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6 「ごめんください」

「デカいな」

「デカいわね」

「でかい」


 そう。僕たちが三重奏するくらいにはでかい。

 レンガでできたそれは、三段のピラミッドよろしくそびえたっている。「とりで」みたいな感じだ。

 しかし、決定的な特徴があった。


 門がない。


 ついでに言えば、門番もいないし城壁もない。なにこれセキュリティ大丈夫なの?

「私たちから見れば、馬鹿大富豪ね(頭くるくるパー)」

呆れたように久子が言う。……その、うまいこと言ったみたいなドヤ顔はいらん。あと手ぶりもいらん。

 しかし、その顔と手ぶりを差し置いても、その通りだといえる。こんなの簡単に侵入されて何か盗まれて終わり。本当に馬鹿としか思えない。魔法かなんかがあれば別だけど、ローランは、見る限り特異な存在であるところからして、一般的に流用されていることはまずないだろう。

 そして決定的なのが、案内人がいないこと。日の出の後に来てとか言っておきながら、城の入り口は(敷地のことね)人っ子一人いなかった。これは、僕たちに勝手に入って城のドアまで来いと言っているようなもんだ。

「とにかく、行きましょうよ」

 仕切り屋久子の掛け声により、僕達は足を踏み入れた。

 草原の中央に伸びる道を歩く。そんなに長くはない。日の出の後なので、少しひんやりとした空気が、敷地に入った僕達を出迎えた。

 ドアは木でできた大きいものだった。さすがに、勝手に開けるわけにはいかない。

「ごめんください」

 と、ひと声かけてみる。


「ご、ごめん!」


 ん?

 中から聞こえたのは、なぜか謝る声。

 あ、開けるのが遅くなってってことか? そんなの気にしなくて――いや、違うか。僕は、声をかけたばかりだ。

 じゃあ、なんだ? ……ああ、そうか。案内人を出さなくてってことか。まあ、それについても、怒ることではない。むしろ注意したいくらいだ。

 とにかく、少し待ってみよう。


 …………。

 ………………。

 …………………………。


「何よここ(人差し指で手首を叩く)」

「おそい」

 次第に、二人にも不満の色が見え始めた。どれだけ待たなきゃいけないんだよ!

 しょうがない。

「じゃあ、もう開けるよ」

 僕は二人にそう言って、大きな扉を開け―――


「ようこそ」


「「いるなら開けろおおおおおおおおおおおおおおおお!」」

 ドアを開けた途端、当たり前のように出迎えてくれた美少年が一人。あまりの衝撃に、僕と久子の叫びがシンクロしてしまった。

「どうした? そんなに怒って」

 昨日と同じ王子さんは、美少年らしい透き通った声で聞いてきた。

 どうやら理解できていないご様子。なんだこの人。

「いや、聞いてなかったんですか! ちゃんと声かけましたよね?」

 僕にしては、礼儀良くしたつもりだぞ!

「声? ……ああ、キミ達がボクに謝ることを要求したとき?」

「そんなこと――っ!」

 ……待てよ。


 ごめんください。

 ごめん、ください。

「ごめん」ください。


「「そういう意味じゃねええええええええええええええ!」」

 天然だ! この王子天然だ! ……またシンクロした。

「ごめん。ボクの責任だ。やはり、キミ達ニホン人のニホン語は、少しわかりにくいことがある……」

 申し訳なさそうに頭をかく王子。

「「……あ」」

 そうだ、この人、地球人じゃないんだっけ?

 そうだとしたら、結構すまないことをしてしまったような気がする。


「「こちらこそごめんなさい」」

 いったい何回なるんだ? これ。僕と久子は、意外と仲がいいのかもしれない……。

「く、屈辱だわ」

 あ、違ったみたい。

 久子は(無念!)という感じで、床にへたり込んだ。あと、できれば、心の中でお願いします。

「いや、これはボクの責任でもある。まだ十分な教育を受けていない未熟者が、本場の人間にかなうはずもない」

 教育?

「あの、教育って……?」


「ああ。教育とは、先生にあたる人が生徒に対して様々な知識を――」


「「そうじゃねえええええええええええ! …………あ」」

「むっつりとひさこ、なかよし」

 ほら。ローランも勘違いしちゃったよ。やっぱり僕たちは、仲がいいんじゃ――

「……う、ううう……」

 ――って久子さん? 泣くことはないでしょう! そんなに悔しかったの!? もしそうなら僕も泣きそうだよ!

「物心ついて以降、泣いたことなんてないのに!」

「うそぉん!」

 そこまでの人が、僕とシンクロしただけで泣いちゃうのか!?

「ほほ〜。涙を流すまでとは、美しいね……。仲がいい。友達。これらはボクの好きな言葉だ」


 もう、いろいろとごちゃごちゃで、描写しづらくなってきたぞ。


 こういう時は、話を戻すのが一番だ。

「あの、教育についての説明ではなくて、あなたが――」

「ルークで構わないよ」

「――ルーク、さんが――」

「さんはいらない。僕たちは、ニホン人を尊敬しているんだ。だからルークで構わないよ」

 日本人を尊敬って……また、聞きたいことが増えてしまった。

 でも、とにかく今の質問を――

「る、ルークが受けている教育というものについて、どんなものかを教えてほしいんだけど……」

 やべ。呼び方につられてタメ口になっちゃった。

「ああ! そういうことか!」

 しかし、ルークに気にした様子はない。そういうの、関係ないのかもな。


 思えばそうだ。

「城には門がないといけない」とか、「目上の人には敬語」とか、僕たちは、これまでの出来事を全部日本に当てはめて考えすぎしまっていた。やっぱりここは、この世界からの観点で、物事をとらえるべきなのかもしれない。

 早く、慣れないとな。地球に帰ることを考えている自分としては、複雑な心境だけど。


「その質問に答えたいところだが、なんせ長くなりそうだ。しかも、ボクからも質問したいことがたくさんある。ここは場所を移すとしよう――ほらヒサコ、その美しい友情の涙をふくんだ」

 手のひらを差し出すルーク。見れば、久子はまだ泣いていた。どんだけだよ。

「そして、キミの名前は?」

「ろーらん」

 聞かれたローランは、笑顔で答えた。

「ローランか。キミは、ニホン人ではなさそうだね?」

「うん。せいかい」


「じゃあ、どうしてニホン語を話せるんだい?」


「…………」

 笑顔が消えていく。当たり前だ。おそらくローランは、まだルークを信頼していないんだろう。ここは僕が。

「それも、後ででいい?」

「……ああ。わかった。それでいい。では、行こうか」

 あれ? 僕の名前は?

「えと、僕の名前は知ってるの?」


「ん? もちろん知っているさ。先ほど、ローランが言っていたじゃないか――」

 ……あ。いやな予感。


「――ムッツリ「僕はムッツリじゃねええええええええええええええええええ!」


 ほんと、いつ卒業できるんだか。

 まあでも、久子が笑っていただけでも良しとしよう。

 今は、ムッツリでも良い。






 いや良くないけど!


ニホン人なのに、ニホン語を上手く話せない私って一体……。




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