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8 父、ルータス

 



「ニホンって、どんなところなんだい?」

 ルークの最初の質問は、非常に抽象的で、答えにくい質問だった。その声からして、いかにもワクワクしているのが感じられる。


 どこから言おうか……。じゃあ、芸術面にしよう。これは、店を開いているときに思っていたことそのままだけど。

「えっと、最近は、斬新な歌とかネタとかが流行っているよ」

「ねた? それはなんだ?」

「ネタというのは、それこそラ●●●●●●イとかのことだよ」

「ラ●●●●●●イ? ラッスラロンライではなく?」

「うん。ラ●●●●●●イ」

 何回黒丸使わせる気だ。


「そんな感じで、何かと奇異なことが流行ったりしてるよ」

「ほほう……奇異なことか。たしかに、そのネタはボクにしてみれば奇異なことだった。日本ではそれが流行っているということだな?」

「ええ。あとは、号泣議員とかぁぁああ!(泣)」

「久子、それはやめよう」

 流行ったとかそういう問題ではないし。


「それも気になるが、君たちがやめるのなら仕方がない。では、斬新な歌を教えてくれ」

 ※著作権保護中〜歌詞って危ない〜

「確かに、斬新だな……何か、合言葉のような感じがする。何度もその言葉を繰り返している所からも、その言葉が頭に残るように工夫されている気がするなぁ」

 専門家か。


 その後も、僕たちはルークからの質問の嵐にただ答えていくのみだった。車や電車、飛行機などの乗り物やインターネットの存在などに大げさに驚くルークの表情には、印象に残るものがあった。

 もちろん、僕たちが質問をする暇なんてなかった。なにも最初の質問だけ聞いたらいいものではない。ルークが未熟者だと言われていることが少しわかったような気がした。


「それも面白い! まだまだ聞かせてくれ! もっともっとニホンについて知りたいんだ!」

「いいけど……その、ルーカスさんは日本について何か言って(手を<にしてパクパク)なかったの?」

 久子が呆れ気味に言った。もう、何回答えているかわからない。ルーカスさんが言ってくれるなら、それでいいんだが。

「え? いや、何も言っていないけど――」


「そこまでだ、ルーク」


「――父さん!」

 扉を開けたのは、壮年の男性。威厳を感じさせる声に立派なひげときりっとした眉毛。角ばった顔は、生粋の王族であるという印象を与える。服はもはや当たり前となってきた肌色の布服。しかし、ルークとは違って赤色のマントを羽織っている。

「ルーク、お前にはまだ日本の知識は早い。もう少し精神的な教育が終わってからにしなさい。ほら、もう勉強の部屋で先生が待っているぞ。これ以上他人に迷惑をかけるでない。わかったな」

「はぁ〜い……」

 返事が子供だ。

 しかし先生か。専属でマンツーマン教育とかやっていそうだ。きっと先生も、こんな生徒の相手は疲れることだろう。


 悲しそうにルークが去っていった後、その男性は自己紹介を始めた。

「初めまして。私は、ルータスという。ルークの父であり、ルーカスの子供だ。あんな未熟者の相手をしてくれて感謝している」


 僕たちも、立ち上がる。

「いえいえ。楽しかったです。あの、こちらこそ初めまして。僕は卓郎といいます」

あ、敬語になっちゃった。……まあ、敬語の方が逆に気が楽だからいいけど。

「ほう、タクロウか。日本人特有の響きを感じる」

 ルータスさんは、うんうんとうなずいた。

「私は、久子って言います」

「ろーらん」

 僕に続いて、二人も自己紹介をする。


「ヒサコにローランか……ん? ローランはニホン人なのか?」

 ルータスさんはいぶかしげにローランを見る。やっぱそうだよな~。名前的に違いすぎるし。友達に何とかローランっていたら、キラキラネームとしか思わないし。

「いえ、違います。僕たちと一緒に旅をしている子供です」

「そうか。その服装からして、今まで様々な困難に出会ってきたと見える……こちらで、似たような服を用意しよう。キャロラ、これと同じようなものをローランに作ってやれ」

「はい」

 言われた女性(メイド的なものだろうか)は、そう言ってどこかに行ってしまった。


「あの、すいません。そこまでしてもらって。ほら、ローラン、ありがとうだ」

「ありがとう。るーたす」

 ん~。かわいいこえ~。

「気にすることはない。ここまで歩いてくるという苦労を押し付けているんだ。何かお返しはさせてもらおう。……そういう気遣いができないところも、あの馬鹿の悪いところだ。会議への参加は、まだまだだな」

「あはは……」

 ドンマイ。ルーク。


「ところで、タクロウは旅と言ったが、どういった旅なんだ?」

「あ、えと……簡単に言えば、日本に帰るための旅ですね」

「ほう。カズトヨと同じことを言っているんだな」

「そうなんですか?」

 なんかうれしい気がする。

「ああ。カズトヨも、この国を作ってしばらくたった後に、同じ理由で旅立っていったと父さんが言っていた。それ以来この国には来ていないらしいがな。はたして、どうなったのか」

「はあ……」

 遠い目をするルータスさん。この人も、カズトヨさんを尊敬しているんだろう。戻ってきてほしいのかもしれない。


「ああ、ごめん。君たちに、探すのは危ないからやめておけと言っているわけではない。元の世界に帰りたいのは、当たり前だと思うからな。でも、少し休んでいくといい。長旅で疲れているだろう」


「はい。いろいろと、大変なことがあったんで」

 特にローラン。あの町に来るまでに経験してきたことは、僕達には及ばない。


「わかった。部屋は用意しよう。食事は、昨日渡したカネの実を使って、店で買ってくれ。実はこの国では、王宮以外でのニホン語の使用は禁止されているんだ。町へ出るときは、それに注意してくれ。そして、また旅に出るときは、声をかけてくれればいい。とにかく、そのことを守ってくれれば十分だ」


「ありがとうございます。これ、カネの実っていうんですか?」

 何ともそのままな感じだ。

「ああ。どうやら、この国ができてしばらくしたとき、この城の中庭に生えたらしい。何とも不思議だ。しかも、取ってもすぐに実ができる。これを利用して、現在の『交換制度』の仕組みができたんだが……。私も授業で習っただけだから、その木についてはよく知らないがな」


(不思議というより、明らかにおかしいわね。急に生えるってないわよ普通)

 久子が耳打ちしてきた。

(確かに。この城の完成度といい、おかしいところはあるね)


「何はともあれ、父さんが君たちに会いたがっているんだ。いろいろな質問はあると思うが、それは、後にでも私が聞こう。とにかく今は君たちを父さんの所へ案内する。ついてきてくれ」

 そう言って、ルータスさんは歩き始めた。



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