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「ここの真ん中が、父さんの部屋だ。入る時はきちんとノックするように。わかったな?」

「「はい」」「うん」

 ルータスさんに案内されたのは、三階。階段を上ると、少し広い空間があり、五つのドアが並んでいた。


 ちなみに、あの破壊力バツグンの僕の服は、さすがにダメだということでルークのものを貸してもらった。素材は、肌触りのいい肌色の布。若干タイツっぽさが出るにしても、あのローブよりはマシだと思う。……いやこれはローランのことを悪く言っているのではなく! 出来ればローランを肌で感じていたかったけど仕方なく見栄えの問題というものが邪魔をしたというわけで!


「あの、何で、五つもドアが?」

 去ろうとするルータスさんに久子が聞いた。

 そう言われてみれば確かに。ルーカスさんが王様なら、三階部分全部王室でも別にいいと思う。

「ああ。そうか、君たちは、父さん以外は知らないんだな?」

「え? ええ。そうですけど」


「実は、父さんが王様っていうのは、あくまでも代表者って意味なんだ」

「代表者?」

 久子、声裏返ってるぞ。

「ああ。だから、一応ここはルーカス王国となっている。しかし、王様――いや、この国を作った人は、カズトヨを含め六人いるんだ……と習った」

「はぁ……」

 ん? ということは――

「じゃあ、ルーカスさんを挟んでいたあの二人のおじさんも、そのうちの二人ってことですか?」

「ああ。そうだ。……ちなみに、名前はハッシルさんと、ジェンさん。茶色の髪がハッシルさんで、薄茶色の人がジェンさんだ」

 わかりにくっ。


「……じゃあ、あとの二人は、どこにいるんですか?」

「…………」

 久子がそう聞くと、ルータスさんは顔を背け、黙ってしまう。

「あ、あの、言えないんだったらいいんで!」

「いや、二人とも…………死んだよ」


「「…………」」

 悔やむような声だった。

 そうか。死んでしまったのか。

「私がその時の現場を見たのは、そのうちの一人だけだがな……人の死、とはいろいろと――ああ、すまない! 大丈夫だ。だからこうやって、部屋も残している。とにかく、今は父さんの部屋に行ってくれ!」

 しんみりとした空気を振り払うように、ルータスさんは笑顔で言った。

「は、はい。変なこと聞いてすいませんでした」

「ああ。構わないよ。では、私も、授業をしてくる」

 そう言って、ルータスさんは階段を下りていく。


「……はぁ……」

 見ると、久子が珍しく落ち込んでいた。

 ちゃんと自分の言った言葉に落ち込むという感情があって何よりだ。僕以外に対してはちゃんとした人間だな。

 心の支えって言ってくれた時、本当に前向きで、強いって思ったのに。


「……ほら、久子。しょうがないよ。僕だって、久子が言ってなかったら同じ質問してたし。そんなの、久子らしくないよ。だからさっさと行こうよ」

 なら、その役目を果たそうかな。


「……ええ。ありがとうムッツリ。行きましょうか」

 かわいい声出すじゃん♪ ……と、少女漫画風に思ってみたけど、やはり50点だよな――僕、結構ひどいこと思ったような気がする。

「失礼します」

 微量の後悔を振り切り、僕は扉をノックした。


「……わ……や……」

 ん? 何か聞こえる。どうしたんだろう?

「早く開けなさいよ。本当に失礼になるわよ」

「う、うん」

 そして、扉を開ける。


 パン、パン、パン、パン!


 扉を開けていくにつれ、中の音があらわになる。

 パンパン? ……これは、なかなか危険な擬音語だが……


「ああ! 見ないでくれ!」

「うるさいわボケェ! 貴様なんか見せしめが一番だ!」


「「「…………」」」


 うん。

 本当にケツ叩かれてました。


「ああっ! 痛い! もう、やめっ――」

「だめだ! 言いつけを破りやがって! どれだけ探したと思ってるんだ!」

「あうん! はうん! ひゃうん!」

 変な声出すな。


――何分か経過――


「……ふぅ。すまんな。あのボケルーク、自分から墓穴ボケツを掘っとったから、むかついて少しばかりはりきってしまった」

(ケツを掘って、はりきる?)

