10「くやしい」
運ばれてきたのは、肉、そして野菜のスープ。どちらも魅力的なにおいを放っている。朝食から肉というのもあれだが、そんなことはひとまず茅の外だ。
「じゅるり……」
久子がわざとらしいリアクションをする。それ、いつの時代のやつだよ。汚らしい。
「じゅるり」
それを見て、ローランもまねをする。かわいい〜。これこそ『じゅるり萌え』萌えのニュージャンルだ。
「それでは皆さん。今日も、神が育む命に感謝し、おいしく食べましょう。いただきます」
「「「「「いただきます」」」」」
ルークの父、ルータスさんの掛け声により全員が合掌。ボクも慌てて皆さんに合わせた。
ちなみに、箸。箸である。驚愕!
さてさて。お味は――
おぅ! デリシャス!
まずお肉。何の肉かは置いておくことにして、程よい油と、香ばしい風味が口の中いっぱいに広がる……。そしてこれは……香草か? 何やらさわやかな香りが口の中を駆け抜ける。中はレア。……まあ、ちゃんとした設備はないだろうから、レアは当り前だろうけど……でも、とてもやわらかい! これはやばい!
「ふちぇhfvdhgvん〜〜〜」
あまりのおいしさに、久子が突っ伏してしまった。ちゃんと喋れ。
「ふちぇんぐるんぐるくん〜〜〜」
あまりのおいしさに、ローランも突っ伏した。うん。なにを言ってもかわいい!
つぎに、野菜のスープ。色はやや緑と、青臭さを感じさせる見た目ではあったが、飲んでみてびっくり。少し甘味が感じられた。中に入っている、四角い茶色の食材。これは、コリコリとした触感をしていて、アクセントが効いている。これもかなりうまい。
というか、草からのこれはやばい。
それが僕の……いや、僕たちの感想といっていいだろう。とにかく、大大大満足。☆三つです!
「ブ●●●ン! デンデデーンデデンデ!」
「いや、ブユーデ、ビューデじゃないのか?」
「そうか。ブユーデ、ビュユーデ!」
「少し違う。だから――」
食事をしていると、そんな声が聞こえてくる。これは一大ブーム巻き起こっちゃうかな? えへへ。人のネタで人気を集めるって、これ邪道だね〜。
「僕は、実は、夜な夜な変態なことをしているんだ」
「ええ! そんな、馬鹿な!」
「でも、それはいいことだろ?」
「……ああ。タクロウの精神か」
「ふふっ。僕、変態アピールでかっこいい」
う〜ん。それは少し違うような? とらえ方を誤ったか?
これだと、タクロウ=変態でかっこいいになる。そんなのが仮に後の時代に残ったら、とんだ黒歴史になりそうだ。
「みんな。ちょっといいか?」
そう話しかけてきたのは、僕達から一番近いところに座っていた若いお兄さん。ローラン、ルークと同じく金髪で、少しくせっ毛があるのが特徴だ。さわやかな声。頼れるお兄さん系だろうか。マントの色はオレンジよりは少し薄い黄色みたいな感じ。
「じつは、僕は、中等クラスの先生をやっているんだが、生徒みんなで楽しめるような、息抜きの授業がやりたくてね。単純に、話す授業だけやってもつまらないんだ。君たちのその芸を――いや、ほかのものでもいい。ぜひ教えてほしいんだが。いいかな?」
「……先生っていうのは?」
僕はてっきり、ルークがマンツーマンでみたいなものだと。
「ああ、先生というのは、生徒に知識を――」
「「いや」いやいや! 違うって!」
ルークと同じこと言ってる! というか、久子中途半端!
「え? ……ごめん。君たちの言っていることがよくわからないよ」
……ん? なんだこの、日本語を知っている同士なのに感じる違和感は。ルークの時は、未熟とかいう言葉でそんなに感じなかったけど、この人はもう先生を任されている人。未熟のかけらもないだろうし……なんでだろう?
「どんな人の先生をしていたの? ということよ」
考えている僕に変わって、久子が聞いてくれた。
「ああ! そういうことか!」
またしても、ルークと同じリアクション。
「僕は、将来役人になる人の教育をしている。王族と違って、読み書きは教えないんだけどね」
そうだ。役人の存在を忘れていた。
それにしても……読み書きは、教えないか。
「じゃあ、どうして、王族だけ、読み書きを?」
「ああ……一番の理由は、『記録のため』だね。基本的に、役人は、ここで動物に襲われたとか、逆にこんな動物が取れたとかいう情報を伝達するだけだから、読み書きはいらないってこと。あとは、歴史の記録だね。有名なもので言えば、カネの実の成長かな。あれは、神秘の事件として、歴史の授業で習う。これも、役人は習わないけど。……だからこそ、もっと種類が欲しいんだ。君たちがいる間、臨時の先生なんてやってもらえたらな〜。なんて、思ってるんだけど」
(面白そうじゃない。ムッツリ、やりましょうよ。ここらで、現代日本を広めるのよ)
久子の耳打ち。
確かにいいと思うが、先ほどの約束をさっそく忘れたわけではない。
「実は、王様から来てくれと言われていて、今日行かないといけないんだ。明日になるかも」
「そうなの?」
聞く久子に、僕はうなずく。
「……そうか。ならば明日にしよう。朝食の時に声をかけるよ。じゃあ、よろしくね」
お兄さんも、わかってくれたようだ。
「うん。また明日で」
「ねえ、なんで呼ばれたの?」
話の後、案の定ヒサコが声をかけてきた。
「いや、実は……あ、ローランも聞いてほしいんだけど―――」
ちょうどよかったので、僕は事のいきさつをそのまま話した。ルーカスさんたちが、ローランについて何か知っているかもしれないことも。
「……それは、しょうがない」
聞いたローランも、事情を分かってくれたようだった。
「というか、お願いしなかったら危なかったわね……私のおかげよ。ということで、肉一まーい!」
久子はそう言って、僕の肉を取る。それ、食べかけ……。
「あむっ」
あーあ。食べちゃった。ファースト間接キスは、久子になってしまったか。
「……くやしい」
あれ? ローランさん? 今なんと?
悔しい? 悔しいとおっしゃいましたか!!
そんな、間接キッスならいくらでもしたいのに!
「むっつりのかんせつきす、とられた」
なんて、直接言わないところが、またかわいいなあ。
かわいいなあ。かわいいなあ。ちゅっちゅ!
「このちゃいろ、はしでつかめない。くやしい」
あ、そっちでしたか。
ふぁーすときすはいつになるやら。
追記。3/8
ある程度話の筋が決まったので、第一部に~ある物語~を追加しました。後からすいません。