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化物でも勇者でもない!俺は、日本人だ!  作者: 平 一蹴
第1章 日本でも地球でもない
5/10

第5話 夢じゃない





その後も、クラスメイトの彼女を含めて合計7回分(私を加えれば8回になるのかな)の光が石の部屋に溢れた


殺される度殺される度、あの男の人2人は丁寧に床の血を掃除しながら、結果的に4人が選ばれたようだった


他の4人は、みんな殺された


男女関わらず、性質で判別されたみたいだった


一人はルックスで


一人は太り過ぎで


一人は年齢で


一人は偉そうな性格で


私はその様子を、体を震わせながらもずっと見つめていた


全員の死を心に留めていた



ただ、最後の男の人は、少し違っていた



あの人は、最初痩せ過ぎでいらないとされたはずだった


なのに、針の下から抜け出たと思ったら、まさかの反抗をして見せ、しかも、その結果なのか意識を失いながらも生存を勝ち得ていた



信じられなかった



だって、相手は武装している


そうでなくても意味不明で理解不能な状況のはず


なのに、選ばれた私達3人を見て、急に落ち着いたように何かの構えをとったのだ


結果的には、ものの数分でノックアウトされたけれど、私にはその姿が異様に見えた


他の3人が潰された時を全部眺めていたのに、彼については目を合わせることもできないくらいに恐ろしかった


自身の行動によって、より良い結果を紡ぐ彼に妬ましささえ感じてしまった


気に入らなかった


そして、同時に思う


あの人とは、私は絶対仲良くなれない、と







「ぷーっ!痛い痛い痛い痛い!こーんないったいおっさん初めて見た!かいじゅ?異世界?地球と違う?奴隷?あー痛い痛い痛い痛い!あんたさぁ、もうおっさんなんだからいい加減そういうのから卒業しなよ?流石に人生捨て過ぎでしょ?ぷーっ、マジやばいマジ笑える!マジやばいやばい!ぷーっ!」


私は冨田の端で聞いてしまえは痛々しいだけの言葉に、長々と嘲笑交じりに返答していた


自分の言葉でありながら、流石にこの言い回しはいい加減わざとらしいとも思うのだが、『今の私』であれば、こう返すのが当たり前だった


何故なら、今の私はギャル


実のところ、ここが地球でないどこかということは察しはついているし、どれ奴隷云々も本当のことだと確信している


でも、あのクラスメイトの彼女が死んだことで、もしかしたらこの世界であれば私でない私として存分に演じられる…


私をもう一度やり直せるんじゃないかと考えて、私はまず活発で、人の目を気にしない、空気も読みすぎない、頭もそんなに良くなさそうな、ちょっとギャルっぽい高校生として生きていこうと考えた


いつもの私でもカッコつけた私でも下に見られるかもしれない


だったらいっそ、私を誰も知らないこの世界でならいっそ、強気で頭の弱いギャルを演じながら、一方でちゃんと物事を考えていくのがいいんじゃないかと思えた


ギャルなら私の本質は隠せるし、こういうキャラにも実は興味あったし…


そして、多分これが、私の異世界での初めての一歩となる


そんな予感すら感じていた




少しだけ遡って、計4人が選ばれた後、私達は佐々木と冨田という日本人(多分この人達も、以前は私達と同じ立場だったに違いない)に、3人の両腕を1本の縄で繋がれて石の部屋から外に出された


空は暗く、今が夜だとわかる


明かりはまるでなく、頼りは前にいる佐々木の持っているカンテラだけ


頑丈そうな黒い扉の先には、一台の鉄格子の嵌められた馬車が停まっており、さらにその先には、深い森と舗装されていない道が続いている


ただ、馬車と言っても馬ではなく、木製だろう荷台に繋がれていたのは、よく漫画とかアニメに出てきそうなグリフォン…の羽がないような見た目の怪物だった


一緒に連れられてくる大人しそうな女の子(本当の私に近くて、正直嫌な気持ちになるんだけど…)なんかは、その羽なしグリフォンを見ただけで「ひぃ!」なんて分かりやすい悲鳴を上げている


この世界に来た当初は、この子ももう1人も慌てふためいて発狂をしていたが、冨田に背負われいる一時の反乱を企てた男の人が殴られて血まみれになったこともあって、今は大人しくなった風を装って、大人しく男2人の言う通りに行動していた



