第23話 伊集院 剛 6日前 ⑤
相変わらず、なかなか先に進みませんが、お付き合いのほど 宜しくお願いします。
「まずは、国民保護等派遣で口火を切り、自衛隊および警察の特殊部隊を召集する。
この国民保護等派遣において自衛隊が果たす役割として、非難誘導、食料および飲料水などの物資の供給、医療活動など多岐に渡っているが、その中でも、NBC汚染対処、汚染除去なども想定されているんだ。
釈迦に説法かも知れないが、上岡君や野口先生にも知っていただかなければならないので、NBCとは、核(Nuclear)生物(Biological)、放射性物質(Radiological)を指している。
厳密には化学(Chemical)を含めてCBRNと言うのが現在の定説らしいが、日本ではNBCの中に生物・化学兵器と定義されている。
このNBC汚染対処および汚染除去を逆手にとって、汚染防止の目的で行こうと考えている。
国民保護等派遣での、自衛隊の権限は、警察官職務執行法の避難等の措置、犯罪の予防及び制止、立入、武器の使用の権限を行使する警察官相当の権限を行使できる事になっており、警察のSATなどの特殊部隊と同時に召集することで、自衛隊の通常の個人装備は利用出来ると思っている。」
<国民保護等派遣:改正自衛隊法第75条(国民保護法並びに自衛隊法の一部を改正した法律)により自衛隊に新たに加わった行動類型。>
「同時に、姫山君の方で『治安出動下命令前に行う情報収集』を発令してもらう。」
<改正自衛隊法 第79条の2:防衛大臣は、事態が緊迫し命令による治安出動命令が発せられること及び小銃、機関銃、砲、化学兵器、生物兵器その他その殺傷力がこれらに類する武器を所持した者による不法行為が行われることが予測される場合において、当該事
態の状況の把握に資する情報の収集を行うため特別の必要があると認めるときは、国家公安委員会と協議の上、内閣総理大臣の承認を得て、武器を携行する自衛隊の部隊に当該者が所在すると見込まれる場所及びその近傍において当該情報の収集を行うことを命ずることができる(79条の2)。>
「最終的には、こんなことは起こってはならないことなんだが、バイオハザードが発生した場合、すなわち『ゾンビ』による被害者が発生した場合、研究所内で鎮圧が可能であったとしても、アウトブレイクの可能性が0%ではないと判断して、即時に、『知事による要請による治安出動』を発令し、待機部隊を展開させる。厳密には発令を前提に部隊を配備するんだが……」
<改正自衛隊法 第81条1項・2項:都道府県知事は、「治安維持上重大な事態につきやむを得ない必要があると認める場合」には、当該都道府県の都道府県公安委員会と協議の上、内閣総理大臣に対し、部隊等の出動を要請することができる(81条1項)。
内閣総理大臣は、都道府県知事による要請があり、「事態やむを得ないと認める場合」には、部隊等の出動を命ずることができる(同条2項)。>
「但し、大きな問題点がある。
治安出動は、それ自体が警察力のみでの治安維持が不可能となった場合と自衛隊法 第78条にされてる通り、文字通り警察機構の面子が丸つぶれになる。
過去、1960年代の学生運動や労働争議の際に、何度か治安出動の請願が地方議会で可決され、治安出動が検討されたことはある。
しかし、実際に治安出動が発令されたことは一度もない。破壊活動防止法と並んで、治安維持における「伝家の宝刀」と呼ばれている所以だ。
その「伝家の宝刀」を抜かねば……。
日本はゾンビ映画みたいな世界になってしまう。
また、もし治安出動が出されたら、国民の心には警察力の失墜と言う大きな傷が残るだろう。」
一気に伊集院は語った。
「治安出動。……………………ですか。」西郷。
警察官にとって、戦時でもない時に治安出動が発令されるのは、断じて許されない事であった。
国家と国民の平和のために治安を預かっているのは警察なのだ。
それが、警察官と言う激務を支えている部分なのだ。
ましてや、自分は、全国28万人の警察官の中でも、ほんの一握りのキャリアなのだ。
その自分の志は決して ブレてはいけないのだ。
しかし、西郷の心は迷っていた。
先ほどの映像である。
日本の警察や自衛隊などては雲泥の差で実戦経験が高い、アメリカ軍が600名以上で抑えきれない事態を、県警レベルで抑えれるかなど、小学生にもわかる答えだ。
ましてや、日本の警官は通常は予備弾薬すら持たされていないうえに、実弾での射撃訓練も年に数度あれば良いほうである。
「西郷君。
警察官としての葛藤は理解出来るよ。
ただ、今の君には決断して貰うしかないんだ。
さっきも説明したように、警察庁長官や国家公安委員会は私が押さえる。最早、根回しの状態ではなく、動かないと行けないんだ。
君にが、福岡県警を一枚岩にしてもらいたいんだ。」
姫山が身体を乗り出して、西郷に息が届く程近くで力説した。
「しかし、しかしですよ。本当にアウトブレイクしたら……
警察どころか自衛隊でも、抑えるられないんじゃないです?
