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14 木の幹


 断る理由なんてない。

 だって、僕たちがあらかじめ予定を話しておけば、ポールのように受け入れられたのかもしれないから。

 すべて僕らの責任であり、ルークには大きな借りがある。

 


 朝食を食べ終えた僕たちはルークに連れられるままに城を出発した。

 ルークの話によれば、このお出かけについてはルータスさんの許可をもらっていて、臨時教師としての授業も午後にしてもらったらしい。いつもはボケルークなんて呼ばれているけれど、さすがにこれはルータスさんも同情したんだろう。


 さて、では今僕たちがどこに向かっているかといえば、川の上流だ。

 メインストリートのゲートとは反対側にある。ゆえに、僕たちが目指すところではない。

 というか山だ。

 考えてみればわかるだろう。川の上流なんてたどれば、いつかは山にたどり着く。現に、僕たちの目の前には高くそびえたつ山がある。

 歩いていくにつれ、周りには木々が生い茂り、川はくねくねと曲がってきた。さっき、山が高いなんて言ったけど、実際は木の葉っぱに囲まれてほとんど見えない。いったい、どこに向かうというのか。

 

 まあ、現在の僕にとって、どこに向かうかという疑問はほとんど頭の中にはないんだけどね。

 だって――

「むっつり、おもくない?」

 ――ローランをおんぶしてるから。

「うん。重くないよ。むしろ軽いくらい。これからの移動も全部おんぶでいいよ〜」


 ここで、なぜおんぶをしているのか、という疑問を持っている人に言っておきたいのだが、これは決して僕が希望したことではない。ローランが自分で言ったことなのだ。

 今のローランにとって、『飛ぶ』という選択肢はない。なぜなら、ルークにはローランの力を見せてはいけないからだ。となると、歩き疲れた時の選択肢は自然と絞られるってわけ。


 ああ〜やわらけ〜。

 本当にぷにぷにすべすべ。幼女の太ももって人をダメにすると思う。もはやおんぶさえできるならば、地獄に行ってもいいくらい。


「あ! あれだよ!」

 快感にひたっていると、突然ルークが声を上げ、前を指さした。

「……どれなの?」

 しかし、さした方向を見ても、木々に隠れた山肌が見えるだけだった。

「じゃあ、もうちょっと近づいてみようか」

 そういって、彼は走り出した。僕たちも慌ててついていく。


「「うわぁ……」」

 そこにあったのは洞窟。しかし、ただの洞窟ではない。

 光っている。

 正確には、洞窟の中にある水晶みたいな塊が光っている。そして、無数にあるそれが洞窟内を照らしていて、ごつごつした内壁が奥の方まで見えていた。

 ここが目的地なのだろう。じゃあ、もうローランおんぶタイムは終了か。仕方ない。

 僕がしぶしぶローランを下していると、久子が洞窟に近づいて言った。

「こ、この光っているのって何なの?」

 声が少し高い。きっと宝石みたいな石に興奮しているのだろう。ハッ、これだから光物に目がない女は。メガネの反射だけでは飽き足らないのか。

「これは光石っていうんだよ。王国ではこれを削ることによって蛍光塗料として使われている。普段はもっと城に近い採掘場で発掘しているから、ここはもう使われてないんだけどね」

「塗料だけ? これなら、夜でも明るくできるから、部屋中に塗りたくったらいいじゃないの」

「そうしたいんだけど、残念ながらこの石は触ったら毒なんだ。だから、家紋とか普段触れないようなものにしかぬれない」

「……ということは、光石は生き物ってこと?」

「うん」

「いやいやいやいや(手をブンブン)! キモイキモイキモイ」

 ルークが首を縦に振ると、久子は勢いよく後ずさる。

 いや、後ずさるのはいいんですけど、僕の足を的確に踏んでいくのはやめてほしい。

「ははは……でも、絶対に動かないから大丈夫だよ。エサはどうやら明りに群がって石に着地した虫みたいだし、人を食べることはない」

「それでもキモイわよ! キモイキモイキモイ(地団駄を踏む)!」

「痛い痛い痛い!」

 だから僕の足を踏まないで!

 とにかく、このまま足を踏まれ続けてもあれだし、話を進めようか。

「で、ルークはこれを僕たちに見せたかったってこと? 本当にこんなことでいいの?」

 突然別れを聞かされたことによる彼のお願いが『川の上流の洞窟の光石を見せる』だけなんてことはまさかないだろう。いや、別にそうだったらいいんだけど、その場合、今度は僕の方に罪悪感が芽生えそうだ。

「ううん。違うよ――」

 案の定、ルークは否定した。


「――僕たちで洞窟の中を旅したいんだ」


 そしてそのまま、とんでもないことを言い出した。

「え? 何で? ちょっと危険じゃないの?」

「そうよ! その石、触ったら毒なんでしょ? 少しでも触れたらどうするのよ!」

 久子の言う石もそうだけど、ほかにもそこを住処にしている猛獣とか、空気がないとか、いろいろな危険が僕の頭をよぎった。


「……じゃあ、行けるところまでじゃ、だめかな?」

「「…………」」

 悲しそうなルーク。

 その表情と、彼にある大きな借りとも相まって、僕は言葉を出すことができなかった。


「正直、ボクは三人にあこがれていたんだ。だって『旅』なんて、これからの人生で経験することなんてなさそうだもん。『旅』という言葉の意味だけ知っても何にも面白くないよ。……かといって、一人で旅をするなんて言い出したらおじいちゃんやお父さんがだまってないだろうし。というかそもそも授業が多すぎてそんな時間ないし。だから、この機会を逃したくないって思ったんだ。もしよかったら――」


