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第2章:天使or小悪魔?《前編》

【SIDE:日野大河】


 それは冬休みも残り数日のある日の朝のことだった。

 姉弟仲良く朝食をとっていた俺は思い出したように姉に言った。

 

「なぁ、姉ちゃん。年頃の女の子にはどう対応したらいいと思う?」

 

「……はい?」

 

 朝っぱらから、俺の質問に美鶴姉ちゃんはパンをくわえたまま固まっている。

 そんな銅像の如く固まられる程変な事を言ったつもりはない。

 

「年頃の女の子との付き合い方っていうか。ほら、距離感とかあるだろ?」

 

「……なるほど。風邪ね、そりゃこの寒い冬だもの。大河も風邪くらいひくわ」

 

 彼女は俺の前に薬箱から体温計と風邪薬を差し出す。

 あまりにも真顔で突っ込みにくい事をされるので俺は「いらないから」と断る。

 

「ひどっ!?俺がそんな事を質問しちゃダメなのかよ?」

 

「それを風邪の熱にうなされた妄言でないとしたら、私が言えることはひとつだけよ。さっさと病院に行きなさい。今ならまだ間に合うわ。今年の風邪は性質が悪いっていうもの。噂に聞く新型インフルエンザの影響かしら?」

 

「……本気で心配しないでくれ。めっちゃ傷付くからさ」

 

 俺から女に関する話題が出たらこの扱いって普通にひどくないですか?

 

「俺だって、たまには女の話題が出る時もある。ごく稀にな」

 

「……それってこの現実世界に生きている子よね?」

 

「二次元でもなければ幽霊でも、妄想でもない。お忘れか、俺の家庭教師の相手の子の話だよ」

 

 俺ってそこまで女運がないように思われていたんだろうか。

 俺はガクッと落ち込みながら、事情を説明する事にする。

 それは昨日の夜にまで遡る。

 俺が家庭教師をする事になった美少女中学生、梨紅ちゃん。

 彼女とメールでのやり取りをしていた俺なのだが、向こうからある提案がされた。

 

『大河先生。明日、数学の参考書を選ぶのに手伝ってくれない?』

 

 既に家庭教師の2回目をこなした所で彼女には基本から教える事にした。

 そのために参考書か問題集が必要だと思い、購入するように言っていたのだ。

 だが、自分ではよく分からないと言うので付き添って欲しいと言う。

 俺としては暇人だから別にかまわないとオッケーしたのだ。

 しかし、よくよく考えてみると、俺は女の子ってどう接していいのか分からない。

 家庭教師だと勉強絡みで適当に話す事ができても、こういうプライベートだと難しい。

 なので、一応、女である姉ちゃんにその辺を教えてもらおうと思ったのだ。

 

「……大体分かったわ。そう言う事ならいいけど。アンタが問題集を買ってきてあげたら、話は終わってたんじゃない?普通は一緒に買いに行ったりしないわよ。そもそも、こちら側が用意するものだからね」

 

「そうなのか?その辺が良く分からないんだよな」

 

「そういうものよ。前も言ったけど、別に教え子とは仲良くなる必要はないの。信頼さえあればそれでいいのよ?まぁ、アンタは初めてだからそういう距離感もまだ分からないと思うから好きにしたらいいと思うけど」

 

 とはいえ、既に約束してしまっているので今さら断れない。

 

「今回は一緒に買いに行く事にするよ」

 

「で、女の子との付き合い方だっけ……?」

 

「とりあえず、どういう風に接すればいいのかなって」

 

「アンタはそう言うのが苦手だから合コンで毎回のように失敗するのよ。もっと前から反省していればよかったのにね」

 

 致命的に痛いところを突かれた俺はうなだれるしかない。

 何でもご存知の姉上だけに非常に厳しい意見だ。

 

「そうねぇ。大河の悪いところは女の子相手に逆に気を遣いすぎて気持ち悪い所かしら。そこまでしなくてもいいって、ところまでするから。女の子には優しくしてあげるのはいいことだけど、鬱陶しいって思われるようじゃダメね……あら、大河?」

 

「な、何でもない。何でもないから気にしないでくれ、ぐすっ」

 

 思わず目頭が熱くなっちゃったじゃないか。

 言われて心あたりがあるのが姉ちゃんのすごい所なわけで。

 あぁ、思い出すだけでも辛い、過去の俺のバカ野郎。

 

「……つまり、ある程度は普通でOK?」

 

「むしろ、それが自然じゃない?気配り、気遣いのない男はクズだけど、行き過ぎても気持ち悪いだけ。その辺の加減さえ間違えなければいいはずよ。女心をもう少し理解できるようになりなさい」

 

 うーむ、女の子とは難しい生き物なのだな。

 

「それにしても、相手は中学生でしょ?子供相手に何を真剣になってるんだか」

 

「どんな相手でも、下手に対応するよりいいだろ?」

 

「そうだけどさぁ。適当に頑張りなさいよ。何度も言っておくけど……」

 

「生徒相手に手を出さない。分かってるって。恋愛感情とかじゃないからさ」

 

 むしろ、5歳下の中学生に手を出すようじゃただの犯罪者だっての。

 

「……ところで、アンタとその子の約束時間って何時なの?」

 

「10時に駅前で待ち合わせだけど?」

 

「ふーん。今、9時50分だけど間に合うの?」

 

「――ナンデストっ!?」

 

 姉ちゃんと話をしていたせいで時間がかなりヤバい。

 俺は急いで準備をしてから家を飛び出した。

 

 

 

 

