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化物でも勇者でもない!俺は、日本人だ!  作者: 平 一蹴
第1章 日本でも地球でもない
3/10

第3話 死んでない⁉︎




冷たくて、熱い…



そんな矛盾した感覚だった


なんとなく全身にある違和感


体の表面も体内にも何かが大量に入り込んでくる不快感と摩擦


まるで自分が作り替えられているような錯覚



(これが…死ぬってことなのか…?)



未知の感覚と暗闇に死を連想してしまうが、それにしては、意識というか考えがハッキリしている気がする


さっきヒゲに腹に風穴を開けられたのは覚えているし、自分がただの日本人大学生、守部要翔であることも自認できている


ついでに、女の子を助けようとして無力にも何もできなかった役立たずであることも、残念ながら忘れたくても忘れられていない



(あの女の子達、どうなるんだろう…)



ついつい考えが及ぶ


あのヒゲは奴隷とか何とか言っていた


ついでに、男はほとんどいらなそうな風だった



(ってことは、あれだよな…やっぱり…)



頭の中をぐにゃんぐにゃんした妄想が駆け回る


女の子プラス奴隷なんて言葉は、もうそれだけで堪らなく酷い


はっきり言って童貞大学生には毒でしかない


こんな状況で妄想よりに考えてしまうのもむなしいが、一方で、その可能性を無くすことができなかったのは、紛れもなく俺自身だったことに悔しさが募る



(力が、あれば…)



そうだ


あの場において、俺に力があれば、もっと強い力があって彼女らを助けることが出来たなら…



(馬鹿馬鹿しい…)



安易な考えを一蹴する


だって、そんな在り来たりで有り得ない夢物語が、一般大学生にあるわけがない


全ては、今まで十分な努力も才能も運も身につけて来なかった自分自身が悪いのだ



(真剣に、打ち込む…か…)



それはもういつのことになるだろう


自分は特別でありたいと願っていたあの頃


俺は、みんなの中心でありたくて、勉強にも空手にも熱心だった



文武両道



そんな理想論を親の受け売りのまま実現しようとして、俺はいつも我武者羅に、つまりは自己中心的に独善的に猛進していた


でも、すぐに気づくことになる



ーーあの馬鹿は、いつも何で偉そうなんだようぜぇ


ーーいっつも自分勝手で馬鹿みたいだよね


ーー誰があんな馬鹿の言うことなんて聞くかよ



彼らは、正しかった


俺が、馬鹿だった…



(要は、周りが見えていなかったんだ…)



自分が正しい


自分はすごい


自分は何でもできる


自分が決めなきゃ始まらない


周りはみんな頼りない馬鹿なんだから…



なんて…俺は馬鹿で阿保で分からず屋なガキだったんだろう…


何でもかんでも、自分1人でできるわけないのに、ちょっとばかり人より努力したつもりになってたからって良い気になって…


誰からも信用されず、勝手にリーダーを気取って…


だから、あんなことにまで…



(でも、それも終わりか)



だって死んだのだ


死んだら何にもならなければ、どんな未練も意味はない


結局のところ、俺は最初からその程度の馬鹿だったってだけの話なのだ


最期まで、独り善がりの人生で終わった


だだ、それだけのこと…



(親父、お袋…馬鹿な息子でごめんな…あと、名前も知らない女の子達も、助けられなくてすまなかった…)



もし、生まれ変わる機会があるなら、今度はちゃんと誰かを救える人間になろう


もっと周りを見て、困っている誰かを助けよう


そうすれば、両親にも少しは認められるかもしれない


周りの誰かから、1人でもいいから、認められる人間になれるかもしれない


1人ぼっちの人生で終わることもないのかもしれない






しかし…



(…てか、なんだ?俺はいつになれば死ぬんだ?)



てっきり死ぬっていうのは、きっちり意識も記憶も何もかも消え去るものだと思っていた


なのに、その気配はなくいつまでたっても思考が止まらない


我ながらいつも通りに羅列文が頭に溢れ出てきてしまっている


人間、死んでもそうそう変われない



(んー、ちょっと動いてみるとどうなるんだろう…)



淡い期待を込めて、手始めに右手の指先をグーパーしてみる



「あ!動いた!」

「え?」

「は?アンタ何言ってんの?」



(ん?誰かの声…なのか?)



しかも、なんか女の子3人の声に聞こえる


もしかしたら、さっきの女の子達なのだろうか?


だったら、俺はまだ生きていて無事に手は動いたってことになる


そう思って、今度は右腕を上げてみる


すると、上げた右手を急にぎゅっと掴まれて、気のせいか耳元で大声を出されている気までした



「ねぇ!起きて!お願い起きて!」

「うそうそうそうそ!怖い怖い怖い怖い!」

「やば!マジ動いてんじゃん!」



三者三様の反応


どうやら気のせいでもなく、本当に聞こえるらしい


というかいきなり姦しい


あと、2人目の子、怖い連発しすぎ



(とにかく…これはやっぱり、俺はまだ生きてるっとことなのか?)



