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9 「タクロウの変態ぶりには驚いたよ」からの三重奏。

「うわ、すげぇ」

「……なに、これ」

「きれい」


 ルータスさんに連れてこられたのは、二階の広い一室。外見とは違い、大理石みたいに真っ白でぴかぴかだった。天井には、絵の装飾が施されている。

 奥には、ルータスさんの赤いマントに毛皮をつけたものを羽織った王様らしき人間。それを挟むようにして、二人の偉そうな中年の人がオレンジのマントを羽織って、それぞれ座っていた。それを取り囲むようにして、さながら会議室のように十人ぐらいの王族(でいいのかな?)それらしき人々がこれまた座っている。マントの色も青や白など様々だ。ちなみに、服は肌色に変わりはない。

 そして、王様の向かい側には三脚の椅子。どうやら、僕たちはそこに座るらしい。かなり緊張する。


 というか、改めて考えると、この内壁といい、天井の絵といい、ここってこんな城作れるほどの文明が発達しているのか? 町を見る限りは、そんなの全然感じられないんだけど。

 

(やっぱりおかしいわよ。この城)

 再び久子のひそひそ声。

 どうやら、思ったことを口に出さずにはいられないご様子。だんだんと久子のことがわかってきた気がする……いや、そんなことは今はどうでもいい。

(場所を考えろよ!)

(そうね。ごめん)


「じゃあ、椅子に座って」

 優しい口調のルータスさんに言われるまま僕たちは椅子に座る。彼はといえば、そのまま王様の所に向かい、何かを話しはじめた。

 その話が終わり、彼が自分の椅子(王族のうち、一つの空席があった)に座ると、その王様が声をかけてきた。

「君たちが、ニホン語を話していたという人だね?」

 少し年季の入った、ルータスさんの声を少し渋くしたような声。王様にふさわしく思える。

 そんな声に、自然と背筋が伸びた。

「はい。僕は卓郎といいます」

「私は久子といいます」

「ろーらん」

「ふむ。私はルーカス。ルーカス王国の国王をしている。ここに来たのも、何かの縁だ。君たちの目的は、今ルータスから聞いた。疲れが癒え、旅立つ日までゆっくりしていくといい」

「あ、ありがとうございます!」

 やべえ、声が震える。雰囲気に押しつぶされそうだ。


「はっはっは……」

 そんな僕を見て、ルーカスさんは豪快に、口を大きく開けて笑った。


「そんなに緊張しなくてもいい。今回呼んだのは、ただ君たちにあの芸をしてもらいたいだけだ」

「……芸、とは?」

(男が好きなこと)

 うるせえ。マジ久子うるせえ。くだらないし。


「君たちがあのステージでやっていたことだよ。それを見たい。……あのボケルークのせいで少々遅くなってしまったがな」

 ボケルークって……あいつ、おじいちゃんにまで言われてるのか。

 とにかく、あの芸だけでいいっていうならぜひともだ。

「じゃあ、そういうことならぜひ。ね、久子」

「ええ。じゃあ、昨日と同じく武●●でいきましょう。中話はパターン2で」

「わかった」



 パチパチパチ。

 僕たちがスタンバイをすると、部屋中から拍手が聞こえてきた。うーん。やる気も上がるぜ!



「ムッツリメガネです!」

「お願いします」


――前略――デン!


「いいよ〜。ムッちゃんムッツリすぎるよ〜。よし、じゃあ田植えをしよう!」

「いいだろう」

「よしじゃあムッちゃん、苗を植えていくよ……」


「ひえ。ひえ。しゅうちゅうしゅうちゅう」


「植える間隔に注意して……。集中だよ〜」

「上を向〜いて、あ〜るこ〜う」

「ちょっとムッちゃん! なに上向いてるのさ! 苗がぐちゃぐちゃだよ!」


「しゃらくせぇ――――――!」

「うわー! ちょっとムッちゃん! なにするのさ!」



「美少女はいつ降ってくるかわかんねえんだよ!」



「ムッツリィ―――――――――――!」


――後略――ポン!


 パチパチパチパチ!

「「どうも、ありがとうございました〜」」「ありがとう」

 今回も、ミスはなかった。そして、思ったより拍手があった。

「いや〜よかった」

 そう言ったのは、僕達から見て王の右側の中年の人。ほめていただいてうれしい限り――


「タクロウの変態ぶりには驚いたよ」


 ――ではなかった。

「変態だな」「ああ、変態だ」「変態よね」「変態……」「変態すぎる」

 その間にも、次々と僕を変態扱いする声が。あ、そうだ。この人たちニホン語わかるんだ……。

「あ、あの、これはあくまで冗談で!」

 僕の声にも、周りはなかなか答えてくれない。久子は――言うまでもないし、ローランもぼけーっとしている。意味が解っていないようだ。


「静粛に!」


 そう言ってくれたのは、ルーカスさんだった。

「どうやらこれは、冗談らしい。タクロウは、自分を貶めてでも客に喜んでもらおうという志ある者だ。そこは、大いに評価できる! みんな、どうだ!」

「おお。確かに!」「なるほど……」「すごい! すごいわ!」「私たちにはできない」

 それを聞いた王族の皆さんも、どうやら納得してくれたよう。いやほんと、ルーカスさん神です。


「では、朝食にしようか。……おい。この三人の分も持って来い」

 そのルーカスさんの掛け声で、何人か部屋の中の人が退却。どうやら食事を持ってきてくれるらしい。

 えっ。僕達食べていいんですか?

