第3章:天使or小悪魔?《中編》
可愛い年下美少女に翻弄される俺。
この少女、天使か小悪魔か。
一体、どっちなのだろうか……。
「……先生みたいなタイプって、年下の方が絶対相性がいいと思うの」
「ん、そうかな?」
「そうだよ。だ・か・ら……私なんてどう?大河先生っ♪」
いきなりの告白っぽい言葉と潤んだ瞳に見つめられてしまう。
そんな艶っぽい表情で見つめられるとドキドキものですよ?
ていうか、俺はロリコンじゃないんだ、ここで反応したら負け。
「お、大人をからかうものじゃない。梨紅ちゃんも自分と同い年くらいの男の子に迫りなさい。俺みたいな年上相手なんて眼中にないだろ?」
大抵、その年代の子は恋愛に興味を持ち、好きな相手ぐらいいるものだ。
俺が中学生の頃は片恋相手の1人や2人、3人、4人……って、全部振られたっけなぁ。
あの頃の俺はピュアだったから告白して失恋と言う流れに枕を涙で流していたのだ。
ちなみにフラれ続けた理由?
『大河クンとはいいお友達でいたいの』だって言われて振られました。
友達でいたいって理由で振られ続けた俺の存在価値って何なのだ。
過去の記憶を思い出してまたしょげる。
いかん、女性経験のなさが俺の人生のすべてを物語っている気がするぞ。
「……同級生?全然興味ないわ。だって、子供っぽくて付き合いきれないもの」
「そうか?そんなに子供は嫌いか?」
「苦手と言ってもいいかも。そう言う意味では大河先生みたいな大人って好みだよ。先生はカッコいいし、頼りになるもの」
よくよく考えてみれば俺はそこまで女性に褒められた事がない。
梨紅ちゃんが俺と同い年の子であればと切に悔やむぜ。
まぁ、どれだけ褒められようとも子供に手を出すわけにもいかず。
俺に迫ろうとうする彼女を引き離して俺は言う。
「褒めてくれてありがとう。それじゃ、参考書を買いに行くか」
「全然、相手にしてくれない。大河先生、かまって欲しいわ」
「くっついても、ダメ。人目が気になるのでおやめください」
幸いにも階段付近なので人通りは少ないが、女子中学生に抱きつかれそうになる大学生の光景は絵図的には非常にマズイのでやめていただきたい。
不満そうな彼女を連れながら最上階にある本屋に俺達は向かう事にする。
「……大河先生、質問があるわ。いい?」
「俺に答えられる事ならどうぞ」
「先生って、年下に興味ある?」
見事なストレート、ど真ん中な質問が来たぞ!?
普通は変化球から攻めるものだが……。
「俺の好みは年上美人が趣味なんだ」
「……ふっ」
今、この子、俺の事を鼻で笑いましたよ!?
好みを言っただけで笑われるってどうなんだよ。
「先生って年下に好かれるタイプよ。年上は無理じゃない?」
「うわっ、鼻で笑ったことは華麗にスルー?」
「何のことかしら?」
何事もなかったかのような自然な返し……女の子って怖いな。
怖い女の子はうちの姉ちゃんだけで十分だっての。
「年下に興味があると答えたらどういう返答があったんだ?」
「……ここにとびっきり美人で可愛い彼氏のいない女の子がいますけど?」
「あいにく、俺はお子様には興味がなっ……ぐは!?」
足を踏みつけられているのは気のせいではない。
しかも、女性モノの靴で踏まれるとものすごく痛い。
「子供じゃないって何回言えばいいのかな」
「俺から見れば梨紅ちゃんは十分子供なんだよ。中学生相手に欲情するわけもない」
「……先生の人生、軽く終わらせてあげましょうか?」
彼女は腕を組んだ状態で人を呼ぼうとする。
……この後の予想される展開。
『きゃーっ、誰か助けて。変な人に身体を触られたの』
『何!?変質者か、お前を逮捕する』
『ち、違う。お、俺は無実なんだ。悪いのはこの手なんです』
いかん、俺の輝かしい未来がたった一言で終わる。
あらゆる意味において女性の発言の方が有利。
俺がどうあがいたところで現在の状況では俺は人生の敗者となるだろう。
「待て、早まるな。梨紅ちゃん、キミはとても魅力的な大人らしい女性だ。そこらの中学生とは比べ物にならない」
「……本当に?先生がそう言ってくれるのは嬉しいわっ」
一言で不機嫌になり、一言で喜びの笑みを見せる。
女の子とは何とも扱いにくい……。
危うく犯罪者になりそうなのを回避するのは大変だ。
「……ん?日野か?お前、こんなところで何やってるんだ?」