西部方面普通科連隊や対馬警備隊の人数でどうやって福岡をカバーするんですか?
ねぇ、野口さんからも何か言って下さいよ。」
西郷は野口に向かって、助けを求めた。
「たしかに、西郷君の言うことにも一理あるわな。
織田さんじゃったかな?
研究所内に、西部なんたんたら隊やレンジャーやらが警備すると言われとったが……
アウトブレイクした場合の策はあるのかね?」
織田は、姫山、源五郎丸、伊集院と3名の顔を順番に見て、誰からも異議がないことを確認した。
「福岡駐屯地に第1空挺(約500名)を集め待機させます。
同じく駐屯地の元々のコア部隊、第19普通科連帯(通常時250名)も待機させます。
福岡市内には、未使用の公共施設を中心に西部方面普通科連隊(約200名)を配置し、対馬警備隊は、SATの装備品を装着して、臨時の警察の特殊部隊扱いで、県警本部か県庁に待機させます。
沿岸部には米軍の艦艇を一隻用意し、海兵隊3個中隊がフル装備で待機。
ユタの生き残りのデルタも1個中隊で待機です。
山口県側も、九州にアクセス出来る場所、陸路はJR各線と関門橋と関門トンネルに30分以内に封鎖出来るエリアに部隊を待機させます。
港や海沿いは、海自のあぶくま型護衛艦に特別警備隊(SBU)を1小隊(2個班)16名体制で臨検体制をとらせます。
また、海上は手薄になりやすいので、海上保安庁の『はてるま型巡視船』2隻に特殊警備隊(SST)を配置し、海自の補佐に充てます。
更に、広島、安芸の第43普通科連隊、岡山、勝田の第13特科隊も即応体制で待機させます。
福岡の部隊についてですが、西郷さんと相談の上、対馬警備隊は別として、駐屯地の半数の部隊は警察と言うか、西郷さんの指揮下に入れるつもりです。
勿論、私も自衛隊側の責任者として、福岡の西部方面普通科連隊に随行します。
あと、北九州市にも特殊作戦群(約300名)を置きます。」
「北九州市と山口県側とに兵を配置するとはどういう事ですか。」
上岡が怪訝そうに質問した。
「はっきりと言いますと、感染体が抑えられなかった場合も想定して、本州への空路、陸路、海路を全て遮断し、感染を封じ込めるつもりです。」
織田は躊躇せずに言い切った。
「きゅ・九州を見捨てるのか!
そんな馬鹿な作戦に同意出来るか!
維新の時と同じように、政府はまたも九州を滅ぼそうというのか!」
上岡が慌ただしく立ち上り、今にも泣き出しそうな顔で叫んだ。
興奮した上岡の前にスッーと冷えたペットボトルが滑ってきた。
「知事。落ち着いて下さい。」
源五郎丸は、上岡がペットボトルに気づい瞬間に声をかけた。
更に、怒声をあげようとした上岡はタイミングを外されてしまい。言葉を飲み込むしかなかった。
「知事、誤解しないで下さい。福岡を、いや、九州を見捨てるんではありません。
救い、感染を断ち切るために封鎖が必要なんです。
考えてみて下さい。密室同然の新幹線に感染体が1体でも、紛れ込んだらどうなります?
