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4 「ムッツリメガネ」再び! ……あと王子。

遊びながらも、今までの集大成をここに込めてます。

温かく見守って下さい。

「……ハッ!?」


 視線の先には、木々の葉っぱから漏れる太陽の光。

 あれ? なぜか朝になっている。

 えーっと……確か、昨日は寝床を見つけて、リズムネタについて話し合って、ローランがマジックするとか言って――なんだったっけ? そこからの記憶が抜けている。

 でも、とても不安になるような出来事があった気がするんだけど気のせいかな?


「あ、ムッツリ。目覚めたのね?」


 見ると、久子はもう食事をしていた。ローランも一緒に食べている。ちなみに草。


「むっつり、しんだかとおもった」

「え?」


 死んだ? そんな危険なことがあったのか?

 え、でも、そんなことがあったんなら、久子の様子が当たり前の日常じみすぎていてよけい不安になってしまうのだが。


「あれ? 覚えてないの?」


 久子が眉毛を上げながら聞いてくる。


「……いったい何があったの?」


 何かに襲われたのか? やっぱりおまじない効いてなかったのかな?


「あー。覚えてないんだったらいいのよ」


 久子は手をぷらぷらさせながら投げ捨てるようにいった。


「軽っ!」


 人の命がかかわっているというのに、何その適当な受け答え! 昨日の夜のあの「タク」とか言ってたの何? いろいろとおかしいから!


「そんなことより、さっさと食べなさいよ。もうなくなるわよ」


 久子が指示したのは、小さな草の山。きっと、最初はもっと高かったのだろう。


「……わかったよ。今命があるということで十分ということにするよ」


 しょうがない。

 僕は起き上がり、残り少なくなった草たちに手をかけ、口に――


「――いってぇぇぇぇぇぇ!」


 突然、顎に激痛。


「ふふっ……」


 久子さん!? ついに笑ってしまってますよ?


「あが。なんだこれ」


 口をある程度の位置まで開けると、顎関節のあたりにキリキリとした痛みが走る。


「久子さん? 何か、知っていることはないかな?」


 ここまで来たら、もう誰だってわかる。絶対コイツがなんかしたんだ。


「え〜。知らないけど〜」


 そのわざとらしく口笛を吹くような真似むかつく。


「なんだよその態度は! ここには、医者というものがないことぐらいわかるだろ! もし久子がなんかしたっていうなら――」

「ひさこはわるくない」

「――ローラン?」


 僕が久子に詰め寄っていると、ローランがそれを止めるように、僕の服を引っ張った。

 うるっとした青い瞳。小さい顔。きらびやかな金髪。

 ああ。天使だ。


「ひさこは、なにもわるくない」


 そうか、久子じゃなかったのか。ローランが言うんだったら、きっとそうなのだろう。


「そうだったの? ごめんごめん。僕としたことが――」

「むっつりがわるい」

「…………」


 いま、何とおっしゃいました?


「むっつりのせいかくがわるい」


 性格!? 僕の性格!?


「……く……くく……」

「そこ! 笑いをこらえない!」


 久子さん、爆笑寸前だった。絶対なんかある――

 ――いや。

 それ以上の大問題が発生しているかもしれない。

 久子が僕に何か悪いことをすることは、とっくに証明されていること。いまさら何がどうこうといった話ではない。

 しかし、ローラン。

 そう。ローランがもし、それを許す、もしくはそのムッツリいじりに参加しているというのであれば話は別だ。


「――!」


 待てよ? ローランは『ムッツリの性格が悪い』と言った。性格ってなんだ? ……もしや、僕のいじられ体質?

 そんな……


「そんな、ばかなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 ああ、ローラン。

 僕の純粋なローラン。

 君は、どうして、あんなメガネの仲間になるんだい?

 こんなにも、僕は君を愛しているというのに!


「じゃ、行きましょうか」

「うん。まじっくたのしみ」

「…………」


 ほんと、お先真っ暗。


              *


「三十個か……ごめんねローラン。マジックはまた今度になるわ」

「すてーじ、でたかった」

「大丈夫よ。今回はローランにも出番を作るわ!」


 所変わってメインストリート。僕たちは布屋を見た後、昨日と同じように地面に絵を描いて即席のお店を開いていた。

 また、よく考えたら、値段の紙を置いていなかったことに今更ながら気づき、クロニクルの一ページを少し破って「●×3」とした。紙を置かなかった責任がだれに向いたのかは言うまでもないだろう。というか言いたくない。

 三十個というのは、布に対するあの実の個数。僕のポケットに入っているのは、昨日稼いだ三個だけだから、あと二十七個――お客にして、九人が必要となる。久子曰く「九人だったら楽勝よ!」らしいのだが、はたしてどうだろうか。

 また、僕がひそかに心配しているのは『タンパク質の欠乏』これに尽きる。いや、尽きないけど! 『僕とローランの関係』とか、『この先の僕の扱い』とか、いろいろと気になるところはあるけれども! でも、今真っ先に心配なのがタンパク質なのであって!