未だに半信半疑だが、確かにこれだけ思考がはっきりしていて死んだも何もない


ただ、つい今まで自分が死亡決定と悟ったようなことを考えていたから、何となく恥ずかしさすら込み上げてきてしまう



(顔、赤くなってなきゃいいけど…)



とはいえ、生きているなら早く起きないと


この声の主が先程の女の子達なら、まだ彼女らを助けることができるかもしれない


少しくらいなら、自分に価値を見出せるかもしれない



(しかし、どうやれば目が覚めるんだ?)



意識だけあるが、別に意識して目を瞑っているつもりはない


周りの反応的に多分手は動いているわけだから目を開けることも出来そうなのに上手く開かないのはおかしい気がする


とりあえずまともな状態じゃないのは確かなのだろう



(…まさかもしかして脳に異常があるんじゃないだろうな)



腹に受けた強烈なダメージが脳にまで響いて、例えば脳出血でも起こしているとか…


それで、植物状態とか…


もしそうなら、覚醒は絶望的な気が…



(いやいやいや、簡単に決めつけるな)



悪い可能性に気持ちが焦ってしまうが、俺は医者でもなんでもない


安易な結論は出さない方がいいに決まってる



「…なんで起きないの?この手は偶然?」

「やっぱ死んでる?」

「実は嘘寝してんじゃないの?」



周りでは、女の子達が不安感や不信感を言葉にし始める


ちなみに、3番目の方、一番近い


ついでに、2番目は微妙に俺を死なせようとしていませんか?


すると、不意にガン!とどこかを金属が叩かれた響いた音と、同時に背中に微かな振動が走った



「うっせぇぞ女共!ピーチクパーチク騒いでんじゃねぇ!」



何だか気持ち古臭い言い回しで、男だろう声で怒号を上がった



「わざわざ何かしなくても、そのうち勝手に起きてくる。ここはそういう世界だ」



今度は、怒ってはいないが面倒そうな気怠げな男の声



(この声…さっきのヒゲとネコゼか)



だとすれば、やはり間違いなく俺は生きていて、この姦しい女の子達も声の主が、先程石造りの部屋にいた女の子達本人である確証も得られた



しかし…



「ああもう!さっきからおっさん達何わけわかんないこと言ってのよ!どうみてもコイツやばいじゃん!それが、勝手に起きるだのそういう世界だの意味わかんないしぃ!てか、どうでもいいからさっさと家に帰せよ!拉致とかマジ有り得ない!」


俺の言いたいことを見事代弁してくれる多分3番目の子グッジョブ


微妙に変なギャルっぽさがあるけど、この子とは仲良くできる気がする



「てか、コイツキモイマジキモイ!全身血まみれだし急に手動かすしどこのゾンビだって感じで超キモイ!」



…前言撤回


俺は絶対この子とは仲良くできない



「ったく、今回のは特にうっせぇな…」



舌打ちしながらボヤくヒゲ


見た目中年だったし、自分より若い子の相手は慣れていないのだろう(俺も慣れてないが…)


するとヒゲは、溜息を吐いてから、こんなことをのたまった



「いいか、ガキ共!聞く耳あんなら覚えとけ!この世界は海珠!地球とは違う異世界だ!で、お前らはこの後すぐ奴隷として売られる!わかったか⁉︎」



「…………」

「…………」

「…………」

(…………はぁ?)



多分今、変な空気が流れたことを、おそらく俺含め4人が共有したと思う


確かに違和感しかない状況ではあるし、俺も欠片くらいそんな馬鹿馬鹿しい思い込みがなかったとは言わない


けれど、かなりいい歳をした中年のおっさんから、まさかこんな厨二な発言を真面目な体で言われるとは思わなかった


端的に言ってしまえば、痛い


物凄く痛すぎて痛い


そんな痛々しくてむず痒くなる発言に、3番目のギャルっぽい子が分かりやすく吹き出して場の空気を証明してくれた



「ぷーっ!痛い痛い痛い痛い!こーんないったいおっさん初めて見た!かいじゅ?異世界?地球と違う?奴隷?あー痛い痛い痛い痛い!あんたさぁ、もうおっさんなんだからいい加減そういうのから卒業しなよ?流石に人生捨て過ぎでしょ?ぷーっ、マジやばいマジ笑える!マジやばいやばい!ぷーっ!」



