1 朝のベロ
この章も楽しんで書いていきたいと思います。
☆2章の5話の後に、久子と卓郎のキャラ紹介を追加しました。3/17
期待せずにご覧ください。
ちゅん。
ちゅんちゅん。
「ん……」
あれ? 僕は寝ていたのかな?
確か、久子とベットで格闘した後、これから五日間ここに滞在……とか何とか言って、それから……なんだったっけ。忘れた。
何このデジャヴ。
「……んん〜」
声のする方に体を転がすと、むずむず体を動かしている久子がいた。起きそう、ということか。
ちなみに、メガネしてない。
……なんかいるよね。普段メガネで地味に見えるのに、外した途端超絶美少女になるやつ。アニメとかでは、そのギャップが萌えの対象になるんだろうけど。
よく考えてみれば、久子のメガネ無しを普段あまり意識してなかった。というか見てなかった。じゃあ、いつ見るの?――
…………。
んん〜。では、今回のメガネなし久子の得点を発表します。
ダララララララララララララ……ダン!
「よんじゅーごてん!」
「ダマラッシャァァァァーイ!」
「あべば!?」
ひさこの ローリングウラケン!
こうかは ばつぐんだ!
たくろうは めのまえが まっくらになった!
「……何が、四十五点ですって?」
寝起き特有のどすの利いたかすれ声。めっちゃ怖い。
「ひ、ひりまへん」
「あらそう……。じゃあ、メガネをかけて五十点にしてあげます」
「なにぃ!」
なぜそれを!
「……メガネ付けた方がいいってのは、私も理解してるわよ。余計なこと言うな」
「も、申し訳ございません」
これは がちで いっちゃいけないやつ の ようだ!
コンコン。
「あ! 誰か来たのかな〜ごはんかな〜。ルンルン〜」
ちょうどいい。雰囲気を変えよう。大食いの久子なら、きっとご飯のことで機嫌を直してくれるはず――
「みんな! おっはよー!」
「え? ルーク?」
しかし、扉を開けたのはほかでもない、ルークだった。片手をあげて、意気揚々に挨拶をしている。相変らず子供っぽい。
「おお! 誰かと思えばムッツリか! 今日も元気そうで何よりだ!」
「いや……元気というわけでは」
くらったばっかだし。そんなハイテンションで言われても困る。
「ん? どうした――あ! 鼻から血が出てるぞ!」
あーやっぱり出てましたか?僕ももしやとは思っていたけど。
「ボクがなめてあげようか?」
「いらない――ってぎゃああああ!?」
突然迫るベロ。
「ほら、どうしたんだよ♪なめてあげるって」
「ぎゃああああ! ぎゃああああ!」
逃げようとするが、肩をがっしりとホールドされて、顔をそむけることしかできない。
なんだよコイツ! ついに勝手に襲ってくるようになりやがった!
「助けて! 助けて!」
必死の抵抗で振り向いて助けを呼ぶも、ニヤリ久子とぐっすりローランしかいない。というかローラン起きろや! こんなに叫んでんのに!
「ぺろぺろ」
「ぎゃああああ!?」
頬に生ぬるい感触。もうダメ!ダメよ〜――
…………。
「おい! ボケルーク!」
「……ハッ! 僕はいったい何を?」
「はぁ……はぁ……はぁ……」
いろいろ死ぬかと思った。
声をかけてくれたのは、ルータスさんだった。ルークのお父さんだ。昨日のように、朝食に呼びに来てくれたのかもしれない。
「もう授業が始まるぞ。先生を待たせるなよ」
「はぁ〜い」
だから子供かって。
ルークはそう言ってとぼとぼとその場から立ち去って行った。
「すまないな。あいつ、またあの状態になってやがる。会議の参加はいつになるやら」
「あはは……」
ほんと、一生無理かもしれないですね。
「何はともあれ、朝食だ。気を取り直してあの部屋に行くぞ」
「はい。……ほら、久子、ローラン、早く来て」
「んん〜。ごはん?」
僕の呼びかけに、ローランが目覚めた。おーい。起きるタイミング違うぞ〜。
「…………あっ、おはようございます。ルータスさん」
おーい。どこにトリップしてたんだよ〜。
ほんと、この三人でサバイバルゲームをやったら、絶対一番に死ぬ自信あるよ。
「ああ。おはよう。ヒサコ」
「少し待っていてください。ほらローラン、行くわよ」
やがて、ローランが久子に手を引かれながらゆっくりと歩いてきた。ローラン眠そう。きっと、ベットが気持ち良すぎたのかな。じゃあ、起きなかったのもしょうがないよな。うん。全部久子が悪い!
