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5 「こちらこそ、ありがとう」

 

「はぁ……。ここならもう追ってこないだろう」


 今、僕たちは、町から道なりにある程度離れた木の下で休息をとっている。あの後、なんとか、この子の不思議な力も借りて脱出することができたが、もう足がパンパンだ。この先は峠のようで、少し上りになっているためなおさらである。

 あたりはだんだんと暗くなってきている。周りに木がたくさん生えているのも、それを助けているのかもしれない。今日はこのあともう少し歩いてから、そこで野宿をしようということになった。

 それにしても、間違いない。

 金髪で青い瞳。少しこけたあどけない顔。汚れたローブ。何から何まで同じだった。こう改めて見ると……大体小学校2、3年くらいに見える。yes!


「あの、もしかして……君はあの時の」


 一応確認してみる。


「そう。あのときの」


 案の定、幼女は笑顔で肯定した。声ももうか細くはなく、小さい子特有の丸みを帯びた声だ。かわええのう。


「あの時って、ムッツリと一回会ってるってこと?」


 対して、はっきり口調の久子が聞く。そうだ、まだ言ってなかったっけ。

 ふっふーん。知らないよな〜。僕がもうすでに、この子の好感度を上昇させていることを!


「そう。むっつりがさんどいっちをくれた」

「僕はムッツリじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


そして満面の笑みで言うセリフじゃねぇぇぇぇ!


「ブフッ……ハハハハハ! あーっハハハ! ま、まさか、人にムッツリと呼ばせているなんて! し、しかもこんな女の子に! ひ! ひひひひひ……!」


 久子大爆笑だった。ひどいよね。というかたぶんお前がムッツリって呼んだせいだ。


「あなたは、むっつりではない?」

「当ったり前だろぉぉぉぉぉぉぉ!」


 そんな純粋な瞳で聞き直さなくてもいいんだよぉぉぉぉ!


「いや。ムッツリであってるわよ……ふひっ」

「違う! 違うって!」

「そう。わかった。わたしにたべものをくれたのは、むっつり」

「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!」


 そういうルックスでそんなセリフ言ったら、新たな犯罪の予感がするぅぅぅぅ!


「落ち着きなさいよムッツリ。あなたがサンドイッチをあげたとかは知らないけど、この子は私たちを助けてくれたんだから。ね? ムッツリ?」

「くっ……」


 こいつ、このままムッツリで押し通すつもりだ。しかも眉毛上がりすぎで気持ち悪いし。……地球に帰ったら、仕返ししてやろう。


「あなたは?」


 幼女が今度は久子に聞く。

 あ、やっぱり今仕返ししよう。


「久子・オブ・ザ・デッドだよ」

「ながい。ひさこにする」

「うん! 私は久子よ」


 ……くそ。負けた。


「ひさこは、むっつりのともだち?」

「え? いや、ただ同じ世界の人種なだけよ」


 おい。

 さっきの感動的なセリフはどこ行ったんだよ? というかその言い方だと知り合い以下だろ。


「そう。でも、なかがよさそうだからともだちかとおもった」

「べ、別に友達なんかじゃないんだからね!」

 いやなんか急にアニメ声だし、テンプレ。テンプレだよそれ。なんもうれしくねえ。


「ともだち、じゃない?」


 幼女は首を傾げた。


「……ああ。まだ日本語のニュアンスがあんまりなのね? ええと、これは、表面では友達じゃないと言っているけれど、心の中では実は友達って言ってる感じ」

「ハッ」


 ざまあみろ。幼女にツンデレの本質を教えているというのも、なかなかの恥だからな! はっはっは!


「にやけんなよムッツリ。言っとくけど私は、日本語の奥深さについて説明してるだけだから」


 なんだよ。そんな勝ち誇ったように言わなくてもいいんだよ。……こういうところ、勘がさえやがる。


「?」


 しかし、そんな熱弁も、幼女にはちんぷんかんぷんだったようだ。今も、首をかしげたままである。

 そして、こう言った。


「にほんご?」

「え? ……知らないの?」


 あ。そうだ。

 そういえば、僕は何でおかしいと思わなかったのだろう。

 この子、日本語なんて話してなかったよな?


