5. 発進
天井から床までびっしりと詰まった航法装置や通信装置や計器に青い光が灯った。
正面の窓から、地球軍本部基地軍港に設置された第三発射台が望めた。
艦橋内では、船体状況や宇宙へ出立するにあたって操作しなければならない事柄を、常勤のクルー達が次々と片付けていた。
艦橋の正面の窓と向かって右側には、操艦士の座る席が設けられていた。左側には通信士の席があった。今、操艦席に座っているのは見ない顔だったが、通信席に腰掛けているクルーは見覚えがあった。赤い髪を二つのおさげに束ねた眼鏡の女クルーだ。
「地球軍本部基地管制塔より、軍港の発進準備が整ったと知らせてきています」
その赤毛おさげの赤毛眼鏡っ子が耳につけたインカムに指を触れながら伝えてきた。
「シバウス艦長、発進の許可をお願いします」
艦橋中央に据えられた席の上で、シュンサクはごそごそと姿勢を正した。その席は「艦長席」と呼ばれる艦内一神聖な場所だった。
あなた方の軍艦のマザーコンピューターのセキュリティシステムは、壊れていますよ。
艦長席で、シュンサクはこの言葉を幾度となく口にしかけた。しかし、そんなことをすれば、たちまちヒコボシのクルーに侵入者として殺されてしまう。そこで、遂には次の台詞を発していた。
「ヒコボシ、発進」
シュンサクの命令に合わせて、操艦席に座っていたクルーが操縦桿を傾けた。
第二層の機関室でGエンジンが稼動した。そこで生まれたエネルギーが船体全体に行き渡った。
ヒコボシは第三発射台上を約二〇万キロメートル毎秒の速さで滑り、発射ポイントに到達するや、青空の彼方へ飛び立っていった。