「では、行こうか。……ちなみに、今回は芸はやらなくていいぞ」
「え? どうしてですか」
「実はな……影響が大きくて、会議に集中できない人が現れてな。見たい気持ちはやまやまなんだが、少し控えることにしたんだ」
「あはは……」
やっぱり一大ブーム起こしちゃったか。そりゃあ、あんなノリのよくて完成度の高いもの、ブーム起こって当たり前だからな。僕達まさに外道って感じ。
「あの……実は私たち、もう五日間で旅立つことに決めたんです。だから、できる時間も限られているんですけど」
久子が言う。
そんなにネタやりたいのか?この人。
「そうなのか!? うーむ。でも、父さんが決めたことだからな……少し聞いてみるよ」
「あ! いいんですよ! 別にやりたいわけじゃないですし、ネタがあるわけでもないので」
「ねた? それはなんだ?」
あちゃちゃ。ルークと同じ反応。
久子も、やってしまったみたいな顔になっている。
フハハ! せいぜい、これから連発されるであろう●に耐えるがいい!
「ネタとは、それこそ武●●のことです」
「ブ●●●ン? ブユーデではなく?」
「はい。武●●です」
「では、ブ●●●ン! ブ●●●ン!ということか?」
「はい。武●●! 武●●!です」
「ヒサコ、悪いが少しやってみてくれ、そのブ●●●ン。振りがわからんのだ」
「武●●×3」
「ほほう。初めのブ●●●ンの時に右手の握りこぶしを前に。次のブ●●●ンの時に左。そして、最後は左右にブ●●●ン、ということだな。実は私も少しブ●●●ンが気になっていたんだ。会議の時も、実は頭の中でブ●●●ン! ブ●●●ン! と――」
「いい加減にしろォォォォォォォ!」
止まらない! ●が止まらないよ! いくらなんでも報告されるよ!
「――ああ、すまない。少し、盛り上がってしまったよ……ほら、そうこうしているうちに着いたぞ。君たちは昨日と同じ席に座ってくれ」
開いたドアからは、昨日と同じように椅子に座っている王族の皆さんがいた。
(あっ……ほら、見て、あれ)
(ん? ――ぶっ!)
視線の先には、僕たちを見ながら、嬉しそうに握りこぶしを交互に前に出すおじさん。
シュール! 実にシュール!
(これは、儲かるわよ)
(それ一番最低なやつだ!?)
(冗談冗談。でも、ルータスさんが言っていた意味がすごくわかるわ)
(ごもっともです)
こりゃあ、集中もできたもんじゃない。
席に座ると、ちょうどルータスさんがルーカスさんに何かを伝えている所だった。その話が終わると、「では、朝食にしようか」というルーカスさんの声でこれまた昨日のように何人かが立ち去った。
「君たち」
食事を待っていると、そのままルータスさんが僕たちの所に来た。
「ねたのことなんだが……五日間という期限を伝えても、父さんはもうやらなくていいと言っていた。君たちを嫌っているわけではないが、会議に支障をきたすことだけはやめてほしいとのことだ。あ、だから、役人の授業については構わないぞ」
「はい。こちらこそ、申し訳ございません」
ルーカスさん、あなた本当に王に向いてます。けじめありすぎ。カズトヨさんも安心だ。
「ああ。……あと、一つ伝言がある。旅の成功を祈る、とのことだ。では、食事が運ばれるまで待ってくれ」
そう言って、ルータスさんは自分の席に戻っていった。
(ルーカスさん、すごい人ね)
久子の耳打ち。どうやら久子も僕と同じ考えだったようだ。
(僕もそう思った。お辞儀でもしようか)
(賛成)
ぺこり。
立ち上がってお辞儀をすると、ルーカスさんは少しだけ手を挙げて答えてくれた。
神ですね。
申し訳ございません。
……外道な笑いで申し訳ございません。