「久子。たぶんこの子地球人じゃないよ」

「うそ、でも――」

「僕が前会ったときは、日本語なんて話していなかった」

「……じゃあなんで?」

「とにかく聞いてみるよ――君、名前はなんていうの?」

「ろーらん」


 えっなにそれかわいい。


「にやけないでさっさと聞く!」


 久子が頭を叩いた。かわいくねえ。


「どうして、ローランは、日本語――じゃないや。どうして僕たちと話せるの?」


 対するローランの答えは、単純なものだった。


「はなしたいとおもったから」

「「え?」」


 なんだそれ。

 ということは、何かしらの力を持っているのか?


「あ」


 と手を打ったのは久子。


「そういえばこ、この子、空を飛んでたじゃない! どうしてその時におかしいって思わなかったのかしら!」


 高い声で目を見開きながら言う久子にはとても迫力があったが、言われてみればそうだった気が。

 だめだな〜僕たち。どんだけ気が動転していたんだろう。

 ……いや、違う。


「久子のムッツリトークでおかしくなったんだよ!」


 そうだ。久子が僕をムッツリと呼んだことから始まったんだ。


「……まあ、否定はしないでおくわ」

「それも――」


 もごもごと久子が言った後、ふいにローランが口を開いた。


「――とびたいっておもったから。あと、あのひとたちがたおれたのも、むっつりたちをたすけたいっておもったから」

「ブフッ。ムッツリ」


 ほら。お前のせいで真面目な話が台無しだ。


「どうしたの? むっつり?」


 顔に出ていたのだろうか、ローランが心配そうに僕を見る。

 かわいい。

 かわいいから久子も許す! ほかの質問もしちゃう!


「いや。なんでもないよ。ところで、ローランはどこで生まれたかわかる?」

「……とおくのばしょ」


 遠くの場所?


「どんなところなの?」


 今度は久子が。


「あのまちに、にているところ」


 なるほど。平民の生まれってやつか。……平民どいう概念があるかもわからないけど。


「へぇ〜。じゃあ、なんでここに来たんだい?」

「…………」


 あれ。黙っちゃった。


「どうしたの? 何か悪いこと聞いちゃったかな?」

「……ぐすっ。うう……」


 え? 泣いてる?


「うわ、女泣かし! 最低! ムッツリ!」

「うるさい、ちょっと待て! ……だ、だいじょうぶ? ごめんね? よーしよし!」


 そのまま、五分ぐらいが経過。僕は一人なくローランの背中を撫で続けた。別にやましい気持ちなんてこれっぽっちもない。


「みんなが、わたしをさけるから」


 突然、ローランが言った。

 ここで、誤解を晴らしておきたい。僕は、あの質問でローランを泣かせたにもかかわらず、泣き止んでからもう一度同じ質問をしたわけではないということを、重ね重ね言っておきたい。

 とにかく、ローランは泣きそうな声でこう話した。

 しかし、そこで「なんで?」と聞き返すことができる非常識さはいくらなんでも持ち合わせてはいない。


「むっつりとひさこは……」


 黙っていると、再びローランが口を開いた。


「むっつりとひさこは、わたしのこと、こわい?」


 僕たちを見つめるローラン。その潤んだ目からは、深い悲しみのようなものも感じられる。


「そ、そんなことないって!」

「そうよ。助けてもらったのに、怖いなんて思わないわよ!」


 僕もは久子も必死にそのことを否定した。


「……なかには、かんしゃしてくれるひともいた。でも、そのひとたちも、だんだんわたしをさけていった」


 しかしローランも、すぐに僕たちの否定を受け入れるわけではなかった。


「「…………」」


 ローランに、表情はない。サンドイッチを渡した時の笑顔と比べれば、大違いだ。


「どうして、なのかな? どうして、みんなわたしとともだちになってくれないのかな? どうして? ねえ、どうして? ……どうして――」


 その時。

 急に僕たちの前に、大勢の人が現れた。周りの景色も、街中の風景に変わっている……そして、その人々は何かに恐れおののいている――いや、これは僕を恐れているのか?


「え? なにこれ?」


 訳が分からない。僕たちはローランと話を――


「キャ――――!」


 女性の悲鳴。かなり鬼気迫っている。

 どういうことだ? 何が起こっているんだ?


