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その婚約破棄、本当によろしいのですか? 裏の裏は表だったという話

作者: 井伊佳奈
掲載日:2026/09/08

定番の婚約破棄、断罪ものです。

 ジェテ王国、王立学園の卒業式を控えた夜会にて。


「ノルデ辺境伯令嬢ベリーミ! お前との婚約を破棄する!」


 この国の第一王子であるラフィズが高らかに宣言した。

 その片腕にピンク色の髪をした可愛らしい令嬢をぶら下げて。


 周囲の学園生やその親達が息を呑む。

 ピンク……否、男爵令嬢ロピカとラフィズの道ならぬ恋は公然の秘密。

 これから王子による婚約者への断罪が始まるのだ。

 視線が集まる中、ラフィズに指をさされた令嬢……婚約者は大きなため息を吐いた


「妹ですよね」

「は……?」


 そこで気づくべきだった。冷ややかな声と視線に王子は戸惑う。


「だから妹でしょう? ラフィズ殿下の婚約者は」

「な、なにをいってるんだベリーミ……」


「いいえ。私はルミンですが」


 ため息をもう一つ増産してからルミンは扇を閉じた。

 ベリーミ、双子の妹が急病で夜会を出席できなくなった知らせは二日前に王子の手元に届いているはずなのだ。

 その知らせをラフィズが認識していないことにルミンは呆れ果てた。


「それにしても大胆なことをなさいますわね。公然と浮気の宣言、つまり逆断罪」

「う、浮気ではない! ロピカは真実の愛なのだ。それに逆断罪とは」


 ラフィズの問いかけを無視してルミンが近づく。その距離およそ2メートル。


「殿下、その小娘がうちの妹よりも格上だとおっしゃるの?」


 ルミンはわずかに腰を落とし、息を大きく吸った。握りしめた扇がミシリと音を立てる。


「ひっ……義姉上殿、落ち着い――」


 ただならぬ気配を感じたラフィズが腕にぶら下げたロピカを抱き寄せようとしたが、もう遅い。


スパァァァァンッ!


「ぷぎゃあああぁぁっ」


 ピンク色をした髪のうち数本が中を舞う。

 次の瞬間には王子の腕からロピカは居なくなっていた。


「えっ……ロ、ロピカ!?」


 ラフィズが振り向いた先に彼女は居た。ひっくり返された蛙のように絨毯の上で痙攣していた。

 扇を手にしたルミンの踏み込みがあまりにも速く、音を置き去りにしたのだ。

 そして何事もなかったように淑女の笑みを浮かべ、音が鳴る前と同じ場所にルミンは立っている。


「ごらんなさい殿下。体術ひとつ比べてもうちの妹とは雲泥の差。これでは敵だらけの殿下を守ることすらできない」


 ラフィズは思いだした。

 姉のルミンとベリーミが剣聖の家系であることを。


 辺境伯が手塩にかけて育てた姉妹が王国の護衛騎士より強いことを。


 ノルデ辺境伯家が武力によって王国を守り安寧をもたらしていることを。


「……婚約破棄は撤回する! ベリーミとの婚約を継続す「流石に無理でしょう」」


 婚約者の言葉を遮り、一瞬で距離を詰めたルミンが囁く。


「殿下。廃嫡と毒杯と幽閉ならどれになさいますか」

「ど、どれも嫌だあああああ!」


 今にも泣き出しそうな王子を見て辺境伯令嬢は鼻で笑い、優雅に右腕を上げる。


「では真実の愛とともに遠い彼方へ」


 その指の先が示すのは未だ立ち上がれない男爵令嬢。

 ラフィズは震えながら後ずさり、ロピカを抱きかかえてその場から立ち去った。


「……これで良かったのかしら。お父様」


 不安げに呟く娘に少し遠くに居た辺境伯が頷いて見せる。

 もともと王命による婚約が気に入らなかった父である。

 影からの知らせで王子の不貞を耳にした時は小躍りして喜んでいたのだ。


 ただ当事者であるベリーミは少なからず気落ちしていたので辺境伯が入れ知恵した。

 姉のふりをして夜会に出れば少しは気が楽になるのではないか、と。


「せめて姉妹の見分けがついたなら手心を加えてあげたのですけど」


 顔立ちも髪の色もそっくりな姉妹は家族以外は見分けがつかない。

 仮に王子が普段から婚約者と親交を深めていれば結果は違ったかも知れない。


「ルミン姉様ごめんなさい」


 儚げな表情をして瞳を伏せるルミン……のフリをし続けたベリーミ。


へぷしっ……!


 その頃、辺境伯邸で領地の帳簿をまとめていた姉のルミンが大きなくしゃみをしていた。


(了)

できるだけ短く終わらせたかった。

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