 ……ふう。

 とにかく、もうそろそろ草以外も食べないと、僕達の体がヒョロヒョロになるのも時間の問題だ。本当に、お客さん来てほしいです。はい。


 ――長時間経過。


 この、『長時間経過』という表現という観点から見て、もうお気づきの方もいらっしゃると思いますが、一応ご報告。

 収穫、ゼロ。

 まあ、大方私の予想通りと言ったところでしょう。やっぱり、その世界になじみのない店というものは、本当に、未来が二つしかないんですよ。

 一つは、斬新なスタイルが評価され、一躍有名に。

 もう一つは、客がほとんど来ないまま終わる。

 よくある、飲食店。この場合は、『客は少ないが、何とか店を続けられている』、もしくは『すべてが普通』という項目が追加されるわけです。だから、どれだけ短くても、一年は持つ。

 しかし、何度も言うように、この世界の『サービス業』はまだここで一号店。そして、スタートダッシュに失敗。これがどういうことを意味するか。はい。失敗です。

 これは、ほかの業界にも言えます。例えば某きゃりーさんは成功したパターンです。あの斬新な雰囲気と歌詞。これが現代の若者にうまくマッチしました。

 失敗例は……そうですね。僕の物語ですかね。チートなし攻めて、今の時点でブックマークあんまり伸びてません。はい。

 

 という、専門家みたいな考えをする余裕があるほどには、暇していた。

 何はともあれ、収穫ゼロ。途中、峠に戻り昼食をとった時間はあるにしても、かなり悲しい結果になってしまった。


「しょうがない。ステージにかけるしかないわね」


 久子はステージがある方向を見つめて瞳を燃やした。

 日は、もうかなり傾いている。もうそろそろ始まると思っていいだろう。


「じゃあ、ムッツリ、今日は、これで行きましょう」


 ――ネタ合わせ中――


「結構面白いとは思うけど、ちょっと古いかな?」


 それが、僕の印象だった。あれって何年前にブレイクしたんだっけ?


「この世界に古さは関係ないのよ(人差し指でノンノン)」

「そうだけど……それじゃあ、ローランがまた入れなくない?」

「大丈夫。それも考えてあるから」

 大丈夫かな?

               *


 その後も全く売れないまま迎えた夕方。

 昨日と同じように、徐々に人ごみが少なくなり始める。店を閉まっている所もある。これは始まりの合図とみてよさそうだ。

 僕たちも立ち上がり(しまうものもない)昨日のステージへと向かう。案の定、近づくにつれ歓声が大きくなってきた。拍手も聞こえる。


「あれ? なんか、今日客多いわね」

「お、本当だ」


 昨日は、ステージに行くまで、客は見えなかったはずなのだが、今回は道まではみ出している。誰か有名なパフォーマーでも来ているのか?


「ふっふっふ」


 ローランさんも気合十分。客が多いと燃えるタイプかな? かわいい。


「やってるわね」


 ステージにつくと、今度は、様々な形の石を高く積み上げるおじさんがいた。いや、あれってバランスどうなってるの!? 普通にすごい。


「ついに、ムッツリもおじさんをターゲットにしたか……(あちゃー)」

「してねぇよ!」

 強引過ぎる。いくら僕がゲイでもさすがに無理だ。


「まあ、何はともあれ、次行くわよ! 客も多いし、うまくいけば多くの実が集まるわ!」


 うまくいくと思っていらっしゃるのかしら。

 まあ、落ち着いて考えてみたら、あの石おじさんとか、ジャグリングセクシーおにいさんに匹敵するアクロバティックな技が何かあるかと聞かれればなにもないんだけど。それなら、さっきも考えたように斬新な物をやってみるのもいいかもしれない。

 と、結構ポジティブに自分を鼓舞する。そうしないとやってられない。

 パチパチパチパチ!

 盛大な拍手が巻き起こった。僕も一緒に拍手。

 おじさんは、満足げな顔をして、実を袋に詰め、石とともにその場を後にした。

 重そう。


「何やってるのよ。早くいくわよ!」


 久子とローランはもう、ステージに向かっていた。拍手している暇はない。暗くなりすぎる前に峠に帰らねば。

 2人はステージに上がった。どうやら、僕達が次のパフォーマーと認められたようだ。僕も慌てて追いかけ、ステージへ。

 よし。今日もコツコツ――


「「……うわ」」


 もちろん、この声はネタというわけではない。

 じゃあ、どうしてこんな声を上げたのかと言えば、その理由は観客にあった。

 王子。

 文字通り、いかにも王子らしき、まだ顔に少し幼さの残る美青年が一人、民衆の肌色の服の上に黄色いマントを羽織って、専用のいすに腰掛けていたからだ。しかも真正面。周りは立っているから余計に存在感がある。


