第21話 伊集院 剛 6日前 ③
インフルエンザのくだりは、Wikipedia 引用(適当に作品にマッチするように変更してます)です。
なかなか 6日前から話しが進まずに申し訳ないありません。
「10・9・8・7・6・5・4・3・2・1・0………………」
カウントダウンが終わった後たっぷり10秒待って、伊集院は一同を見回し満足げに頷いた。
「ありがとう。信じていましたよ。」
「相変わらずじゃのあんたは……。
いつも微妙に核心は見せずに、喜ばしたり、不安にしたりして、次のカードを見たい気にさせよる。
上岡君の質問の核心には一つも答えておらん。
さて、皆、腹は決まったようじゃから、カードを見せて貰えるかな?
何故、我々なんじゃ?
我々?ではなく、福岡なのか?
たまたま福岡に我々がいただけなのか?
何故、今日なんじゃ?
『例の物』とは何んなん
じゃ?」
野口が代表で疑問をぶつけた。
「焦らしてしまい、申し
訳ありません。
順を追って説明しよう。
惨劇は今ほどご覧いただいた通りだ。
始まりは、ユタ州のある科学者。
ご存知の通りこの冬は新型インフルエンザのパンデミックが噂されている。
さらに、新型は鳥インフルエンザウイルスからの変異で極めて毒性が高いと予想される。
ウイルス研究者や科学者は、この新型インフルエンザのワクチンを開発出来れば、地位と名声と金銭が手に入る。
しかし、ワクチンを作るには、発病させるウイルスが必要だ。
同時に、抗体を持つ実験体があれば、抗ウイルスの開発にさらに近づけることが出来る。
ユタの科学者が、何故、流行が噂される鳥インフルエンザの5N1Hではなく、過去のスペイン風邪で有名なH1N1亜種株を選択したのかは定かではないが、彼は奥方がボランティアで行っていた、野犬矯正施設に保護された野犬で実験を繰り返していたみたいだ。
これは、先ほどの兵士の連絡にあった、『例の物』を回収する付属として命令されていた、研究者のパソコンのハードディスクから再現された情報たから間違いはないだろう。
これは推測と、源五郎丸君からの受け売りだが………、インフルエンザウイルスはRNAウイルスであるため、突然変異率が高いと言われている。
RNAウィルスとはレトロウィルスとも呼ばれ、ゲノムRNAをいったん逆転写酵素によってDNAとしてコピーし、
そのDNAから遺伝情報を読み出すタイプだそうだ。
で、この逆転写酵素の悪戯により、同じ宿主に2種類のインフルエンザ・ウイルスが感染した場合、
ウイルス・ゲノムが分割される際に遺伝子の再集合が起こる時に、遺伝子組み換えが起こることがあり、
これにより、病原性のなかった亜種がヒトに対して病原性を持つようになるらしい。
また、ある種の動物にのみ感染するという選択性は、主にウイルスが持っているヘマグルチニンの種類によって決まり、
ヘマグルチニンのアミノ酸配列が1つでも変化すると、標的細胞への感染能力に大きな変化が起こるそうだ。
ヘマグルチニンとは、ウイルスの表面上に存在する抗原性糖タンパク質で、このヘマグルチニンの働きによってウイルスは細胞に感染するらしい。
話しは少し代わるが、犬インフルエンザは馬インフルエンザの原因となるH3N8亜型のようなA型インフルエンザウイルスの、いくつかの亜型を原因とし発生したと2004年に報告されている。
そこから見て、研究者はヘマグルチニンのアミノ酸配列を操作し、宿主を変えながら逆転写酵素の悪戯がA型のH1N1に起こるまで何度も実験を繰り返したと考えられるそうだ。
で、肝心の『例の物』とは………
彼が見つけだしたウイルスだ。
正確に言えば、彼が培養していた《H1N1亜種株》なんだが。
しかし、回収はしたが、どうも、当日か前日の作業記録を入力後に偶然に変異したウイルスの可能性が高いらしい。
こいつは、その日1日の結果をまとめて夜間に記録していたうえ、かなりの記憶力の持ち主らしく、メモ類は一切取ってないらしい。
ハードディスクを回収する際に、研究者の助手が救出され、彼の意識がはっきりしている間の話しであり、ハードディスクの物理的な情報も同日の未明に最後の記録があることからも、間違いないと判断されている。」
一気に説明した伊集院は喉の渇きを癒やすために、一口お茶を啜った。
「続けてもいいかな?
