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第11章:ストライクゾーン

【SIDE:日野大河】


 大学での講義中、俺は友人の中里と雑談をしていた。

 中里とは出身県が一緒の事もあり、気が合うので親しい友人のひとりだ。

 

「……そういや、今度の金曜日にまた合コンしないかって話なんだがお前はどうだ?」

 

「金曜か……悪い、俺はダメだ」

 

「何だ、またバイトか?遊びの時間、潰してまですることか?」

 

 中里の誘いは嬉しいがあいにく、金曜日は梨紅ちゃんの家庭教師だ。

 毎週の火曜日と金曜日に彼女の家庭教師をする事になっている。

 

「家庭教師ってやってみると面白いぜ」

 

「ふーん。教育大学の奴らがしてそうな事だが、お前にも興味があったのか」

 

「そういうわけじゃないけどさ。今教えてる子もいい子だし、やりやすいからかな」

 

 梨紅ちゃんは家庭教師の生徒としてはやりやすい子だ。

 元々頭がいい子なので教えた事はすぐに覚えてくれる。

 

「女の子だっけ?年下相手とふたりっきりか。よく少女漫画とかでありそうなシチュだな。……恋は芽生えそうか?」

 

「そう言う事はリアルにはないって」

 

 ……実際には好意を抱かれているようだが、黙っておく。

 ここで俺にロリ疑惑がわくのは避けておきたい。

 

「お前はよくても相手はどうかな。あの子、可愛いじゃないか」

 

「……はて、何のことやら」

 

 ば、バレてた……。

 それは先月の駅ビルで梨紅ちゃんとのぷちデートの事だろう。

 あの時の遭遇は妹と言う事で誤魔化していたのに。

 

「バレバレだ。お前は妹だって言ってたけど、どー見ても、お前には距離感あったし、あの子もあの子でお兄ちゃんって感じじゃなかったからな。妹は実際にいるらしいが、ああいう性格の子じゃないと聞くぞ」

 

「……なんて事だ。まさか、沢崎さんの事を言ったのも?」

 

「わざとだよ、わざと。ははっ、いいじゃないか。ああいう子はお前に合いそうだ」

 

 中里はどうやら高校生ぐらいだと勘違いしているようだ。

 中学生とバレたら怖いので黙っておくとしよう。

 

「それはおいといて。合コンの件だが、今回はダメだとしても次はいけるのか?」

 

「誘ってくれるのはありがたいし、俺も行きたいと思ってる」

 

「……お前、何だか乗り気に思えなくてな。俺みたいに恋人欲しいと焦ってるのと違って、余裕があるっていうか。その子が気になって遠慮でもしてるのかということだ。まぁ、気のせいならそれでいいが」

 

 恋人が欲しいのは事実だ。

 いい加減、恋人の一人は欲しいと願っている。

 だけど、今はそういう気分にはなれそうにない……その理由は、深く考えないでおこう。

 

「おっと、講義も終わりだ。ノートに写さなきゃな」

 

 黒板の文字をノートに写す俺達は慌ててシャーペンを手に取った。

 

 

 

 

 その後、昼食を学食の食堂で取りながら会話を再び続ける。

 

「そういや、日野って好みはどんなタイプだ?」

 

「……俺の好みのタイプ?」

 

「そうだよ。ストライクゾーン広そうだからなぁ」

 

 それは心外な、俺はロリから老婆まで行けるタイプではない。

 今日の昼食はカルボナーラとラーメン、まさに麺づくし。

 定食コーナーが混んでいたので人の少なかった麺類コーナーで注文しただけだが、カルボナーラが好物でもあるのだ。

 さすがに昼時は大学内のいくつかあるどの食堂も人が多い。

 

「ストライクゾーンねぇ。俺は案外狭いぞ。基本的には年上好みだな。人妻属性はないが、年上には惹かれる」

 

「それに加えて巨乳好き、と」

 

「否定はしないが、誰だって好きだろ?」

 

「……残念、俺は微乳好きだ。だからと言ってロリではないのだよ」

 

 モテない男の会話だな、この辺でやめておくとしよう。

 まずは麺の伸びやすいラーメンから食べ始める。

 

「年下は興味なしか?お前って年上より年下に好かれるタイプだろ」

 

「……そのようだな。この間、ちょっとした事で自覚した」

 

「年下女はいいぞ。女子高生、いいじゃん。去年まで高校生だった時は感じなかったが卒業して魅力に気付かされたよ」

 

「中里は今時の女子高生に夢を見過ぎなんだよ」

 

 彼の趣味をどうこう言うつもりはないが、好みの問題だからな。

 年下が好きな奴もいれば、年上が好きな人間もいる。

 

「夢くらいみさせてくれよ。現実は大学生が女子高生と付き合える可能性なんてほとんどないわけだ。同い年くらいの女子大生を狙うのが精いっぱいさ」

 

 そう言う中里だがルックスも悪くないし、人当たりもいい。

 合コンにいけば、女性に不慣れで失敗し自滅する俺と違い、面倒見のよさもあって人気はあるほうだ……が、結局、恋人ではなく友人となってしまうらしい。

 なので女友達は多いが恋人はいない、それが彼の不憫さだった。

 

「ストライクゾーンを狭めるなよ。もっと広い視野で見てみるといい」

 

