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第8話

暫く主人公の田中さんが置いてけぼりになっちゃってますね。

由紀の悲劇の一瞬に、全員の手が止まり、加えられていた力が一斉に外された。


自分の右手をマジマジと見ながら、由紀は気を失い、あろうことか、検体の顔の上に倒れこんでしまった。


「ぐがあぁぁぁぁぁぁぁっ」有紀の有り得ない悲鳴。

検体は由紀の顔に喰らいついた。

と同時に今までにない力で、獲物を掴もうとしたのであろう、両手・両脚の拘束具は千切れ飛んでしまった。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜。離せ!離せ!離せ!」


山岡が、泣きながら、駄々っ子のごとく由紀に喰らいている検体の口元に手を差突っ込み、必死に由紀の顔を剥がそうとしていた。


「ひぃぃぃぃぃぃっぃーーーーー」こんどは山岡の悲鳴だ。


検体にとっては、新しい餌が勝手に口元に来ただけである。勿論、山岡の指も検体の口の中で咀嚼されたのである。


噛まれた山岡は、訳のわからない言葉を叫びながら両手を振り回しコマのように、辺りぶつかりながら暴れ回っていた。


「松下!徳永!どうだ!」


パニックを起こしかけながらも、鈴元は『自分はレンジャーだ』と心を奮い起こし、状況把握するために声を出した。


「松下 いけます。徳永2士は床で頭を強打した様子です。動きません。」


「博士は?博士?はどこだ?」 鈴元


「わかりません。見当たりません。」 松下


鈴元が博士を探そうと、検体から目をずらしかけた時、鈴元の「勘」が騒いだ。


「やばい!検体が起き上がるぞ!」


素早く、スウェーバックするように検体の掴みかかる手を回避し、立ち上がったが………そこに、半狂乱の山岡が突入して、鈴元は数メートル先に吹っ飛ばされた。


鈴元は、一瞬気が遠くなりそうになったところを、自分で舌を噛み、何とか意識を保とうとした。

20秒か30秒か?体制を整えるに要した。


拳銃を構えて立ち上がり、鈴元は自分の目を疑った。


女性が噛まれてから、3分も経っていないはずである。

まして、山岡に至っては分を超えた位のはずだった。


なのに、ゾンビが3体。

それぞれに、松下、徳永、博士に喰らいている。

右手で銃を持ち左手でそっと支え、左足を少し前に突き出し、両膝を軽く曲げて目標の対してほんの少し身体を開き

ベッドレストに向かって、冷静なよく通る声で


「こちら、鈴元。各位へ。

コードレッド・コードレッド。

繰り返すコードレッドだ。

既に自衛官3名、事務官2名。計5名が喰われた。

噛み付かれると、数十秒でゾンビ化する模様。


これより可能な限り殲滅活動に移る。


オーバー」


いい終えるなり、向かってくる山岡に対して泪をこぼしながら鈴元は引き金を引いた。


「ドン!ドン!ドン!ドン!」

鈴元の右肩が震える度に、通常なら人を止めるには充分な威力の弾丸が腹部、胸部、肩、と次々に被弾する。

その度に山岡の身体は仰け反り、一旦動きは止まるが、死者に再度の死を与えることは出来なかった。


「鈴元!須永だ。脱出しろ。

1人でやり合うな!

全員で迎えうつんだ!

撃つ時は、ブリーフィング通りに頭を撃つんだぞ!………鈴元ぉぉぁ〜」

須永分隊長の言葉は届いていなかった。


既に、鈴元の耳には「音」は存在しなくなっていた。


ただ、日々繰り返される訓練が本能的に実践されただけであった。


しかし、訓練では、「頭」を撃ち向抜くという。ヘッドショットは想定されていなかった。




バイオメディカルルームの外。


「本部!本部!こちら、須永曹長。バイオメディカルルーム内でコードレッド発生。

自衛官3名と事務官2名が検体に襲われ、ゾンビ化。

繰り返す、建物内にゾンビ発生。

部隊を寄越してくれ。こっちは現在5名しかいないんだ。」


「こちらは本部。田坂だ。現状は把握した。2分隊向かわせた。そちらの布陣はどうなっている?。」


「はい、ゾンビの拡散防止予防の為、A通路B通路両方向からの挟撃体制を取ってますが…正直、同士撃ちを考えると…」


「了解した。部隊はA通路側から進行させる。

君達はB通路側に展開しろ。

防衛ラインを5分後に現時点から200メートル下げるんだ。

心配するな!

各部屋はICカードがないと開閉出来ない。

ゾンビがICカードを使える訳ないだろう?

無線コードはβ4に変更だ。」


田坂3佐は自信たっぷりに答えた。

(俺は、このゾンビ騒ぎを無事に収束させて、もっと上を目指すんだ)


「了解。須永分隊5名、指示通りに防衛ラインを下げます。

無線コードはβ4に変更します。」


「こちら田坂。

了解した。

須永君、分隊の前面は君のご自慢の鈴元と松下を推薦するよ。以上。」


「3佐。ご意見ありがとうございます。

しかし……松下はルーム内でゾンビに……

鈴元は、ルーム内から殲滅行動に出ると報告後連絡が途絶えています。」

田坂3佐は須永の報告に軽い目眩を感じた。


本部を引き受ける条件に、西部方面普通科連隊のNO1分隊 須永分隊を引っこ抜いたのだった。

田坂が戦術評価センターの資料から発見した。西日本で一番優秀な分隊のはずであり、この本部内の中心分隊なのだ。

しかも、鈴元と松下はエースなのだ。


田坂の計算は狂い始めていた。投入した2分部隊がゾンビを足止めしているところを須永分隊に後ろから襲わせるつもりであった。

須永は挟撃による同士撃ちを心配していたが、鈴元と松下はそんな条件は苦にしないはずであった。


「斎藤分隊、西脇分隊どうぞ!」


田坂は送り出した分隊に連絡を入れた。


「斎藤です。どうぞ。」

斎藤がのんびりとした声で返信してきた。

任務は足止めと思っている証拠だ。


「田坂だ!そちらの装備を確認したいのだが?どうぞ」


「ガーガー…たてもの……いちば……ガーガーあとで……」

どうやら、この本部ビルの唯一の弱点のバイオハザードエリアの入り口付近らしく、無線が途切れてしまった。


「青島2尉!聞いたか?須永んところの二人が計算出来なくなった。代替案を10分で用意しろ」

指示された青島2尉はバタバタとスタッフに声をかけていた。

その中には、本来バイオメディカルルームの通路前を監視する隊員がおり、田坂の焦りが……本部内に伝染したのか?

メディカルルーム前の監視体制にぽかっりと空白が生まれたのである。


同じ頃、第3ラボの山形は、有紀の帰りが遅いことを気にしていた。

荷物を置いていったので戻ってくるはずなのだ。

考えに考えた末、山形はメディカルルームに向かった。


内線が繋がらないことが余計に山形を焦らし、何故繋がらないのか、焦りが想像力を奪っていた。

山形の有紀を想う気持ちが、更なる悲劇への幕開けとなることなど、誰か想像出来ただろう。




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