あっという間に車内に広がり、停車駅の広島や大阪で感染が広がり、その感染がまた、輸送機関でさらに遠方に拡大していくんです。
パンデミックが発生します。
本州に広がれば、九州を救うなど不可能です。
九州だから、感染を封じ込めて、救助出来る可能性があるんです。」
源五郎丸が一言・一言、かみしめるように説明した。
「しかし、しかしだよ。もし、もしも感染がアウトブレイクして、市民に被害が出たら………
しかも、それを私は事前に知っているんだぞ!
市民にどんな顔で告げればいいんだ?
残念な結果になりました。とでも報告するのか!
そ、それより、さっきの映像をマスコミを使って、全世界に流せはいいじゃないか!
流石の、蔵前翁も全世界を敵には回せないだろう?
ねぇ!野口さん………
なぁ!西郷君!」
野口も西郷も一言も返せなかった。
二人は気づいたのである。翁、 いや、ホアンの企みに。
「公開すれば、地下に潜られます。
最悪、都内、いや本州で研究が始まり、間違いがあって、アウトブレイクしたら?
日本国内どころか、飛行機や船舶に感染体が紛れたら、全世界に広がってしまいます。
どこに潜られたかわからなければ、誰も対策が打てなくなります。
ましてや、ホアンが陣頭指揮を取ってるんです。」
源五郎丸の説明に反論が出来ずに、上岡は、ただただ、拳を血が滲むほど握りしめるしかなかった。
「福岡や九州を犠牲にはしないが、多少の痛みは覚悟しろ。と言うことじゃな?
先ほど、大統領は脅しに負けたのかと思っちょったが………流石にしたたかじゃのう。脅されたふりじゃったんじゃな?」
「そのベトナム難民から這い上がったホアンって人ですが。
そこまで。九州の人達を犠牲にすることすら躊躇しないほどの人物なんですか?」
西郷は、映し出された各部隊の配置図から目を離さずに、源五郎丸に尋ねた。
「非情ではあるかもしれないな。冷静に分析し最大の効果を考えるタイプの人物だ。
それと、ベトナム系中国人だが………ベトナム難民ではない。
公式には、アメリカ国内ではベトナム難民の方が都合がいいから訂正していないだけで、本当は、カンボジアで、クメール・ルージュの大虐殺から逃れたと本人に聞いたことがある。」
「クメール・ルージュの大虐殺から生き延びたんですか。
………………まだ、ほんの子供の時代ですよね、時期的には……
つまり、ホアンの作戦に必要な条件とはこう言うことなんですね。
研究する場所は、海に囲まれた島国。
多国籍の人員が出入り出来る環境。
ある程度高い水準の現地人が確保、物資もですかね。出来るところ。
って条件ですか?
適合するのは、日本、イギリス、オーストラリア、ハワイぐらいですか?」
「その通りだ。西郷。
ただし、それだけでは70点だな。
研究を継続するには、南半球は気候が真逆だから除外だ。
国内諜報機関のしっかりしているところでは、研究が長引いた際に発見される可能性が高い。
同様に、国内に大規模なテロ対策部隊があれば、強襲される恐れがある。
つまり、ハワイ、オーストラリア、そして、イギリスもダメなんだ。
全ての条件が、 日本を指しているんだ。
多分、最終的には、俺の存在かも知れないな。
ホアンが必要とする対策を、想定して寸分なく実施出来るのは俺だけだからな。
どんなに、翁に力があろうが、ホアンが知略家だろうが、一国の軍隊を自由には使えないからな。
しかも、今や民間人の俺をきっちりと土俵にあげやがったしな。」
「全力を尽くして天命を待つしかないのじゃな。
上岡君、西郷君。
我々は後戻り出来ない船に、好もうが好まざろうが乗ってしまっておるみたいじゃ。
運命からは逃れられん。
儂で良ければ、煮るなり焼くなり、なんとでもしてくれればいいわい。
先の短い老いぼれじゃが、役にはたつじゃろう。
上岡君、西郷君、儂でよければ変わりにどんな泥でも被ってやる。踏み出すしかなさそうじゃぞ。」
福岡は?九州は?日本はパンデミックから逃れられるのか?
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