第39話 拡散11 福岡壊滅への序章
ご無沙汰してます。
徐々に開始していきたい考えております。
「マジ?高校中退のお前が?なんで、「街の鍵屋さん」に勤められった?マジでコソ泥に鍵預けるようなもんたい?」
「叔父さんの店たい!こん技で悪さしたら・・・・・・・オイは間違いなく殺されるたい。」
「技?お前が技?笑わすこと言わんで!」
建物のエントランスの隅にたむろする10名程の若者たちは、円の中心に位置する鍵屋に勤めた始めた仲間を順々に小突き回しながら、騒ぎ、はしゃいでいた。
エントランスには、悪ふざけをしている若者、塾帰りの小・中学生に帰宅してきた数組の家族を含め20名余りの人間がいる状態であった。
「お兄ちゃん?カギ屋さんなの?」
小学生高学年程の3人の女の子がオズオズと若者たちに近づきながら尋ねた。
「ん?お嬢ちゃん。こん男に近づいたらお嫁ばいけんようになるとね?」
若者たちはふざけた勢いそのままに口々にはやし立てた。
「あっちの扉の奥からうめき声が聞こえて扉が内側からドンドンと叩かれてるの。管理人さんはもう帰ったみたいで、扉を開けてあげられないんだけど?
お兄ちゃん?助けてあげれない?」
最近の小学生はしっかりしたものである。まぁ、ふざけているとはいえ、たむろしている若者たちの半数はこの建物の住民であり多かれ少なかれでも顔見知りでもあった。
2名の小学生を先頭に若者たちはその扉に近づいて行った。
扉が頑丈なのか?防音使用でもあるのか?よく気が付いたと思われる程の音しか聞こえなかったが、間違いなく扉の向こうでは呻き声などが聞こえてきていた。
「これは?やばか!一人や二人の呻き声やなかと!健介!お前開けれんか?」
おどけていた若者たちも扉の向こう側を心配し、真顔で顔を見合わていた。
「お、叔父さんの許可がないと出来んっ。」
「緊急事態やと」
「俺たちが口添えすれば何とかならんと?」
その騒ぎに、エントランスに居る他の者も徐々に集まり、ちょっとした喧噪状態になっていった。
その時、エントランスの自動ドアが開き、疲れ切った50台の男性が、ネクタイを乱暴におろしながら入ってきた。
「ん?エントランス奥で揉め事?
面倒くさいなぁ。バレないうちにエレベータに乗っちまおうっと!」
足早にエレベータに逃げ込もうとしている男性に後ろから声がかけられた。
「自治会長!自治会長!」
「あちゃ~?見つかった?し、しかも、この声は・・・・・・・・」
恐る恐る振り返ると、そこにはこのビル一番のクレーマー主婦が腕を組み首をかしげながらニッコリと微笑んでいた。
目、目は笑ってねぇよなぁ? 自治会長は精一杯の愛想笑いを向けて
「な、何か?問題でも発生したのですか?」
「何か、奥の扉の向こう側から呻き声が聞こえるそうですわよ?丁度、18階の奥寺さん家の保君が鍵屋さんに勤めてらして、開ける開けないで言い争いになってますわ?
何でも、仕事として受けないと怒られるとか・・・・・?」
「わ、わかりましたぁ!」
現場に飛んで行った自治会長は、保の事情を聴き、管理人不在時の緊急避難と人命救助?と言うことでビルの自治会長からの依頼で鍵を開けることを依頼した。
保は仲間にはやし立てられながらも、額に汗しながらピッキングツールを駆使し開錠に挑戦し始めた。
全員がかたずを飲む時間が5分過ぎた時
ガシャン
と音がして、扉の鍵が開錠された。
額の汗を拭いながら、仲間たちに どんなもんだい!と自慢顔で振り向いた。
「やったねぇーーーーお兄ちゃん!」
無邪気に首に腕を回して喜びを伝える少女を優しく抱きかかえながら
「やるときはやるて!」
保は、ドアノブを回して、力一杯引いてみたが、ビクともしない扉に焦ったが
「お兄ちゃん!引いても駄目なら押してみなってぇ!」
言われて、はにかみながら勢いよく扉を押した保は、扉から生えるように伸びてきた無数の腕に少女ごと引き込まれていった。
途端に、保と少女のカン高い悲鳴が長々とエントランスに響き渡った。
「どないしたと?」
保の仲間たちが慌てて助けようと扉に突入仕掛けたところに
「おまんら!なんぞぉぉぉぉ!」
扉から、血だらけの白衣やスーツの男女が両手を突出しながらあふれるように出てきたのである。
「離せ!ぎゃぁぁぁぁ!」
扉に飛び込もうとしていた保の仲間の一人が掴みかかられると同時に肩に噛みつかれ、絶叫を発した。
「人を噛んだ?」
「喰っとる!」
「イヤァァァァァァ!」
その場の全員が腰を抜かしてしまい。突然扉から現れた者達にとっては恰好の獲物となってしまった。
僅か数分でエントランスは血まみれになったが、地下から現れた者達の食欲を満たすことは出来ず、50名近い感染体の大部分は、エントランスを抜けて福岡の街を徘徊し始めた。
馬場分隊
「全員全速力で上がれ!上がれ!上がれ!既に初動で30分以上遅れてるんだ!死ぬ気で登れーーーーっ!!!」
地下の研究施設から、地上に出た感染体を追いかけるために馬場分隊の面々は重い装備を苦ともせずに階段を駆け昇り続けた。
「な!?・・・・・・・・・・・」
エントランスに通じる扉から飛び出した馬場の目に入った物は、一面、血の海と化したホールだった。
所々に赤っぽい塊が点在していた。感染体の食べ残しである。
壮絶な現場と、濃厚なむせかえるような血の匂いに、屈強の自衛官といえども耐えることが出来ずに数名がホールの隅で未消化の夕食を吐き出していた。
「な、なんてこった。一体何人が犠牲になったんだ?
