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脳内メーカー

作者: 上村忍

さらっと読める。

頭になんか残る。


そんな小説をあなたに。


暇つぶしよりもちょっといいかも。

(1)


札幌三越百貨店。


地下にあるのは「ヒロシ」という名の巨大スクリーン。

地下鉄の改札を出てすぐにあるので、札幌の待ち合わせの定番である。



今日はクリスマス。恋人達が待ち合わせにわんさか。札幌中から集まってきたんじゃないかってほどだった。


時刻は6時47分。待ち合わせは6時だったはず…


時計を何度見ても時間が戻る訳じゃない。真一は大きくため息をついた。


今日は6時に待ち合わせ。6時10分からレストランを予約していた。フレンチで少し奮発にしたのだけど…


9時から夜景の見えるバーを押さえておいた。

その後、実はホテルも予約している。ホテルには、プレゼントの等身大くまのプーさん人形にリボンを巻いて設置済み。


そうして二人は結ばれる…はずだったのに。




時間を過ぎたレストランはキャンセル。ホテルは一緒に予約したけど、他は俺のプロデュースだったのに。あいつの気持ちをガッチリ掴むプラン。が、パァだ。


と、いうのもあいつが来ないのが悪い!携帯は圏外。ウンともスンとも言ってこない!遅れるなら遅れるって言えばいいのに。どんだけアナログな女だ!


時間は7時12分を指した。かれこれ1時間。


周りにはカプル、カプル、カプル…このやろう!

なんでこんな日に一人でいなきゃなんないんだよ!



と、心で叫んでもやっぱり来ない。



時間は8時を回った。


本格的にこりゃ、まずい…




これって、すっぽかされたってやつか?


え、マジかよ!俺が?


…クリスマスに、すっぽかされた?





時間は8時半、タイムオーバー。携帯は未だつながらない。

2時間半も待ったんだよ。よくがんばったよな…さよなら、俺の恋。グッドバイ。





さぁ、帰ろう。あ、ホテルに電話しとかなきゃ。キャンセル料とられるかなぁ~

ってか、ヒロシの前に俺と同じくらい待ってる女がいる。独りで。

服装はフラボア系。読んでる本はminiかな?今時っぽい女の子。うつむいてるけど、顔は…かわいい!

けど、目は潤んでる。あれも、すっぽかされた系か?



これって、もしかして…カムバック俺の恋。

いつもはこんな勇気はないけど、特別な日だからいってみるしかないだろう!


「ねぇ、ずっと待ってない?」

「…」


「俺も、3時間くらい待ったんだけどさ」

「…」


「予約したレストランもパァだよ」

「…」


「9時からバーも予約してたんだけど、ね」

「…」


「見たところ、キミも相手が来ないみたいだからさ。ここにいつまでもいても仕方ないから、つきあわないかい?」

「…」


…ダメか。慣れない事なんてするもんじゃない。


「…どこにあるの?」

「え?」


「…バー?」

「…バー」





(2)


脳内麻薬が出まくってる。


クリスマスの夜にすっぽかされて、哀しい聖夜となるはずが、同じようにすっぽかされ女をゲット。バーに連れ込んだまではいいが…


会話は弾むことなく、停滞気味。


それでも粘って、得た情報は…


・名前は「かおり」

・彼氏とはつきあって3ヶ月

・彼氏とはなかなか意見が合わないが、ふられるのが怖く言いたいことも言えないような関係

・年は22才


話を聞いている間、少し涙ぐむ場面も。


傷心女はねらい目だ。クリスマスというシュチュエーションも有効だ。やけくそになるかも知れない。


ここからどう口説き落とすかが肝心だ!


真一は、トイレに入り冷たい水で顔を洗った。洗面台に敷き詰められたビー玉を見ながら、考える。


脳A(では、これから脳内作戦会議を行う。今日の議題は「傷心女性をどう落とすか」である。何かいい作戦はあるかの?)