「uooooooooooooo!」


 混乱していると突然、ガタイのいい男が雄叫びをあげて襲ってきた。やばい! 逃げ――


「ooooo…………」


 ――る前に男は倒れてしまう。というか、逃げようにも体が動かせない。


「……そうか、これは」


 自分でも今更だったようにも思うが、気づいた。

 おそらく、これはローランの過去だ。記憶の中にある、ローランの視界だ。


「ひどい、な」


 こうしている間にも、あらゆる人が、物を投げたり襲ってきたり。みんな、すごい表情だ。もう、ニンゲンってこんな顔ができるのかって程の。僕にしてみたら、一生ものだ。


「あっ……」


 刹那。景色が変わった。

 今度は、森の中。

 視界には、子供がいた。一緒に遊んででもいるのだろうか。


「あはははは!」


 その子供が、笑いながら前へと走っていき、楽しそうに振り向く。ローランよりも少し幼いくらいだろうか。

 ローラン自身も、その子を追いかけているのだろう、その子との距離がどんどん小さくなっていく。


 だが、近づいてくるその子の表情は、たちまち恐怖に染まった。


「グルオオオオオオ!」


 低い鳴き声。

 ローランが振り向くと、そこには、クマのような黒い巨大な生物が、口を大きく開けて迫っていた。

 とっさに手を前に出す。すると、たちまちその生き物は力なく倒れこんで、動かなくなった。

 再びローランは振り向いて、目を見開いた子供に近づいた。

 ゆっくりと。心配するように。

 しかし、子供は目を見開いたままだった。

 そして、その顔は、徐々に別の方向にゆがんでいき。

 歪んでいき。


「……う……うう、うわあああああああん!」


 大きな声で、泣いた。

 どうして。

 もう、大丈夫なのに。

 おそらくそんなことを思っていたのだろう。ローランは、子供の肩に手を触れようとその手を伸ばした。

 しかし、そのチカラを持った手は、恐れられるには十分だった。そして、子供は一目散に逃げ出した。


「ローラン……」


 そうだよな。辛かったよな。

 僕なんかより、比べ物にならないほど辛かったよな。

 たった一度だけ裏切られたと感じただけで泣いた僕がバカみたいだ。

 また、景色が移り変わる。今度はなんだろう。


「あれ、これって……」


 移り変わったところは狭い路地。目の前には白っぽいレンガの壁。まさに、僕が初めて寄った町にそっくりだ。

 しばらくすると、一人の少年が――


「どうしたの?」


 ――って僕じゃん!

 視界には、鏡で見たような自分の姿が移っている。


「どうした? 悲しいのか?」


 なんか恥ずかしい。僕ってこんな顔してたんだ。

 やべえ。めっちゃニヤニヤしてんじゃん。

 これはムッツリだ。うん。これはムッツリ。間違いない。


「わかったよ。半分……じゃなくてゼェェンブあげる!」

 ほら、この「ゼェェンブあげる!」ってところとか、もうアウトだし。

 ……あれ?

 でもこれ、なんか今までと違くないか?

 そうだ。映像からして、今までは悲しいエピソードの流れだったはずだ。じゃあ、なぜ今度はサンドイッチの件が流れているのか。もしや、僕にサンドイッチを渡されたことが悲しいエピソードなのか! ……いや、違う違う。だってあんな笑顔だったのに悲しいわけがないじゃないか。そうだ、絶対そうだ。うん。顔のキモさはあるにしてもだ! あれはうれしいエピソードに違いない!

 じゃあ、なんで。どうして急にここに来てしまったんだろう。

 元の地球に帰れる……は違うか。ローランの過去のエピソードなんて関係ないし。

 僕のチカラが目覚めた……も違うか。うん。違います。


 やっぱり、ローランの能力だろう。

 えっとたしか、ローランは自分の希望をもとにチカラを発揮するんだったよな。じゃあ、何の希望だ?

