第4話
だんだんと話しは進んで行きます
「はい、田中です。」
一瞬、何故だかわからない悪寒?が走ったような気がしたが…ゆっくりと考える間もなく、相手が喋りだした。
「伊集院です。危機管理対策本部の田中君だね。お休みの早朝に、誠に申し訳ない。」
電話の相手は、伊集院 剛。俺が働く会社のてっぺん(社長)だ。
働く会社とは、国内唯一の総合電気通信会社【ジャパンテレコム】である。
7年程前まで、国内には3社の電気通信会社が存在したが…相次ぐ値下げ合戦でお互いに体力を失っていき、最後は国策に近いレベルで3社が合併させられのだ。と言ってもその時には、俺は外部の人間だったので…新聞で書かれている程度の知識しかなかったが…何の因果か転職してお世話になっているのだ。
この伊集院と言う社長は、当時は通信会社を管轄する役所の大臣だった人物である。
元総理の曾孫で、アメリカの凄い大学を主席で卒業し、鳴り物入りで政界に入り一直線で大臣になり、末は総理と噂された人物だ。
確か、かなりの海外通で外務大臣の経験もあったと思うが。
野に下った理由も、自分の指導力不足で通信業界に混乱を招いた責任を取る。だったはずだ。
対策本部会議で一度だけ会ったことがあるが、凄い迫力を持ちながら非常に明晰で、ありとあらゆる人を引き込む魅力のある人物だった。
「名前が格好いいと見た目や実力も違うなぁ。タ・ナ・カ・イ・チ・ロ・ウ・君!。」と(鈴木)本部長にイヤミを言われ、「たしか、社長とス・ズ・キ・本部長は同い年ですよね。」
とバカな反撃をして地方で1年過ごした、しょうもない過去を思いだしちまった。
「で、申し訳ないが至急で九州に飛んで欲しいんだか……」
ヤバい!ついついバカな回想してたら、社長の指示を聞き漏らしてしまった。
「もう一度、お願いしていいですか?少し聞き取りにくいので…」と恐る恐る切り出したところ…
「田中君の住まいのエリアは電波干渉地域かい?私には田中君の声は鮮明に聞こえているんだがね。
まぁ、そんなことはどうでもいい。
非常にデリケートで特殊な事態………
イヤ!問題なんだが、九州エリアで今後如何なる事態が発生しても、最低数週間は我社の通信設備や通信網が稼働出来るかを一両日中にチェックして欲しいんだ。
特に、携帯電話の無線基地のメンテナンスフリー期間が規定通りか?
規定内でも作業員が駆けつけなければならならない可能性や作業員を派遣出来ない際の稼働率とそれに伴い、規制しなければならないトラフィック量や…………」
おいおい!俺は技術屋じゃないぜ!!と心の中で叫びながら……
「えーーっ。社長……。
そこんところは、施設管理や運用管理部門の管轄でして、我々、危機管理対策本部は想定される災害などを検討して施策案を想定するだけでして、「いざ」が発生した場合は現場を把握している組織体が取り仕切るのがベストな選択と…………」
社長の話しを遮って、意見具申かぁ〜。減棒か降格は覚悟しなきゃなんねえだろうなぁ。
また、女房と距離が出来る問題勃発だなぁ。
毎度・毎度、これをやらかすから、人生上手く行かないんだよなぁ。
長いもんにゃ、巻かれてりゃいいのによ。
なんて、自嘲気味に1人携帯電話を持ちながら頭をボリボリかいてた。
「田中君!!」
来たかぁ〜。減棒か?降格か?
まさか「首」はないよな?
「私は、君のその誰にでも自分の意見を言える。ところを買って、今回の仕事をお願いしたいんだ!」
はぁ〜?「お願いしたい」?社長が俺にお願い?新しいリストラ策か?
「現地には既に、秘書室長の源五郎丸 君を向かわせている。彼から詳しい情報を聞いてくれればいい。それと、この事案については、社長直轄扱いで君には役員と同じ決済権限を与えるように、関係部署には通達する。部下は使えないが、源五郎丸君と配下のメンバーは使ってくれてかまわない。もう直ぐ、迎えが着くと思うので、暫くは向こうにいる用意をして向かってくれ。」
言うだけ言って、社長は電話を切ってしまった。
夢か幻か?なんなんだ?
しかも、秘書室長?社長に次ぐキレ者の噂だか……イヤミ一杯の生け簀かねえ野郎なんだがな。
(決して、特殊な名前に嫉妬してるんじゃないぜ)
考えてたら、外に車が止まったみたいだ。
有無を言わせずに、巻き込まれて行く瞬間だった。
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