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ダンジョン攻略の裏方さん〜『鑑定』スキル持ちは陰ながらでもやりがいのある仕事に就けます!〜  作者: 月見里さん


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第1話「ダンジョンとは、魔王の最終防衛基地」


 この世界には、迷宮(ダンジョン)と呼ばれるものがある。

 それは、歴代の魔王が逃げ込んだ場所でもあり、最終防衛基地として建造され、地下奥深くまで広がった入る度に構造、魔物の種類が変わる厄介極まりない物である。

 逃げ込んだ理由としては、戦いによって傷を負った魔王が、再び勢力を取り戻すため迷宮(ダンジョン)最下層にて傷を癒しているとされている。


「魔王てどんな姿をしているんですか?」


 迷宮(ダンジョン)の近くに構えられた拠点。

 辺り一帯に青臭い草原と留まることなく流れる川のすぐそば。

 人の密集している地域のみ、多くの手が加えられており、太い木の柵、頑強な外壁に囲われた、まるで城のような建物の中。

 一人の、まだ十代ほどの若い男がいた。

 白銀の髪を短く揃え、動きやすい服装は所々に砂埃がついている。胸元には彼の故郷の証である、鷹の羽が付いている。

 そんな上京したての新鮮さを醸し出しながら、彼は机を挟んで向かい合った青年に問いかけていた。


「知らないな。俺も見たことはないんでね。聞いたところによると、大きな魔物、らしい」

「魔物、……魔物ですか。やっぱり、倒すのて難しいんですか?」

「そりゃあな。魔物の王みたいなものだからな。そいつの近くにはこれまた強い魔物が守っているし、魔王自身も対策無しに挑めばすぐに殺されてしまうくらい、やばいやつだしな」

「対策、ですか」


 青年は茶色の髪を掻き分けるように、ボリボリと頭を触る。

 何度もしてきた行為は、青年の苦労を物語っていた。

 しかし、すぐさま手元の書類に筆を走らせ、ひと段落させると、真っ青な瞳を若い男へ向けた。


「そう、その対策に君の力を借りたい。今はどこもかしこも人手不足だからな。特に『鑑定』スキルを持っている人なら、喉から手が出るほど欲しいわけだ。協力してくれるか? アルトラン君」


 アルトラン・ベルベッサ。

 18歳になった彼は、単身でありながら迷宮(ダンジョン)の近くまでやって来た。

 それは他でもない。

 彼の持っているスキルが、非常に有用だからだ。

 特に迷宮(ダンジョン)攻略――ひいては、魔王討伐に必要不可欠であるため、親に家から叩き出されたためだ。


「……裏方でなら」


 消極的な答えに反して、面接官をしていた青年は笑顔でアルトランの手を握ってきた。

 固い握手は、絶対逃がさないという意思さえ感じ取れるものであった。



 ◆



「じゃあ、『鑑定』を持つアルトラン君にはこれから冒険者が持って帰ってくる遺物の『鑑定』を頼む」

「……あの、遺物て?」


 アルトランの面接をしていた青年は、スグルザと言うらしい。

 アルトランがやって来た建物――ギルドと呼ばれる冒険者達の情報収集場所の玄関先に二人は立っていた。

 すれ違う冒険者達は、屈強な身体の者や杖を持ったいかにも魔法使いといった者達ばかり。

 その誰もが、燃え尽きないほどの使命を目に宿しながらギルドへ入って行く。

 あまりにも、高尚な場所に何も知らないアルトランは少しばかり、引け目さえ感じていた。


「遺物てのは色々あるが。討伐した魔物だったり、迷宮(ダンジョン)の破片だったり、冒険者の亡骸だったり、生前持っていた武器防具だったり、様々な物を遺物て呼ぶな」

「……生前。てことは、亡くなった人が運ばれて来るんですか」

「そんな怖がるな。大抵、迷宮(ダンジョン)の中で死んだら魔物に食い尽くされて骨すら残らない。だから、運ばれて来るのは遺品が多い。それの所持者が誰だったかを調べて、供養してやるのがギルドの1つの仕事だ」