脳Aは議長、しっかりもののまとめ役。


脳B(こっちもすっぽかされたという事を全面に押し出して、同じ状況だからと口説きましょう!共感がコミュニケーションの第一歩です)

理詰めで攻めるB、でもA型。


脳C(いーから、無理矢理にでも連れ込めよ。ホテルもとってるんだし!)

本能のままに生きるC。


脳D(…あの、一応、彼女持ちなんだけど。悪いとか思わないの?)

小心者のD、ってか、まじめなだけ。


脳C(あ~?何時間もすっぽかされて、連絡もなし。アナログな時代かよってなもんだろ!これは察しなきゃなんねーんじゃねーのかよ)


脳B(僕もそう思うな。これは、87%ふられたと考えるべきだ。)


脳D(え~、まだ、わかんないよう…)


脳C(だから、わかんねーのはおめーだ!ふられたっていってんだろ!)


脳B(というか、C、もう少し紳士的な話し方はできないのか?)


脳C(あぁん?てめーみたいな脳がいるんだから、ふられるんだろうよ!)


脳A(ええい、やめろやめろ!話がずれてるんじゃ!どう口説くかが問題なんじゃ!)


脳B(だから、先ほどもうしました通り、「僕も同じようにすっぽかされたんだよね…少し寂しいけど、こうして会えたのも何かの運命かも知れないから、せっかくだから…ね?」という感じではどうでしょう?)


脳C(ね?…そんな言い方じゃわかんねーよ!「寂しいもんどうし、朝まで忘れて呑もう!」こうじゃないか?)


脳D(…だから、そういう邪な考えはダメだよう。「二人で呑みながら、これからの事を考えてみよう。」人の心配ばっかりじゃなくて、僕たちもふられたんだよ!)


脳B(僕たちの事はもういいんだ。あんなクリスマスプレゼントに某等身大くま人形を欲しがるような女性、忘れてしまわねば。)


脳C(大体あの女、カマトトぶる事が多くて前から気に入らなかったんだよ!)


脳D(…負け惜しみだよう。)


脳C(あんだとゴルァ!?)


脳B無言で脳Dを殴る。


脳A(だから、話がすすまん!もういい!では、各自、各々のやり方で攻めてみることにする!脳Bから、行ってみるがよい!)


以上、脳内作戦会議終了。


トイレから出てそっとかおりの隣に座る。


窓際に設置されたカウンターからは、ススキノの夜景が広がる。クリスマスムード一色で、カップルばかりがどうしても目についてしまう。


かおりはマティーニ、真一はジンバックを頼んでいた。考えたら、何も食べていないので胃が痛んだ。


「少し、落ち着いた?」


「…うん。」


「なんか、ごめんね。」


「…いいの、私も…ちょっと呑みたかったし。」



脳A(今じゃ!今、行くんじゃ!脳B、出番じゃぞ!)


脳B(了解。)


「…せっかくのクリスマスなのにね。」


「…」


「お互い、恋人にすっぽかされて、連絡もなし。悔しいよね、哀しいよね。」


「…」うつむくかおり。


脳A(馬鹿者!地雷原に踏み込んだようじゃぞ!これ以上は危険じゃ!)


脳B(いいんですよ、計算通りです。ここで、決めぜりふです!)


「僕も、わかるよ。君…いや、かおりの気持ち、よくわかる。わかってあげてると、思うよ。」


脳A(おおっ!いったか?地雷原を抜けたか?)










「…何がわかるって言うんですか?いい加減な事言うの止めてください。」


ボッカーン。脳B、爆死。


脳C(回りくどいんだよ。傷ついている女に塩塗り込んでどうするんだ!ちきしょう、脳B、嫌な奴だったけど、お前のカタキは取るぜ!)


脳A(待て、C、深入りは危険じゃ!)


脳C(大丈夫、Bが道を切り開いてくれた!)


