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美脚ミミック、ハルミさん ~転生モンスター異世界成り上がり伝説~  作者: 藤孝剛志
1章 アルドラ迷宮

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第11話 SIDE:アルドラ迷宮ミミック討伐隊選考会議

 アルドラ迷宮シーズン389が開始されてから四日目の正午。

 アルドラ迷宮近くの街にある冒険者ギルドでは、評議会議長のヴァルター。商人のサトー。戦士のバイソンの三人が顔を突き合わせていた。


「応募はこれだけですね。深夜に募集を開始したにしては、集まったほうかとは思いますが」


 テーブルには、応募者のプロフィールシートが並べられている。

 勇者を送り込むなどとヴァルターは息巻いていたが、そんな予算もなければ、勇者へのコネもありはしないのだ。

 なので、この街にいる冒険者から有志を募るしかないのだった。


「けれど、無理に討伐隊なんて送り込む必要ありますか? ダンジョンの稼働日は今日を含めてあと二日です。向こうも問題は認識したようですから、次シーズンは大丈夫でしょう。同じ問題を繰り返さないと思いますよ」


 アルドラ迷宮はシーズン開始から四日目を迎えている。今日明日、ダンジョンの入場制限を続ければ、問題は解決するはずだった。

 入場制限により様々な経済的損失が発生しているが、討伐隊などを送り込んでは傷口を広げるだけだろう。討伐隊を選ぶのも、送り込むのも、ただではないからだ。


「馬鹿かお前! モンスターごときになめられっぱなしでどうするんだ! そんなことでこれから先やっていけると思っているのか!」


 喚くのは議長のヴァルター。いい年をした老人だが血気だけは盛んだった。


「うむ。議長の言うことにも一理ある。たしかに今シーズンだけを考えれば、後二日の問題だ。だが、これからのダンジョンとの関係を考えれば、落とし前はつけておくべきだろう。レギュレーション違反ではないとの言い訳を許せば、今後も同じようなことがあるかもしれないしな。二度とは許さない。その意思を表明しておく必要がある」


 重々しい声で言うのは戦士のバイソンだ。

 この三人が評議会の重鎮だった。重鎮というと偉そうではあるが、他のメンバーはこのような相談事の類が好きではなく、あまり顔を出そうとはしないだけのことだった。


「ですが、ミミックが暴走しているのは、冒険者の誰かが与えたアイテムのせいである可能性が高いんですよ?」

「だとしても実行犯であるミミックを野放しにはできんだろう。冒険者たちの被害は甚大なのだ。アイテムのせいだと言って納得できるのか? 俺は納得できない。シーズンが終われば生き残ったモンスターは配置転換になる。倒すならその前、今しかないのだ」

「それにだ。誰が渡したアイテムかは知らんが、それはもうモンスターのものだ。つまり、倒してしまえば、持っていたアイテムはこちらのもの。レジェンドアイテムを回収できれば、莫大な資産となるな」