 うるせえ。

 確かにらしくないとは言ったけど! ここまで戻れとは言ってない!


「何はともあれ、ようこそ。さあ、そこに座ってくれ」

 声も落ち着いたルーカスさんが指し示したのは、毛皮が敷かれた椅子。ちょうど三人ある。ケツは叩いても、迎える用意はできているようだった。ルーカスさんはといえば、僕達と対面できるところに座った。

 部屋の大きさは、今使っている部屋と同じぐらい。……まあ、カズトヨさんの部屋だということと比べたら異論はない。


「……突然だが、まず、確認しておきたいことがある」


 僕たち三人が座ると、唐突にルーカスさんが言った。

 いきなり本題なのだろう。そして、前提でもあるということか。

 顔は、先ほどルークを叩いていた時からは想像もできないほど、真剣な表情だった。僕も自然と背筋が伸びる。


「確認をして――これがもし、間違っているのなら、私から話す内容は限られるんだが……ローラン」

「うん」

 名前を呼ばれたローランは、返事をした。

「君は――」

 

「――願ったことが、現実になるという経験をしたことがあるか?」


 うわ、ビンゴ。

「…………」

 しかし、聞かれたローランは無言だった。理由は言うまでもない。

 あの食事の時の「しょうがない」の意味はおそらく、僕の、ああ答えざるを得なかった境遇を考えたものだったんだろう。決して力を認めることではないようだ。想像以上に、ローランは心を閉ざしているのかもしれない。

「ふむ。おそらく、君たちが安全を願ったから生き延びることができたと踏んだんだが。……では、タクロウは何か知っているのか?」

「え、その……」

 僕に聞かれても、やはりどういったらいいかわからない。いくらルーカスさんに助けてもらってるとはいえ、ローランの心の闇のようなものをぶり返したくはない。

「では、ヒサコは?」

「…………」

 久子も無言だった。まあ、そうだろう。


「ふぅ……」

 僕たちが黙っているのを見て、ルーカスさんは困ったように息を吐いた。

「わかった。君たちを信じていないわけではないが、こちらとしても、もしそうだった場合に伝えたいことがある。これは、カズトヨの願いでもあり、私の、歴史を伝える語り手としての願いでもあるんだ」


 話し方からして、ルーカスさんは、僕たちが答えを隠していることを見抜いているようだ。

 そしてそのまま、もう一度息を吐いてゆっくりと告げた。


「では、その伝えたい歴史を少しだけ話そう。それで君たちが心を開いてくれるのなら、それでいい。それでも黙っているというのなら、私もこれ以上は言わない。単なる歴史の授業とする」

「……はい。わかりました」

 ここは、肯定するしかない。重要なのは次の言葉だ。


「よし。……まあ、少しといっても、一言で終わるが――



 ――カズトヨにも、そんな女性がいた。



 ……これだけだ。ただ、その女性は、この国の歴史には存在しないことになっているがな」


「うそ……」

 つぶやいたのは、ローランだった。

「それは、ほんとう?」

「ああ。だから、その力にももう慣れている。決して、怖いとは思わないよ……では、もう一度聞く。ローランは、願ったことが現実になるということを経験したことがあるか?」


「……うん」


 ローランは、自分の口でそう言った。

「わたしは、もっと、そのひとをしりたい。じぶんのことをしりたい」

 ああ、そうか。

 自分を分かってほしかったローランにとって、自分に近い存在があるということは、きっと大切なことなんだろう。あの「ありがとう」を僕も忘れたわけじゃない。


「そうか。信じてくれて、感謝する。……では、話を聞かれては困るから場所を移そう。少し、外に出るぞ。朝に言った見せたいものも、そこにある」

 そう言って、ルーカスさんは立ち上がり、ドアへと向かう。僕たちも、後を追うように、ついて行った。






さて。一区切り付きそうですね。頑張ります。

大事なとこなんで、矛盾の無いように……。

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