知覚が何なのかは分からない


だけど多分、ヒゲ…冨田さんとか言ったか?


あの人の言う通りなら、俺の中には異常な地力があるらしいから、この知覚はその影響ということなんだろう



ーー気持ちを切り替えて

「…なら、今はとにかく生き延びないと」



俺のこの命は、冨田さんと佐々木さんに生かされた命、そう思うことにする


不快感は無くならないし、殺した相手に生かされた、というと2人に恨まれるかもしれない


だが、俺の心がそう感じているのだから、俺にそれ以外の答えはないのだ


怖くても、心が痛くても、どんなに悔やんでも、こんなところで死ぬわけにはいかないし、やっぱり死にたくない


だから、せめて冨田さんの願いである佐々木さんの奥さんと子供さんの力になるまでは、絶望しているわけにもいかないだろう


それに、自分を悔やむには、この森の中で危険すぎだと、新しく芽生えたこの知覚も言っている気がした



「そういえば、モンスター、とか何とか言ってたよな…」



モンスター


イメージだとRPGとかの怪物


何となくだと動物を大きくしたような感じがするが、佐々木さんが命がけくらいひ気にしていたくらいだから、相応の脅威と見るべきなんだろう



「となると、ドラゴン?クマ?スライム?」



幾つかの想像をしてみる


と言っても流石にドラゴンとかは行き過ぎだろうから、多分熊とか鹿とかを凶暴にした、みたいなとこなんだろう


そして、当然だが普通の熊に襲われただけで、十分に命の危険があるし、銃器なんて物騒なものだっで持ち得ていない



「地力術、か…」



となると、この世界で頼りになるのは地力


そして、その地力を使う地力術こそ、海珠を生き残るための最大の手段となるはず…らしい



「…ちょっと、試しておくか」



さっきまでの濁流のこともある


今ひとつ感じは掴めないが、何となく控えめな感じでやってみよう


教わった通り、自分の内と外との間に境界があることをイメージする


そして、内外それぞれから力が引き合うように…


ふぉーん、と小さな音をした



「おぉ…」



思った以上に簡単に出来てしまったことに驚く


自分がしたことながら唖然としてしまうが、右の掌の上、少しだけ空中に、白色の球体が浮かんでいた


形は、間違いなく佐々木さんが使っていたのと同じものだ



「投げ、られるのかな…」



驚きと共に、まさしく漫画的なエネルギー球をまじまじ見ていると、不謹慎ながらも気持ちがワクワクしてしまう


俺は立ち上がって、ボールを投げる感覚で光球を手に振りかぶり、近場の木の枝目掛けて



「ふん!」



投げた!