これだけなら、大した問題ではないんだが……
実は、保護された助手が感染しており、保護先の施設内で発症した。
保護された折りに、複数の引っかき傷と、歯形の後があったことを、デルタの隊員が気づいていて、ヘリコプターが安全地区に入ったところで2名の隊員の命と交換に拘束に成功したそうだ。」
伊集院は、一旦、言葉を切り全員の顔を真剣に見回しながらこれからが本番だとわかるように、少し大きめな声でゆっくりと語りだした。
「つまり『ゾンビ』が1体、拘束された状態で存在すると言うことだ。
その拘束された『ゾンビ』が……
明日か、遅くとも明後日には……
福岡の《 柊 研究所》に運び込まれる。」
「そ・そんな!馬鹿げたこと……政府は認めたんですか!!」
声を震わせ、上岡が椅子から立ち上がり、姫山防衛庁官に掴みかからんばかりの勢いで迫った。
「上岡くん!」
信じられないほどの怒気を含んだ、伊集院の声が飛び、一瞬上岡はたじろいたが、今度は、伊集院をキッと睨みつけた。
「許せません!直ぐにでも、総理に会って止めさせます。
駄目なら、マスコミに発表します。
源五郎丸さん!邪魔をしないで下さい。」
扉に向かい歩き始めた上岡の腕を源五郎丸が掴んでいた。
「上岡さん、落ち着いて下さい。
別に止めるつもりはありませんよ。
ただ、最後まで社長の説明はお聞きになられた方がいいと思いますよ。
何故、民間人の社長が皆さんにご足労いただいたと思います?」
「上岡君。憤慨する気持ちは儂も一緒じや!
しかし、徒手空拳ではのぉ。
このさいじゃから、暫く、伊集院君の話しを聞いたところで損はないかと思うのじやがのぉ」
何とかその場は野口が納め、伊集院の説明は続けられた。
「上岡君、私も君と思いは一緒だ。
続けるぞ。
俺は、感染体の福岡への移送の件の情報はさる政府要人……
今更隠してもしかたないか、……真弓官房長官から受け取った。
多分、彼が防衛長官自体のコネクションだろう。
彼の意見では、彼から私に情報がもたらされ、私が動くことを意図しているのではないかと言っている。
これは、真弓君の想像通りだった。
アメリカの大統領補佐官を電話で吊し挙げたら白状した。
時を同じくして、そこにいる姫山君も、アメリカ軍司令官から情報を得たらしい。
情報というより、未来の生物を横取りされた腹いせの連絡だったらしいが………
何故、私であるかの説明が必要だな。
御子柴 貴子と言う女性がいた。
彼女は、幼くして母を亡くした俺の育ての母であり叔母だった。
俺が大学に進級した年に自分の役目は終わった、これからは自分の道を歩き始めると言い結婚した。
その相手が…………
蔵前 振一郎。だ。
結婚して10年が過ぎようとした頃に、叔母の身体に異変が起こり、1年と持たずに亡くなってしまった。
叔母が亡くなって暫くして、蔵前さんは面舞台から身を引き、その後は皆さんのご存知の通りだ。
フィクサー
黒幕
平成の黒い黄門さま
世界一の金持ちで世界一のケチ
何通りの呼び名があるかは知らんが……
大層な悪役と呼ばれているな。
俺も、ここ10年ほど会っていない。
その蔵前さん
いや、蔵前翁と言うのが一番適しているかな?