「おらよ!っと」



冨田が怪我人であることも気にしない様に、男の人を荷台の中へと投げ飛ばす


ドタン!と豪快な音がすると、私達も「入れ」と佐々木に槍で促され、表現するなら名称は獣車あたりかな?なんて当たりをつけた車へと乗り込んでいく


中に入ると血まみれの彼が、まさかもう死んでいるんじゃないか?と疑いたくなるくらいぐったりしていた


でも、ギリギリ息はあるようで小さくお腹が動いており、私達は、獣車の真ん中に寝そべる男の人を囲むように座っていく



「すぐ出発する。そのまま大人しくしていろ」



3人が座ると佐々木は淡々とそう言って入り口を閉めて外側から鍵をかけた


その様子に他の2人はがっくりと俯いて、歯をカタカタと鳴らしている


おそらくこれからどんな目に合うんだろう、と不安を募らせているに違いない



(でも…)



と、私は思う


この世界であれば、本当の意味で私じゃない私に成れるんじゃないか、という希望は、私の中で次第に膨らんでいて、今はもう、むしろ楽しみになってきていた


なのに…






この流れは予想外だった


私の長々としたわざとらしい嘲笑に腹を立てたのか、或いは同僚を貶されたことに怒ったのかは分からないが、猫背気味の男が私に向かって手をかざしてみせる


その仕草に何をする気なのか?と思うより前に、自分の体に異変が起きていることを理解した



(な、なにこれ⁉︎)



息ができない


宙に浮かんでいる


体は動かくのに、全く思い通りにならない


別に水中に沈められている訳でもないのに、呼吸の一切を封じられてしまっていた


肌に感じるのも普通の空気でしかないのに、得体の知れない何かに包まれている感触、物理法則を無視したみたいに足が地についていない



(こんなの!絶対普通じゃないっ!)



「これが地力。地面の地に力でちりょく。分かりやすく言えば魔法みたいなものだ。そして、地力はこの世界、海珠に入れば早かれ遅かれ誰もが身につく技術でもある。そして、こうやって人を簡単に殺せる力だ」



(ち、地力⁉︎殺せる⁉︎なんなのこれ⁉︎なんなんの⁉︎え…まさか私…このまま殺される⁉︎殺されちゃうの?こんなにあっさり⁉︎)



宙に浮いたまま手足をジタバタさせながらも、背筋には死の恐怖が貫いている


せっかく異世界に来たのに、結局あの女のようにすぐに死ぬのかと思ったら、どうしようもない悔しさに全身が襲われて、心の中に荒々しい激情が渦巻いた



(死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない!私は絶対に死なない‼︎まだ本当に本当の私に!強く生きられる私になってないのに死んでたまるもんですか‼︎)



「おい、それくらいにしとけアホ」


「ふんっ」



冨田が佐々木を窘めると、急に体が自由になって、私は音を立てて板の上に落ちる


そして、何度も何度もみっともなく咳き込み、死なずに済んだと至極普通に安堵した



なのに、次々と波乱は展開される



「がっ!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」



今の今まで微動だにしなかった彼が、唐突に絶叫し始める


しかも、体は僅かに発光しており、何故か両手の手のひらを横になったまま天井へと向けていた


ついつい異世界って本当に何でもありだ、なんで場違いなことを思ってしまう



「これやっべぇ!嬢ちゃん達伏せろ!そいつの手から地力が噴き出すぞ!」



その言葉に、冨田や佐々木を含め5人全員がそれぞれ慌てながらも頭を抱えてその場に伏せた


その直後、佐々木曰くの奴隷召喚時よりも遥かに強い光が放たれ、轟音と共に獣車の上半分を消し飛ばしてしまう


圧倒的だった


もう本当に人間の域を超えていた


他の子達は「きゃー!」なんて、実に女の子らしい声を出しているが、私には、その光の柱の方が魅力的に映ってしまう


同時に、さっき殺されかけた時の佐々木の言葉が正しいなら、誰もがこれに類する力を得られるらしいことが頭をよぎっていた



(私も、何をしてでも、必ず使えるようになってみせる…)



そうすれば、私は…もっと違う自分になれる気がする


異世界だろうがどこだろうが、私がもっともっと私らしく生きていけるようになるのだって夢じゃない…



「ったく、なぁおい、お嬢ちゃん達、無事か?」



少しぼーっとしていると、自分の身に降りかかった獣車の破片をどけながら、冨田は私達に聞いてきた


他の3人も問題ないようで、すぐに体を起こして周囲を伺っている



「おい…勘弁してくれ」



その声は佐々木だった


見れば、佐々木は空を見上げて呆然としている


そういえば、夜だったはずなのに、妙に明るくなっているのに気付いた


私達もつられて空を見上げる


するとそこには、暗い夜の真ん中に、白く輝く大きな太陽がぽっかりと浮かんでいた





次回、また要翔視点に戻ります。

それと、主人公がまだ全然目立ってないけど、守部要翔で、もりべかなと、って読みます。

一応念のため(汗)

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