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第21章:天使降臨?

【SIDE:桐原梨紅】


 大河先生の妹、日野希美さん。

 ものすごくおっとりしている大人しそうな女の子。

 美鶴さんとは全然違う印象に私は驚いていた。

 姉妹なのに似てないなぁ。

 最初はお互いに緊張していたので敬語口調だったけれど、話し合ってるうちに普通の口調で話し合えるようになっていた。

 と言っても、希美さんの敬語口調は地らしくてあんまり変わらないみたい。

 私が口調を戻しても気にすることなく受け入れてくれる。

 

「希美さんって高校生なんだよね?」

 

「そうですよ。次で高校2年生になります。梨紅さんは?」

 

「中学3年生。来年受験だから、大河先生にお世話になってるの」

 

 食後、私達は紅茶を飲みながら大河先生を待っていた。

 バイクでこっちに向かってるらしいから、あと10分くらいで来るかな?

 

「……先生、ですか。兄さんのことを先生って呼んでいるんですか?」

 

「え?あ、うん……?」

 

「兄さんをずいぶん慕われているんですね」

 

 兄妹仲がいいから気になるのかな?

 特に気にすることなく私は「うん」と頷く。

 

「希美さんって大河先生とは仲がいいの?」

 

「いいですよ。小さい頃から甘えていましたから。兄さんって本当に優しいんです。女の人相手だと特に優しくて嫌がることひとつしませんから。地元でも女性のお友達が多かったんです。ただ、いい人すぎて恋人はいませんでしたけどね」

 

 先生って小さい頃から女性に弱そう……。

 いい人発言でさらに先生が可哀想に思えてきた。

 

「兄さんの事を聞いてもいいですか?あんまり電話では聞けないので」

 

「私が知っている事ならいいけど?」

 

「大河兄さんって恋人とかできました?その辺、尋ねても教えてくれなくて」

 

 大河先生の恋人……と言えば、思い浮かぶのはふたり程度。

 もちろん、誰とも付き合ってないけど気になる人はいい。

 

「恋人じゃないけど、仲のよさそうな人はいるよ」

 

「どなたです?」

 

「先生の住んでるマンションの近くに住んでる可憐さんって女の人。先生の恋人って雰囲気じゃないけど、ものすごく親しい」

 

 私も何度、関係を疑ったか。

 可憐さんと先生って何気に信頼しあってるし、きっかけひとつで深い関係になりそう。

 私の味方っぽい立場っぽいことを言うけど油断はしちゃいけない相手だ。

 

「……他にはいませんか?」

 

「え?あとは……私も直接会ったことないけど、よく話題に出るのは沢崎さんかな。先生のアルバイト先の年上美人で、以前にも合コンであったんだって。先生も気に入っていたみたい」

 

 沢崎さんって名前だけは出るけど、実際に会ったことはない。

 美人だって噂は聞くんだけど、先生のアルバイト先の焼き肉屋さんには行ったことない。

 行く機会もないので中々会う機会もないんだよねぇ。

 一度くらいその顔を見ておきたいな、ライバルとして。

 ママでも誘って連れていってもらおうかな?

 

「合コンですか。大河兄さんも大学生ですからそういう機会があってもおかしくないです……。個人的にはあまりして欲しくありませんが。それにしても、兄さんも大学に入ってから女性の縁には恵まれている様子ですね」

 

 私も含めてね、なんて心の中で言ってみたりする。

 高校時代はあんまりモテなかったみたいだけど、先生って優良物件だと私は思ってる。

 話をしていたら先生から「あと少しでつく」とメールが来た。

 

「美鶴さんと大河先生がこっちに来てるってことは家ではひとりで寂しくないの?」

 

「寂しいですね。去年までは兄さんがいてくれましたから。梨紅さんには兄妹は?」

 

「いない。一人っ子だから。寂しいとか感じた事はないけど、慣れていたら寂しいんじゃないかなって思ったんだ」

 

 希美さんは大河先生を慕っている様子なので気になったの。

 

「……梨紅さんは大河兄さんの事を色々と知ってるみたいです。仲いいんですか?」

 

