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~天に選ばれし人間、田中卓郎~

この小説を目に留めていただき、ありがとうございます。

あの日の愛の歌と申します。


初投稿です。おそらく完結までこの作品一筋でいきます。

正直、くだらない時や、ふざけている時、矛盾もあると思いますが、どうか、お付き合い下さい。書いていきながら、読んでいる皆さんと成長していきたいと思います。


では、始まり始まり。












「ふっふっふ……我こそ、天に選ばれし人間、その名も、田中卓郎だ!」


 いつものように、僕は鏡の前で叫んでいた。

 家には誰もいない。ゆえに、叫び放題ということだ。

 何回見てもやっぱりカッコイイ。様々なセカイの美少女が、すぐ僕にキスをしてしまうのも必然だ。


「さてと。きょうの出来事をクロニクルに記すとするか」


 そして僕はまた、いつものようにクロニクルにサインペンを走らせる。なぜかというと、サインペンは滲む。滲むといえば侵食する。侵食するといえばセカイ……。


「2015年九月三十日。今日は晴れだった。これならアクセスもしやすい。そう思った僕は、授業という名の試練を乗り越え、昼休みにコンビニ弁当を食べた後、神界と定期交信をした。今日もいくつかの美少女たちが、『混沌世界』から助けを呼んできた。フッ。モテる男はつらいぜ。それから……」


 僕がこのチカラに目覚めたのは、神聖な書物を読み始めていくらか経った頃だった。

 その書物を買う前は、なんだこの絵。これはオタクが見るもんだ。などと思っていたが、興味がないわけでもなかった。そしてついに、中二になる前の春休み、ドキドキしながらレジに持って行って手に入れたことは今でも忘れない。レジのお姉さんが僕の事をどう思うかとか、まわりに友達はいないかとか、そんなことをすごく考えたものだ。

 無事に買うことができた時は、達成感と同時に、ああ、ついに自分も……というあきらめに似た感情が僕を支配した。しかし読まないわけにはいかない。意を決して表紙をめくった。

 そこにあったのは、まだ見ぬ世界。放たれる超能力。美しいヒロイン。

 そのすべてが魅力的で、僕はそれからというもの、ほとんどの時間をその神聖な書物に費やした。結果、遂に自分にもその力が宿る兆候(夢の中)が現れたので、僕は今までの自分を捨てて、新たなる人間に生まれ変わった。

 そのおかげで、僕の右腕には精霊が宿り、話もできる。しかも人間の形をとった時はとてもかわいく、そいつとこれまでに起こったラッキースケベは数知れない。名前はジュリだ。


「――そして、今日も僕は任務を終える……よし。じゃあ、神聖なる書物を読むとするか」


 クロニクルに文字が刻まれたのを確認した僕は、勉強机の一番下の引き出しに隠された神聖な書物を取り出し、ベットの上に寝転ぶ。今日古本屋で続編をやっと見つけたのだ。360円ではあったが、原価で買うよりは安い。これはキタと思った。


 まず、イラストが目に入る。

「うおおおおおお! これ大丈夫かよ! こんなギリギリ――っつうかもう見えてんじゃん! これは中高生が読んでいいものではないだろ! ……おっと。我としたことが少々取り乱してしまったようだ。セカイの均衡を崩さないためにも、ここは落ち着いて見るとしようか」


 何枚かあるイラストの二枚目には、桃色の髪の少女がほぼ裸で描かれている。確か、アレを描いてなければオッケーだった気もするが、これはこれで破壊力満点だ。普段見えないところにおいているのは、こういう絵を母さんに見られたくないというのが一番の理由だ。

