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美脚ミミック、ハルミさん ~転生モンスター異世界成り上がり伝説~  作者: 藤孝剛志
1章 アルドラ迷宮

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第2話 冒険者

 さて。

 ワードッグのみんなはいきなり全滅してるんだけど、どうしたもんでしょうか。

 五匹いたワードッグのみんなは、開いた扉に殺到して、一瞬で殺されちゃったのだ。

 剣でずばずばと。まっぷたつにされまくって。

 ということで、もう誰も守ってくれない状態だ。

 じゃあどうするかって、私にできることは何もなかった。

 だって、宝箱なんだもん。

 なので、ワードッグを殺して満足した冒険者たちが去っていくのを待つぐらいしか……って、去っていくわけないじゃん!

 だって、宝箱が置いてあるんだよ? 開けるに決まってるじゃない。私だって、開けちゃうよ、そんなもの。

 じゃあ、どうするかっていうと、近づいてきたところをガブリってするぐらいなんだけど、それもたいして意味はなさそう。

 だって、冒険者は四人いるんだから。むちゃくちゃうまくいって、なんとかガブリが成功しても、それで倒せるのは一人まで。残りの三人にボコボコにされるに決まっているのだ。

 冒険者は格好からすると、戦士、魔法使い、僧侶、盗賊といったところだ。

 そーゆーこともなんとなくわかる。その手の知識は生まれつき持ってるみたい。


「ちょっとー! なんで地下一階で寄り道してんのよー。ワードッグなんか殺したって意味ないでしょー」


 そう言うのは魔法使いの女だ。

 なんでか人間の言葉はわかるけど、それは言語スキルのためらしい。


「そうですよ。雑魚相手でも、武器を使えば耐久力が減るんです。深層では、そのちょっとした油断が命とりになるかもしれないんですよ」


 文句を言っているのは、僧侶の青年だ。


「けどよぉ。今シーズン一番乗りってことは、漁り放題ってことだろうがよー」


 ぶつくさと言い返すのは剣を手にした戦士の男。ワードッグを一瞬で全滅させた張本人だ。


「あのね。地下一階のモンスターと宝箱を私らみたいなベテランが奪ってどうすんのよ。こういうのは初心者に譲るべきでしょうが」


 そういうマナーらしかった。うん。マナーは大事だと思う。ベテランだっていうならなおさらだ。だから、私のことはほっといてもらいたい!


「どうせすぐ再配置されるだろ。ちょっとした験担ぎってやつよ。ここでちょっといいもんが手に入ったら幸先いいってもんだろ?」

「地下一階の宝箱に何を期待してるんですか……」


 僧侶はやれやれと言わんばかりだったけど、やっぱり宝箱は魅力的なのか四人が近づいてくる。

 はい、終わった!

 私のモンスター生は、いきなりここで終了なのだ。

 いや、でもせめて一噛みぐらいは!

 相手は宝箱だと思って油断してるんだから、もしかしたら成功するかも……。


「そいつ、ミミックですよ」


 と、今まで黙っていた盗賊の青年がそんなことを言いだした。


「うわー、マジかよ。一階からいるとか、油断してたらやべーな」

「どうする? とりあえず魔法撃っとく?」


 戦士と魔法使いがもろに警戒しはじめた。うん。もう噛みつくとか絶対無理!


「武器の耐久性もそうですけど、魔力の無駄遣いも好ましくありませんね」


 そ、そうだ、いいぞ僧侶! 眼鏡をくいっとしてるのがかっこいいぞ! こんな雑魚はほっといてどっかに行くんだ!


「でもよ。ミミックのドロップでレアなのあったろ? 倒す価値はあるんじゃねーの?」


 ないから! 10Gしか入ってないから! 10Gがどんな価値かは知らんけど!


「ミミックのレアドロップだと欲望のメダルですね。効果はアイテム発見率の上昇。売れば一財産になりますよ」


 聞いた途端に、みんなの目の色が変わった。

 盗賊! さっきから余計なこと言ってんじゃねー! そんなもん入ってねーよ!


「武器も魔法ももったいないなら、とりあえず蹴ってみるか」

「そうですね。地下一階に出てくる程度のミミックなら、それでも一撃でしょうし」


 そこは止めてくれよ、僧侶!

