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第15章:好きな人のために

【SIDE:桐原梨紅】


 テストで60点以上なら大河先生とデートができる、という約束をしたの。

 意気込んでみたものの、小テストまで残り数日と迫っているのに勉強は進まず。

 苦手科目である数学がそう簡単にできるなら苦労もしていないし、先生に家庭教師をしてもらう前からできるはず。

 現実はそう甘くもなく、私はピンチに陥っていた。

 こーなったら、カンニングでも何でもして……バレたら痛い目に合うからダメか。

 正攻法の勉強もうまくいかずに悩んでいた私は気分転換に繁華街へと出た。

 せっかくの休日なのに、家で引きこもっていてもしょうがない。

 

「……まだ温かくならないのかな」

 

 私は寒さに震えながらダウンジャケットの端を掴む。

 2月も中旬、寒さもピークを迎えている。

 これさえ乗り越えれば温かくなるはずなんだけど、まだまだ春は遠い。

 

「本屋でものぞいていこうかな?」

 

 私が駅ビルの中に入ろうとした時に視界の端に見覚えのある顔を見つける。

 

「……可憐さん、だよね?」

 

 可憐さんが見慣れない男の人と一緒に歩いている。

 彼氏とお出かけと言った感じかな?

 無視するのも何なので声をかけてみる。

 

「可憐さん、こんにちは~っ」

 

「梨紅ちゃんじゃない。今日はひとり?それとも大河クンと一緒?」

 

「ひとりですよ。そもそも、先生と一緒ってあんまりないです」

 

「そうなの?まぁ、お互いに時間が合わないんじゃしょうがないわね」

 

 先生も地味に忙しい人だから家庭教師の日以外って中々会えないんだよね。

 うぅ、もっと会いたいのに~っ。

 

「あれ、この子って確か……?」

 

 隣の男の人が私の顔を見て思い出したように言う。

 

「日野の妹、じゃない。日野の家庭教師の子か?」

 

「そうよ、中里クン。この子が大河クンのカテキョ相手の梨紅ちゃん。中里クンはあったことあったんだっけ?」

 

「前に一度だけ。覚えてるかな、ほら、駅ビルで日野の妹って紹介した時の……」

 

 あっ……確か大河先生の合コンで気に入ったという沢崎さん(巨乳美人らしい)の情報をくれたお兄さんだ。

 

「俺は中里って言うんだ。大河の恋人?」

 

「まだ違いますよ」

 

「梨紅ちゃんは大河クンの攻略途中なのよ」

 

「……やっぱり、相手の方は気が合ったか。俺の予想通りだな。羨ましい」

 

 中里さんと可憐さんは大学の同級生で、別に恋人というわけじゃないみたい。

 大学の後期授業も終わりなので、今は春休み中らしい。

 

「もう大学も終わったって事は大河先生も自由時間多いですよね?」

 

「アルバイトは基本的に夜専門だからいつも暇してるはずだ。そういや、今日は……」

 

 中里さんは何かを言おうとして言い淀む。

 

「何よ、中里クン?大河クンが今日何をしてるのか知ってるの?」

 

「……んにゃ。何も知らない。さぁて、用事も終わったから帰るか」

 

「待ちなさい、何を隠しているの?大河クンにやましい事があると誤解される行動よ。彼のためにも素直に言いなさい」

 

 可憐さんが彼の襟首をつかみながら脅迫する。

 

「な、何で俺が責められるんだ、分かった。話すって……。その、大河は今日、女と出かけてる」

 

「……中里クン?空気読めるわよね?ここに彼を好きな女の子がいるのに平気でつまらない冗談とか言ったら私が許さないわよ?そんなに痛い目にあいたいのかしら?」

 

「だから、俺が悪いんじゃないだろ!?」

 

 悪魔な美鶴さんと違って、可憐さんは普通に私の恋の手伝いをしてくれる。

 心強いお姉さんって感じで嬉しい……ちょっと暴力的だけど。

 

「一応言っておくが、女って言ってもお姉さんじゃないぞ」

 

「余計に悪いじゃない。お姉さんだったら言い訳つくけど、他の女の子って誰?」

 

「沢崎って人だよ。大河が前に合コンで仲良くなった女の子で……俺が先輩経由でアイツに紹介した。だぁっ、痛いっ、足を踏むな!?マジで痛いって!?」

 

「何で余計な事をするのよ。梨紅ちゃんに悪いと思わないの!?」

 

 怒る可憐さんと足を踏まれて痛そうに嘆く中里さん。

 沢崎さん、ついに本当の天敵出現!?

 

「俺はこの子の事を知らなかったんだからしょうがないだろ。実は一週間くらい前から相手から大河に会いたいって話があったらしくてさ。アイツの話だと今日は一緒に会ってるはず」

 

「……ホント、中里クンって必要ない事しかないわよね」

 

「俺の責任かい。でも、心配しなくても大丈夫だと思うぞ。どうせ、大河だし」

 

「甘いわよ、そう言う時に限って案外すんなりとうまく行ったりするの」

 

 中里さんに対して怒りをぶつける可憐さん。

 私は複雑な心境になりながら、先生の事を考える。

 先生が少なからず私を気にしてくれているのは事実。

 ここでいくら自分好みの巨乳美人だからってホイホイついていくはずがない。

 

「私、先生に電話してみる」

 

「え?それはそれでどうかと……デート中かもしれないのよ?」

 

