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第34話 拡散 7

違うタイプのゾンビ活劇『親父の楽しく険しい旅』も新規連載始めました。

よければご覧下さい。

「では、各隊。幸運を祈る。」


藤波の全員に対する言葉に対して


「敬礼!」


小沢曹長の凛とした声が全員に行き渡った。


両隊が離れて20歩も歩かない内に


「お・ざ・わ!」


毛利が隊の中ほどから声をかけた。


先頭付近にいた小沢は他の部下に警戒体制を指示し毛利に近づき


「何ですか?准尉!」


露骨に嫌がりながら返答をした。


「何って………お前さんや秋葉が先頭にいたら……馬の鼻先に人参をぶら下げてるようなもんだろうが!」


「お言葉を返すようですが、私の隣にいた2曹も結構な腋臭ですが?

男ばかりの自衛隊で臭いで行動を妨げるのは如何なものかと?」


「いや、いや!よく聞いてくれよ。腋臭は誰もが不快な臭いだ。先ほどの感染体を思い出して欲しい。

全部、男の感染体だったはずだ。」


「と言いますと?」


「スケベェな、男のサガですか?毛利さん」


秋葉が話しに割って入ってきた。


「ご明答!

感染体になっても人間の本能はあるんだろう。と推測できなくもない。と思うのだが?」


ニヤリと毛利が秋葉に返答した。


「なら、うんこやアンモニアの臭いを先頭にして進んだら、感染体はよって来ないんですか?」


小沢が馬鹿にした口調で毛利に反論した。


「可愛い顔して…うんこかよ!そりゃ、臭いでは近づいては来ないだろうが…感づかれ時の食欲と臭覚のどちらが勝るかだが……十中八九、食欲だろうな。

どっちにせよ、うんこが直ぐに手には入る訳じゃないんだから、二人は真ん中がいいんじゃねえか?」


毛利に指摘されて顔を赤くしていた小沢に代わって秋葉が


「なら、私と曹長が囮で感染体を引きつけて……てのは、どうです?」


と言いながら89式をポンポンと頼もしげに叩いた。






本部


「はい、研究所内は感染体で溢れそうです。直ちに研究所のある区域の封鎖が必要かと…

岡田博士は既にそちらに輸送中です。

柊博士とキャサリン博士は研究所内です。

今追加の隊を送りました。

映像とわかった限りのデータは送る準備中です。」


「2尉!」


高柳が叫んだ。


「何だ!早くデータの用意をしろ!」


「黒瀬さんがやってます。本部入り口前に感染体が約30体ほど近づいて…」


いきなり、ショットガンの発射音が響き渡り、高柳の声はその後の銃声にかき消された。


「班長!いきなり扉が…」


「撃て!撃て!」


「ぎやぁぁぁぁぁぁぁあああ」


「加藤が食いつかれたぞ。」


「引きずり込まれるぞ!助けろ!」


「間に合わん!」


「撃つんだ!撃て!」


「近すぎて89式じゃ駄目だ!ショットガンばらまけ!」


ドガン!ドガン!とショットガンの発射音はするが如何せん、ショットガンが7発から8発しか撃ち続けることが出来ず、4名の射手はあっという間に撃ち尽くした。


「リロード!」


「リロード!」


ショットガンをリロードしている矢先から次から次へと本部内に感染体に雪崩込み、手当たり次第に襲いかかっていた。


「拳銃!」


班長の叫びと共に、残りの警備班とバックアップにあたっていた本部員が拳銃弾を撃ちまくったが……


大混乱の中、素人に毛の生えた本部員では感染体を射殺出来ずに次々と身体を噛み千切れていった。


更に、最悪なことに慌てて発砲された弾丸や食いつかれ、断末魔の力で引き金が引かれた拳銃から出た弾丸が無線の集中管理装置を打ち抜いてしまい、無線が途絶えてしまった。






柊博士と足立班。


「柊博士!状況がかなりヤバい感じです。

他の班がこちらに救助に来ているそうなんですが、この会議室は一番奥まった位置なんで、こちらからも進んだ方が得策だと思います。」


「班長!本部無線に発砲音!その後無線が不通です。」


「本部!本部!こちら足立!………ダメだ!


梨田!新庄!柊博士とキャサリン博士に付け!


三宅!扉につけ!


長内は俺と!