「じじい……なんて悪そうな顔をしてやがるんだ……」


 ヴァルターの悪人顔に、サトーは少しばかり引いた。

 今回の依頼内容は、ミミックの討伐と、所持アイテムの回収だった。討伐隊には、報酬金のみが与えられるのだ。


「しかし、応募はこの程度しかなかったのか?」

「これでも多いほうだと思いますけどね」

「うむ。それにただ人数だけいても爆裂に巻き込まれては意味がない。少数精鋭で挑むべきだな」

「精鋭か。なるほど中々の強者揃いに見えるが、はて、このような奴らが街におったか?」


 ヴァルターが首をかしげている。


「まあ、冒険者の流動は激しいですしね。一カ所に留まる者のほうが少ないでしょう」

「ほう。絶剣のジョージ、鉄砂のセイゴウ、極星のノートン、コソ泥のマッケンジー、軽装のフルコム。いずれも名だたる冒険者ばかりではないか」

「ちょっと待て。今おかしなのがいなかったか?」

「コソ泥ってただの犯罪者ですよね? いや、まあ、それを言いだせば盗賊も何が職業なんだよ、ってことではあるんですけど!」


 プロフィールシートに添付されている写真を見る。

 マッケンジーは布を巻き付けて顔を隠していた。これでは、証明写真の意味がない。


「このフルコムとやらは、裸ではないか?」


 写真のフルコムは実にいい笑顔だった。上半身しか写っていないが、下半身には何かしら装備していることを信じたいところだ。


「軽装すぎんだろ!」

「うむ。奴は、己の身一つで戦うことを身上としていてな」

「……もしかして、まともなの集まってきてないんじゃないですか、これ?」


 サトーは嫌な予感がしてきて、プロフィールシートを再度確認する。

 そう思ってしまえば、どいつもこいつも怪しく見えてきた。


「ま、まあ、応募してくれただけでもありがたいですよ。危険度のわりに報酬はそう高くないわけですし」


 そう言いつつも少しばかり後悔するサトーだった。

 報酬を抑えすぎたがために、色物ばかりが集まってきたのかもしれないのだ。


「勇者の応募はないのか?」


 ぼそりとヴァルターが言う。


「来るわけないでしょうが! そもそもこんな街に勇者がいるわけもないし、いたとしても報酬なんて払えませんよ!」

「いや、この街に勇者はいる」


 バイソンが苦み走った声で言う。


「ヨハンが言っていた。奴は信頼できる」

「でしょうね! そうくると思ってましたよ!」

「おお! じゃあ、勇者が来るかもしれんじゃないか!」

「たとえ、いたとしても来ないと思いますけどね……それもなんとかなるんですかねぇ。バイソンさん」

「勇者へのコネか。ないこともないが」

「なんだと! なら早く言えばいいではないか!」

「え? マジですか? いや、それもどうせ」

「俺はアズラットという男と繋がりがある。実力のほどは不明だが、数々の勇者パーティに同行している盗賊だ」

「ヨハンじゃないのかよ!? この流れならそう思うだろ!」

「何を言っている。ヨハンは優れた冒険者ではあるが銀級だ。勇者と冒険を共にするほどの実力はない」


 冒険者の等級は、白金、金、銀、鉄、銅、青銅、木、紙と八段階になっている。

 勇者はこの冒険者の等級とは別カテゴリとなるのだが、勇者に同行するなら白金級の実力は必要だとされていた。


「そういえばミミックにやられて帰ってきたんですから、それほどでもないですよね」

「うむ。周囲に多重に展開する爆裂属性付きの爆風の重なりが少ない箇所を瞬時に見出して移動し、だがそれでも無傷での生還は無理だと判断して持ちうるオーラの全てを頭部とアイテムを使用するための腕に集中して、他の部分を捨ててどうにか生き延びた程度だからな。たいしことがないといえばない」

「十分すげぇよ、それ! なんなんだよ、その判断力と覚悟は!」

「で、アズラットとやらは、勇者を紹介してくれそうなのか? まさか金を取るのではあるまいな?」

「そりゃ取るでしょうよ。勇者に渡りをつけられるというのは相当のコネですよ? 利用しないでどうするんです」

「いや、奴は金にそれほどこだわってはいない。奴の興味は女の脚だけだ」

「それは……別の意味でめんどくさそうですね……。まあとりあえず呼んでもらえますか?」

「呼んである。そろそろ来るころだろう」


 まさにそのタイミングで、男が一人、会議室へと入ってきた。


「ふむ。よく来てくれた、アズラット」


 アズラットは細い目をした痩身の男だ。強いかどうかと言われると見た目だけではよくわからない。少なくとも威圧感を押し出すタイプではないようだ。


「かまいませんよ。勇者に渡りをつけたいとか。すぐに、ということですか?」

「ああ。最悪でも明日までにはダンジョンに挑んでもらう必要がある」


 バイソンは、今迷宮で起きている出来事を簡単に説明した。


「なるほど。事情はわかりました。この街にいて、すぐに挑めそうな勇者となると、獅子剣のデイモスですが……」

「なんだ、難しいのか?」


 言葉を濁すアズラットにヴァルターがせまる。


「別の迷宮に挑むために移動中で、たまたまこの街に立ち寄っただけなんですよ。よほどの条件を提示しないと無理かと」

「あー、その、一応は話だけしてもらってもいいですかね。議長もそれでいいでしょ?」

「そ、そうだな。何かの物好きで、なんとなく手伝ってくれるかもしれんしな!」

「自分が同じ立場と条件で、引き受けたいと思うか考えたらどうなんですかね」


 サトーは軽く嫌みを言ってみたが、楽天的な議長に通じている様子はなかった。


「わかりました。では、さっそく」


 アズラットはそう言って出ていった。


「……なんだ。あっけないな。女の脚がどうのと言っていたから、無理難題を言われるのかと思っていたが」

「ですね。何をふっかけるでもないというのはどうなのかな。商人の勘としては何か少し怪しくも感じるんですが」


 そして、アズラットが出ていってすぐ、討伐隊への応募者たちがやってきた。


  *****


 冒険者ギルドの建物を出て、ようやくアズラットはかすかな笑みをもらした。

 入場制限が行われた時点でそうだろうとは思っていたが、やはりあのミミックは生き延びているのだ。


 ――さてさて。となると、本格的に彼女を連れ出す方法を考えないと……。


 彼女は実に理想的だった。

 そのフォルム、肌触り、色、どれをとっても完璧な、これまでに見たことがないほどの美脚だ。

 そして、なによりも重要なのが、彼女には余計な部分がないということだ。

 アズラットは脚以外には興味がない。

 他の部位など余計なのだ。

 これまでにいくつもの脚を集めてきたが、当然脚だけを長期間保存しておくなどできはしない。いずれは腐り果てるものだし、剥製にするにしろ、氷漬けにするにしろ、それは本来の脚の状態ではないのだ。

 その点、彼女ならそんな心配はない。

 モンスターである彼女は、殺されでもしないかぎり、ずっとそのままなのだ。

 脚だけを、脚そのものを、未来永劫に愛でることができる。

 想像しただけで果てそうになるが、ただ妄想を楽しんでいるわけにもいかない。

 本格的に対策を取られれば、いくら深紅の薔薇があろうと倒されてしまうかもしれないのだ。


「と、なると、問題は勇者ですかね。渡りをつけろということですが」


 勇者が出てくれば、レジェンドアイテムの一つ程度ではとてもかなわないだろう。

 アルドラ迷宮は難易度2の小規模ダンジョンだ。勇者等級3のデイモスが今さら挑むことはないはずだが、どんな気まぐれで動きだすかはわからない。

 まずは勇者の動向を確認するべく、アズラットは動きだした。

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