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化物でも勇者でもない!俺は、日本人だ!  作者: 平 一蹴
第1章 日本でも地球でもない
4/10

第4話 私じゃない





私、清宮恵美はつまらない女だ


クラスでも地味で真面目で、これといった趣味も特技もなければ勉強も普通


毒にも薬にもならない学生A…といくうのも烏滸がましい、俯いた顔が似合う学生Fくらい


常に空気を読んで、目立たないように目立たないように心がけ、誰とも目が合わないように視線の先は足元が定位置


そんな暗いだけが取り柄みたいな人間が、清宮恵美の人物像だ



だからその分というか、私にはちょっとした秘密があった



端的に言えば変身願望


たまに1人繁華街なんかに出掛ける時は少し服装に力を入れてみる


普段はほとんどしないメイクをして、いつもは降ろしている髪をアップさせて、靴だってちょっと高めのヒールを履いて、普段とは全く違う自分として、いつもとは違う遠いところにある街を一人で歩いていた



片時の優越感



俯く自分じゃなく、背筋を伸ばす私


目線は足元じゃなく遠くを見て


そうやって1人で歩いていると、稀に声をかけられたりする


私はそんな浮ついた声を颯爽と振り切って(単に会話を切り返すことが出来ないのもあるけど)とりあえずの目的としてネットで探した流行りのお店を見て回る


別に買いたい物があるわけじゃない


食べたい物があるわけでもない


私はただ、いつもの私じゃない、少し恰好の良い私を楽しんでいたかった


本当の自分からすれば似合わないにもほどがある生活スタイル



誰かに合わせて

誰かの言うとおりにして

誰かに従って…



そんな自分ルールに縛られない私として、好きなことを好きなように、演じるままに私を装うのが私は好きだった



とはいえ、もし学校の誰かにでも見つかれば、間違いなく登校拒否に走るわけだが…



この私は私じゃない


だけど、いつもの私も私じゃない



私はそう思って、街を練り歩く


たまにでいいから、自分の好きな自分でいたいと思っていた


つまらない私を止めて、かっこいい私でいたかった



なのに…


生来の運の悪さまでは装えず


結局は、普段の学生Fから逃れられないことに気付かされる



その日、私は突然後ろから声を掛けられて、つい振り向いてしまった


そこには、高校のクラスメイト3人



「え?あんたまさか清宮?」


「へ?清宮って誰?」


「えー!嘘!本当に?あの真面目の?でもその恰好…えー…」



死にたくなった


消えてしまいたかった


学生Fを知る誰かに、この私を見られたくなかった


なんで会っちゃうの?とか、なんで気づいちゃうの?とか、見つからないようにかなり遠くに来てるのに今日に限って何で?とか、もう頭がぐちゃぐちゃだった


だから逃げた


何にも見ないように逃げた


俯いて

俯いて

俯いて

俯いて


恰好は違っても、いつもの私のように逃げた


靴は違うけど、見慣れた足元だけを見つめてとにかく逃げた






だから、これは…神様の用意してくれた運命なんだと思った






最初にあの石の部屋にいたのは私だった


気付くと私は、冷たい壁に寄りかかっていて、しかも何故か洋服が乱れていることに気付く


慌てて直すも、どうやら何かされた形跡はなく、多分寝ている間に服を引っ張られたようなことがあったらしいと推察した


私は、自分の部屋でも見知った場所でもないことに不安になってキョロキョロと辺りを見回してみる


すると、そこには鎧を着込み槍を持っている2人の男の人


最初はコスプレなのかな?なんて呑気なことを考えていたが、眺めているとどうにも剣呑な雰囲気に飲まれて、私は声が出せなくなってしまう


しかも、男の人の側には、見るからに危なそうな、赤黒い針が下を向いている金属製の大きな何か怖い物


私は自分の身に、そして周りで何が起こっているのか様子を見ることにした



少しすると、突然石の室内に光が溢れる


目を開けていられないほどの光


そんなファンタジーみたいな光景の中、私は恐怖から声を出さないように出さないように必死に歯を食いしばっていた


声を出したら殺されるという脅迫観念に満ちていた



「はぁ⁉︎え⁉︎ここどこよ⁉︎」



それは、私の声じゃない


私も勿論同じことを叫びたくもあったが、そんな馬鹿な余裕を持ち合わせていない


けれど、その女の子の声は、気のせいかどこかで聞いたことのある声だと思った


ようやく光が収まって、私はその声を方に目を凝らす



「っ!!」



さすがに少し声が漏れてしまった


それほどビックリした


だってそこには、例の針の下に横たわっている…さっき街で声をかけてきた1人であるクラスメイトの姿



「なに⁉︎嘘でしょ⁉︎なにこれ本当なにこれ⁉︎」



混乱している彼女


いつも通りにやかましい姿に、思わず私は手を握りしめてしまう


しかし、そんな彼女の言動を意にも介さず会話を続ける2人の男性


私は驚きの余り気が動転しかけるが、2人の男性のやり取りを一言も聞き逃さないようにじっと耳をそばだてる



「どうだ?」


「ダメだな。ルックス悪いし、ついでに性格も悪いそうだこりゃ」


「…了解」



そんな………………………………内容だった


すると、了解と答えた微妙に猫背な男の人は、壁に備え付けられているレバーのところに向かい、ガチャン、とそのレバーを下げる


何かの装置だろうそれは、金属のガチャガチャという煩い音を立てながら、例の大きな針の山を下へ下へと動かしていき…



「嘘!なにこれ!なんでこんな⁉︎何かの冗談なら止めてよ!ねぇ嘘でしょ!ねぇねぇねぇねぇ!嫌…嫌嫌嫌嫌いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやーーーーーーーーーー!!!」



「っ!!」



そこで、私は堪らず耳を塞いでしまう


聞きたくなかった

聞きたくなかった

聞きたくなかった

聞きたくなかった


これから起こることは私でも分かる


ここがどこなのか、とか関係ない


自分に何が起きたのか、なんて意味がない


だって単純な話だ


ここは、選定の場所


つまり、いらないものは廃棄される場所


必要とされる人だけが生きられる場所


生き死にが、性質により判別される場所


だから私は耳を塞ぐ


彼女には悪いけれど、私には何もできない


助けられる訳もないし、恐怖で体が震えて動けない


だから耳を塞ぐだけ


聞こえない

聞こえない

聞こえない

聞こえない

聞こえない

聞こえない

聞こえない

聞こえない

聞こえない…なのに、何故か視線は慌てふためき何とか針から抜け出そうと足掻く彼女から目を離せなかった


じっと見た


じっと眺めた


凝視した


目を逸らさなかった


最期まで見届けた


針が彼女の体を貫通した後も、大量の血が針の隙間から流れ出るところも全部、全部を注視した


最期の最期、気のせいかもしれないが、彼女は私を見ていた気がした


あの…


いつも私を馬鹿にしていた

いつも私を除け者にしていた

いつも私を嘲笑っていた

いつも私を下に見る不快な視線が…


私に助けを請うように、弱々しい涙まみれの瞳を私にぶつけていた


たすけてえみ、と唇が動いていたような気がしたけれど…ごめん無理












「バチが、当たったんだよ。バーカ…」



なんてことを独りごちながら…


私は、多分笑っていたんだと思う…





次回も引き続き恵美視点です。


どうだろ?ちゃんと黒いかな?

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