しんがりは新垣!部屋を出るぞ!」


たったいま、衝撃的な動画を見せつけられた俺は周りで起こっていることが、他人ごとのようにスローモーションに映っていた。


また、地獄を見るのか?と数十年前の記憶が蘇りかけていた。


「田中さん!ガクガク震えてる場合じゃないんだよ!あんたはこれで!自分の身は自分で守ってくれ!」


誰かわからないが肩を揺すぶられ、特殊警棒を目の前に突き出されて俺は正気に戻った。


一度は地獄から舞い戻ったんだ、自分を信じろ!

特殊警棒を握り締めながら自分に言い聞かせた。


「GO!GO!GO!」


足立の掛け声と共に三宅がぶつかるように扉を開け通路に飛び出した。


「うわぁぁぁぁぁああ」


飛び出した通路には20体あまり感染体がおり、泳ぐように手を前にかきながら三宅に襲いかかった。


「てぇ~」


足立の掛け声と共に、長内としんがりの位置から長島が飛び出して、89式を撃ち出した。


「博士!部屋の中へ戻って!」


足立が叫びながら二人の博士を部屋の奥へ誘導した。


「頭!頭!あたまだ!」


幅の少ないの扉付近で、普通の長さの自動小銃を撃とうすること自体が間違いだ。


お互いの銃身がぶつかり合い、目標を正確に捉えられていなかった。


「引いて撃つんだ!」


田中がいきなり叫びながら、足立の奥襟をひっつかみ部屋の中方に引きずり込んだ。感染体は部屋の中に入りこんできたが、距離を取ることができた。


既に、長内と長島は感染体に取り囲まれていた。


「ぎやぁぁぁぁぁぁぁあああ」


かみつかれた長島の悲鳴とともに、ダ・ダ・ダ・ダ・ダ・ダ・ダ・ダと発射音が響き渡り、同時に柊博士と新庄が銃弾を身体中に浴びせられ壁に吹き飛ばされた。


「博士?」


叫びながら足立は柊博士の元に駆け寄った。


「博士!博士!」


「死んでる!それより扉から入ってくる奴を撃つんだ!」


田中が足立を引きずり起こして扉を指さした。


更に数が増えたのか?室内には30体ほどの感染体がいた。


「No・No・No~~~~~~~~~」


いきなり、キャサリン博士が狂ったように感染体に向かって駆け出した。


ボブ・サップもブルーザ・ブロディもアンドレ・ザ・ジャイアントも真っ青の体当たりだ!


5~7体ほどの感染体を吹き飛ばしたキャサリン博士は更に突進しようとしたところを、足立と梨田が後ろから飛び付くように止めに入ろとした。


放っておけば、感染体はただ吹き飛ばされるだけだったのだか、下手にキャサリン博士の身の安全を図ろうとした二人にスピードを殺されてしまい、挙げ句に3人でバランスを崩して感染体の目の前に倒れ込む形になってしまった。


そこへ、10体以上の感染体が飛びかかるように群がっていった。


「駄目か!」三人を助けることが無理と悟った田中は


「逃げる!」


と自分に言い聞かし、一番感染体が少ないところに素早く駆け寄った。


右の感染体に前蹴りを浴びせ、左の感染体の足を払い倒し、正面にいた感染体の頭に特殊警棒を打ち込んだ。


更に、左右から手を伸ばしてくる感染体に対して、バランスを崩さして倒す・ひっくり返すを戦法にしてほんの3体の頭を砕くだけで出口に達した。


出口付近に感染体が居ないことを確認して、振り返るとは足立や梨田、キャサリンをは床に内蔵をぶちまけられて、絶命していた。


仕方ないと肩を挙げ、通路を歩み始めた田中の足元に何かが触れた。


「た…た、殺しでぇぇ」


最初に飛び出した三宅が上半身だけの姿で内臓を引きずりながら、田中のズボンの裾を引っ張っていた。


田中は、おもむろに床に落ちていた89式を拾いあげ、三宅の弾倉パウチから新しい弾倉を取り出し装填し初弾をコッキングし単発に切り替えて


「………………」


聞き取れないような小声で何かを呟き、引き金を弾いた。


すぐさまに、室内に銃口を向けて、素早く引き金を弾いた。その動作を19回行い、19体の感染体の額に銃弾を叩きこんだ。


すぐさまに扉を締め、その外開きの扉に立派な成りで付けられていた大型の引き手に89式を挟みこんだ。

扉には到達した感染体達は、89式をへし折る程の押す力が無いのか、扉はギシギシと音をたてるだけだった。


まさか、この状況で扉の中を確認する馬鹿はいねえだろうな?