が…



ぼよんぼよんぼよんぼんぼんぼんぼんぼんぼんつー………ぽんっ



と、木の枝を薙ぎ払うこともなく、まんまボールみたいに、跳ねて飛んで転がって、普通に止まって、煙も残さず掻き消えてしまう



「まんまボールだよ!」



ついついセルフツッコミを入れてしまうが、そこではっと気付く



「ボールをイメージしたから、か?」



冨田さん曰く、地力は極めて自由なエネルギーらしい


かつ、イメージによって構築するのであれば、やはり効力形状もイメージに依存するのではないだろうか



「だったら次はボールじゃなく、もっと攻撃的な空手と合わせて…」



俺は、正拳突きを放つように構え、狙いを先ほどと同じ木の今度は幹として、拳の衝撃も強めにイメージする


かつ、内外の境界を意識し、振り抜く瞬間に前方へと強く地力が吐き出される感覚で…



「打つ!」



シュバッ!!と拳が風を切り、今度は地力の波動がそのまま白い拳のような形で、狙い通り木の幹に向かって一直線に飛んでいく


俺は、心中(おおっ!)と感激しながら、白い拳の行く先を見つめた…が



パシン



なんて、木の幹が普通に叩かれる音がしただけで、幹がバリバリ音を立てて壊れることは全くなく、ものすごく普通に木は健在だった


そのあまりの威力の無さに、俺はがっくりと項垂れてしまう


冨田さんの言うほどの怖いくらいの力が俺に本当あるのか疑いたくなってくる



「でも、まぁ…一応遠当てにはなってる、のか?」



イメージ的に威力は問題外だが、考え方としては間違ってはいないのだろう


日本じゃ、遠当てだって有り得ないわけだし



「にしても、威力を出すにはどうすればいいんだ?」



こんな程度では、普通の熊さえ止められない


むしろ、挑発になって襲いかかってくるだろう


佐々木さんの光球や、冨田さんの槍の技はもっと強い威力だったし、少なくとも地力を飛ばすことができるのだから、2人のような破壊力も出るはず、だと思いたいが…



「んー…」



考えを巡らす


恐らくは、イメージに何か欠けているのか、それか、単純に修練が足りない、ということなんだろうが…



「あー、やだやだ。あんたマジへたれ」



そこで、急に誰かに話し掛けられて、ビクーッ!と体が痺れてしまう


声も出せずに振り向くと、そこには、濃いめの茶髪で胸元が大きく開いているVネック(もちろんインナーあり)と茶色のミニスカート&黒スト姿の、まんまギャルな女の子が片手を腰に手を当てながら、俺に話しかけてきていた


「う」


すぐさま、俺は微妙に引いてしまう


だって、多分俺が日本であのままキャンパスライフを送っていたとしても、そこにいる女の子みたいなタイプとは、そもそも話す機会はなく、まして話しかけられることはなかったに違いない


マジ人生初体験の不安である


そんな引いた仕草をしたからなのか、俺の正直過ぎた表情からなのか、女の子は「あん?」なんて口にしながら舌打ちまでして近づいてくる


というか、さっきまで縄で繋がれてなかった気がしたけど



「なに?なんか文句あるわけ?」



怖い怖い怖い怖い


などと言う度胸はなく、そしてついでに、この子が俺が意識をなくしている時(声だけ聞こえていた時)の3番目に話していた子だと気付いた



(見た目も、声の感じ本当そのまんまだな)



メイクは濃いし、物怖じとかしなさそうな偉そうな態度で、多分偏見だろうけどヤリマンな感じ


こういう子は、俺の人生には全く関わりがなさ過ぎた


出来るなら、一生縁のないままでも良かったくらいだ



「良かった。無事だったんだな?」



とはいえ、ここは異世界


理屈云々置いといて、無理にでも納得しないとこの先迷いすぎてしまうから、今はとにかく、目の前にいる同じ境遇の女の子とも協力しなくてはならないはずだった



「は?バカなの?無事なわけないに決まってんだろうが!ったく、はいはい馬鹿けってぇ〜マジうざい何なのこいつヤバイ!全く異世界とか意味わかんないし、いきなり変なのに襲われるしホントマジ超サイテー!」



カチンとくる言い様に眉毛につい力が入る


だがだが落ち着けこの子は年下の高校生


年上の俺が、こんな異世界で目くじらをたてる訳にはいくまい



「そうだよな…悪かった。あと他の2人は?近くにいるの?無事なのか?」


言うのと同時に、ギャルな彼女の後方にオドオドしたような…というか相当にビクビクしているショートヘアの巻き髪パーマな女の子と、じっと俺の様子を伺ってくる長いストレートヘアの女の子が見える



「あー…」



見ただけで察してしまうくらい好意的じゃないのが分かる


むしろ、ものすごい危険視されてるし



(というか、当然か…)



ただでさえ異世界に飛ばされて混乱してるのに、その上、突然濁流に襲われて怖くって、あまつさえ、目の前の俺は、冨田さんに穴だらけにされたはずなのに、こうして無事でいるのだから、それこそ化物としか思えまい


危険人物扱いされる方が自然だ


かといって、このままという訳にもいかないと、気力を振り絞って話し掛けてみる



「あの…」


「ひっ!」

「………」(ギロッ)



ちょっと話し掛けようとしただけで悲鳴と睨みってキツい


見ず知らずな人に、こうも明らさまに嫌われると、流石にズキッと心臓に来るものがあった(同時にちゃんと心臓が感情で反応しててちょっと安心もしたが…)


てか、悲鳴も嫌だけど、睨み付けてくる目がゴミを見る目に思えてすごく凹んでしまう


これでは、お互いの自己紹介すらまともにできない



パァーーン!!