「絶対に成功させるわよ」

「もちろん」


 これは本当にチャンスかもしれない。ここで、王子様のお墨付きをもらえれば、ひとまず生活は安泰だ。

 さて、やる気も出たところで行くか。


「ムッツリメガネです!」

「お願いします」


「ムッちゃんいつものやったげて!」

「おう、聞きたいか俺の武●●」

「そのすごい武●●をいったげて!」

「俺の伝説ベストテン!」


 武●●×3


「初めて日本の人と会う」

「すごい、最初のセリフは地味っ子メガネェェェ!」


 武●●×3


「店の商品をかっさらう」

「すごい、理由に女房入ってる!」


 武●●×3


「子供に食料を与える」

「すごい、理由に不純も入ってる!」


 武●●×3


「いいよ〜。ムッちゃんムッツリすぎるよ〜。よし! じゃあ座禅をしよう!」

「いいだろう」

「じゃあ、あぐらをかいて――」


「ひえ。ひえ。しゅうちゅうしゅうちゅう」


「ほら、ムッちゃん。集中だよ〜」

「バサバサつばさ。バサバサつばさ」

「ムッちゃん! なにをやってるのさ。全然集中してないよ!」


「しゃらくせぇ――――――!」

「うわー! な〜にするのさ!」



「雑念なんてあるに決まってんだろ―――――――――――!」



「ムッツリィ―――――――――――――!」


「空を飛んでいる幼女見る」

「すごい、妄想百倍ムッツリマン!」


 武●●×3


「顔に裏拳でマジ怒り」

「すごい、幼女なだめると落ち着いた!」


 武●●×3


「「いーみはないけれどムーラムラしたから〜仮想人間とあれをする〜」」


 ―――――――――――――――――――――

 ローラン、歩く。

 卓郎、後ろから追いかける。笑顔。

 触ろうとする。

 悩む。

 でも、触ろうとする。

 悩む。

 …………。

 タッチ&リターン。

 ―――――――――――――――――――――


 ガンガガンガンガンガガッキン!


「今までムッツリ否定してたけど実はちょっと正しい!」

「ペケポン!」



 パチ。

 パチパチ。


「はぁ……はぁ……どうだ?」


 ミスはない。やり切った。いや、そんなにやってて気持ちいいものではなかったけど。いろいろと大事なものを失った気がする。

 しっかし疲れた。動き激しすぎるわ。手に膝つかないと倒れそう。


「ムッツリ! ほら見て!」


 下を見ていると、久子の嬉しそうな声がした。


「えっ!」


 うわ。王子来た。

 その王子は、ザルの前まで来ると袋を取り出し……その上に置いた。

 あれ? めっちゃたくさん入ってない?


「やった! やったわ! ほら、さっさと退場するわよ!」

「お、おう……」


 ほんとにあんなので感動したのか? それだったら、あの王子はかなりの変人だと思う。いや、僕も変人だけど。あ〜やばい。自分に自信がなさすぎるよ……。

 久子が取った袋の下には、ちょうど三個の実があった。もしかして、三個は参加賞みたいなものなのだろうか。だとしたらちょっと悲しい。

 まあ、何はともあれこれでお金の心配はしばらく不要だろう。王子が変人で助かった。


            *


「明日が楽しみね」


 久子は、渡された袋を、満足そうに持ち上げる。クロニクルは僕が持つことになった。

 夕焼けも、もうすぐ終わり。僕たちは今国の入口に差し掛かったところだ。


「うん。その様子だと、何でも買えそうだね」

「ええ。それに布を合わせてマジックしたら、さらに儲かるわ」

「ほほう。さすがですな――あべば!?」


 久子の裏拳。


「懲りないわね……」

「むっつり、おもしろい」


 顔に裏拳でマジ痛い

 すごい、幼女にさえも笑われる!

 ってところだろうか。ムッツリの方がまだマシだよ。


「とにかく、こんなにもらえれば――あれ? これは何かしら?」


 袋の中身を見た久子が、素っ頓狂な声を漏らした。そのまま、袋の中に手を入れ、何かを取り出す。

 これは……紙?

 茶色のそれは、いつかの管理人が持っていたものと同じだった。


「何でこんなものが……」


 久子は不思議そうに、その紙を開く。


「ひ、ひらがな」

「えぇ!?」


 そんな馬鹿な!


「とにかく、読んでみるわ。本当に全部ひらがなで書いてあるから絶対読みにくい」


 久子も驚いたのだろう、身振り手振りも忘れて、真剣な声だ。


「わかった、頼むよ」


~~~~~~~~~~~~~


「僕は、ルーカス王国のルークといいます。ルーカスの孫です。昨日、日本語を話している人間がいるということを仲間から聞きました。もし、日本というところから来たならば、明日の日の出の後にお城へ来てください――」


~~~~~~~~~~~~~


「――だって」

「え? じゃあ、地球人じゃないの?」

「さあ。とにかく明日は行ってみましょう。捕まるわけではなさそうだし」

「うん」



 いったいあの王子は何者だ?




 



今でも大好きです。

次回から国の仕組み説明が若干入っていくと思います。


もちろん、笑いを忘れないように。



武●●に「黒歴史」って合いそうですね。韻は踏めませんが。


追記!

ifですが、パクりではない漫才をanotherストーリーとして書いてみました。まあ、卓郎たちなりに頑張っていると思います。


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