一瞬、89式の残りの弾倉を使い殲滅するべきか?田中の心が揺れた。


「いや!駄目だ。ヒット・アンド・ウエーが一番大事なんだ」


田中の目は遠い過去を見つめていた。


まずは、この建物から逃げるか?しかし、右も左もわかんねぇのに……


「あっ!」


おもむろに、田中は先ほど本人の希望通りに、留めをさした三宅に近づきその胸からICカードを抜き取った。

「確か、柊のおっさんが出入りにいるって言ってたよな。どこもかしこもICカードでピッ!ピッ!でしか出入り出来ないのかねぇ。

便利なんだか不便なんだか…警備班のICカードだから出入り自由だよな?」


特殊警棒を握りしめ田中は出口を探しに動き出した。




藤波


「各個!無線が駄目になったみたいだ!ハンドルシグナルで進むぞ!」


急に本部を経由していた無線が不通になり隊員達に動揺が走ったが


藤波はその不安を消す笑みを投げかけて大丈夫だと隊員達に笑顔を見せた。


裏腹に藤波の心の中では警報がなり響いていた。


(ヤバいぞ!本部で銃声があったぞ!撤退?いや、青山達を放ってはおけない。でも、本部はどうする!

ちくしょう!無線が無きゃ、何にもわかんねぇじゃないか!)


その時、前衛の隊員が右拳を挙げて隊列を止めた。


「班長!前方に人!発見。」


「感染体か?注意を怠るなよ!」


藤波は、戦闘準備を指示しながら、前衛の隊員の横に行き、20メートル程先にいる人影を見つめた。


「感染体だな。胸元が血だらけだ。しかし、いやにしっかりした足取りだな」


「はい。発見した際から通常の人と同じような動きです。どうします?」


「研究員の服装だな。返り血を浴びただけの可能性もあるな……」


「こちらに気づいたみたいです。」


感染体らしき人影が、こちらに早足で進み出した。


「感染体の歩き方じゃないな!至急保護するんだ!」


命令された前衛にいた3名の隊員が駆け寄って行った。


「大丈夫ですか。もう安心ですから……」


最初に駆け寄った隊員が声をかけたところ、その人物はおもむろに顔を上げた。


白濁した真っ白な眼。間違いない感染体であった。


「えっ?」


一瞬、パニックに陥った隊員は慌てすぎて、89式小銃を落としてしまった。


「にぐぅ〜〜」


と叫びながら噛みつかれた隊員は訳がわからない内に絶命していた。


反応が遅れた他の2名の隊員が銃を構えた瞬間に、感染体は右手を横に一直線に動かして隊員達の首を払うような仕草をした。


指先の爪が非常に鋭利になっていて、2名の隊員の首から血が飛び散った。


「痛てえじゃないかよ!」


さほど深い傷では無いのか、2名は口々に罵りながら再度銃口を向けようとした時に、感染体がいきなり走り出した。


「!……………」


誰もが予期しなかったため、突入された藤波達は対応が遅れ数名が突き飛ばされた状態になり、班の精神的な支柱である藤波がその毒牙に一瞬の内に喉笛を噛み千切られた。


パニックに陥った隊員達はそののちに数名が噛みつかれ、噛みつかれた隊員が発症して更に他の隊員に噛みつき始めて数分で藤波隊は全滅した。


噛みつかれて発症するまでの時間が僅かの内に数倍の速さになっていた。

変異なのか?種の保存の進化なのか?確実に増殖作用が発達していたが、人は無線と言うコミュニケーション手段を失っていまっていて、この情報は誰に気づかれることはなかった。


最初に襲われた時に傷を負わされた2名はあっという間の出来事に腰を抜かして床を這いつくばっていた。


這いつくばる2名に興味を示さずに、走る感染体は次なる獲物を探し求めて行った。彼の首からぶら下げているICカードには、雛形と記されていた。


そう、日本における唯一の、引っ掻き傷から発症した感染体であり、通常数倍の感染時間を経験した違うタイプの感染体なのだろうか。


新たな、走って叫ぶことができる感染体が出たとすれば、感染体は種の保存の法則通りに進化をしているのだろうか?

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