 アルトランは想像して、身震いした。

 骨すら残らず食い尽くされる。

 普通に生きていれば、多少なりとも元気でいられたはずが、勇猛果敢に挑んだ結果、魔物の血肉に――最終的には魔王の回復となってしまう。

 そんな行き場のない悲しみが、胸中に広がる。

 それは、スグルザも同じなのだろう。

 だから、遺品を持ち帰ってもらい供養する。

 少なくとも、名誉ある死であることを証明する。

 それを弔いとするのだ。

 糧とするのだろう。


「まぁ、ほとんど持ち帰って来るのは魔物だったりするからそう身構えるな。魔王や魔物が強いとはいえ、迷宮(ダンジョン)攻略の冒険者達の方が圧倒的に強い。でなければ、魔王がわざわざ地下世界に引きこもったりしないだろ」

「……そう、ですね」


 スグルザが気を遣ってくれたのは理解できた。

 そして、その言葉に嘘偽りがないのも、アルトランは感じ取れた。

 なにせ、今までも魔王が出現し、迷宮(ダンジョン)に立て篭もったことはある。その度に、冒険者達が総出で攻略してきた。何度も挑み、何度も試し、最下層まで到達するだけではなく、しっかりと魔王の首を取ってきた。

 だから、臆することはない。

 とはいえ、危険な場所であることに違いないからこそ、アルトランは気を引き締めた。


「俺達がちゃんと魔物を『鑑定』して、特徴や弱点、もっといえば生態や習性なんかの情報を集めることは、最終的に冒険者達の力になる。そのことを頭に叩き込んでおけよ」

「は、はい!」

「いい返事だ。…………っと、そうこう言っていたら仕事がきた」


 スグルザの視線をアルトランも追う。

 ギルドの入口から真っ直ぐ伸びた街道の先。何人もの冒険者がすれ違い様に興味深そうな表情で尾を引かれていく。

 無理もない。

 大きな馬車から溢れた巨体は到底隠し切れるようなものではない。

 遠くから見ても、アルトランより大きな魔物であることはわかった。

 あれが、アルトランの最初の仕事。

 緊張と、魔物を目の当たりにする不安が波のように押し寄せてくる。

 それでも、魔物を運んできた冒険者達はアルトランの心構えなど気にせず、ギルドの入口までやって来た。


「あ? ギルドマスター。その子、新入りか」

「あぁ、『鑑定』スキル持ちのな。しばらく俺の近くで仕事を覚えてもらうつもりだから、よろしく頼む」


 バン、と背中を押されたアルトラン。

 躓きそうになったが、即座にスグルザからの渡し船だと気づいた。


「あ、アルトラン・ベルベッサです! 今日からよろしくお願いいたします!」

「おぉ、良い声だ。俺はピーリス。このパーティのリーダーをやらせてもらっている」


 ぺこりとアルトランは頭を下げ、持ち上げた瞳でピーリスをしっかりと見据えた。

 重苦しいだろう甲冑を身につけており、鎧の至る箇所には傷跡や焼けた跡もある。どうやら、彼がリーダーであり、前線を張っていることは見て取れた。

 ただ、兜もしっかりと被り、顔も見ることができないので、名前と声だけしか素性は掴めなかった。


「早速で悪いが、コイツの『鑑定』を頼みたい」


 ピーリスが後ろ指で示したのは、馬車だ。

 来る途中でも見えていた巨体。

 今近くに来てようやくアルトランは分かった。

 見えていたのは、腕だ。

 子どもなんかよりも大きく、大の大人なんざ引き裂けるのも容易なほどの巨腕。毛むくじゃらで、爪も長い。


「ワーウルフか?」

「そう思ったが、変異種かもしれないと思ってな。一応見てくれないか。後で報告書も送らせてもらうが、実際に見てもらった方が早いと思ってな」


 近寄っていくスグルザについて行くようにアルトランも歩を進める。

 ワーウルフと呼ばれた魔物の近くには、ピーリスのパーティメンバーと思われる人達が真剣な顔で馬車を見つめていた。

 近づいたアルトランは鼻を突くような刺激臭に涙が溢れた。


「……本来のワーウルフからは嗅いだことのない匂いだな」

「あぁ、いつもの腐った獣臭じゃない。どうやら、コイツ自身が意図的に発していると思ってな」

「……ふむ、分かった。『鑑定』してみて、分かったことはまた後日、全体へ周知させておこう。今日はゆっくり休んでくれ」


 ギルドマスターである、スグルザの言葉を受け、ピーリス達は一礼と共に去っていった。

 残された馬車には、ワーウルフと呼ばれた魔物の死体。


「さ、アルトラン。仕事だ。まずはコイツをギルドの裏まで運ぶぞ」


 意気揚々と放つスグルザに反して、アルトランは少しだけ刺激臭のする荷物を運ばないといけないことに、嫌な気持ちさえしていた。

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