「自分の好みに幅を広げるつもりはないが、話だけ聞いておくよ」

 

 俺はラーメンを食べ終わり、次のカルボナーラに手を伸ばす。

 

「……ラーメンにカルボナーラ?食べ合わせ悪くない?」

 

 俺の背後からの声に振り向くと、トレイを持った女性がそこにはいた。

 淡い茶髪に髪留めをしたショートカットの女。

 どちらかと言うと童顔なので女の子と言った方がよく似合う。

 

「なんだ、可憐か?どこかの美人が声をかけてきたかと期待したじゃないか」

 

「私で悪かったわね。大河クン。隣、座るわよ?」

 

 こちらが許可する前に俺の隣の席に座る彼女。

 その名は桜塚可憐(さくらづか かれん)。

 名前が可憐だからと期待することなかれ。

 その性格は怒るとすぐに手が出る、可憐とは程遠い女である。

 可愛いけど、怖い女の子。

 そういう意味では「美人だけど悪魔」なうちの美鶴姉ちゃんと似ている。

 

「何だ、桜塚も今から昼飯か?」

 

「そうよ。ちょっとさっきの倫理学の教授にレポート渡しに行ってたの。余計な説教までされてムカついたわ」

 

「先週出さなきゃいけないものを今日まで待ってくれた事に感謝しておけ」

 

 中里の言葉に可憐はムッと睨みつける。

 

「怖いから睨むな」と彼は苦笑いしながら席を立つ。

 

「悪いが俺はちょいと用事があるからな。桜塚の相手をしてやれ」

 

「ん、そうか。じゃぁな」

 

 中里が席を去った後、可憐はトレイに乗せていたカルボナーラを食べる。

 

「アンタもカルボナーラだったんだ?」

 

「まぁな。俺の好きな味でもある。この卵の絡みがたまらなく美味いんだよ」

 

「珍しく好みが合ったわね。よく分かってるじゃない。黒コショウが利いていて美味しいのよね」

 

 彼女はそう言うと、さっさとフォークを手にして食べ始める。

 可憐も同じカルボナーラ好きだったとは……こだわりがあるのはいいことだ。

 

「それで、大河クンと中里クンは女性の身体的特徴の好みを話していたの?」

 

「うげっ……もしや、聞いてた?」

 

「中里クンが逃げた理由はそれでしょ。私と視線が合ってましたから」

 

 偶然、食堂内で俺達を見つけた時に聞かれたらしい。

 あの手の話題は女性に聞かれるの恥ずかしいものだ。

 

「心配するな、可憐。お前は俺の好みから外れた微乳だ」

 

「……手が滑ったわ、死ねっ!」

 

 慌てて避けた俺の頬を彼女の拳がかすめていく。

 風を切る感覚に冷や汗が出る、避けて正解だった。

 

「な、何しやがる。危ないなぁ、おいっ」

 

「ちょっと手が滑っただけじゃない。気にしないで」

 

 嘘つけ、死ねって言ったぞっ!?

 

「……バカ。人を不愉快にさせた罰よ」

 

「あえて、貧乳だとは言わないでおいてあげたのに……。微乳だと言ってあげたのは俺の優しさだ」

 

「誰がその事に感謝するかっ。ホント、アンタって他の女の子には優しいくせに私には雑じゃない?扱いがひどいわよ」

 

「別にそう言うんじゃないんだけどな」

 

 胸のサイズはさておき、彼女はいわゆる友達感覚が強いのだ。

 女性慣れしていない俺が普通に話せる相手も珍しい。

 悪友意識が強くて、女の子として意識していないせいかもしれない。

 

「そういえば、大河クンってカテキョ始めたんでしょ?」

 

「その通り、家庭教師のアルバイトもしてる」

 

「教えてる子は女の子?それとも男の子?」

 

「女の子だけど、それが何か?」

 

 俺の問いに可憐は失笑気味に俺に言った。

 

「子供相手だと大河クンって女の子でも大丈夫なんだ」

 

「うぐっ……。それでは俺が女の子が苦手みたいな言い方だな」

 

「……違うの?」

 

 何も言い返せません。

 俺は無言で視線をそらして、残りのカルボナーラを完食する。

 

「年上好きとかいうくせに、実際の年上女性と話してる時の大河クンってものすごく緊張してる姿が可愛いわよ」

 

「嫌味か、それは!?」

 

「嫌味よ、それは」

 

 さっきの不適切発言の仕返しとばかりに攻めてくる。

 くっ、この可憐を敵に回すと不利だ。

 

「私相手はともかく、もっと女の子慣れした方がいいわよ?」

 

「……そんな事をわざわざ言われなくても分かってる」

 

「それならいいけど。さて、ごちそうさま。食器の後片付けしておいてね」

 

 彼女は俺に食器を押し付けて立ち去っていく。

 逃げられた、と後悔しても遅い。

 テーブルを見ると、中里も空になった皿を置いていっている。

 

「あいつら、覚えておけよ」

 

 俺は愚痴りながら全員分の後片付けをすることにした。

 悪い奴らじゃないが、俺にはあまり優しくない友人たちだ。

 ……俺も急がないと次の講義が始まるな。

 時計を見てため息をつきながら俺はトレイに食器をのせて席を立つ。

 片付けてから俺は次の講義室へと足早に歩き始めた。

 

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