Chapter1-2 夜の会話2
そう、久子が言ったから。
ローランは確かにそういった。
「おい、メガネ」
「ひゃい!?」
その場から逃れようとしていた久子が、びくっと肩を震わせる。
「あのさ。僕、本気で怒るよ? ローランがいるとか関係なく」
「いや、その……。私も、ここまでうまくいくとは思っていなくて。それで、楽しんじゃってたら、こんなことに……。まさか、ローランの中の一般常識に『ムッツリが全部悪い』が加えられているとまでは、私も予想外というかなんというか……」
両手の手のひらを振りながら、一生懸命に話す久子。
……あれ、なんか見ていて楽しいかも。
「じゃあさ、今までのさまざまな僕に対する愚行について、あやまってくれないかなぁ? うん。それがいいとおもうんだぁ、わたしゃ」
「くっ……」
僕の言葉に、久子の顔がゆがむ。
ああ、その苦悶に満ちた表情……カイ☆カン!
ヒャヒャヒャヒャヒャ! やっぱり上の立場は最高だ! なんか変なテンションになっちゃってるけど、まあ、新キャラってことで。そうだな……名前は『すべての上に立つ者田中卓郎』でどうだろう? うん。完璧だぁ!
「ほーらほらほらほら! さっさとその頭を地面につけろってんだ!」
「……絶対にいやだわ」
「ふーん。ふーん。あっそうですか〜。だめだな〜も〜。……わーったよ。じゃあ、その時の出来事について話してから、ローランの誤解を解く。お前の弱さに免じて、これで許してやるよ」
「……わかったわ」
ふう。ようやくこれで、ローランからうれしい言葉を遠慮なく聞くことができるってことよ。たとえば、殴られても「おもしろい」とは言われない。これ一番のポイントね。
「じゃあ話すけど。結構前に、ムッツリをこうやって――」
「あべばっ!?」
「――気絶させた時があったじゃない?」
「……(ぴくぴく)」
こ、こいつ……。鬼だ……。
「おもしろい♪」
ああ、ローラン。それ、一番傷つく……。
だめだ……いしき、が……。
―――――――――――――――――――――
……ふう。調子に乗りやがって。屈辱だったわ……。
思えば、この気絶パンチもいろんなところで使用してきたわね。最初の失敗が初々しいくらいだわ。
というわけで、地の文担当変わりまして、浜野久子がお送りします。
まあ、聞きたい人もいるでしょうから、ムッツリのお願いの前半はは聞いてあげることにしましょう。ローランの誤解はまだ解かないわよ♪
あ、言っとくけど、好感度なんて気にしてないから。うん。ムッツリを貶めてこその私だと思ってるから。そこはこれからもどうぞよろしくって感じで。ちなみに、さっきの『一般常識にムッツリが全部悪いが加えられている』のは予想外ではありませ~ん。すべて作戦です!
ではでは話しましょう。『リズムネタ編』の後の出来事です。
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「ねえ、ローラン」
ムッツリが気絶してくれたので、私は、前から考えていたローランの調教を行うことにした。なんの調教かといえば……まあ、ムッツリの困り具合を観察するための調教かな。
正直、あんなにいじっていて楽しい人なんて見たことないし、もっともっといじりたい。というか、私自身、地球では優等生キャラになっちゃってるから、人をいじること自体少なかった。だから、長年自分を抑えてきた分、かなりはっちゃけてしまっている。
じゃあ、なぜローランの力を借りるかってことだけど……まあ、その方が楽しいじゃんって感じ。じゃんけんの時もそうだったけど、ムッツリのローラン好き度は半端なかったから、じゃあ、ムッツリがローランに嫌われたらどうか? って考えたらもうがまんできなかった。
実際、その予兆はかなり感じることができた。というのも、私が仕組んだ『ローラングー作戦』がかなり成功したのもある。この際だから作戦の種をバラすけど、実は私、ムッツリが叫んでいるときに、ローランに「何を言われても絶対にグーを出して」といったのよね。だから、私が「ローランパー出すから」って言ったらローランもあんな風に返答したし。一応、ローランが本当にパーを出さないために、ムッツリがキスか好感度かを迷っているときにも「グー出してね」って小声で言っておいたってわけ。そしたら、ムッツリがキスを選びやがるっての!
これでもう、ムッツリの中に『ローランは純粋ではない』という危機感は芽生えたでしょうね。一発ギャグはシラけたけど、これからのいじりに可能性は感じることはできたわ。
あと、この国のメインストリートに入った時に――別に私が指示したわけじゃないんだけど――ローランが『ひさこがいうなら』って言った時とかは、ムッツリが動揺しているのがまるわかりだったのよね。日本語の難しさってやつ? あんなこと言われたら、誰でも(自分はどうなの?)ってなるわよ。
というかその時の焦り具合が面白すぎ。
無理して話題について来ようとしているところとか。さすが、中学でもいじられていただけあるわ。
――そして今、ローラン調教の下準備は完成した。
ムッツリの顔面に、痛さを重視しただけの裏拳を決めた時に、ローランに素早く「面白いと言って」と伝えたところ、ちょうどいいタイミングで「でも、おもしろい」が発動! そしてそのまま『浜野流・記憶抹殺術』を打ち付けることで、最悪の状態で意識を失わせることに成功した。
私が「ねえ、ローラン」と言ったのは、そこから本番に入るためなのだ!
