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第35章:繋がる気持ち

【SIDE:日野大河】


「アンタの恋愛を散々邪魔してきた張本人。それが希美よ」

 

 俺は美鶴姉ちゃんの言葉を受けてひどく動揺していた。

 そんなはずがない。

 あの天使のような妹が俺を裏切るはずなんてないのに。

 それでも彼女のこれまでの行動をひとつでも疑うと、本当に希美が邪魔をしてきたように思えてしまうのだ。

 あの子が俺の恋愛の邪魔をして何の得になるのか分からない。

 だが、晴れない疑問に俺自身、彼女を信じられなくなり始めていた。

 

「嘘だ、嘘だと言ってくれ」

 

「その考えが嘘だ。現実を見なさい」

 

「姉ちゃんは黙っていてくれっ!?」

 

 俺はマジ凹みしながら、姉ちゃんの言葉責めに耐える。

 

「アンタの可愛い妹は天使なんかじゃなくて悪魔なのよ」

 

「やめろ~っ。あの希美がそんな真似をするはずがない」

 

「目の前の現実から逃げないで受け入れなさい」

 

「そんなはずがない。あの希美が、そんな真似をするはずがないんだーっ!!」

 

 部屋で絶叫し悶絶する俺はうなだれていた。

 もうダメだ、俺は限界だ。

 こんなはずがないと思うのに、どうしても変な考えが浮かんでしまう。

 あの子がこの俺を裏切るはずがないのに。

 

「そんなに気になるなら直接聞けばいいじゃない」

 

「聞けるわけないだろ。もし、誤解で間違いだったらどうする気だよ」

 

「それならそれで謝れば済むでしょ?事実だったら、泣いて謝罪してくれるわ」

 

 ……本当に俺達の姉なんだろうか、この人は。

 発言ひとつでも、すごく怖いのですが。

 

「優しすぎるのは大河の良い所でもあるけれど、本当にこのままでいいのかしら?」

 

「希美が悪いわけがない。あの子を疑う事なんて俺にはできない」

 

 俺の態度に嫌気さしたのか、姉ちゃんは俺の耳元で悪魔の囁きをする。

 

「……いいの?本当に確認しなくて?恋愛運ゼロ、誰とも付き合えなくてもいいの?」

 

「そ、それは、でも、めぐり合わせと言うか……」

 

「都合のいい言い訳に意味はないわ。大河、貴方が決めなさい。邪魔する妹から解放されて恋人を作るのか、ずっと邪魔され続けるのか。選ぶのは大河次第よ。自分で決めなさい」

 

 希美は小さな頃から俺を慕ってくれた本当に可愛い女の子だ。

 甘えてくれる素直な存在。

 俺にとっての天使の幻想が崩れるのは信じがたい。

 

「希美の目を覚ませてあげるのも兄の役目じゃない?」

 

「俺は、俺はどうすれば……」

 

 悩みに悩んだあげく、俺は姉の言葉をとりあえずは聞く事にした。

 希美が本当に悪魔かどうか。

 どうしても確認したいので、俺は希美のいる部屋の前まで来ていた。

 本当にあの子が俺の恋愛の邪魔をしていたのか。

 それを確認するだけだ、姉ちゃんの戯言ならばそれでいい。

 

「俺を信じさせてくれ、希美」

 

 俺が部屋の扉を開けようとした時、中から声が聞こえてくる。

 

「――私は、兄さんのためを思って行動した、それだけです」

 

「大河先生の恋愛の邪魔をしたのを正当化しないでよ?」

 

「兄さんは私のもの、誰も兄さんには近づけさせない……」

 

 扉越しに聞こえる声に俺は呆然と立ち尽くしていた。

 嘘だ、嘘だと誰か言ってくれ(本日2回目)。

 

「嘘じゃないわ。これが現実よ」

 

「ひっ!?ね、姉ちゃん。何でここに?」

 

 いつの間にか俺の背後に立っていた姉は容赦のない言葉を突き付ける。

 

「さっさと入って解決してきなさい。アンタの疑問はそれで解決。間違いではなかったのだと辛い現実を受け入れてきて」

 

 何度でも言うが、本当にこの人は俺の姉なんだろうか?

 

「姉ちゃんは誰の味方なんだよ?」

 

「私?私はね、今は梨紅ちゃんの味方。でも、ふたりの姉として味方であり続ける気持ちはあるわ。真実を確かめてから、自分でどうするかを決めなさい」

 

 姉の後押しで俺は不安を抑えながら部屋の扉をゆっくりとあける。

 

「大河兄さん?声がうるさかったですか?」

 

「そうじゃない。希美、俺はずっと可愛い妹である望みを信じていたかった。けれども、信じていた事実が違うというのは裏切りだと思わないか?」

 

「……た、大河兄さん?」

 

 希美さんが顔を青ざめさせて震えている。

 その態度に言い様のない怒りと寂しさが湧きあがってくる。

 

「――今まで俺の恋愛の邪魔をしていたのは本当か?」

 

「違うんです。私は大河兄さんの邪魔をしていたのではなくて、守りたかっただけなんです。決して、邪魔をしていたわけでは……」

 

 怯えるように身体を震わせながら希美はそのように告げた。

 嘘だと思い続けてきたのに。

 現実は甘くなくて、真実に絶望する。

 

