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2 料理。からの自己紹介。

「うわっ……最高」

 興奮気味につぶやいたのは久子だ。

 もちろん、その対象は運ばれてきた料理のことだろう。


 中心に肉。

 その周りを彩るのは緑、赤などの色とりどりの野菜。

 そして、木の実だろうか、そこに更なる彩を加えるものが、ちりばめられている。豪華、とはこのことを言うのだろう。


「これぞ、異世界のトロピカルミートアイランドや〜」

 うーん。久子が急にハイテンションでなんか言い出したぞ。しかもあんまりうまくない。本家なら、もう少しうまいたとえをおっしゃるはずだ。


「どや〜」

 かわいい! 覚えられないから最後だけ言ってみたっていうのが最高にかわいい! 流石は我が天使。


 まあ、そんなの関係なく、主観で見てもガチでうまそう。僕も一緒に「アイランドや〜」って叫びたいくらいだ。


「それでは皆さん、今日も神が育む命に感謝し、おいしく食べましょう。いただきます」

「「「「「いただきます」」」」」

 シャルルさん。こんなにおいしいものをありがとうございます!


 さてさて、お味のほどは……。

 oh! アンビリーバボー!

 肉のうまみは言うまでもない。ただ、そのうまみを引き立てるのがこの野菜と木の実。食感だけでなく、味のアクセントもお任せあれと言った感じで、口の中を極楽の状態にしていくようだ。


「まいう~。クーニーがゴースーでまいう~」

 でたそれ。業界用語ってやつ? あれ、何言ってんのかわかんないよね。イコール、久子が意味わかんないよ。


「いう~」

 いやローラン! まいう~ぐらいは言ってほしかった! でもかわいい!


              *


「君たち」


 食事ももう終わりといったところで、さわやかな声が聞こえた。

「今日は教師をやってくれるんだよね?」

 声をかけたのはほかでもない、昨日のお兄さんだった。相変らずくせっ毛だ。

「うん。今日は開いてる……というか、これから五日間は開いてるよ」

「五日間? そのあとに何かあるのかい?」

「あと五日間(片手で5)経ったら、旅に出ようと思ってるの。だから、教師ができるのも、それまでってわけよ」

 この質問には、久子が答えた。

 この人、片手で5をやりたかっただけなのかもしれない。あるいは、作者がこのしぐさを入れたかっただけなのかもしれない。


「そうか。あと、五日間しかないのか……。わかった。五日間だけでもいいから、頼むよ」

 お兄さんは落ち込んだものの、最後は笑顔で返してくれた。


「あ、でも、一つだけ言っておきたいんだけど……」

 交渉成立。再びご飯を食べ始めるかと思いきや、お兄さんがまたもや口を開く。


「なに?」

 聞くと、お兄さんは申し訳なさそうに体をもじもじさせる。……なんだろう。

「実は――


 ――昨日、僕だけでブ●●●ンをやっちゃったんだ」



            *



「何する?」

「何もないわよ。第一、練習する暇もないし」

「ひえ。ひえ。しゅうちゅうしゅうちゅう……をやる」

「それだけじゃ尺が足りないわよ」

「……かなしい」


 うん。

 ネタがない。


 初日はあの二つで足りるだろう、という話を昨日の食事の後にして、今回急にそのうちの一つが無くなった。

 しかも、呼ばれたのは食事後すぐ。お兄さんの(役人の)クラスは、午前・午後の二つあるらしいのだが、そのうちの午前にやってほしいとのことだった。


 今、僕たちがいるのは部屋の前。……教室の前、と言った方がわかりやすいかもしれない。

 その教室では、現在進行形で僕たちについての紹介がなされているのだ。呼ばれるのも、時間の問題だった。


 お兄さんの話によれば、生徒は三人。そして、中等部、という名前からもわかるように、僕たちと同じくらいの年の人のクラスらしい。日本語も、大分話せるようになっているんだとか。このことから、ネタをやる分においては、特に問題はないだろう。

 ただし、そのネタ。

 ネタがないのだ。


「じゃあ、入ってきてくれ」

 あーでもないこーでもない、レ●ュラーでもない波田●区でもないと必死のひそひそ会議を繰り広げていると、お兄さんの声がした。

 もう、時間がない。

(とにかく、流れで行きましょう)

 それが、最後の僕達の会話だった。


          *


 パチパチパチ!

 不安を胸に教室に入ると、三人の生徒とお兄さんが拍手で迎えてくれた。


 中は、僕たちが最初にルークに案内された部屋とほぼ同じ。六畳ぐらいの部屋で、白く塗られた壁。違うところと言えば、長イスと机ではなく、教卓と三つのいすがあること、そして、教卓の後ろには黒板……ではないが、白い板があることぐらいか。

 その板には、僕たちを簡易的にあらわした絵が描かれている。おそらく、『これがタクロウ』とか説明してたのかな? 、うーん。手がソフトクリームなのはいただけないなぁ。


「今日から五日間、よろしくお願いします」

「「「お願いします」」」

 久子が声をかけると、生徒の三人は元気良く返してくれた。言うまでもないが、やはり全員が、肌色の服を着ている。


「よろしく。じゃあポールから順に自己紹介してね」

 お兄さんが、僕達から見て右の少年に声をかけた。


「初めまして。ぼくの名前はポール。よろしくね」

 ポールと名乗った少年は、僕たちと同い年くらいというには背が低く、少し幼い印象がある。丸顔で、少し垂れたやさしい目。髪は男性からして程よく長いくらいの茶髪だ。


「私の名前はサイノです。よろしくお願いします」

 続いてサイノと名乗った少女は、珍しく赤毛だった。顔は整っていて、清楚な印象を与える。ああ、初めに出会ったのが、サイノみたいな人だったらなあ――痛っ! いたたたたたたた!

(おい久子!)

 急に久子が腕をつねってきた。かなり強力。ポーカーフェイスを保つのがやっとなほど強力だった。

(何すんだよ!)

(顔には気をつけなさい)


 うーん。ポーカーフェイスできてなかったみたい。


 そうこうしているうちに、最後の少年が前に出た。

 少年、というにはいささか無理がありそうなくらい大人っぽい顔で、身長もある。世にいうイケメンというやつだろう。髪は金髪のショートヘア。

「俺はオックという。よろしく。……ニホン人に会えて、とてもうれしいと思っている」


「はーい! 私が日本人でーす! 俺だ俺だ俺だ!」

 それを聞いた久子が前に出て、ハイテンションで両腕を振る。

 流れでとはいえ、初めから飛ばすなぁ……。あ、もしかしたら、イケメンだからテンション上がったのかも。何そのおばさま感。

 

「それって、芸なのか?」

 そう言って食いついたのは、まさかのオックだった。

「そうよ。手のひらをこうやって、自分に引き寄せるように――俺だ俺だ俺だ!」

「俺だ俺だ俺だ!」

 おお。なかなかできてる。

「俺だ俺だ俺だ!」

 それに続くように優男風のポールも両腕を振った。カエルの合唱みたい。

「俺だ俺だ俺だ!」

 ああ、サイノちゃんも!

「おれだおれだおれだ!」

 ローラン!? あなたは違うでしょ! かわいいけど!

「俺だ俺だ俺だ!」

 お兄さん!? あなた依頼人ですよね!

「いったん止まって―!」

 久子が叫ぶと、あたりが静寂に包まれた。

 そして久子がもう一度息を吸う。

「……はい! じゃあ、みんなで一緒に、せーの!」


「「「「「「「俺だ俺だ俺だ!」」」」」」」


 僕たちは、何をしているんだろう。





あの人の言い間違いは面白いですよね。

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