 それと同じような理由で、僕は中学のみんなにはその力を公表していない。これは、僕とジュリ、そして、ここではないありとあらゆる世界のヒロインたちだけのヒミツだ。


「タク〜。ごはんあるから降りてきて〜」


 しばらくライトノベル(あ、言っちゃった)を読んでいると、下の階から母さんが呼んできた。どうやら帰ってきていたらしい。


「は〜い」


 適当に返事を返し、キリのいいところでしおりを挟む。ベットから勢いよく立ち上がり、片づけるために引き出しを開く――


「―――っ!」


 それは、あまりにも突然だった。

 空間がゆがんでいる。

 何回か目を閉じて開いてみても、そのゆがみは消えない。


「マジか……」


 それを確認した僕は、恐る恐る手を入れてみた。しかし、吸い込まれるというわけではなく、その手はただ空気をつかむのみ。

 だがそれだけでも十分だった。なぜなら、そこにもともとあったはずの教科書、さらには、奥にあるライトノベルの感触が全くなかったからだ。どうやら、このゆがみはほかの空間につながっているらしい。


「……」


 いざ、こういうシチュエーションに出会ってしまうと、いくら中二病の人でも黙ってしまうだろう。と、僕は自分の身をもって体感する。僕はそこで何も考えずに飛び込んでしまうような、重度な奴ではない。

 だいたい、異世界へ行ってしまった人は、この地球ではどう扱われるのか。よくあるのは、行方不明、存在自体がなかったことになるといったパターンだが、見当もつかない。もしかしたら、時間の流れが違っていて、帰ってこれたとしても、もう知人がいなかったりする場合もある。


「…………」


 そこまで考えてから、僕はこのことを無かったことにした。きっと何かの幻覚だろう。引き出しを閉め、下へと向かう。


   *


「今日もお惣菜なの。ごめんね」

「うん」


 台所のテーブルの上には、とんかつと酢豚が、電子レンジの熱を受け湯気を上げていた。

 母さんは、唯一作っていた味噌汁を二人分、テーブルに置く。

 田中芳枝。僕の母さんだ。ちなみにお父さんは二年前に離婚してから接点はない。その影響で、いつも夜遅くまで働いている。

 離婚してすぐの時は、まだ元気にふるまっていたが、最近元気がない。どうやら疲れがたまってきているらしい。料理も簡単なものになってしまった。

 少なくとも僕は責任を感じている。僕がいるせいで二人分のご飯を作らなければいけない。お金の支出も増える。ましてやパートなんかで余裕ができるわけがない。疲労の原因も、お金を稼ぐために夜遅くまで働いているから――。と、思考がループするときも何回もある。いろいろと手助けはしているが、母さんの表情が疲労困憊モードから変わったことはほとんどない。