猪木は未だな?・・・・・・・・・・・・・大熊(副長)!半分連れてビルの回りを確認!佐々木以下4名は念のためビル内の検索!残りは俺に続け!表通りまで探索するぞ!行くぞ!佐々木!指令室に報告しておけ!」
我に返った隊員達は89式小銃を握り直し表へと飛び出して行った。
「指令室!指令室!こちら馬場分隊、佐々木。感染体はエントランスにて住人を襲った後に建物外に移動した模様。
副長が猪木隊未着のため建物周辺探索!隊長が表通り方面の探索開始。自分はビル内の2階以上の探索!
繰り返す!既にビル内の住人多数に被害!感染体はビル外に移動!感染体はビル外に移動!
隊長、副長2班分けで探索開始!以上!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
チッ!指令室の奴等何やってんだよ?返事くらい出来るだろうに?????
佐々木の頭に指令室も襲われたのか?と明確な思いが発生する前に
「佐々木さん。俺たちもここから動きましょうよ」
他の隊員からこの場からの移動を要求された。
佐々木は、指令室の事から思考を切り替え、どこから探索するべきなのかと思案を始めた。
チン!
とエレベータが1階に到着した音がした。
何気に到着したエレベータを見た瞬間に、佐々木が叫んだ!
「注意しろ!血の跡がある!」
そう、エレベータを呼ぶ昇降ボタンの周りにはドス黒い血がべったりとつけられていた。
開いたエレベータ内もエントランス同様に血の海と化していた。
エレベータの床には血だらけの人が横たわっており。か細い声で
「た、助けて・・・・・・」と言ったままガクリと頭を垂れてしまった。
「川田!」
佐々木の一声で衛生兵の川田がエレベータに横たわる被害者に駆け寄った。
ドクドクと血が流れ出る首筋に止血帯を押し付けながら、川田は他の隊員を呼び被害者をエレベータから出そうとした。
駄目だな。首の後ろ側が頸椎が見えるところまで咬みちぎられてる、それ以外にも何か所も食い千切られている・・・・・・・・生きていること自体が信じられない。
2名の隊員がエレベータに乗り込み、3人がかりで被害者をエントランスに担ぎ出したが、既にこと切れていた。
「川田!お前はエントランスに残って来訪者対応!と分隊長と副長に連絡。三沢、武藤、小橋!上階に上がるぞ!気ぃぬくなよ。俺たちゃブロイラーじゃぁねんだからよ!」
4名はもう1基のエレベータに乗り込み上階を目指した。
「隊長!副長!川田です。ビル内のエレベータに被害者発見しましたが救出後に死亡!佐々木2曹。三沢、武藤、小橋の4名でビル内の探索開始。私は来訪者対応でエントランスに残りました。」
「了解!大熊聞いたか?でビル周りはどうだ?」
「大熊です。了解です。今しがた感染体1体発見し射殺!こいつは犬を襲ってました。犬も捕食対象の模様です。2名残して川田に合流させ、私もそちらに合流しましょうか?」
「了解だ!猪木が到着次第引き継いでこちらに向かってくれ!猪木にはビル内の探索も頼んでくれ!・・・・・・・・・・・・・・・まて!そこだ!そこのコンビニだ、様子がおかしい。百田!2名連れて確認!
大熊!どうもコンビニも襲われてる可能性が出てきた!命令変更だ。お前は猪木が到着次第、念のため大通りと逆方向を探索してくれ!
