第4章:会いたい気持ち
【SIDE:日野美鶴】
「ねぇ、昨日は大河内とどうだったの?」
大学で会うなり茉莉はニヤニヤと笑いながら言った。
大河内クン、昨日、出会った後輩の男の子。
すごく純和風な男の子で話しやすかった。
「別に、ただ送ってもらっただけよ」
「ホントに?それだけなの?」
「私は寝てたもの。大河は紳士的に対応してくれていたって言ってたわよ。今度会ったら、お礼を言わなくちゃ」
あまり飲み慣れていないので、お酒に酔っぱらってしまった。
彼が送ってくれたみたいで感謝している。
「それだけ?何かあったりしたとか?」
「しません。そういう茉莉はどうなの?昨日の二次会は?」
「適当に騒いで解散したけど?私は別に後輩に興味ないから。男はやっぱり年上じゃないとねぇ。ついこの前まで高校生だった子たちに興味はないわ」
バッサリと切り捨てる茉莉。
昨日は結構、後輩の子からもアプローチかけられてたように見えたのに。
「美鶴は大河内を気に入ったんでしょ」
「今時、中々いないいい子だとは思う」
「よしっ。そんな美鶴にまたチャンスをあげるわ」
「……何か変な事を考えていない?」
彼女は首を横に振って否定する。
「いえ、私は別に楽しんでないわよ」
「顔が笑ってるってば。……それで次は何をするつもり?」
「今日は美鶴、家庭教師のバイトはあったっけ?」
「ないわよ。去年と違って回数減らしているから」
最近は友人達と遊ぶ時間も増えて楽しい毎日を過ごしている。
自由な時間が増えるってのはいいことだ。
「それなら今日は夕ご飯を食べにいかない?」
「……誰と誰が?」
「私と美鶴が。作戦会議よ。私に任せれば美鶴と大河内をくっつけてあげる」
「余計なお世話は結構よ」
茉莉に任せておくと変なことになりそうで怖い。
それに大河内クンは真面目なタイプだからすぐにどうこうなりそうにもない。
私もまだ自分の気持ちがよく分からないので、焦ることはない。
「甘いわっ。美鶴、いい加減に恋のひとつでもしなさい」
「……それは考えてはいるけど」
「考えているだけじゃダメなのよ。行動に移さなきゃダメ。何回言わせるの」
恋愛に関しての茉莉は何だか厳しい。
私は仕方なく頷くと彼女は何かを企んだ顔を見せていた。
どうにも茉莉が怪しいわ。
……。
その嫌な予感は当たっていた。
待ち合わせ場所にいたのは茉莉じゃなくて、大河内クンだったの。
「あっ、日野先輩。こんにちは」
「お、大河内クン!?どうして貴方がここに?」
彼の話によると茉莉に呼ばれてここにきたらしい。
「あれ、ひとりですか?先輩は来ないんですか?」
どうやら私と茉莉のふたりで来ると思っていたみたい。
私はすぐさま彼女に電話をすると、
『くすっ。どう?これなら逃げられないでしょ?一緒にご飯でも食べて話しでもすれば近づくのは間違いないし』
「……明日、会ったらとりあえず覚えておいて?」
『声が低くて怖っ!?こっちは気を使ってあげてるのに』
茉莉に頼んだ私が間違えていた。
こんなの彼にとっても迷惑なだけじゃない。
『そんなに怒らなくても、美鶴も来るって誘ったら二つ返事だったのよ。これは向こうには脈ありと見ていいと思うわ。自信を持ちなさい』
「……二つ返事、ね?」
彼も私に興味くらいは持ってくれていると言うことかしら?
私は電話を切って大河内クンに言った。
「どうやら、茉莉はこれないみたい。いきなり都合が悪くなったって。どうしよう?」
「そうなんですか。先輩、もしよければこのまま食事に行きます?」
「あ、うん。そうしよっか」
意外にも彼から誘ってくれたので返事をしやすい。
お店の方は最初から決まっていたらしくて、洋風のレストランだった。
最近出来たばかりのお店で、茉莉に近いうちに一緒に行こうと誘われてた場所だ。
「先輩はこのお店には来たことありますか?」
「ううん。ないわよ。大河内クンは?」
「僕は何度か来てます。昨日いた久瀬って奴がいるでしょう。彼と、その恋人の3人でよく夕食を食べに出かけるんです」
「久瀬クンとは高校が同じだって言ってたわね。仲がいいんだ?」
恋人がいるのに、彼も一緒にと言うことは相当仲は良い方なのかも。
彼曰く、3人一緒な方が久瀬クンにとっても口喧嘩せずにすむんだとか。
「どうでしょうね。ほとんど腐れ縁になりつつあるだけな気が……」
「友達は大事にしておいても無駄にはならないわよ。いつも夕食は外食なの?」
「コンビニのお弁当、と言う日もありますが、大抵は外食ですませてしまう事が多いですよ。家事に関してはあまり出来ない方ですから」
いかにも男の子らしい理由だ。
うちの大河も私がいない時は、そういうのばかり食べている。
私達は席に通されてメニューを注文して待つ。
私は今日は美味しそうなハンバーグにしておいた。
大河内クンも同じメニューだったので、少し安心。
初めてのお店って味が分からないから楽しみだったりする。
「日野先輩はいつもは?」
「私は自炊オンリーよ。友達に誘われて外食するくらい。自分で作っちゃうタイプだもの。それに料理をするのも好きだし」
「へぇ、そうなんですか。先輩は料理が上手なんですね」
彼の言葉には少し驚いているような口ぶりだ。
私は意地悪そうな口調で彼に問う。
「もしかして、意外だとか思ったでしょ?」
「い、いえ、そんなことは……」
「やっぱり、そう思っていたんだ?」
「すみません。あまりそう言うイメージがなかったので。先輩は家庭的な女性なんですね。そう言う女性は良いと思います」
大河内クンに褒められると何だか気恥ずかしくなる。
「また今度、手料理をごちそうしてあげるわ」
「……それは楽しみにしておきますよ。あっ、どうやら料理がきたようですね」
彼が勧めた通りにハンバーグは中々美味しかった。
食事をしながら、私達は他愛のない会話で盛り上がる。
話をしていて感じるのは彼は決して堅苦しい感じではないこと。
年齢のわりに落ち着いてしっかりとしているだけに、そこはかとなく堅苦しさがあると思ってたけども、そう言うことはなくて、すごく話もしやすくて楽しかった。
「今日はいろんなお話ができて楽しかったですよ。それでは、先輩。また会いましょう」
「えぇ、そうね。今度は私のお気に入りのお店に案内するわ」
別れ際が少しさびしいくらい、いつのまにか私は彼に会うのが楽しみになっていたの。
会いたい気持ち。
大河内クンに対してそんな気持ちが芽生えている自分。
興味のある年下異性……彼の事が私は気になり始めていた――。