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1 三重奏。からのロリコン。

「デカいな」

「デカいわね」

「でかい」


 そう。僕たちが三重奏するくらいでかい。描写は難しいけど……ざっとあの町の倍以上。いや、もっとかな? とにかく大きかった。あ、バチカン市国みたいな感じかな。よく知らないけど。

 川も、二つ、根元から分かれるように――町を丁度三つに分けるように流れている。どうやら、水に困ることはなさそうだ。

 あと、なんか奥の方に城も見える。城の前に広がる建物があの町ぐらい低いので、高い城はなおさら存在感があった。

 

 ぐ〜。

 ぐー。

 ぐぎゅるるる〜。


 そう。僕たちが三重奏するくらいに腹も減っている。町――じゃなくて、国(と言っていいだろう)を見たからかな? 今まで空気が悪くなるのを恐れて言わなかったけど、食のありかを自覚すれば体は正直だった。


「何か、食べ物があればいいけどね。もう盗むのはこりごりだし。ローランの力も最小限にしたいね」

「そうね。まあ、誰かにマッサージとかやってみたら(肩もみのまね)、何かもらえるかもしれないし……とにかく、いろいろやってみましょう」

「それきた! 期待が持てそう!」

「ちょっとまって」


 と言ったのはローラン。そのまま、道端の木々の中へ入ってしまう。どうしたんだろう?


  *


「これ、たべられる」


 帰ってきたローランの手には、様々な長さの草や葉っぱがたくさんあった。

 ……え? 食べられる?


「どうして、そんなことがわかるの?」


 草なんて、食べるもんじゃないし――


「い、イタダキマス」


 飢えたメガネが一人。どうやら何でもいいようだ。あ、さっきの最後の腹の音は久子です。僕だと思った? ザンネ〜ン!

 がつがつ食べる久子を横目に、ローランが質問に答えてくれた。


「たべたいとおもったら、たべられるものがわかる。いままでも、それでいきてきた」


 そう、自慢げに話したのだった。

 いやもうほんと、無敵ですよね。確かに、僕たちが勝手に死んだら、話それで終わりですもん。ヘタレ中二病と地味っ子メガネが、魔法も何もない異世界旅しても、種がなさすぎますもん。しょうがないですね。……そこは置いといて。


「ありがとう! それは信頼できるね。じゃあ、食べよう――久子は終わり」

「ふぇ?」


 見れば、メガネは、ローランがとってきたうちの半分を平らげていた。……半端ねぇ。三人いる中で食糧半分食べるとか半端ねぇ。


「もうちょっととってくる」


 そんな久子を見かねてか、ローランはまた食材を取りに行ってくれた。というか――


「幼女に気を使わすなよ!」

「ごめんなさい。その気になれば食べ物はあるってわかった瞬間にはもう止められなくなっていたわ……」


久子はしょんぼりと主張した。でも、言いながら草を食べているので、説得力も何もない。


「まあ、気持ちはわからないでもないけど」

「そうでしょ! ここは少し、甘えさせてもらいましょうよ~」


 ああ。こうやって人間というのは堕ちていくのか。


    *


 結局、ローランは計三回も食材を取ってきてくれた。味はいいとは言えなかったけど、僕たちのおなかも、腹五分目くらいにはなったし、元気も出た。ローランサイコ―。

 と、いうわけで、今、僕達は峠を降り、国の入り口に立っている。入口と言っても、そんな立派なものではなく、最初の町と同じようなアーチの入り口だった。というか、国の線引きが自然と一体化している。壁も何もない。雇われ警備兵もいない。どんだけ平和なんだよこの世界。

 そんな感じなので、何の検問もなく簡単に入ることができた。


「なんか、人がいないわね」


 そう。しかし人がいない。こんなに大きな所なのに、人が見当たらない。なぜだどーしてだ。

 というか、ここ一帯の造りが全然違う。前の町みたいに、入口からずーっとメインストリートなわけではなく、複雑な感じで建物が立っている。道幅こそ広いものの、これでは遠くを見渡せない。


「いろいろと回ってみましょう」


 久子の声で、僕たちは歩を進める。しかし、回っていく限りでは、何の変哲もないただの建物が並ぶばかり。お店と呼べるものも見当たらない。これは一体どうしたことか。

 ただ、一つ言えるとすれば、一つの建物に一つずつ絵が飾ってあったことだ。三人の話し合いの結果、これは、だれの家かを特定するため、という風に結論付けた。ということは、ここは住宅街か。

 しばらく歩き続けると、水の音が近くなってきた。一本目の川が近いのだろう。


「あれ? なんか騒がしくない?」


 すると突然、久子が、手を耳に当て、前のめりになった。


「ほんとだ」


 ローランも、そのまねをする。

 ここで僕は、衝撃の映像を目の当たりにした。

 見よ! この、コントラストを!

 ここで、位置を確認しよう。歩いているフォーメーションは右から順に久子、ローラン、僕。そして、前のめりに耳を傾けている向きは人とも右耳! これが、どういった結果を招くかッ!

 そう、これこそが若さの違―――


「馬鹿。ロリコン。略してBLパーンチ!」

「あべばっ!?」


 久子の拳が顔面に、右フックで決まる。妙なアニメ声も相まって、威力は大だ。


「どうして! どうしてわかった!」


 そうだ! 僕は考えていただけのはずだ! なのにどうして!


「手で額縁を作って(手で額縁を作る)見比べてたら大体の予想はつくわよ」


 くそっ。手が勝手に! 久子の手振りも勝手に!


「ろりこん?」


 ローランが不思議そうに言った。略語はわからないのかな? ……というか、そんなこと思っている暇はない!


「あのね。ロリコンっていうのはね。ムッツリの、第二の名前だよ」

「ストォォォォォォォォォォォォップ!」


 来ると思った。絶対来ると思った。こいつがこうやってにやけるときは、大抵良いことは起こらない。


「むっつりはろりこん?」

「やめてぇぇぇぇ」


 もう、お願いです。純粋な瞳でそんなこと言わないで。僕に死ぬという選択を取らせないで。


「そう。でも、ムッツリよりも、ロリコンって呼んであげた方が、うれしいんだって~」

「うん。わかった」

「…………」


 もう、叫ぶ勇気もねぇ。終わりだ。終わり。

 そして、その時は来た。ローランは、僕の方へ、ゆっくりと体を向ける――


「ろりこん」


 ……あれ。

 不思議と、嫌悪感が出てこない。

 幼女に、ロリコンと呼ばれる。実はこれは、とてもレアなことではないのか。

 普段の使用例から見てみよう。例えば、男二人で、かわいい小学生を見かけたとき、「かわいい」と言ってしまった一人に対して向けられるのが、「ロリコン!」である。また、付き合っている彼女が、とても身長が小さかったとする。そのとき、「ロリコン!」と、呼ばれてしまうこともあるだろう。

 このように、ロリコンという単語は、あくまでロリ役の人以外が抱いたイメージからくるものであり、決してロリ役本人から言われるケースは、こうやって落ち着いて考えてみても、希少なものと認めてもいいだろう。ということは――


「やっぱりうれしくなかったみたい。ムッツリにしましょうか」

「わかった。むっつり」


 ――はたして僕に自由というものはあるのか? いや、ないのかもしれない。








次、卓郎と久子ががんばります。

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