『友達になりたい』か? ……いや、それだったら、過去なんて関係ない。ここまで旅をしてきて今更だし、現在の希望ではない。じゃあ『僕、むっつりと友達になりたい』か? ……いや、それだったら、わざわざこんな過去を見せなくても――

 待てよ。

 行動だ。行動を見るんだ。

 まず最初の場面。あれほど拒絶されていたのに、どうしてローランはすぐに旅立たなかったのだろうか。きっと、何か、あきらめきれない希望があったんだ。

 次の場面。あの、子供に近寄って手を差し出した、あの時。「もう大丈夫だよ」以外にも、何か、ローラン自身の思いが――そうだ、ローランは、自分のチカラを見られた後に、その行為をしたんだ! ……あれ? じゃあなんだ?

 くそ! あともう少しなのに!

 次だ! あの、僕との出会いの場面。これは、ほかのとは違って、チカラも使ってないし、怖がられてもいない。ということは、『チカラをなくしたい』ではないだろうし――


「――そうだ!」


 ひらめいた。もう、これに違いない。

 僕は、日本語を使っていた。これは、あの時のローランにとっては、まったく知らない言語だったはずだ。そして、別れるときに、マジカ――疑問をあらわす言葉を叫んだ。その疑問は、何だったのか。このことと、今までの場面をあわせて考えれば、わかることだった。



「むっつり?」


 意識が戻ると、ローランが、またもや心配そうに僕を見ていた。


「え……なに、これ」


 久子は、まだ驚いている。どうやら、僕とおんなじ状態だったようだ。


「久子」


 だから、僕は久子に、ひそひそ声で手短に考えを説明した。


(なるほど。わかったわ)


 聞くと、久子は、すぐに心得顔になった。さすがに、ここでは反抗しないよな。


「?」


 ローランは不思議そうに首をかしげている。おそらく、無意識に願ってしまっていたんだろう。


「あのね、ローラン」


 だから、僕はその無意識を、その希望を形にしたい。そう思った。



「僕たちだって、ローランと同じなんだ」



 僕が思う、ローランの希望。

 それは、『私を分かってほしい』それでほとんど間違いないだろう。

 どれだけ恐れられても、物を投げられても逃げなかったのは、私は敵ではないという気持ちを、わかってほしかったから。

 女の子に手を差し伸べたのは、自分の力を理解してほしかったから。

 そして、僕の時は、言葉は通じないけど、友達になりたいという気持ちを分かってほしかったから。

 僕たちをあんな空間に移動させたのは、おそらく、この答えを実感させるためだったんだと思う。


「おなじ? どうして?」


 ローランが不思議そうに聞き返す。

 同じ、というには程度に差がありすぎるかもしれない。

 だけど、同じ気持ちを味わっていないわけでもない。


「僕たちも、みんなから友達だと思われていないってこと。……久子以外には」

「……何よ」


 久子がボソッと言った。


「そうなの。それは、かなしい」

「いいや」


 違う。違うんだよ、ローラン。

 僕はしゃがんで、ローランに目線を合わせ、語りかける。


「いま、僕たちとローランは友達になったんだから、もう悲しくない。それに、ローランのことを怖いなんて思わない」

「むっつり……」


『ユー!』


 感動的になっていたその時。突然、木の陰から囚人が襲ってきた。こんなところまで!


「やばっ―――」


 幸い体力も少しは回復している。ローランを抱いて逃げ――


 バタッ。


「……あ」


 そうだ、逃げなくてもよかったのか。

 囚人は倒れていた。

 ローランが開いた手を前に出すだけで、倒れてしまったのだった。


「ありがとう」


 そうだ。

 僕たちは、まず初めに言うべきことがあったじゃないか。

「君はあの時の!」なんかよりも、もっと言うべきことがあったじゃないか。


「本当に……本当にありがとう!」


 自分は助かった。そう、落ち着いて実感した。

 僕は泣きながらローランに抱き着いた。

 ああ、きょう何回泣くんだろう。

 

「そうだ、ごめんね、まだ言ってなかったわね……ありがとう。ローラン!」

 久子も僕と同じだったようで、同じようにローランに抱き着いた。


「こちらこそ、ありがとう」


ローランはあの時と同じように笑っていた。






「というか、ムッツリの顔キモかったわよ」


「それを言うな!」

「けんか、よくない」

「「かわいいからやめる!」」



というわけで第五話、「こちらこそ、ありがとう」でした!

少し、一区切りついた感じです。

これからも、この三人がメインパーティーになると思います。



というか、幼女って何歳までですかね?ビミョーです。

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