「どちらにしても、変な誤解をしたくないんです」

 

 一方的な考えでモヤモヤしたくない。

 私は大河先生に女性の影があるたびに疑ってばかりいる。

 でも、一度として先生が裏切った事もないのも事実。

 今回もそうであると信じたい。

 電話をするとしばらくのコールを経て、大河先生が出た。

 

『やぁ、梨紅ちゃん。今日はどうしたのかな?』

 

「先生、単刀直入に言うわ。今、どこで誰と一緒にいるの!?」

 

『だ、誰と?えっと、それは……』

 

 彼の言葉が詰まる、嫌な予感が……。

 

「女の人と一緒だったりするの?今、駅ビルで可憐さんと中里さんに会って話は全部聞いているの」

 

『……駅ビル?どの辺にいるんだ?』

 

「東出口付近だけど?話を誤魔化さないで」

 

 ちょうど出入り口の付近で人通りも多いので、壁際に立って私達は雑談をしている。

 

「へぇ、そうなんだ……――ツーツー」

 

 ――嘘っ、大河先生に電話を切られた!?

 都合が悪くなったのかいきなり電話を切られたよ。

 もう一度かけなおした方が……でも、しつこい女って嫌われるかも。

 そんな風に、不安に思っていたら目の前から歩いてくる人影。

 

「……ホントにいた。しかも、3人一緒かい」

 

 電話が切れたと思ったら、大河先生、本人が登場した。

 まさか本人に会えると思っていなかったのですごくびっくりする。

 

「せ、先生っ!?ここにいたんだ……ていうか、いきなり電話切らないでよっ!」

 

「ごめん、ごめん。まさかそんな傍にいるとは思わなくて」

 

「それはこちらのセリフ。大河クン、今日は美人さんと一緒じゃないの?」

 

 可憐さんに問い詰められると彼は苦笑い気味に言う。

 

「……まぁ、それはいいじゃないか」

 

「よくない。全然よくないよ、先生!!沢崎さんはどこにいるの?」

 

 私が彼の服に掴みながらムッと怒りを見せると困った顔をする。

 そんな顔をしてもダメなんだからね。

 

「中里……何で、バラした?」

 

「すまん。今の世の中、女って怖い。桜塚の脅迫に負けたのだ」

 

「それに変な誤解をしてないか?俺がデートでもしてるような?」

 

 先生の言葉に私と可憐さんは声を同じくして呟く。

 

「「――違うの?」」

 

「……全然違う。沢崎さんとあって来たのは事実だけどデートじゃないし。デートなら本当によかったんだが……痛っ!」

 

 私が先生の手をつねると、可憐さんも彼を睨みつける。

 

「大河クン、女の子の気持ちを理解してあげなさい」

 

「……はい。で、俺は別にデートしてたんじゃなくて、アルバイトを紹介してもらってきただけだ。今度、西口の通りの方にできる焼き肉屋のアルバイト、さっき無事に採用されてきたところだ」

 

 先生の話によると、今してる居酒屋よりも時給がいいので、そちらへバイトを変えるみたい。

 沢崎さんも同じバイト先なので人手不足のために紹介を受けたらしい。

 ……って、沢崎さんと同じバイト先!?

 

「バイトの件は分かったけど、沢崎さんとの関係は……?」

 

「そうだ、梨紅ちゃん。お腹空いてないか?俺、昼飯食べてないから、何か食べよう」

 

 強引に話題を変えて、大河先生は私の手を掴むと引きずるように歩きだす。

 

「というわけで、俺は行くよ、可憐。中里もじゃあな」

 

「……めっちゃ強引に終わらせようとしてる。怪しいわ」

 

「あれはそれなりに手ごたえがあったか?フラグたちまくりでいいねぇ」

 

 彼らと別れた後は、先生は私から話題をそらそうとする。

 

「で、さぁ。次のバイト先ってのが中々いいお店でね……新店舗だから大変だけど、時給もいいからやりがいがあるよ」

 

「……先生の気になる沢崎さんも一緒だから?」

 

「そ、それはいいじゃないか。あのさ、本当に何でもないんだ。うん、全然」

 

「ふーん。何でもないならもっと堂々としていればいいじゃない。何で挙動不審?」

 

 追及すればするほど先生の焦りは止まらない。

 ホントに嘘をつくのが苦手な人だ、“純粋”って言うより“ヘタレ”そのものだよ。

 

「分かった、先生。もうその話は終わりにしてあげるから。今から暇なんでしょ?」

 

「あぁ。どこかの喫茶店でも入らない?」

 

「それってプチデート?」

 

「……と言う事にしておくよ。さて、何を食べるかな」

 

 いつもは否定する先生が素直にデートと認めてくれた。

 私は腑に落ちないながらも、ここは黙って引いておくことにする。

 実際は沢崎さんとどういう関係なんだろう?

 これは何としても先生とデートして、私に気を向かせないといけない。

 私はテストを頑張ると心の中で意気込みながら先生とのプチデートをする。

 

「そういや、あのふたりって何で一緒にいたんだ?可憐と中里……もしや!?」

 

「……ただの友達だって。どう見ても恋人に見えなかったでしょ」

 

「今、思えば、俺の周囲ってリアル充実してる恋人持ちっていないよなぁ」

 

 それは大河先生も同じだと思うの、人の事言えないじゃない。

 心配しなくても、近いうちに“私”が先生の恋人になってあげる。

 ……その前に厳しい現実が待っているけど。

 

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