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~プロローグ~
シュンサク・マナベ、二十六歳は、アオイTOYという大手おもちゃメーカーの平社員だ。
勤続六年になるが、企画した作品が職場で商品化されたことは一度もなかった。
業績を残さず、昇進するわけでもなく、うだつの上がらない毎日を一生過ごすものと本人も周囲の者達も信じて疑わなかった。
なのに、どうしてこんなことになってしまったのか。
今日は土曜日で会社は休日だ。普段なら今頃は自宅で惰眠を貪っている頃だ。
しかし、現在、シュンサクは地球軍に所属する宇宙戦闘用駆逐艦ヒコボシの艦橋内にいた。壁のいたるところで何らかの計器や装置が群れを成している景色が目の前にあった。その中で、軍服に身を包んだ乗組員達が、せっせと仕事をこなしていた。
スイッチがぎっしり埋まっている制御盤前から、赤毛をおさげに束ねた女通信士がこちらを窺ってきていた。彼女は冗談でもなく、疑うでもなく、一サラリーマンに過ぎないシュンサクに告げてきた。
「シバウス艦長、発進の許可をお願いします」
念のためにもう一度断っておこう。
彼はシュンサク・マナベ。おもちゃメーカーの平社員だ。