処理速度0.01
患者の脳につながれた管はそのままテーブルのモニターにつながり、自動計算されデータ化されている。
すべてのデータが平均値よりも高めなのに対し、処理速度だけがありえない数値を示していた。
処理速度0.01。
人の処理速度の平均は100。その100分の1なのだから、たとえ手が届く場所にいても、星の距離ほどの隔たりがあるように、患者に届くのはずっと先のことになる。
けれども他の値が正常なのだから、理解はできる。
理解はできるけれど、交信はできない。
どうして人間にこんな残酷な宿命を与えたのか、医者たちは心を痛めた。
いま患者の手を握っている、おそらく娘だろうと思われる若い女性は、たとえ声が届かないとわかっていても、なにか愛のこもった言葉を耳元で囁いている。少しでも、父に言葉が届くように。
やがて部屋の中には静寂が訪れ、医療機器の無機質な音だけが場を支配する。
そのなかで、患者はやっと、十日前に聞いた娘の言葉を聞いていた。
娘が自分をどれだけ思っているか理解し、自分が娘をどれだけ愛しているかを伝えようと、愛を言葉にしようとするが、温かい感情は形になろうとせず、ただ脳の中に漂っているだけだった。
長い時間をかけて、目の端に溜まっていったものが、ようやく患者の頬を垂れた。
家族に見てもらいましたが、残念ながら不評でした。
最近は頭に浮かんだ言葉があると、加工せずすぐそのまま出してしまいます。