第四話 サキュバスお姉さん
数ある作品の中から興味を持っていただき、本当にありがとうございます!
「.......やっと来たか......。 ずいぶん遅かったじゃないか」
王都の大通りにある “ ぎるど ” の入口に到着した僕たちは、一足先に訪れていたナキシーさんと再開する。
時間に遅れてきたことに少し不服そうなナキシーさんに連れられ、僕達は建物の中へと歩みを進める。
「.......話はすでにつけてある。 さあ、着いてこい。」
そうやって、ナキシーさんに言われるがまま扉を開ける。
「..........うわああぁっ...................すごいっ!!!!」
そこには、重そうな鎧を着た大男や大剣を背負った華奢な女性など.......様々な格好をした人たちがわいわいがやがやと楽しそうに談笑していた。
中には犬の耳としっぽがある全身に毛が生えた人や、上半身がトカゲのような体つきをした緑色肌の人など........あきらかに人間ではないような人たちも混じっている。
(.........すごいやっ.......!! 本当に、ファンタジーの中にいるみたいっ.......!!!!)
アニメやマンガで見たような光景を目の当たりにして感動している僕をよそに、ナキシーさんが
こっちだと手招きをする。
ただよくわからずにもくもくとナキシーさんに着いていくと、ひと際異彩を放つ豪華な装飾が施された大きな扉の前で立ち止まった。
「この扉の向こうにギルドマスターがいらっしゃる。 くれぐれも失礼のないように.......と言いたいところなんだが...................まあ........うん............。」
ナキシーさんが、若干悩ましげな表情で僕に忠告をしてくれる。
だけど、どうも何か引っかかるような歯切れの悪い感じなのが気になる........。
「.......ナキシーちゃぁん.......? もうそこにいるのぉ.......?」
扉の向こうから、おっとりした女性の声が聞こえてくる。
きっとこの方が、ナキシーさんの言っていたギルドマスターという人なのだろう。
「......は、はい。 いるにはいるのですが、もう少しお待ちを・・・」
「........あらぁ......そうなのねぇ.....!! 今、扉を開けるわぁっ.......!!!」
「......いや、ちょっ...........クロエさまっ......!?!?」
ナキシーさんの発言がかき消されるように、いきおいよくドアが開かれた。
(................!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?)
ドアの向こうにいたのは、曲がりくねった立派な角とコウモリのような羽をつけた美しい女性.........だったのだが。
「........あらぁ......♡ あなたがナキシーちゃんの言っていた人間くん?
ちいちゃくて、ほんっっっとうにかわいいわぁ...........♡」
垂れ目でとろんとした瞳と、魅惑的な雰囲気の左目の泣きぼくろ。
僕の頭くらいあるのではと錯覚してしまう、思わず衝動的に抱きつきたくなるくらい大きな胸。
人間の下着......いや、それより圧倒的に布面積の少ない、胸元がぽっかりと空いた、悪魔をかたどったような漆黒の衣服。
漆黒の艶やかな長い黒髪と、大きなお尻から伸びるハート型のキュートなしっぽ。
(..........なっ........な、な、なぁっ............!!?!?!?)
そのすべてが、すさまじく官能的な魅力を放っていた。
「...........っ...............あ.........あのぉ.................!!」
僕の顔が、みるみるうちに真っ赤になっていくのを感じる。
女性の人と話すのさえほとんど経験がない僕が、こんなに破壊力がすさまじい格好の美人のお姉さんを目の当たりにして正気でいられるわけがない。
「.......あらあらぁ........照れてるのかしらぁ.......♡ うふふっ....... かわいいわぁ......♡」
「.............あ、あの、その、ええと..........!?!?」
ギルドマスターのお姉さんが、僕の方へゆっくりと近づいてくる。
あたりにとっても甘い匂いがただよい、僕の緊張は最高潮に達する。
「........ああんっ....♡ もうガマンできないわぁ.........♡
だって、こぉーんなにかわいいんだものぉーっ..........♡♡♡」
そんな声が聞こえた瞬間、僕の視界が肌色一色で遮られた。
「...................んむぅっ.......!?!?!?!?!?!?!?!?!?」
遅れてやってくる、顔いっぱいに広がるあたたかさとくらくらするような甘いにおい。
そして、圧倒的なまでのすさまじい弾力。
「............ん、んむぅーっ!! んんーーーっ!?!?!?!?」
体全体にずっしりとした重みがこれでもかと伝わってくる。
息ができないほど密着したそれは、僕の顔のなかでとくんとくんと鼓動を刻んでいる。
(..........い........いきが.........でき.....................な.............)