「いい加減な事はわかってるよ。でも、そうでも言わないと収まりがつかないじゃないか。俺だって悔しいよ。哀しいよ。」


「…そうですよね、ごめんなさい。」


「だからさ、悔しいから一緒に呑もう!朝まで!いろんなことを全部酒に混ぜて呑みくだしちまおう!」


脳A(うまい!Bの話を伏線に自分の分野に持っていった!これは、効いてるか?)


脳C(頼む!これで効かなきゃ…)












「…いえ、帰ります。今日は、独りでいた方がいい気がします。」








チュドーン、脳Cの殉職が確認されました。


脳A(シィイイイイイイー!!!!!ちくしょう、このままじゃ、全滅じゃ…)


「…それでは、ごちそうさまでした。代金、今、払いますね。」


バッグを開けて、財布を捜すかおり。


脳A(…もうだめじゃ、席を立たれたら、終わりじゃ…)


脳D(…B、C。君たちの死が、僕に勇気をくれたよ。わりぃ、考えたけど、みんなが助かる道はこれしか思い浮かばなかった…ごめん、界王様)


脳A(…悟空?、いや、D?!)


「…それじゃ、さよなら。真一さん。」


席を立つかおり。


「…ちょっと、待って。」


振り返るかおり。


「…いまからさ、もう一回、ヒロシの前に行ってみようよ。」


「えっ?もう11時ですよ。無駄ですよ。」


「いいからさ、ダメもとでいいからさ。それでも、やっぱりダメだったら、俺と朝まで呑もう。どこかで踏ん切りつけなきゃ、ずるずると引きずるよ。そういうのが、結局、こんな状況を作り出しちゃったんじゃないの?」


「…」


「辛いのはわかるよ。でも、動かなきゃ!俺が、証人になってあげる!今から、もう一回ヒロシ前に行こう。ダメなら、俺と朝までつきあう。いいね?」


脳A(D…よくぞここまで成長した…儂は思い残すことはない。)


沈黙。かおりとは目が合ったまま。目をそらすことはできない、いや、しない。






「わかりました。行きましょう!このままじゃ、ダメですよね。私、何か、気付かされた気がします。」


脳Aキターーーーーーー


「…でも、もしダメなら朝までつきあってもらいますからね、覚悟してくださいね♪」


脳A(ツンデレ、キターーーーーーー)
















ピッタリ寄り添い、てくてく歩く。周りはカップルだらけ、でも、俺たちもカップルに見えるだろう。


かおりは、ちょっとふっきれた顔をしている。


なんか、変な下心とかじゃなくて、いいことをしたような気がする。このまま、かおりとつきあったりしてもいいかも。



ヒロシ前、ホスト達をかき分け、かおりは彼氏を捜しに行く。



真一は、柱にもたれかかり、ホッと一息ついた。



3分。約束した時間。


真一は目を閉じ、待っている。


この時間だ。もういないだろう。これから傷心同士、キズをなめ合うことになるだろう。ホテルも無駄にならずにすみそうだ…




「真一さん」



おっ、呼ばれた。



目を開けると、二人の女が…




って、えええええええええええ?!




顔を合わせる二人の女。



頭の中ではある曲がリフレイン。頭が真っ白になるっていうのはこういう事なんだ。




こなぁ~ゆきぃ~で、こころまでぇしろーっく~♪



若かりし時の、勢いとノリの短編です。


ちょっと前の感じが出ていて、今読むと笑えます。


いろんな意味で(笑)

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― 新着の感想 ―
[良い点] テンポがよかったです。 [気になる点] オチの意味が分かりません。描写不足ではないでしょうか? [一言] 応援してます
[良い点] コメディー要素が入り、読みやすくなっていた。 [気になる点] 最後は少し……。 [一言] 脳B、爆死。脳Cの殉職等、脳内同士のやり取りが面白く、最期まで読めた。 素直に良かったです。
2010/10/23 20:32 退会済み
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