後10分程で周辺地域の封鎖が始まるはずだ!それまでに出来るだけ探して射殺するんだ!言いたくはないが、一般人も・・・・・・・・・咬まれた物は例外なく射殺するんだぞ!確実に頭部を破壊するんだ!
それと、指令室との連絡が途絶えた!2名程様子を見にいかせろ!連絡を絶やすな!とてつもなく嫌な感じがする。以上。」
「隊長、了解です。田上と越中を行かせます!気をつけて下さい!以上」
もし・・・・・・・・大通り以降で感染体が一般人を襲っていたら・・・・・・・福岡はおしまいかもしれんぞ?どこで監視体制の歯車が狂ったんだよ?
コンビニに向かう隊員の背中を見つめながら、馬場の背筋には冷たい汗が伝っていた。
「自動扉が開いたら一気に入るからな!初弾装填して、連射だ!俺たちの力量じゃ室内でのバースト(3点射撃モード)なんて無理だからな。
俺は正面、安生は右!戸口は全方位のバックアップで行くぞ!怪しい奴がいたら兎に角ブッ放すんだ。」
コンビニの自動扉が開くと同時に、しっかりと自分の肩に89式小銃のストックを押し付け、引き金に指をかけ、銃口を左右に振り、銃口の先に動く者がいないかと目を皿のようにし、百田はズカズカとコンビニに踏み入った。
続いて踏み入った安生が右を向いた瞬間に、3体の感染体が両手を突出しながら、ヨタヨタと安生に向かってくる姿が目に飛び込んできた。
来た、来た、来たぁぁぁぁぁぁぁ!堂々と人が撃てるぞ!チクショウ!うれしいじゃねぇかよ!
頭で思った瞬間に、安生は89式小銃の引き金を引いていた。
タ・タ・タ・タ・タ・タ・タ・タ・タ・タ・タ・タ・タ・タ・タ・タ・タ・タッ
安生のイメージの中では、3体の感染体が弾が当たる度に、血飛沫が舞い散らせながら身体をのけ反らせ踊りまわるはずであったが・・・・・・・・
安生の放った弾丸は、感染体の頭上を大きくそれて正面の壁から天井に向かって順番に穴を穿っただけであった。
「うがぁぁぁぁぁぁっ!」
安生は89式小銃を放り出すように仰向けにひっくり返っていた。その安生の腹部と右鼠蹊部辺りに幼い小学生らしき女の子が2人喰らいついていた。
「痛ってぇーーー!と、戸口ぃぃぃぃ!う、撃てぇぇぇ!何とかしてくれぇぇぇぇ!」
のた打ち回る安生を後目に、少女達はまさしく喰い千切るように安生の肉を身体から引きはがしながら咀嚼していた。
「うっ、撃ったら。こんな近距離だと貫通するじゃな・・・・・・・」
戸口が戸惑っている間に、3体の大人の感染体が迫り1体の突き出された手がガッチリと戸口の右肩を掴んでいた。
いきなり、物凄い力で右肩を掴まれた戸口は痛みのあまり思わず引き金を引いてしまい、無数の5.56ミリ弾丸が。その暴力的な力で安生と1体の少女感染体の身体をボロボロにした。
安生を撃ったショックと肩の皮膚を突き破って侵入する感染体の5指の痛みに戸口は狂ったように叫び、全身の力を振り絞って店外に脱出を試みた。
安生の発砲を耳で聞きながらコンビニの最奥の陳列棚を曲がった百田は、その眼を大きく見開いていた。
「い、犬?・・・・・・・・これも感染体なのか?」
そこには、コンビニの制服を来た肉の塊となった者に、3匹の犬が鼻先と突っ込みながら、一心不乱に食事をしていた。
映画の様に体毛が抜け爛れた皮膚ではなく、見た目にはそこいらで散歩されている犬となんら変わりがなかった。1点変わっているところは、人間の感染体と同じく白濁した眼であった。
百田が発砲をためらっていると、1匹の柴犬が百田の方を向きその白濁した眼でジィッと見つめ、小さな唸り声とともに前足をツンと伸ばし頭を少し下げ襲い掛かる姿勢になった。
気づいた他の2匹。ダックスフントとミックス犬も同じような姿勢を取り、今にも百田に襲い掛からんと身構えていた。
「い、犬コロに喰われてたまるかよ!」
百田が引き金を引くと同時に、3匹も飛び出すように百田に向かって来た。
中型犬の柴犬とミック犬は、百田の予測した地点を通過することによって数発の5,56ミリにその身を引き裂かれたが、人を襲ったという評価がその犬が持つ基本能力を百田に見誤らせのか?