「そんな……希美がそんな子だったなんて……。今まで俺をずっと欺いてきたのか。女に振られた俺を憐れむように内心は笑っていたのか?」

 

「ち、違いますっ、兄さん。私は兄さんの幸せを望んでいて……」

 

「幸せ?俺の幸せを壊してきたのは希美じゃないか。どうして、キミは俺の邪魔をする。俺だって女の子と付き合って恋愛経験を積みたかったんだよーっ」

 

 人生19年、恋人歴なし。

 この謎が妹の暗躍によるものだったなんて、最悪の真実だ。

 実はこっそりと美鶴姉ちゃんが手引きしていたのだと思い込んでいた時期もあった。

 まさか希美の方がそんな真似をするはずないと、疑った事もなかったのに。

 

「……先生、落ち着いてよ。希美さんが怯えているじゃない」

 

「黙っていてくれ。梨紅ちゃん。これは俺と妹の問題だ。部外者には関係ない」

 

「一応、私も被害者ではあるんだけど」

 

 希美がした事は俺の周囲の評価にも関係している。

 これまで良い雰囲気になって、いざ告白と言う場面で「ごめんなさい」と言われる展開を何度も経験してきた。

 その全てに希美が関わっているとしたら?

 

「許せるはずがない。希美、キミは一体俺の周囲で何をしてきた?美鶴姉ちゃんから聞いた時は嘘だと思っていたが、まさか本当にしてきたなんて」

 

「言い訳させてください、兄さん。私は兄さんを守ろうとしてきたんですよ?だって、兄さんって好きになる女性の趣味が悪いんです。悪女ばかり好きになって、苦しむ兄さんを見たくなかったから。だから、私は――」

 

「悪女?それは違う、確かに俺が好きになる女の子は普通じゃない。失恋していたり、男癖が悪かったり、そう言う一面もある。でもさ、それって一面だけじゃないか。希美はその子たちの一面しか見ていない」

 

 希美が今にも泣きそうな悲しみの表情を浮かべている。

 俺が泣かせているのかと思うと辛いが俺も言葉を止められない。

 

「俺は違う、いろんな姿を見てきて、好きになった。人を好きになるってそういうことだろ?過去とか、全部受け入れて好きになるものだろ?希美にもこういう一面があった、俺が知らずにいた一面だ」

 

「それは……」

 

「最悪だよ、希美。やっぱり、お前も美鶴姉ちゃんの妹だったんだな」

 

「うぅ、そんな発言はあんまりです。私と姉さんを同じにしないでください。私、本当に……ひっく、うぅ……ぁっ……」

 

 とうとう泣きだしてしまう希美。

 そこまで美鶴姉ちゃんと同じにされるのは嫌なのか。

 廊下にいる姉ちゃんが聞いたら激怒しそうだがこれが現実なのだ。

 それを言ったら、俺だって姉ちゃんの弟なわけで……あまり考えたくないことだけどな。

 あの人の顔をした魔王様には逆らえない。

 

「希美に邪魔されて、恋愛をふいにされ続けてきた俺の気持ちが分かるか?」

 

「ごめんなさい、ごめん……なさい……」

 

 俺だって怒りたくて怒るわけじゃない。

 信じてきた相手に裏切られた怒り。

 それは自分を抑えられそうにないのだ。

 

「……大河先生、その辺でいいでしょ?希美さんだって反省しているよ」

 

「反省?希美を信じ続けてきた俺は許せないんだよ」

 

 梨紅ちゃんが俺を止めようとするが、今日の俺はその程度では止められない。

 すると彼女は希美をフォローする発言を始める。

 

「落ち着いてってば。そんなの先生らしくないでしょ」

 

「俺だって怒る時は怒るんだ」

 

「もうっ、希美さんを責めて何になるの?」

 

「希美がした事は俺にとってそれだけ許せないってことなんだ。邪魔しないでくれ」

 

 彼女の兄として、俺は彼女を叱る義務がある。

 だが、それは思わぬ形で止められる。

 

「――いい加減にして、先生っ!梨紅ちゃんパンチ!!」

 

「――ぐはっ!?」

 

 いきなり梨紅ちゃんが俺を突き飛ばしてきた。

 バランスを崩して頭からベッドに突っ込む、俺。

 

「な、何をするんだ?」

 

 あまりの突然の出来事に俺は戸惑いながら、

 

「今の先生、すごくかっこ悪い。そんなの私が好きな先生じゃないよ。希美さんが意地悪した程度で本当に女の子に振られたって思ってるの?それを信じているの!?」

 

「「……え?」」

 

 俺と希美が同時に声をあげて驚く。

 何を今さら……希美だって罪を認めているというのに。

 

「それは、だって、希美が悪いんだろ?」

 

 どちらも混乱気味で言葉が出ない。

 そんな俺達を梨紅ちゃんは少し呆れた顔をしつつ言う。

 

「希美さんが悪いのは事実。それを責めたくなる大河先生の気持ち、よく分かるよ。悔しいって気持ちもね。それで自分の妹相手にそこまで怒らなくていいじゃん。希美さんだって真剣な気持ちで大河先生の事を想って行動した。振られ続けてたのは先生自身も悪いんだからね?全部が希美さんの責任にするのはおかしいよ。彼女だけが悪いんじゃないんだ」

 

 どういう意味だよ、それは――?

 

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