(やった! やったわよムッツリ! ムッツリの変態アピールのおかげよ!)

 うるせえ。興奮気味に言うな。

 ……とにかく、お礼を言うことにしよう。神発言を含めて。

「ちょっと、ルーカスさんに感謝しに行ってくるね」

「ええ。そりゃあ、救ってくれた人にお礼を言うのは当然よね」


 あなたは救ってくれませんでしたがね!


 あふれる不満を我慢して、僕はローランの頭をなでてから、王のもとへ向かった。

「先ほどはありがとうございます。ルーカスさん」

「ああ。なに、気にすることはない。しかし、よく出来ていたな」

「はい。何回もやっていたんで」


 ラ(略)はともかく、今日やった方はしっかりと練習した。あの、店を開いている時だ。その練習の賜物が、今、はっきり実ったと実感できた。


「そうか。それはいいことだ」

「あの、食事とかも、ありがとうございます」

「はっはっは。……わざわざそんなことを言いに来るとは、タクロウはよき人だ。一緒にいて、悪い気はしない」

 ルーカスさんは、満足そうに息を吐いた。

「そんな。ありがとうございます」


「それにしても、大変だっただろう。ここまでは、どこから来たんだ?」

 そう言いながら、体を僕の方に向けるルーカスさん。しわのある濃い顔だ。うう、少し緊張する。

「えっと、峠を越えたところです」

「あそこか。……あそこは、町の団結が強いから、君たちはきっと苦労しただろう」

 おお。わかっていらっしゃる。

「それで……その峠を越えてきたんだね?」

「はい。脱出できたのが夕方だったんで、峠で野宿しちゃったんですけど」

「……タクロウは今、何と言った?」

 ルーカスさんの目が開く。

「えっ? いや、峠で野宿をしたと……」


「なんと!」「なんと!」「なんと!」


 話に参加していない二人も交えた、見事なオジサン三重奏だった。

 え、いや、そんな驚かなくても……。野宿がそんなすごいことなのか?


「峠で野宿なんて、恐ろしくてできやしない」

「ああ、その通りだ……」

 ふたりのおじさんがそれぞれつぶやいた。恐ろしい? 久子の件はともかくとして、そんなに恐ろしいことはなかったけど……。


「タクロウ」

 考え事をしていると、ルータスさんが僕を呼んだ。低い声だ。

「実は、その峠には、パンジャという、恐ろしい肉食動物がいるんだ。パンジャは夜目が聞き、それを利用して寝ている動物を襲う。ニンゲンなんかが寝ていれば、それこそ生き残る可能性はない。これまでも、そのせいで死んでしまったやつもいるんだ。いったいどんな方法を使ったんだ?」

「えっと……それは、その……」

 これ、言ったらだめだよな?

 心当たりはもちろんある。ローランのおまじない以外の何物でもないだろう。ただ、ローラン自身がその力を公表したくないために、どう言えばいいかわからない。

「偶然、だと思います……」

 僕には、そう答えることが精いっぱいだった。


(偶然……は……だと――)

(ああ。それは……し……)

(まさか……は……)


 しかし、必死のウソもどうやら信頼してもらえていないようで、三人は小声で話し始めてしまう。

 ここで、「貴様は嘘をついた。もう信頼できない! 出て行け!」なんて言われたらいやだなぁ……。

「わかった。もういい……さっきも言ったがゆっくりしていけ。……ただ、一つだけお願いがある」

 予想は外れたが、王様の声は低くなっていた。あれ、怒ってるらっしゃるの? できれば罰などは勘弁してもらいたい。

「な……なんでしょうか?」


「見てほしいものがあるんだ。それに、いろいろと気になることがある。ぜひ時間が欲しい」


 またまた予想は外れ。お呼び出しの連絡だった。

「ああ、君たちには、何かカズトヨと似たものを感じるんだ」

「私もそう思う」

 王様に続いて、はさんでいた二人のおじさんも口を開いた。

「僕たちが、カズトヨと似ている?」

「ああ。あと……ローラン、といったか。あの子にも興味がある。あくまでも予想だが、ローランはニホン人ではないな?」

「……そう、ですが」

 なんだなんだ? ローランを知ってるのか?

「ふむ。では、そのことも、後で本人に聞くとしよう。……この後は、会議をするのでな。君たちが昼食を食べてしばらくしたら、部屋に呼びにいかせる。わかったか?」

「……はい」

 いろいろ不思議に思うことはあったが、わかったかといわれたので、素直にうなずいた。

「では、食事としよう。もう運ばれ始めているぞ」









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