「........きゅう......。」
酸欠でうすれゆく意識のなか。
ぼくは、今までに感じたことのない凄まじい多幸感に包まれていた。
「...........ほんとうにごめんねぇっ...........わたし、こんなつもりじゃっ............!!!」
どうやら、またもや気を失っていたようだ。
目が覚めると、僕はギルドマスターさんの腕の中に包まれていた。
ギルドマスターさんが、心底安堵したように涙でぬれた瞳でこちらを見つめてくる。
「........まったくっ........少しは抑えてくださいと言ったではないですかっ.........!!
その少年は人間なのですから、もう少し配慮をしてくださいっ..........!!!」
ナキシーさんが、同じく涙目で責める。
どうやら、ものすごく心配をかけてしまったようだ。
「.........ぐすっ........ほんとうにごめんなさいっ.......... 人間くんっ、なんともない........?」
「.........は、はい。 もう全然苦しくないです。 だいじょぶです。」
「...........よかったぁ.......♡ ほんとうにごめんねっ......!! このお詫びはなんでもするから..........」
ナキシーさんによると、ギルドマスターさんの種族 “ サキュバス ” 特有の固有能力 “ 魅了 ” は、身体から漏れ出るフェロモンを吸った生物を男女問わず発情状態にしてしまうらしい。
.............まあ、気を失った原因は他のものな気がするけど.......。
「........そういえば、まだ名乗ってなかったわねぇ。
わたしは スサマアージ・クロエ って言うのぉ。 サキュバスなんだけど、魅力の力が他の人より何倍も強いらしくって......... 本当にごめんなさいっ.........」
「.......彼女は、サキュバス名家のスサマアージ家の魔物でな。 魔力と性欲と固有能力が桁外れに強力なんだ。 私がタヴァータくんにかけた状態異常耐性の魔法が弱かったようだ。 すまないっ.......!!!」
「もうなんともないので、気にしないでくださいっ!!」
僕が、今できるせいいっぱいの笑顔で答える。
ふたりとも、どうやらすごく落ち込んでしまっているようだ。
とにかく、今は話題を変えたほうがいいかな。
「.......あ、僕もまだ名乗ってなかったですよね! 僕の名前は田畑 小太郎です!!」
「.........あらぁ.....♡ タヴァータくんねっ!! すてきなお名前ねぇ......♡
でも、ここらじゃぁ聞かない名前ねぇ........ やっぱり、ほんとに異世界から来ちゃったのねぇ.....」
クロエさんが、悲しげな表情でつぶやく。
どうやら、ナキシーさんが僕の置かれた状況について事前に相談していたようだ。
「............そういえば、僕が今日ここに来た要件って........いろいろな手続きとか、職業や魔法適性などを測るんでしたよね? 」
「......ああ。 きみが来る前に手続き等はあらかた済ませておいたが、職業や魔法適性などのステータスに基づくものを調べたいんだ。 クロエ様。さっそくステータス測定をお願いします。」
「.......まっかせてぇ〜♡ じゃ、さっそく専用の道具取ってくるわねぇ♡」
クロエさんが、上機嫌にふよふよと空を浮かびながら奥の部屋へと道具を取りに向かった。
どうやら、本格的なステータス測定が始まるようだ。
(...........よーしっ!! いよいよステータス測定だっ!!!!
体力とかはへぼへぼだけど、何か特別なチートスキルとか持ってないかなぁー!!! 楽しみだなぁ!!!!!!)
僕が満面の笑みでわくわくしているなか、ナキシーさんは対象的に不安な表情で僕のことをじっと見ていたのだった.........。
「...........ええっと。 体力指数が13、魔力指数が0............
素早さ指数、攻撃力指数、防御と魔法耐性指数すべて1。 状態異常耐性は0.63ねぇ......。
総合レベル指数は2..........固有能力もなにもないみたい..........。」
「.............それって、いい方なんですか.............?」
「........エルフの赤ちゃんと同じか、それ以下のステータスねぇ.........。
あまり身体を動かさない職業にはつけると思うけれど、剣士や魔術師なんかの冒険職はおそらく厳しいと思うわぁ........。」
部屋の中に、なんとも気まずい空気が流れる。
(.......うぅ........... 魔法......... チート能力....... 最強スキル........