「なぁに?」
フフフ……。まだまだ空気もノリもわからない、純粋なかわいいローランちゃんに調教。……あ、私BL以外は興味ないから、そこはよろしくってことで。
「私が何でムッツリを殴った後に『面白いと言って』って言ったかわかる?」
「……わからない」
そりゃそうだわ。
まあ、これから植えつけますよーっと。
「実はね、ムッツリは、誰かに殴られたときに面白いって言われるのが好きなの」
そう! これぞ、いじられキャラの生き様! これ以上にいじられキャラというものを表す言葉はおそらくない!
「……そうなの?」
「そう。だから、ムッツリが殴られたときは、ちゃんと面白いって言ってあげてね!」
「……うん。わかった」
ふっふっふ……。第一段階は成功。
「あとねぇ、ろぉら〜ん……」
そしてすぐさま、私は次のフェイズに移るために、わざと声のトーンを落とし、悲しさを演出する。
あ〜、楽しすぎる。
「ひさこ、どうしたの?」
「本当にごめんなさい!」
「どうしてあやまるの? なにかわるいことしたの?」
はいはいはーい♪ 予想通りの返答。
☆幼女対策その一! 『とにかく演技しろ!』
純粋な心は、時に悪い方向に働くのね〜。うん。だから誘拐とかされちゃう。幼女は、悪い人に話しかけられてもついて行っちゃいけませんよ〜!
「そうなのぉ。実は、ローランにず〜っと隠していたことがあるの。もしよかったら、聞いてくれないかなぁ〜? シクシクぅ〜」
「だいじょうぶ。わたしも、じぶんのちからをひとにかくしてる。だから、おなじ」
おお〜。いい返答。
ムッツリがローランをあんなにも愛する理由がわかるな〜。うん。私も大好きだけど。
まあ、だからって躊躇はしないけどね♪
「実は、ムッツリの性格は悪かったの! 本当にごめんなさい!」
「……むっつりは、せいかくがわるい?」
「うん。ムッツリは性格が悪いの!」
「どうして?」
「とにかく、悪かったの! だからね、私は悪くなくて、ムッツリは悪いの! 今まで黙ってて本当にごめんなさい!」
☆幼女対策その二! 『嘘も方便!』
これは、親でさえも子供によく使う方法よね。ピーマン食べないと死ぬのはもちろん嘘。全国の幼女さんたちは騙されないように気をつけて〜!
☆幼女対策その三! 『とにかく事実だけを伝えろ!』
具体的なことなんて気にしないで! 良いものは良くて、悪いものは悪いんだから。とにかく伝えたいことだけを伝えるのよ! これぞフィーリングぅー!
「ひさこはわるくなくて、むっつりがわるい?」
「そうそう! その通り!」
「……わかった。ひさこはえらい。かくしてること、はなした」
「ククッ……あ、ありがとう」
おーっと危ない。思わず笑ってしまったわ。
幼女対策その四に『最後まで気を抜くな!』があるのを忘れてた。
☆幼女対策その四! 『最後まで気を抜くな!』
うまくだませたと思っても、安心してはいけない。幼女というものは好奇心旺盛。『そらってなんであおいの?』『いきてるってなに?』『おじさんなんでずぼんのちゃっくあいてるの?』はもはや当たり前の質問だ! 純粋だからこその、なにも恐れない恐ろしさ。これをはねのけてこそ、真の幼女マスターだ! わっはっは!
「じゃあ、そろそろ私たちも寝ましょうか。お休み」
「おやすみ」
ふぅ……。
ちょっとやりすぎたかね。少し賢者タイム。
まあ、でもいっか。明日が楽しみ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
というわけで、私とローランのお話でした。
読んでいく中で『あれっ!? ローランなんか急にいじりだしたぞ!?』なんて思っていた人はそれが正解です。ムッツリはこの話を知りませんからね。
「ね〜? ローラン。ムッツリは性格が悪いよね〜?」
「うん。ムッツリはせいかくがわるい」
うんうん。いい調教成果が出ている。
……まあでも、『ローランはムッツリのことが好き』まではさすがに干渉しません。私だって、そこまで変えてはいけない常識ぐらいは持っています。ローランに巡り合えたのも、ムッツリがサンドイッチをあげたからであって、私たちが本当に仲良くなったのも、あの『ありがとう』があってこそだから。
……最後にいいことを言っておきました。はい。
「では、今回はここまでです。御清聴、ありがとうございました〜!」
「ありがとうございました〜」
まだまだ番外編は続きますが、形式的には、母の心みたいなものと、今みたいな形式で分けて書こうと思います。
あと、読むにあたって、前に上げた、同じ時系列の話に戻ると、いっそう楽しめると思います。今回なら『ムッツリメガネ再び! ………あと王子。』ですね。
幼女対策はガチで使える………かも。