「「「⁉︎⁉︎⁉︎」」」


不意に、背後から何かが弾ける音がして、3人揃ってビクーッ!としてしまう


驚いて振り向くと、そこには指をピストルの形にして固まっているギャルの姿


そして、そのギャルの正面には、ぽっかりと中央に穴の空いた木



「…で、出来た出来た!うわマジやばい!私超天才なんじゃね⁉︎」



自分の人差し指を眺めながら、自分を褒め称えるギャル


俺は、微妙にワナワナしながら、彼女が何をしたのか尋ねてみる



「ん?地力術、とか言うの?よく分かんないけど、それ」


「そんな事も無げに…」



だが事実、さっき俺が壊せなかった木の幹には、真ん中が丸くくり抜かれたように空洞が出来ていた


よりにもよって、同じ木にだ


ちょっと…いや、かなり悔しい…



「アンタ下手くそだね」


「うぐっ⁉︎」



ザクっと言葉が突き刺さる


女の子にそんな直球なことを言われると、すぐには立ち直れないダメージがある



(って、違うから!そんなことないから!)



今のは地力術のことだから!


だから、大丈夫!


大丈夫ったら大丈夫!


何が大丈夫なのか自分でも分からないけど大丈夫!



「そんなことより!」



「ん?どんなことより?」なんて聞いてくんなよ!もうそれはいいんだよ!


男の子はデリケートなんだよ!



「とにかく!なんで君が地力術を?」



冨田さんの話じゃ、キズを負わないと地力は得られないし、術のやり方だって…と思い、すぐに気付く



「…もしかして…傷ついたのか?」


「あ!そうそう!さっきさぁ〜っきゃっ!」


「どこを⁉︎傷にはなってないのか⁉︎大丈夫なのか⁉︎痛みは⁉︎」


彼女の腕を掴んで、見える範囲をくまなく見回す


だが、傷らしい傷はなく、それらしい跡もない


見た目は、全身綺麗なままだ


なら、まさか体の方に⁉︎



「痛いっ…痛いから!」


「あ…ごめん…」



訴えを聞いて力が緩み、掴んでいた腕を振り切られてしまう


だが、俺の気持ちは穏やかではなく、彼女の傷の方が気になって仕方ない


彼女が傷ついたとしたら、それは間違いなく暴れまくった俺のせいなのだから…



「だ、大丈夫だから。腕に木の枝当たって、傷は…思ったより深かったけど、すぐ治ったから…おかげで、その地力使って縄も切れたし…」


「そ、うか…」



なら、今は平気なのか…


この世界、本当に傷はすぐ治るんだな…


これも地力の影響ってことなんだろう


一応の安心はするが、でも、とも思う


だって、その治った傷は、俺のせいなのは変わらない…


勝手に癒えてしまうとしても、、俺が地力をコントロール出来なかったことで、彼女を傷つけてしまった事実に変わりはない



「でも、そうか…だから地力を…」



使い方は、冨田さんの話を彼女も聞いていたのだろう


それで、すぐに成功してしまうなんて、いわゆるセンスが本当に良いのかもしれない


他の2人の縄も彼女が切ってくれた(実践力えらい高いな)のだろうし、実は優しい子なんじゃないかとも思う



「…悪かった。ごめん、急に」


「ううん…だから、大丈夫」



腕をさすりながら、目を伏せる彼女


そこには、今までのギャルっぽさは見えず、どこかしおらしく見えた




ーーシギャァァァァァァっ!!




「⁉︎」

「な、なに⁉︎」

「いや!いやーーーっ!」

「何かの鳴き声なのこれ⁉︎」



甲高い何かの鳴き声にその場の4人が恐れ慄く


その声はかなり近く、僅かながら地面にも振動があり、しかも徐々に近づいてきているように感じられた



「まさか、モンスターなのか⁉︎」



それが、俺達初めてのモンスターとの遭遇だった


今回からモンスター登場で場面が変わり、第1章のクライマックスを迎えます。

ちなみに、ーーの後の声には、守部本人は気付かないまま誘導されています。

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