 けど、もうそういうことになったのだろう。戦士が近づいてきた。

 筋肉もりもりのおっさんなので、足もむっきむきだ。

 こっちは宝箱とはいえ、木製の箱程度の耐久力しかないのだ。こんなおっさんに蹴られたら確実に死ぬ!

 なにか! なにか、この局面を乗り切る方法は!

 そう! 会話だ! 話ができるのなら命乞いをすれば!


「助けて!」


 戦士が足を止める。おお! もしかして!


「なにか音がしませんでしたか?」


 僧侶が訝しげに訊く。


「ミミックが揺れたような気がしたけど?」


 魔法使いも首をかしげていた。


「びびって、震えてるんじゃねーの?」


 けど、なんにも通じていなかった!


「助けて! 助けて! 助けて!」


 蓋がガクガクと揺れるけど、会話になってない。え? 言語スキルって言葉の意味がわかるだけ?


「何か喋ってるようですね」


 おお、やっぱり僧侶に期待するしかない! いいぞ、眼鏡くん!


「そりゃ、モンスターはモンスター同士で何かしら喋ってるだろうがよ。そんなこと気にしてどうすんだよ」


 くっそ、この脳筋戦士が! 異種族交流に思いを馳せやがれよ、この野郎!

 こっちが何か喋ってる様子だろうと関係なく、戦士は近づいてきた。

 こうなったら最後の手段だ!


「ガオー!」


 ぱかりと蓋を開き、牙を剥き出しにして威嚇した。


 こてん。


 で、バランスを崩して仰向けに倒れた。

 ……なにやってんだ私!

 最悪だ。もともと攻撃が通じる気はしてなかったけど、噛みつくチャンスすら失ってしまった。


「なんだ? こいつ」

「自分で勝手に転けて動けなくなってない?」


 他に、他になにか!

 必死になって、ステータスを再確認する

 まず目に付くのは、天恵の美人薄命。うん、みごとなまでに役に立つ気がしない。

 言語スキルはもう使ってみたけど、話がまるで通じないので意味がない。

 じゃあ、収納スキル! これだ!

 ストレージから10Gを取り出して、舌でそっと前に差し出す。これで勘弁してください!


「あ? なんか出たぞ?」


 戦士がまた足を止めた。


「これは……10G銅貨ですね」


 僧侶が私が出したアイテムを確認する。


「もしかして命乞いかしら? これで助けてくれってこと?」


 そう、そのとおりです!


「10Gって……駄菓子ぐらいしか買えねーじゃねーかよ。なめてんのか」


 怒らせただけだった!

 つーか、駄菓子しか買えないってなんだよ。宝箱なんだからもうちょっと、ましなもん入れといてよ!

 なけなしの10Gを放出したので中身は空っぽだ。くそ、こんなことなら、投げつけてやればよかった!

 あ、収納で出すのはやったけど、入れるのはどうだ!

 近づいてきた敵を丸呑みするとか!

 すると、なんか説明が出てきた。


 収納スキルの実行でエラーが発生しました。

 ・同意エラー:生物の収納には同意が必要です。

 ・サイズエラー:対象サイズが、収納容量を超えています。


 駄目か! そりゃそうだよね。なんでもかんでもしまえるなら無敵だしね。

 そうなると残りは擬態スキルのみ。

 宝箱ってのは今の状態だと思うけど、もう一つ“?”ってのがある。なんだかわからないけど、他の姿に擬態できるのなら、それでどうにかなるかもしれない!

 もうこれにかけるしかないのだ!。


「擬態! 擬態、ぎたい、ギタイ! 何でもいいから! 動けるようになれー!」


 私は、必死になって叫んだ。

 もう他に思い付くことも、頼れるものもなかったからだ。

 すると、


 どかん!


 と、私は吹き飛んでいた。

 何が起こったのかわかんない。気付けば壁に激突していたのだ。


「なんだ、こいつ?」

「今、移動しましたよね?」

「キモ! なんなのこいつ!」


 キモイってのは見た目のことだろうし、だとすると擬態には成功したんだろうか。

 私は、自分の姿を確認してみた。

 相変わらず宝箱だ。けど決定的な変化もある。

 宝箱の底から脚が、側面からは手が生えていたのだ。

 うん。確かにキモイな!

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