 俺が駅前についたのは10時15分。

 完全な遅刻の上に携帯電話を忘れてきたので連絡もできず。

 駅前には人ごみの中でも目立つ美少女が俺を待っていた。

 梨紅ちゃんは俺に気づくと軽く唇を尖らせていた。

 

「遅いわよ、大河先生っ。携帯に電話しても繋がらないし、心配したじゃない」

 

「ごめん。遅刻したうえに携帯も忘れてきちゃって」

 

 彼女に怒られながら俺は情けなくも頭を下げる。

 すると、怒った顔をしていた彼女はくすっと微笑する。

 

「……なんてね、実は私も遅刻なの。ついさっきついたばかり。先生に遅れるかもって電話したら、繋がらなかったら怒って帰っちゃったのかなって心配したんだからね?よかった」

 

 彼女は「それじゃ、行きましょ」と俺を駅前のビルに誘う。

 駅ビルの中に今回の目的であるこの街で一番大きな本屋がある。

 本屋以外にも、この駅ビルには様々なテナントが入ってる。

 繁華街に行くよりもここに来た方が何でも揃う。

 

「先生はデートとかで誰かとよく来たりする?」

 

「……まぁね」

 

 ここはさり気なく嘘をつく、嘘というのも人生にとっては必要なことです。

 男には見栄を張らなくちゃいけない時があるのだ。

 

「そうなの?先生って恋人がいるんだ?」

 

「恋人はいないよ。今は、だけど」

 

 さらにウソを重ねております。

 人生19年、恋人なんていたことないけど、男には(以下略)。

 

「ふーん。それじゃ、こういうのにも慣れてるんだ?」

 

 彼女がすっと伸ばした白い手が俺の手に重なり合う。

 指と指をからめるように彼女は俺と自然な形で手を繋ぐ。

 

「……梨紅ちゃん?」

 

 な、何で女の子と手を繋ぐシチュを体験しておるのですか?

 動揺を必死に見せまいとする俺は自分を抑える。

 ここで下手に動揺すれば全てが嘘だとバレテしまう。

 年上としての意地を見せねば……梨紅ちゃんの手って小さくて温かい……じゃなくてっ、流されてどうするっ!?

 相手は中学生、意識したら負けだ。

 俺の心の葛藤を知らずか、彼女はにこやかな笑みを浮かべていた。

 

「先生の手って大きいね。男の子って皆こうなのかな?」

 

「お、女の子より大きいのは当然だ。それより、手を……」

 

 離して欲しいと言おうとしたら、彼女はそのまま歩きだしてしまう。

 

「……どうしたの、大河先生?あっ。もしかして、意識してる?そんなわけないよね?年上で恋人もいた経験のある先生が年下の女子相手に意識するなんて。あははっ」

 

「ははっ。そうだとも。子供相手に意識なんか……ぐっ!?」

 

 今度は何か強く握り締めてきた、ゆ、指が折れりゅ……!?

 思わぬ失言で梨紅ちゃんを不機嫌にさせたらしい。

 顔は可愛い笑顔なのに、指を砕く勢いで力を込めてきた。

 子供発言が気に入らなかったらしい梨紅ちゃんは低い声で言う。

 

「……私、子供じゃないけど?そんなに子供に見えるかな?」

 

「そ、そうだね。大人っぽいと思うよ。うん、だから、その……力を緩めてくれたら嬉しいな?」

 

 素直に謝る、情けない俺。

 年下女子に翻弄されっぱなしでどうするのだ。

 しかし、意外と握力が強いのか離せないぞ。

 

「先生の前の恋人ってどんな人だったの?」

 

「えっ……?あ、いや、どんな人って言われても」

 

 嘘を重ねるのも限界で、真実を告げるのも辛いのです。

 しかし、すぐに女の子の事を言えと言われても俺にはそのような女の子なんていない。

 

「見た目が美人なのに、ものすごくサディスストで意地悪するのが大好きなお姉さん」

 

 つい口から出たのが、脳裏をよぎった美鶴姉ちゃんぐらいしかいない俺もどうかと思う。

 彼女は俺の態度で何かを知ろうとしていた様子だ。

 

「……さでぃすと?それって怖い人だったってこと?」

 

「気が強いって意味ではトラウマになるくらいに。もうこの話はいいかな?」

 

「何だ、ホントにいたんだ。女慣れしてなさそうだから嘘だと思ってたわ。昔の相手が怖い人なら仕方ない。ごめんなさい、先生。とても辛い事を思い出させてしまって……大変だったのね」

 

 嘘だと見破られている上に、同情までされている俺の人生って何なのだろう。

 泣きたい、ものすごく泣きたい。

 しょげてしまう俺の手を未だに繋いだままの彼女。

 

「お姉さんってことは元恋人さんって年上だったの……?」

 

「そうだけど。それが何か?」

 

 彼女は「何でもないっ」と笑顔で誤魔化すと俺を駅ビルの最上階へと連れて行く。

 俺の隣を歩く梨紅ちゃん、容姿的には中学生と言うよりも大人びているので高校生ぐらいに見えるから……。

 はっ、俺、今、何を考えていたのだ、相手は中学生、中学生だぞ?(大事なことだから2回言った)

 自分が流されている事に自己嫌悪と反省をする。

 いくら女性経験が少ないとはいえ、もうちょっとしっかりしろ、俺。

 

「……先生みたいなタイプって、年下の方が絶対相性がいいと思うの」

 

「ん、そうかな?」

 

「そうよ、年上趣味なんてやめて……私なんてどうかしら、大河先生?」

 

 いきなりの告白っぽい言葉と潤んだ瞳に見つめられてしまう。

 あぁ、俺の今日の運勢、女難の相(年下注意)って出ていなかったか?

 

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