物凄く馬鹿にした言い回しだ


わざとらしく、ぷーっなんて入れてくる辺り確信犯だろう


どうやら他の2人もほぼ同じ感想なようで、薄笑いらしい声を漏らしていた


ついでに、その冷めた笑いを見せる3人に対し、中年2人は溜息交じりに、ややダウナーな雰囲気になっているように感じられた



「はぁー…ったく毎度毎度、おめぇらの年代は、どうして人のカンに触る言い回しばっかりしやがんだ?最近の日本はどうなってんだ…?」


「諦めろ。ジェネレーションギャップってやつなんだろう。俺らもいい歳だしな。それにお前さんも毎回丁寧に教えてやらんでもいいだろうに」


「うっせぇ!こいつらがやかましすぎんだよ!事実を教えてやりゃちったぁ黙るかもしれんだろうが」


「はいはい。なら、もっと分かりやすくすればいい。こんな風に」



ネコゼは言葉を言い終えると、不意に俺の側を風、のような得体の知れない何かが通り過ぎた感触があった



「「え?」」



これは、1番目と2番目の反応


しかし、何故か3番目の声はなく、笑いさえあった場に妙にシンとしたピリッとした空気が流れている



「これが地力。地面の地に力でちりょく。分かりやすく言えば魔法みたいなものだ。そして、地力はこの世界、海珠に入れば早かれ遅かれ誰もが身につく技術でもある。そして、こうやって簡単に人を殺せる力だ」



淡々とした説明口調なネコゼ


何が起こっているのか分からないが、多分あの3番目の子が、何か本当にやばいことになっている


他の2人も「何これ…宙に浮いてる…?」「嘘嘘嘘嘘!」と、自分の目に映る光景が信じられないような口調に思えた



「おい、それくらいにしとけアホ」


「ふんっ」



ネコゼがヒゲに窘められると、何かが倒れこんだみたいなバタンという音がする


それと同時に「ぶはっ!!ゲホっ!ゲホゲホゲホっ!ゲッホゲッホ!」なんて、3番目だろう子が、まるで今まで息ができていなかったみたい激しく咳を連発させていた



「これで少しは分かったろ。これでもマジックとかタネがあるとか言うなら知らん。どうせお前らをすぐに奴隷商会に引き渡すんだ。だから正直、俺としてはお前らとは一言も話たくなんてない。だがこの冨田は変な風に優しくてな。毎回お前らみたいな何も分かってない召喚奴隷に一々丁寧に教えてやってるんだ。あー、あとそこの男のことは気にするな。見た目重症だがすぐ目を覚ます。傷も治る。この世界じゃ死んでなければ死なない。放っとけ」



と、やたら長い説明の後、ネコゼはふぅ…っと溜息と共に呼吸して息を整える


対して、俺ら4人の方は咳き込んでいる3番目以外黙り込んでしまっていた


漂う空気的には、未だ理解は追いついていない


仮に、今のが正しい言い分としても何ら証拠らしい証拠もないのだ


が、そこで…




ズキン!




唐突に、ミシッと俺の頭に激痛が走った


例えるなら頭の中に無理やりウネウネ動く生き物を突っ込まれているような痛みと不快感



(な、なんだ?急に頭…が⁉︎)



やばいやばいやばいやばい!


ドンドン痛みが、強く⁉︎



「がっ!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」



言葉を発するつもりなんてなかったのに、いきなりずっと出せなかった声が出る


でもそれは、俺の人生で一度だって出したことのない絶叫



「何何今度は何⁉︎」

「もうイヤーーーーっ!おウチ帰してよーっ!!イヤっイヤーーっもうイヤーーっ!」

「ゲッホゲホ!はぁ?何なゲッホ!何なのよもぉー⁉︎ゲホ!」

「おいおいおいおい!なんだおい!」

「今回のはなんだ?厄日か今日は…」



そんな狂ったような叫びに周りの全員が騒めいていく


俺自身も、あまりの激痛にどんどん余裕がなくなっ⁉︎って⁉︎



痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い割れる割れる割れる割れるウネウネ動くな痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い何だこれ何だこれ何だこれ何だこれ痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!頭の中には入らない圧迫されてる何かが脳みそを押し込めてる出さないと出さないと出さないと出さないと出さないと出さないと出さないと出さないと出さないと出さないと出さないと出さないと出さないと何とかして出さないと!どこから出せるどこから出せるどこから出せるどこから出せるどこから出せるどこから出せるどこから出せる手手手手手手手手手手手手手手手手手だ手でいい手でいい手でいい手でいい!



「これやっべぇ!おい嬢ちゃん達伏せろ!そいつの手からデカい地力が噴き出すぞ!」

「え?は?えっ?」

「いいからおウチ帰してーーーーーーー!」

「何よ何よ何なのよもぉーーー!」



うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい痛いんだ痛いんだ痛いんだ痛いんだ頭が狂いそうに痛いんだ出ろ出ろ出ろ出ろ出ろ出ろ出ろ出ろ出ろ出ろ出ろ出ろ出ろ出ろ出ろ俺の頭から出て行けーーーーーーーーーーーーーーーー!!!





「うぐあ゛ぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」



次回、女の子視点に変わります

ついでに、尻切れとんぼな終わり方すみません!

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