 ――いっそ、異世界に逃げ出したい。


 なんて考えたときもある。


「はぁ……」


 母さんがため息を漏らした。音のない部屋が、一気に暗いムードになる。


「きょ、今日何やってるかな〜?」


 静かさに耐えられなくなった僕は、慌ててテレビをつける。ちょうど、人気のバラエティ番組が放送していて、芸人たちが大声で番組を盛り上げていた。


「ハハハハハ……ま〜た騙されてるよ、かの栄光」


 僕の笑い声に返答はない。母さんは、ただご飯をゆっくりと食べているだけだ。

 正直、どうしたらいいかわからない。


「母さん」

「………? どうしたの?」


 僕の声に、母さんは顔を上げる。


「僕って、邪魔?」

「……何言ってるのよ。急に」


 自分でも、こんなことは言いたくない。でも、このままの状態を一刻も早くなおしたかった。


「だって、最近ほとんど笑ってないし。しんどそうだから」

「そう? 私は、元気よ。ほら」


 そう言って、母さんは力こぶを作って見せる。無理やりなのが丸見えだ。


「無理しなくていいよ。このままじゃ、倒れちゃうと思う」

「はぁ……確かに、しんどいわ。でも、しょうがないの」

「しょうがなくない。母さんは休むべきだ。しばらく一人で」

「できるものなららそうしたいけどね」


 そのセリフを聞いた途端、僕の頭の中にあの引き出しが思い浮かんだ。


 ここではないほかの場所。

 このまま何も変わらないのはいやだ。

 ――いっそ、異世界に逃げ出したい。

 読むときに、自分がそうありたいと願った、あのライトノベルの主人公になりたい。何もかもを忘れて読みふけった、魅力あふれる世界に行きたい。


 ……なりたい。……行きたい。


「じゃあ、少し旅に出てくる」

「……何言ってるの?」

「い、一緒に暮らさないかっていう誘いを受けて。その……友達の知り合いの海外にいる夫婦から」

「そんな嘘、すぐにばれるわよ」

「いや、本当だよ。その夫婦は辺境に住んでいるから、連絡とかもつかないんだ。それでもいい?」



 それを聞いた母さんは、少しだけ微笑んだような気がした。



「あなたは、行きたいの?」


 そう言われて、もう一度あの引き出しを思い浮かべる。

 ……正直、怖い。

 でも。

 ここではない世界。そう考えただけで胸がドキドキしてくる。その世界は、もしかしたら魔法が使えるかもしれない。もしかしたらいろんな人間――夢に見た、獣耳の人間がいるのかもしれない。そして、たくさんの美少女が助けを待っているのかもしれない。

 そして、何よりも。

 この機会を逃したくはない。


「うん。行きたい」

「本当に? 後悔しない?」

「……うん。しないと思う」

「思うじゃだめよ。絶対しないって、そう言えなきゃダメ」


 絶対、か。どうだろう? そう言われてみると――


「……うん。絶対」


 ――迷う心とは裏腹に、僕の口からはそんな言葉が出てきていた。

 モヤモヤとした感情。

 しかし、自分はそう言ってしまったという事実に、ただ黙るしかなかった。


「そう。……じゃあ、行ってらっしゃい」


 そして、時は過ぎていく。

 母さんは、僕の言葉にうなずいた。


「……うん」

「その夫婦さんにもよろしく言っといて。……で、いつ出発するの?」

「え、ええと、よければいつでも電話してって言ってたから――明日にでも行こうかな……」

「用意は? 着替えとか、お金とか」

「ぜ、全部あっちが用意してくれるらしいよ」

「そう。良かったわね。……で、明日のいつ頃なの?」

「母さんが仕事から帰るまでには、出発してる」

「わかったわ。くれぐれも、迷惑をかけないことよ」

「うん。じゃあ、電話してくるね」


 僕は台所を出て、電話しているふりをする。そして、何分か経った後に、再び部屋に戻った。


「どうだった?」

「大丈夫だって! その夫婦、今週には帰るらしいんだけど、僕が来るって言ったらすごい喜んでたよ!」

「……じゃあ、決まりね」



 そう言って、母さんは僕に近づいて――

 ぎゅっ、と抱きしめた。



「心配かけてごめんね。でも、きっとタクなら、どんな世界に行っても成長できるわ。私も元気でいるから。どうか、私のことは心配しないで。辛いことがあっても、私みたいに落ち込んじゃだめよ。……約束ね」

「……うん」


 その時の母さんは、まるで僕と永遠に別れるような、そんなオーラを放っていた。

 そのオーラから逃げ出すように、僕は母さんを引き離す。


「じゃあ、もう寝るよ」

「ちゃんと歯を磨きなさいよ。あと、中学には言っておくわ」

「助かるよ。……じゃ」


 急いで洗面所に行き、歯を磨いてから、二階に上がる。



 ……これでいい。

 これでいいんだ。

 これが、最善最良の方法だ。



 僕は異世界に飛び立つ。そして美少女と出会う。もしくは、強い力を身に着け、悪と戦って美少女を助ける。そして母さんはゆっくりと休む。一石二鳥だ。そうだ、一石二鳥じゃないか。

 自分の部屋に戻り、一呼吸おいてからあの引き出しを開ける。

 案の定、そこにはゆがんだ空間があった。夢ではない。

 覚悟はできた。後は飛び込むだけだ。母さんは、朝早くに家を出るから、今行っても問題ないだろう。気持ちが変わる前に行っておきたい。

 そうだ。クロニクルに、異世界の出来事を記して持って帰ろう。

 僕は、机に立てかけてあったクロニクルとペンを持ち、ゆがんだ空間へと飛び込んだ。

 いざゆかん! 異世界!


              

簡単な状況説明でした。いきなり鬱です。そして残念な主人公ですね。





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