ダックスフントはその短い脚の影響で、百田が予測した地点の遥か下をかなりの速度で走り抜け、百田の数十センチ手前で必死の跳躍で飛びかかってきた。
ここでも百田の脳は、未知の恐怖と実際に目で見るダックスフントの走りのギャップを修正することが出来ず、とられた行動は89式小銃のストックで飛び掛かれるであろうと予測された自身の胸元に対してタイミングを見計らい斜め上から叩き落とす行動であった。
百田も攻撃は見事に空を切り、ダックスフントは百田の左内腿にその歯牙をガッチリと喰いこませていた。
感染犬の歯牙は、丁度、百田の内太腿を通る動脈を切り裂き、百田は急激な失血により一気に意識を無くしていった。
数分で確認が出来るであろうと目論んでいた馬場は、その数分の間に残ったメンバーの下士官と大通りでのチャックポイントや半分に割った部隊の編制を相談していた。
と、そこに、長い掃射音が立て続けに発生し、肩から血を噴出させながらコンビニから飛び出てくる戸口の姿があった。
馬場が命令を下す前に、コンビニ近くで待機していた数名が戸口の救助と内部確認の為に飛ぶようにコンビニに向かった。
「感染体に掴まれた。やられた!撃てなかった。殺した!殺した!俺が殺したんだぁ!」
内部の事情が分からない他の隊員には、戸口がパニックに陥っていると判断し、駆けつけた衛生兵がモルヒネを打ち戸口を静かにさせた。
その横を、馬場と何名かの隊員が駆け抜けて自動扉の前に散会する体制をとっていた。
「大木!確認しろ。杉山バックアップにつけ!他の者は互いの射線上に入らないよう囲むんだ!」
大木と杉山が歩を進めようとした時に、3体の感染体が自動扉から出てきた。
「任せろ!」
大木は杉山を下がらせ、自身のショットガンM870の銃身下部の可動式スライドポンプを勢いよく引き下げ、ニンマリと笑みとした笑みを浮かべながら押し上げた。
ガシャン!と言う音と共にダブルオーバックの散弾がM870の薬室に送り込まれた。
「接近戦では、こいつが最強なんだよな!」
大木は、おもむろに銃口を感染体に向け引き金を引き始めた。
三回引き金を引き、4回ポンプアクションで次弾を装填した時点で、三体の感染体はその頭部に壊滅的なダメージを受け、地面に横たわっていた。
「まっ!こんなもんだな。杉山!店内の確認に入るぞ!」
大木は杉山に指示を出しながら、M870をひっくり返し、引き金をカバーしているトリガーガードの少し上にある大きな穴にダブルオーショットシェルを3発補充した。
「犬だ!」
杉山のすっとんきょうな声で、コンビニに目を向けると小型犬が一直線に大木の元に駆け寄って来ていた。
無類の犬好きの上、夜間であり、明るいコンビニの照明が逆光状態のため、大木からはその小型犬がダックスフントでること程度しか分からなかった。
大木は、腰を折り膝を曲げて、M870の引き金に指を書けたままで膝の上に抱えるように置き、左手で犬を迎える姿勢をとった。
大木の左側に位置していた杉山は、ちょっとした光の加減でその犬の口元が異様に赤いことに気が付いた。
「大木!待て!その犬様子が・・・・・・」
杉山の掛け声に反応した大木は、杉山を見上げることになった。そう、丁度走りくる犬に対して、自ら喉笛を差し出たのである。
ピョンと跳ねたダックスフントは、一直線に大木の喉笛に喰らいつく。
「ガッ!」
声にならない声を上げた大木は、一瞬の痛みに身体中の筋肉急激に委縮し始めた。その結果、大木の右人差し指はM870の引き金を引くことになり、発射された散弾は注意を発しながら近づきつつある杉山の胸元に大きな穴を穿った。
胸を打ち抜かれた杉山の、身体中が悶絶を起こし、その波動は彼が握りしめていた人差し指に伝わり、彼の持つ89式小銃はその20発入りの弾倉がなくなるまで5.56ミリNATO弾を弾き出した。
また、その20発のNATO弾は、あろうことかコンビニに向かい集まりかけていた馬場分隊の隊員を次々になぎ倒していった。
こうして、本来ならばビル周辺の感染体を1体でも減らすべく行動を起こしていた分隊の半分が壊滅したのである。
これだけの大騒ぎが起こったのである。数分後には周辺住民がオズオズと様子見に現れ始めたが、風のように走る一人の感染体に次々を襲われていった。
その感染体は、先ほど肩の肉を引きちぎられた戸口であった。
つい先ほど、毛利達が根絶やしにしたはずである、走る感染体がまたしても誕生したのである。噛みつき以外での感染がポイントなのであろうか?
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