「わかった。行こう」


「ええ。そうね。最後に大冒険しときましょう(ピシッと指さし)」

「るーくといくの、たのしみ」

 ――もう否定する理由はない。

 というか否定なんてしたら人じゃない。

 旅に多少の危険はつきものだ。まあ、いざとなったらローランもいるし。



「――いいの?」

 突然の賛成に、首をかしげて戸惑うルーク。

「うん! 全然いいよ。じゃあ、早速行こう!」

「オー!」

「おー」


 僕たちの新たな旅が、今始まる!



       *



「え〜……これにて旅は終了、ということでいいのかな」

「いや、流石にこれは……だめなんじゃないかしら」

「つまんない」


 本当に予想外。

 なんか反対側の出口にすぐ出ちゃった。

『やっぱり生き物であっても光石きれいだな〜』って感じでドンドン歩いていたら、特に分かれ道もなく5分ぐらいで到着。


 そして、出口には、入口と同じように森が広がっている。またまたこれが厄介。

 もしここで、『出口にはきれいなお花畑』とか、『出口には、きれいな森の妖精、もしくはエルフのお姉さん』みたいな展開があったら立派な冒険なんだけど、もちろんこの世界にそんな出来事はない。

 つまり、何の面白みもないのだ。

 

「……(もじもじ)」

 ああ! ルークがまるでポールのようにもじもじしている! これはピンチだ! なんとかせねばぁ!

「ふ、フハハハハ! まだまだ旅は終わらない! この先に、きっと心を躍らせる何かがあるはずだ!」

「そ、そうよ! きっとあるわ!」

「うん。ある」

 そんな僕の気持ちを理解してくれたのか、久子とローランも一緒にノってくれた。……あれ、この二人が僕の気持ちを考えてくれるなんて結構久しぶりな気がする。何その悲しい発見。

「じゃあ、もうちょっと頑張ってよ! ボクももっと旅がしたいんだ!」

 ルークはなんとか笑顔を取り戻した。




 と、いうわけで、ルークの明るい声を号令にして、僕たちは森を進んだ。進むといっても、まっすぐ一直線にだ。もし迷ったりなんてしたら冗談じゃないからね。それでも、今までまあまあの距離を歩いている気がする。


 昼には戻ることになってるから、もうちょっと進んだら戻ることにしたいんだけど――あとは、『人の顔に見える木の幹』とか、『キノコ大量発生』とか、何か達成感のあるものに出会えればな〜なんて思う。何かいいものないかな……。

 いいもの……いいもの……。



「ギャァァァァァァァァァァァァ!?」



「ルーク! どうした!?」

 突然、最後尾にいたルークが女子のような金切り声を出した。そこにはもういつものさわやかさはない。よっぽど驚いているようだ。

 あわてて振り向こうとしたけど、その時にはもう、彼は僕の先を走っていた。

「久子! ルークはどうしちゃったの!?」

「わからないわよそんなの!」


「あ!」


 僕と久子が話していると、ローランが大きな声で叫んだ。

 見ると、その小さな腕を伸ばして、一本の木を指さしている。

 僕たちは、妙に落ち着きを保ちながらその木の前に向かった。


「「――あ」」


 その答えは、一目瞭然であって。

 そして、『あ』という間抜けな声しか出せないほど、危機感のないものだった。



 鬼の顔のような木の幹。



 まさか、僕がさっき思っていた『旅のゴールになりえたもの』に驚いて逃げるなんて――



 ――っていうか。

 僕たちは重要なことを見逃しているような気がする。

 命運がかかっているような大事なことであって、それこそこんな鬼の顔のような木の幹なんか比べ物にならないほど大事なことを、今僕たちは鬼の顔のような木の幹を見て佇んでいることによって見逃しているような気がする。


 いや、もう実際気づいている。


 鬼の顔のような木の幹はあくまでも『旅のゴールになりえたもの』でしかない。つまり、僕たちはまだ新たな冒険の真っただ中にいて、そして、鬼の顔のような木の幹はただの通過点でしかないのだ。

 僕たちが何も言わないのは、ただその言葉を発したくないだけ。

 まるで、証拠がたくさんそろっている状態で捕まった犯人が、最後の抵抗で黙秘を貫き通すような、そんな気持ち。


 でも、それもいつかは言わないといけないものだ。

 そして、それはとっさについた嘘のように、すぐに真実を明かした方が楽になる。

 ならば言おうじゃないか。その言葉を。




「……ルーク追いかけなくてよかったっけ?」





 通ってきた印はもちろんつけていない。







あちゃちゃ。こりゃ大変だ!!



次から番外編というかサブエピソードというかなんというかです。本編の補足からからネタまで様々。

そのあと3章です。


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