最悪の場面を大学の同級生に目撃されてしまう。
彼は俺の友人のひとり、中里(なかざと)だ。
「何をしているように見える?」
「妹にじゃれつかれている兄。お前、姉さん以外に妹がいたのか」
よしっ、うまく誤魔化されてくれている。
「そうなんだよ。甘えたがりの妹でさぁ、ちょっと地元から出てきて街を案内しているんだ。中里はどうしてここに?」
「……私は別に妹じゃ、むぐっ」
俺は梨紅ちゃんの口元を押さえて何も喋らさないようにする。
冬休み後の俺の大学での立場を守るためだ、やむを得ない。
ここは黙って梨紅ちゃんには妹設定を貫いてもらう事にしよう。
ちなみに地元には本当に俺の妹(高校1年生)がいるので妹がいる事は嘘ではない。
「何言ってるんだよ。俺のバイト先、この駅ビルのCDショップだろ。そういや、お前の好きな歌手の新曲のCD出てるぞ」
「あっ、そうだった。今度、買いに行くよ」
「……あぁ?何か様子が変だぞ、お前?」
「別に何でもないさ。あははっ……」
慣れない嘘をつき続けてるせいだよ、ちくしょーっ。
冷や汗をかくので俺は早く中里には去ってもらいたい。
だが、彼は去るどころか余計な地雷をまき散らす。
「そういや、この前の合コンで沢崎(さわさき)って女子大生いたの覚えているか?」
「沢崎……ひとつ年上の美人のお姉さんだろ。覚えているよ」
冬休み前にした合コンで久々の手ごたえあり、と思ったのだが、最後の決め手にかけて逃がしてしまったのだ。
逃がした魚は大きかった、あれはいい美人でしたよ。
「バイト先の先輩の友達なんだけどさ。また今度、機会があれば会いたいってさ。気があるのなら話を受けるか?」
「そうだな、もう一度あって話をして……いたっ!?」
俺の足に再び攻撃が……不機嫌度の増した梨紅ちゃんが攻撃を再開したらしい。
「と、思ったけど、俺は今、バイトで忙しいから悪いけどまた今度にしてくれ」
「いいのか?お前、結構、あの子の事を狙っていただろ?飲み会の時も『巨乳姉ちゃん最高!』とか言ってたの忘れたのか?おっと、妹ちゃんの前で言う事じゃなかったか」
彼は「また何かあれば連絡してやるよ」と俺達の前を去っていく。
あの野郎、地雷をまき散らしていきやがった。
「へぇ、先生ってば合コンとか行くんだ?」
俺の手を離した彼女は唇を尖らせると意地悪く言う。
「友達付き合いがあるから、いくこともある」
「……巨乳美女が好きなんだ?」
「そ、それは、その……酔った時の事は覚えてません」
これは本当だ、マジで言った覚えはない。
梨紅ちゃんは「しかも、私の事は妹扱いするし」とご機嫌斜めだ。
やれやれ、怒らせてしまったらしい。
こう言う時、どうすればいいのか悩みます。
「大河先生って、どういう人間か良く分かったわ」
「……どういう人間?」
「――大河先生ってヘタレでしょ?」
へ、へたれ……バカな、この俺がヘタレキャラだと?
年下の女の子からヘタレだと言われる自分が恥ずかしい上にすごくショックだ。
落ち込んだ俺に梨紅ちゃんはとどめとばかりに、
「先生って、ホントに恋愛経験あるのかしら」
時に真実を突き付けられると言う事は悲しいくらいに辛い事でもある。
俺、もう帰ってもいいですか?
「ごめんなさい。言いすぎたかも……怒ってる?」
黙り込んだ俺の反応に不安になったのか、彼女は顔を覗き込む。
根は素直な子で、悪意を持ってるわけではないようだ。
「……大河先生?」
反応のない事が不安な様子。
ここは大人としての対応を取るべきだろう。
「気にしていないよ。どうせ、俺はヘタレだし」
「……気にしているじゃない。軽い冗談なの、気にしないでよ」
男には言われたくない禁句ってものがあるんですよ。
優柔不断、ヘタレ、甲斐性なし、この3つは男にとって屈辱的な言葉なのだ。
女の子に言われている時点でその男の人間性がダメなのは事実だけどな。
「ホントに怒ってない?私の事、嫌いにならない?」
「この程度で怒らないし、嫌いにもならない。ほら、こんな所にいつまでもいないと行こうじゃないか。目的の本を買いにさ」
満面の笑みで「先生、優しいっ♪」なんて言われると怒る気になれません。
女の子ってずるいなぁ、と思わされるのだ。
「――で、結局、大河先生ってホントに恋愛経験はあるの?」
……その件についてはノーコメントでお願いします。