「私?私は……」

 

 ここで希美さんを味方につけておくのもいいかもしれない。

 私達の関係を話しておけば、美鶴さんみたいなことにはならない。

 

「先生には家庭教師としてお世話になってる。それに、何度か遊びに連れていってもらったこともある。私、先生の事……」

 

 先生が好きだと言おうとしていた。

 それが言えなかったのは希美さんの瞳が真っすぐに私に向けられていたから。

 

「お、お兄ちゃんみたいだなって……。あれかな、兄属性って持ってるのかもね」

 

 誤魔化すのが精いっぱいで私は紅茶を飲み干す。

 何だろう、この違和感……?

 さっきまでと違うような気がする。

 

「そう……。貴方も“そのひとり”でしたか」

 

 そうつぶやくと、彼女も紅茶のカップに静かに口づけた。

 そのひとりって何のこと?

 

「……まぁ、そうですね。最初に疑っておくべきでした」

 

 意味深な事を言い、こちらをうかがうような視線を向け続けられる。

 

「希美さん……どうしたの?」

 

 私の疑問に答えるように彼女は言った。

 先ほどと違い、彼女はのんびりとした口調ではなく落ち着いた口調で言う。

 

「梨紅さん。ぶしつけなことを聞いてもいいですか?」

 

「いいけど?」

 

「――私の兄さんのこと、好きですか?」

 

 彼女の浮かべた微笑みに背筋がゾクッとする。

 殺気をはらんでる気がしてものすごく怖い、ドキドキ……。

 き、気のせい、気のせいだよね?

 

「……えっと、何でそんな質問を?」

 

「兄さんと親しそうな人物には必ずする質問です。挨拶代わりみたいなものですね。深い意味ではありませんよ。それで、どうなんですか?恋愛の意味において好きですか?」

 

 変な危機感を抱いた私は誤魔化すように首を横に振る。

 気のせいじゃないよ。

 このバチバチって言う雰囲気、空気が違うもん。

 先ほどまで迷子になってたドジっ子さんには思えない。

 がらりと変ってしまった雰囲気、圧倒されてしまう。

 

「知り合って、まだ2ヶ月しか経っていないから……?」

 

「そうですか。でも、兄さんって優しいですから。気を付けてくださいね」

 

 その笑顔に威圧感を抱く私は何度もうなずく。

 

「な、何で……私にそんなことを?」

 

「理由ですか?ただの警告です」

 

「警告……?」

 

「――大河兄さんは“私だけ”のものですから覚えておいてください」

 

 めっちゃ怖っ!?

 張りつめた空気に寒気がする。

 穏やかな微笑みがこれほど怖いとは思ったことがない。

 

「……私、分かるんですよね。兄さんに好意を抱いている人って」

 

「そ、そうなんだ?」

 

「えぇ。梨紅さんは“違う”みたいでホッとしました。可憐さんと沢崎さんでしたか?その二人は気になりますね……家のご近所さんとアルバイト先の先輩。どちらも簡単に会えそうですね」

 

 会ってどうするつもりなの~っ!?

 兄を慕う妹、その構図は単純なものじゃなさそう。

 兄に近づく女は全て排除するみたいな言い方が怖い。

 ただのブラコンじゃないってこと?

 

「変な意味ではないんですよ?ごめんなさい、誤解しないでください」

 

 ……変な意味じゃないならどういう意味なんだろう。

 

「2週間ほどですが、梨紅さんと仲良くしたいです。梨紅さんとは仲良くやれそうな気がするんですよ。連絡先、教えてもらってもいいですか?梨紅さんとはいいお友達になれそうです」

 

 私は無言で頷いて連絡先を交換し合う……何か罠にハマった予感。

 ふぇーん、やっぱり美鶴さんの妹さんだよ、この人。

 この場にいるのが怖いので私は先生が来るのを切に望む。

 天使は天使でも、希美さんは“堕天使”っぽいです。

 何か企んでそうで怖いよぉ……。

 大河先生、お願いだから早く来て~っ!!

 

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