薄々気づいてはいたけど、やっぱり僕、この世界でもひ弱なんだ............。)
「........これは........想像以上だな。」
「.......良くも悪くも魔法耐性はまったくないから、補助魔法が効きやすいっていうのが不幸中の幸いねぇ。」
「............ええ。 普段は私の補助魔法をかけて生活をしているのですが、比較的魔力が少ない私でも問題なく作用するのがせめてもの救いです。」
「..........野生のモンスターとか山賊に襲われたら、ひとたまりもないわねぇ..........」
「...........そうですね.........。」
ふたりとも、真剣な表情をしながら考え込んでしまった。
.......しばらくして、クロエさんが真剣な表情をしながら僕の方へと向き直って話しだした。
「............タヴァータくん。お姉さんと約束してほしいことがあるの。
今後、なるべく一人で行動はしないようにしてね。 あと、種族が人間ってことはヒミツにしてね。」
クロエさんのいつになく真剣な表情に、僕は黙って話を聞くことしかできない。
僕がこくこくと頷くと、クロエさんは少しだけ表情を和らげて話を進めた。
「.......この世界では、人間はおそらくきみ一人しかいないの。
それでいて力もあまり強くないから、珍しい存在のきみを狙う悪い人や魔物に襲われたらひとたまりもないわ。」
「........タヴァータくんは、我々騎士団が責任を持って保護します。 衣食住、そして安全は絶対に保証できますよ。」
「..........ええ。 お願いしますっ。
................タヴァータくん。 お姉さんとの約束、守れるかしらぁ..........?」
「.......はいっ!!!!!」
僕は、クロエさんとナキシーさんに向かって力強く返事をした。
なんとしても、この世界で生き抜くって決めたんだ。 絶対に約束を守らないと!!!
「......ナキシーさん、クロエさんっ!!!!
迷惑をかけちゃうかもしれませんが........今後とも、どうかよろしくお願いしますっ!!!!!」
「........ああっ! こちらこそよろしく頼む!!
きみのことは、この命にかえても守り抜くぞっ!!!」
「......わたしも、これからよろしくねぇっ......!!
お手伝いができることがあったら、なんでも言ってねっ!!!」
3人の大きな声が、部屋の中に強くこだました。
数十分後。
残っていた手続きなどをすませた僕とナキシーさん。
クロエさんのご厚意でギルドに併設されている宿に泊めてもらえることになった僕とナキシーさんは、クロエさんと3人で夜ご飯を食べに食堂がある受付へと向かっていた。
「........今夜はご馳走らしいな。 楽しみだ!」
「........はい!! この世界の料理はどんなものがあるのか楽しみです!!!!」
「.....そうか。 タヴァータくんはこの世界の食事は初めてか。」
「.......はい! なので、さっきからおなかがペコペコで・・・」
「......ふふっ♡ じゃあ、今夜は腕によりをかけてお料理するわねぇ......♡」
そんな他愛もない話をしていたのもつかの間。
その平穏は、あっという間に音を立てて崩れることになる。
「..........おおっ!!!! おい!! お前らぁ!!!!! タヴァータさんが来たぞォ!!!!!!」
「........おおおおおっ!!! すげえ!!!! ホンモノの人間だ!!!!!!」
「......え、あれが人間!? 見た感じはエルフの子どもか小人族みたいだけれど.......」
「........いや、エルフや小人族にしちゃ耳が短い。 それに、あの綺麗な黒髪と黒い瞳.......伝説とまったく同じだ!!」
「........きゃぁっ.....!!! 初めて見たぁっ!!! かーわいい〜〜っ♡♡」
「.....あ、あのっ!!! わたしにも、ガーネッコさんたちが話してたあの書物について詳しく教えてくださいっ!!!!!!」
(...........え゛え゛え゛ええええぇぇぇぇぇぇっ!?!?!?!?!?)
受付につくやいなや..........
すごい数の人(?)たちが、僕たちの周りをとりかこんでいた。
読んでいただきありがとうございました!!
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