蔵前翁が、『ゾンビ』を手に入れるために、持てる力をすべて解放したんだ。
こうなったら、アメリカの大統領でも阻止は出来ないな。
そこで、同族人でかつ身内の俺に、思いとどまらせる役を押し付けてきたんだろう。
そんな簡単なことでいいのなら、百だろうが千だろうが、電話ぐらい何度でもするんだが
深夜からさっきまで、かれこれ50回は蔵前翁にかけてみた。
一応、身内だけが知っている番号。
源五郎丸君が把握している番号。
もちろん、非合法と言われるが……会社のデータベースも全部調べ尽くしたが……
駄目なんだ。繋がらないんじゃなく、回線自体が解約されているんだ。
唯一、源五郎丸君が、探ってくれた携帯電話の番号だけが生きていたが……」
頭を振り、手を振り、最後にはお手上げのポーズで伊集院の話しは終わった。
「伊集院君、何故?蔵前翁は『ゾンビ』なんぞに興味を示しているんだ?
まさか、細菌兵器だの世紀末創設だの
世迷い言ではあるまいな?」
「野口先生……」
「先生は止めろと言っておるじゃろうが!儂はもう単なる爺じゃよ」
言いにくそうに源五郎丸が助け舟をだした。
「私の方からご説明差し上げましょうか?
あの話しはあくまでも仮説の一つでしかありませんし……」
伊集院は源五郎丸に対して軽く頷いた。
「蔵前翁と御子柴貴子さんは、俗に言われる政略や後妻などと言う物ではなく、極々、一般人と同じような恋愛結婚だったそうです。
お二人とも初婚でした。非常に仲がよろしかったと財界では有名だったそうです。
蔵前翁には、その膨大な『財』目当てに近寄る者が多く、騙され続けており非常に人付き合いが悪くなっていた頃だそうですが、貴子さんと一緒になられてからは、打って変わって元々の明るい人物に戻られたそうです。
伊集院社長も、貴子さんが育てられたお子さんと言うことと優秀な人物であったことからも、執拗に後継ぎとしてアプローチがあったみたいです。
今の評判と180度違いますが……
非常に純粋な方だったんでしょう。
本題に入りますが……その純粋さが、貴子夫人を失うことにより変化があったと思われます。
夫人を愛するが故に、夫人のご遺体を荼毘に伏さずに、冷凍保存されたのです。
さらに、厳密に言えば、もう数時間も保たないと言う時に冷凍保存に踏み切られました。ようは生きている時点で冷凍したと言うことです。
当日、学界では異端児として相手にされていなかった。
ロシアのウラジミール博士に膨大な研究施設を用意したフシがあります。
後年、博士の冷凍保存方法は、冷凍精子や卵子の基本技術の元になりましたので……、有効的な処置であった可能性があります。
それから蔵前翁は、蘇りや不老不死の研究に莫大な私財をつぎ込まれてます。
流石に、世界的な経営者だけあって、怪しげでも研究には投資されてますが、眉唾ものの、カルト宗教や呪術など否科学的なことには一切関わっていません。
今回の『ゾンビ』も蘇るプロセスの解明ではないかと推測しています。
柊 博士は遺伝子工学やウイルス研究の世界的な第一人者ですし、それ以外にも、
同分野の遠藤 毅郎博士
岡田 雅之博士
キャサリン バース博士
など、金に糸目をつけずに世界中の研究施設や大学からヘッドハンティングしています。」
「愛する妻を蘇らせるために、『ゾンビ』を国内に持ち込むと言うことですか?
間違ってる!狂ってる!」
「確かに、狂っているんだろう。
でも、誰にも阻止することが出来ないんだ。
補佐官も手をこまねいていただけではなく、FBIに細菌テロと言う口実で、入手した情報を分析し輸送ルートをHRT(人質対応部隊)に強襲させたが、同士にアメリカ軍司令官の指示で動いていた陸軍にも、同じ情報が流さていて派遣したデルタ分遣隊と同士討ちになったそうだ。
その後、蔵前翁から大統領に、これ以上介入した場合は、2日以内にダウ平均を35%下げる分の株を世界中の取引所に流す。と脅しが入り、香港で一部が実際に売りに出されたそうだ。
アメリカが情報戦で完全に出し抜かれている理由なんだが………
源五郎丸君の調べでわかったんだが、アメリカやイギリスやロシアの頑固者であるが故に冷遇されていた腕利きの情報員だの諜報員だのが10数名、所在がわからないらしい。
十中八九、翁にスカウトされたと思われる。
我々も上手く立ち回らないと、翁の組織にいいようにあしらわれるだけになるんだ。」
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