やかん
掲載日:2026/05/03
「おい、やかんはどこだ」
この部屋には誰もいない。そうだった、もう彼女はいないんだった。家事もろくにせず、愛想もつかさないで自分の趣味で一杯だった私はとうとう別れようと言われ、この状況だ。
「やかんはどこにあるのだ」
探しても探してもに当たらない。私は子供がかくれんぼしている友達を見つけるように必死になって探している。自分の作業場に戻ってみるとパソコンの上に猫が乗って寝ていた。
「ちょっ、ハマさんや、どいて欲しいのだが」
私は幸せ太りをしているハマを両手で掴んで座布団に寝かせた。
そういえば、彼女はやかんなんて使っていなかったな。全部、電気ポットだったな。
よく台所を見ると、そこには電気ポッドの電源が切られたまま、寂しそうに置いてあった。
中はぬるま湯であった。私は湯を沸かして味噌味のインスタントラーメンを作った。
この家の作業場にある大きな窓を引越しトラックに書かれたキャラがこちらを睨んでいる。
私は味噌ラーメンを食べながらキーボードを打った。
ーーある日、彼女が抜け出しては言いたかった言葉があった。それは、やかんはどこにあるのだ、と。




